「よぉハゲ。葵の奴、大和に負けて悔しがってたか?」
競りの行われる空き教室で待っていると、入ってきた風間が俺に声を掛けてきた。
つーかいい加減その『ハゲ』ってあだ名どうにかしてくれねーかな。モモ先輩がラジオで『ハゲハゲ』言ってるから広まっちまったけど、俺はハゲじゃなくてスキンヘッドなんだけどね。
まあ、言っても無駄だろうけどな。
「それどころか惚れてたよ。ライバルだってな」
完全にロックオンしてたよ若の奴。
まあ、あれは自分と同じタイプがいたから嬉しいんだろうけど……時々俺たちですら振りなのか本当なのか分からなくなるからな。
「なんかアイツ、予想つかないリアクションするな」
「風間ほどじゃねーと思うがなぁ」
予想の斜め上をいくのはお前とモモ先輩だけで十分だっつうの。
あーでもあれだな。今朝のあの決闘見てると暁も規格外の言葉ですら片付ける事が出来ない奴だよな。あれがモモ先輩の彼氏ねぇ……ある意味納得だ。
「お、集まってるでおじゃるの」
「ふむ、今日は6人かネ?」
だべってると2人の教師が入ってきた。
体育教師のルーと歴史教師の綾小路だな。ルーはいいけど綾小路は生徒に嫌われてるからなぁ……あんま関わりたくねぇけど今は関係ないか。
「案件は1つだ、の」
「それでは競りを始めるヨ」
「ではマロが案件を詠み上げるでおじゃる」
「お願いしまス、綾小路先生」
「ガラス割れ 己の道も また割れる~」
察するに校舎の窓ガラスが割られた事件だな。
でもなんですぐに生徒の競りに回されたんだ? 普通に考えれば教師連中が先に動いて、それでも手が回らない時に競りに回されるはずなんだけどな……
ああ、任されたのヒゲか。面倒くさいからすぐにこっちに回しやがったなあいつ。ちゃんと仕事しろよな全くよぉ。
「頼み料は上食券200枚ダ」
「これはなかなか大きめの依頼じゃねぇか」
ルー先生の言葉に競りに参加している奴らから感嘆の声が上がる。風間なんて見てみろ、ガキ大将のような笑顔で嬉しそうにしてやがる。
とりあえず俺から始めるか。
「やれやれ。ユキの暇つぶしのためだ。190枚!」
「YEAH! 180マーイ」
すぐに声を上げたのがエセ英語で話しをする骨法部の主将。これでこの人、この学園の生徒会長なんだぜ? ホント大丈夫かよこの学園。
「170枚にて候」
次いで声を上げたのが弓道部の主将。この人もこの人で美人なんだけど、何故か時代劇の堅っ苦しい武士のような言葉遣いをする。
「165枚」
無難に5枚下げて声を上げる。
ユキの暇つぶしだけど別に取れなくてもいいって言ってたしな。レートのコントロールに専念して、あわよくば取れればいいか。
「160枚!」
ありゃあ朝の決闘で暁にやられた空手部の主将じゃねーか。側頭部蹴れらて首が鞭うちになったんだろうな、首のギプスが哀愁誘うねぇ……鍛えが足りないのか暁が凄すぎるのか、たぶん暁が凄すぎるんだろうな。
「150枚です!」
見かけねえ顔だし制服が真新しいから1年女子か……1年がこの時期で競りに参加するなんて本来なら無理なんだけど、卒業生か先輩か誰からか聞いたんだろうね。
可愛いけどもう5年早く会いたかったな。
「140枚にて候!」
「120マーイ! WOW!」
どんどん報酬が下がってるけど、そういやぁまだ風間が1度も声を上げてないな。なんかすっげー嫌な予感すんだけど。こいつ本当に予想外な事やりやがるからな。
「120枚……他にはいか、の?」
「アイムウィナー! ジャストドゥイット!」
声が上がらなくなったから綾小路が確認している。しかしなんだ、骨法部の主将なんてもう勝った気でいる。まだまだ甘いなぁ……学園で2番目に自由な奴がここにいるの忘れてるよ。
え? 誰が1番だって? 聞くまでもないでしょ。
「88枚!」
「パードゥン?」
ほら来た。
あり得ない下げ方だな。報酬の価値を思いっきり下げるようなレートに、さすがに全員が驚愕の表情を浮かべているよ。
「88枚だ」
確認するように言わなくてもみんな聞こえてるよ風間。安心しろ、それより低く言って依頼受けても誰も得しないからお前で決定だよ。
「88枚。他にいないカ? いなければ風間に落札」
「詳しい説明をするでおじゃる。他は去りゃ!」
思ってた通り競りは風間が落とし、綾小路が退室を促してきた。落札できなかった奴は内容を聞く事すら出来ないのがこのシステムのルールだ。
「やれやれ。相場を無視しないでほしいもんだぜ……」
まあ、風間ファミリーの連中は損得関係ないんだろうね。暇つぶし、面白い遊びとして依頼受けてんだろうな。あのメンツと風間の無茶な落札を見ればそうとしか思えねーよ。
全く、無邪気に学園生活を謳歌出来る奴は幸せだねぇ……
こんな風なやり取りがありました。
準視点でやらせていただきましたが、どうだったでしょうか?
以降もこんな風に切ったシーンを外話で書くかもしれません。