サブタイトルに深い意味はありません。
なにが誰を指すかはすぐ分かりますよね。
――2009年 5月4日 月曜日 AM9:30――
side 直江大和
旅行2日目。外は爽快な天気だ。
今日は自然の中で釣りなどをして遊ぶことに決めている。ちょうど旅館の方で釣り竿の貸し出しをしていたので人数分を借りて、今はロビーで着替え中の女性陣と別の部屋の兄弟たちを待っている。
ちなみに凛奈さんも誘おうとしたのだが、ヒロ曰く。
『誘っても来ないと思うし、そもそも起きてこないんじゃないかな? 下手したらたぶん夕方まで寝てると思うよ』
低血圧以前の問題だと思うんだがどうだろうか? ただのズボラな気がするんだけどな。お仕置きが怖いから正面向かって言えないけど……
そんなわけで、男5人がロビーのソファーに座って
「はい終了」
意外と思われるだろうが、要領がいいのか発想力がいいのか。この手の遊びは俺よりもヒロの方が得意。予想通り今回もあっという間に解いてしまった。レベル的には1番難しいのを渡していたのにな。
次に俺。こういった物は全体の構造や大きさを見ればだいたいの解き方は分かってくる。理論的に考えるものならまず遅れを取る事はない。
「へぇ、キャストリング……知恵の輪か」
急に上から掛けられた声に驚き顔を上げる。そこには兄弟とその左腕を抱きしめて肩に頭を預けている姉さんの姿があった。
まあ、声を聞いて誰かは分かっていたけど気配を消して近付いてきたなこの2人。咎めるように少し睨んでやると悪ぶれる事もなく自由な右手を上げて応える兄弟。
ん? なんだ? なんか姉さん、雰囲気柔らかくなったか? いや姉さんだけじゃない。2人の雰囲気が昨日とは少し違うな。
何があったかはまあ予想通りなんだろうけど……突っ込むだけ野暮か。藪をつついて蛇を出す趣味は持ち合わせてない。
これから姉さんのとばっちりが減るのを考えれば、歓迎すべき変化だしな。
「おしゃ! ヒロや大和ほど早くなかったが解けたぜ!」
隣で上がったキャップの歓声に視線を向ける。
勘や閃きが凄いキャップはこういったものも感性でやり遂げる事が出来るから侮れない。下手すりゃ俺より早い時がある。
「後はモロロとガクトだけか。とっとと終わらせろよ」
「ガク、力で壊すなよ。タク、視線を変えて全体を見ろ。そんなに難しくないぞ」
未だに苦戦しているモロとガクトに姉さんのはっぱと兄弟の注意が掛けられる。
「ちまちましたのは苦手なんだよな、ちっくしょー」
「えっと……あ、そうか! ここをこうすれば……」
既に諦めているガクトは解く事をしないで指先でイジっているだけ。モロの方は兄弟のアドバイスのお陰で解き方を見つけたようだ。女性陣がロビーに姿を現した頃には既に解き終わっていた。
「みんなお待たせー! さぁ行きまっしょい!」
ワン子が代表して声を掛けてきたので、それに頷いてキャストリングを袋に入れ上着のポケットに仕舞い、ソファーから立ち上がり脇に置いてあった釣り竿一式を持ち上げる。
「釣りの手続きはしておいた。竿も借りたぞ」
「本当、立派な竿だね。触っていい?」
「今手に持っている釣り竿なら触っていいぞ」
朝っぱらから下ネタに走る京を適当にスルー。舌打ちして悔しがっているがそれもスルー。いちいち付き合っていられない。
「日本は免許なくても釣りが出るのが素晴らしい」
「ジャーマンでは必要なんですか? 大変ですね」
感心しているクリスにまゆっちが何故か『ドイツ』ではなく『ジャーマン』と言って言葉を掛けた。そんなに仲良くなりたいんだなまゆっち。君の努力は必ず報われる。たぶんね。
それからクリス、釣り自体には許可はいらないが漁法によっては許可が必要なものもあるからな。そこんとこよく調べとけ。
「な~ジン~、部屋でまったりと過ごしたいぞ~。2人っきりでいたいぞ~」
「はいはい。今日はみんなと一緒に遊ぶって最初から決まっていただろ? それに夕方になれば好きなだけ2人っきりになれるんだ。今はこれで我慢な」
駄々をこねる姉さんの額にキスをする兄弟。恋人としてはごく普通のスキンシップなのだろうが、俺たちにしてみれば意外な光景だった。
普段は姉さんの方からああいったスキンシップがあるだけで、兄弟が自分からするよな事はなかったはず。しかも人前で。だがお構いなしに自分からスキンシップを取ってる。
どうやら予想通り、昨夜とうとう一線越えたねこの2人……同じようの悟ったのだろう、俺を見るストーカーもどきのヤンデレ幼馴染みの視線がねっとりしているよ。
ここはあれだ、純真で微笑ましいワン子や、初な小学生のような恋愛もどきをしているヒロとまゆっちを見て心に清涼感をもらおう。
うん、そうしよう。
side out
side 暁神
見晴らしのいい適当な場所を選んで釣りを始める。
「よっしゃ! ヒィィット! いきなりヤマメだぜ!」
1番に駆け出し釣りを始めたキャップはもう得物を釣り上げたようだ。しかしまあ全身全霊で満喫しているな。殆ど野性児だぞ。
そんなキャップを呆れたように見ているタクに声を掛けてやる。
「どうだタク? お前もたまにはハメ外して野生に戻ってみるか? ――っと、モモ、引いてる。釣り上げろ」
「任せろ! フィィィッシュ!」
話の途中で竿が引いたのでモモに指示を出す。機嫌のいいモモは某釣り漫画のような声を上げて竿を引き上げた。釣れたのはキャップと同じヤマメか。
釣れて喜んでいるモモの頭を撫でながら、右手だけで咥えた針を外し大きな石で囲って作った簡易生簀に魚を放り込む。
「僕としてはジン兄とモモ先輩の現状に突っ込みたいんだけどね……」
タクの呟きに改めて自分たちの姿を客観的に思い浮かべてみる。
俺はちょっと大きい岩の上で胡坐かいて座っている。その上にモモが胸に背を預けて座っていて竿は2人で1つ。モモは両手で竿を持っているが俺は右手だけで、左手はモモの腰に回している。
確かに客観的にみればべったりし過ぎだろうが、俺たちは恋人同士だ。しかも今は仲間内しかいなんだから別に問題はないだろう。
「言っても無駄だモロ。兄弟と姉さんは1歩大人の階段を上ったんだから」
「大和ぉ~私たちも今夜上ろうよ~」
墓穴掘ったなヤマ。イジってくれるのは別に構わないが自分も標的にされるのを忘れるなよな。お前がちゃんとした相手を決めない限り虎視眈眈とお前の貞操を狙う肉食獣がいるんだからな。
それからモモの機嫌が良くて助かったな。普段ならお仕置き確定の言葉だったぞ。
「さぁって、アタシは釣りの前に修行修行!」
ここに来てまで修業とは、相も変わらずカズの努力には舌を巻かれるよ。そんな可愛い妹の姿に嬉しそうだが少しだけ憂鬱そうな笑みを浮かべたモモを軽く撫でてやる。
数秒間だけ気持ちよさそうに目を閉じていたモモは目を開けると勢いよく立ち上がった。
「時間はたんまりあるしそれもいいだろう。ワン子、私が稽古をつけてやる」
「やったー!」
岩から飛び降りるモモにカズは無邪気に喜んで駆け寄る。ああいう姿を見ると仲のいい姉妹に見えるが、何故だろう、大好きなご主人様に遊んでもらえて喜ぶ犬にも見えてくる。
もし尻尾が生えてたら物凄い勢いで振ってるんだろうなきっと……
「京、格闘修行だ。妹と一緒に稽古つけてやる」
「
なるほど。素手のミヤが強く感じたのはモモが時折格闘の稽古をつけていたからか。弓が得意なミヤは基本遠距離。早打ちが出来ても中距離が精々で懐に入られると厳しいものがあるしな。
弓術の流派の中には弓を薙刀に見立てて中近距離の間合いを補うところもあるけど、ミヤの遣う椎名流弓術にはないんだろうか。
ああ、だから薙刀を使うカズと一緒に稽古しているのか。でも今は薙刀持ってないよな? やっぱり今度それとなく聞いてみるか。
「今日も地道に鍛えて着実に強くなるのよ!」
「ジーン! ちょっと行ってくるけど私の分も釣っておいてくれ! 3匹以上釣ったら後でご褒美な~!」
強くなっていく事を何やらヤマにアピールしていたミヤを引きずって行く川神姉妹。モモの言葉にヤマとガクがニヤついているがまあいい。
了解の意を伝えるために手を振って応えたのを見て、モモは上機嫌にスキップしそうな足取りで山の方へと向かって行った。
そういえばひたすらに釣りを楽しんでいるキャップはいいとして、ヒロ、クリス、まゆっちの3人はどうしているんだ?
「悪いなまゆっち」
「いえいえ。お、お任せ下さい。クリスさんのためなら火の中水の中虫の中!」
「でも出来れば触りたくね〜」
そう思って様子を見るため視線をそちらへと向けると、どうやらまゆっちが余り虫を触りたくないクリスのために餌をつけてあげているようだ。お嬢様クリスはそれに対して何も思うところがない様子。
でもまゆっちも女の子だしな。本当なら虫を触りたくないんだろう、微妙に震えているし松風が本音を語っている。それでも役に立ちたい一心で我慢してるね。
「まゆ貸して。代わりにつけてあげる」
「タカさん」
お、見かねたヒロが餌をつけるのを代わってやってる。明らかにホッとしてるねまゆっち。さり気ないフォローだが、ああいった優しい気遣いがまゆっちの中のヒロの好感度を上げていっているんだろうな、きっと。
昨日の凛奈さんの爆弾発言のせいか、まゆっちはあからさまにヒロを意識しているしな。といっても遅れていたまゆっちがヒロに追いついて同じラインに立ったってところかな。
和気あいあいと穏やかな空気が流れているが、さっきからキナ臭い気配が森の中を駆け回っている。動いているの十数人だけど、配置されている人数は1個部隊ぐらいいる。明らかに軍人だ。
俺に用事か? だけどあの部隊が今更俺に接触するとは思えないし、どこか別の部隊が情報を嗅ぎつけてきた可能性はないとは言えないが、それこそ宝くじの1等が当たるかどうかの確率だろう。
当てそうな豪運の持ち主なら確かにこの中にいるけどな。『ひゃっほーい!』なんて叫んで10匹目の魚を釣り上げている。
「よう。お疲れさん」
そう思いながらも1人だけ戻ってきたモモに労いの言葉を掛ける。雰囲気から察するに、どうやらモモも森の中の気配に気付いているな。
「ワン子と萌え萌え京タンは?」
「いない時だけ京をいじってやがる。やっぱお前サドだな……」
気配に気付いていないヤマとガクはいつ戻りのやり取りをしている。まあ俺たちも気付かせるわけにはいかないからいつも通りの振る舞いをしているんだけどな。
向こうを見てみると、恐らく気付いているであろうヒロもまゆっちとクリスを不安にさせないために普段通りの振る舞いをしている。
「組み手に入ったからな。後は好きにやらせるさ。それから大和、京に無理矢理襲われる覚悟はしておけよ」
「はっはっは、姉さんこそ兄弟に捨てられないように頑張るんだな」
虚勢を張って言い返した直後、ヤマはあらん限りの力を振り絞ってその場から逃げ出した。それを眺めるモモの目は逃げる草食動物をじっくりと見定める肉食動物のそれだ。
「んー、そういう負けず嫌いなところは気に入ってるぞ。30秒だけ待ってやるー! 逃げろ逃げろー!」
30秒で逃げるだけ逃げても、ものの10秒で捕まるだろう。だけどモモがこの場を離れるいいきっかけになったな。今森の中を動いてるキナ臭い十数人の気配はモモが何とかするだろう。
「な、なにやら狩りが始まりそうな雰囲気ですが?」
「いつもの姉弟のコミュニケーションだから大丈夫だよ」
「またずいぶんと過激なコミュニケーションだな」
ここにはヒロを始めまゆっちとクリスもいるし、俺が離れても大丈夫だな。さり気なく視線を送るとヒロが小さく頷いたのが見えた。
それじゃあ、1番強い気配が近付いているカズとミヤのところにでも行くか。知った顔が来ているみたいだし、久し振りの挨拶でもしておこう。
side out
side 川神一子
ええ〜っと。この人誰だろ?
突然現れた3人目の気配に、アタシも京も組み手を中断してそっちに視線を向ける。
「お見事です、サムライガールたち」
おお! 外国人だわ! しかも軍人よ軍人!
アタシたちより高い身長に迷彩服って言うのかな? その服が物凄く様になっているわ。あの眼帯も威圧的だけどなんか強者って感じがしていいわね。
「? こんな所に人が……」
なんか小さく京が呟いているけど今はどうでもいいわ。この外国人どこから来たのかしら?
「ほれぼれするような動きでしたね2人とも」
ま、間違いないわ! さっきのは聞き間違いじゃなったのね! 大変大変、京にも教えなきゃ!
「ちょ! 日本語よ! 外国人が日本語しゃべったわ!」
「や、クリスだってそうでしょうが」
あれ? そういえばそうね。クリがいるのも当たり前になっちゃって全然外国人だと思わなかったわ。あはははは。
「私も武術に心得があります。貴女たちのお稽古に私も混ぜなさい」
何やら凄く上からの物言いだけど闘えるのならそんなの問題なしよ。軍人と闘うなんて初めてだし実践訓練大歓迎! 強くなれるならなんだってやるわよ!
「なんだか面白そうだわ! 受けて立つわよ!」
「いい返事です。それでは構えなさい」
「ちょっとそんな安請け合いして――」
来る!
アタシと同じように感じた京も言葉を切って反射的に飛び退いた。さっきまで立っていた場所を外国人の鋭い飛び蹴りが振り下ろされていた。軍人だから当然だと思っていたけど――
「京! この外国人、相当鍛錬積んでる!」
「うん、強い……展開の速さに戸惑ってられないね」
すぐに力量を修正しないといけないわね。なめてかかるとすぐに返り討ちにあいそうだわ。
「2対1でいいでしょう。掛かって来なさい」
不利な状況でも態度が揺るがない。それだけ自分の力に自信があるようね。でもまあ間違いじゃないわね。素手の状態ならアタシと京じゃ2対1でギリギリ勝てるぐらいだわ。
でも、強いのなら全力でいける!
「川神院、川神一子! 行くわよ!」
気合を入れて外国人に向かって行く。
アタシの武器は速さ。わざわざ相手の出方を伺う必要なんてない。拳と蹴りの連撃を繰り出して外国人を後退させる。
でもアタシばかり攻撃して、相手は防戦一方だけど全部見切られているのが分かる。攻撃の速度を上げてもまともに攻撃が入らない。
「なかなかの動き、認めてあげてもいいでしょう。が、私から見ればまだまだ。野ウサギに等しい」
背中を奔る嫌な気配に攻撃の手を休めてすぐに回避行動に移る。直後に私がいたところを物凄い勢いの蹴りが通り過ぎていった。
即座に攻守の入れ替わり。なんとか蹴りの連撃を防ぐけど、1撃の威力がアタシとは比べ物にならない。このままじゃあガードの上から削られる。
いったんと大きく間合いを取ると、それを埋めるように京が相手に向かって行った。
腕の痺れが取れるまでの間、京が外国人の相手をしているけど駄目だわ。素手の時はアタシの方が優位に立てるんだから、今の京じゃ1対1は厳しい。
外国人が飛び上がった隙に後ろに下がって間合いを開けたけど、さっきまで京がいた場所は相手の蹴りで少しだけ陥没してる。
「京、コレ稽古と言わず
「ん。本気出す」
目配せをしてアタシがまず相手に突っ込んでいく。なんか言っているけどそれを無視してダッシュした勢いを殺さず体勢を低くして相手の足を刈るように蹴りを放つ。これが――
「【
「おっと危ない、だがここまま踏み潰して……」
空中に飛んでかわすのは予測済みよ! さっきの攻撃は囮なんだからもう次の攻撃の溜めは出来てるわ!
「【鳥落とし】!」
思ってもみなかったアタシの対空の攻撃に対応できず、直撃をくらった外国人は、体勢を崩しながらも何とか着地をする。けど、アタシたちの攻撃はこれで終わりじゃないわよ!
「次は私!」
着地の隙をついて京が外国人に襲い掛かる。まだ体勢が完全じゃない外国人は京の顔面に牽制のための突きを放ったけど、それで止まるような京じゃないわ。
力の入っていない突きを振り払うように打ち上げると、京はその腕を掴み身体を回転させて外国人の懐に潜り込んだ。
行け! 京!
「せやっ!」
背負い投げが綺麗に決まり外国人は背中かから地面に叩きつけられた。体勢が整っていない状態で投げられたから受け身は取れていないはずだわ。
お互いの健闘を称えるようにハイタッチで手を叩き合っていると、投げ飛ばされた外国人が無言のまま立ち上がった。
「まだやるわけ? 勝負ついたじゃん」
「……Hasen Jagd.」
何か小さく呟いたけど、雰囲気が変わった?
感じた違和感に従って京と2人で突進してきた相手を挟むように左右に広がる。
「頭に血が上っているなら――」
「これで終わりよ!」
京と一緒に止めの蹴りを繰り出したけど、外国人は何かを取り出すとアタシたちの蹴りを左右の手で普通に受け止めた。この感触、この硬さは木。でもって両手に持つ武器と言えば――
「トンファーか!」
「Hasen Jagd!」
武器の正体を見抜いた京を最初の標的に定めた外国人は、手に持ったトンファーを回転させた1撃を繰り出した。それを何とが防御した京だけどそのガードごと吹っ飛ばされる。
「京!」
アタシは体勢の整わない京を庇うように前に出る。何とか時間稼ぎをしたいけど、トンファーを持った相手となんて闘った事ないからよけるので精いっぱい。っていうかこの外国人、トンファーの遣い手としてはたぶん物凄い一級品なのは間違いなわね。
「トンファーキック!」
「ぐっ!?」
いきなりの蹴りがアタシの腹部を直撃し吹き飛ばされた。振り回すトンファーにばっか気を取られて蹴りの注意を怠っていたわ。てかジン兄の言葉をすっかり忘れてた。戦闘中は無駄な考えはしちゃいけないんだったわね。
「けほっ、こりゃ死合いね……武器がないのが痛いわ」
「このテのは遠距離から射るに限るんだけどね」
アタシも京も武器が今ここにないのが悔やまれるわ。得意の武器があればもうちょっとマシな戦いが出来るんだけど……ないものを悔やんでもしょうがないけど、これじゃまた負けちゃうかな。
「ハハハ! Hasen! Jagd!」
外国人が高らかに声を上げた瞬間、アタシと京の間を何かが突き抜けて行き、それを感じたアタシは恐怖に動く事が出来なかった。たぶん京も同じだと思う。
それは殺気だった。
でも今までこんな高濃度で高密度の殺気なんて浴びた事はない。しかもこの殺気はアタシたちに向けられてものじゃないのに、それでも全身が竦み上がってくる。
「オイ、『猟犬』さんよ。俺の大切な仲間に何してんだ?」
なんとか顔だけを動かして声のした方を向く。
そこには今まで見た事なほど冷めきった表情をしたジン兄の姿があった。
あとがき~!
「第74話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」
「おーっす、俺様、島津岳人だぜ」
「オッスKOB。元気にしてたか」
「いい加減にそのネタから離れろ! 俺様=馬鹿じゃねぇ!」
「馬鹿だろ。さて無視して今回のお話ですが、まあごらんの通り旅行2日目で神と『猟犬』の対峙直前までいきました」
「また変なところで引きを作りやがって」
「いいだろ別に。次を読んでもらうための手法だよ。やり過ぎるのも問題だけどな」
「やり過ぎてそのうち読者が離れていくぞ」
「うっ! 馬鹿のくせに核心突きやがって……」
「だからいい加減に『俺様=馬鹿』から離れろよ!」
「はいはい分かったよ。で? 何か今回の話で質問はあるか?」
「質問はねーけど要望ならある」
「なんだ、言ってみろ」
「モモ先輩とジン兄が昨夜何やってたかこう、詳細に鮮明に描写した話を書いてくれ」
「ピピー! 教育的指導! 君は先ほどの発言で今後一切のあとがき出場の権利を永久剥奪されました。よって君の出演はこれが最後です」
「な! 横暴じゃねぇか!」
「うるせい! 作者としてはあれが精一杯なんだよ! 18禁なんて書けるか!」
「だからって永久剥奪はねぇだろ! ちょっとした冗談じゃねーか」
「その本音は?」
「8割本気だ」
「本当に本能に忠実な奴だな……ところで前回の宿題は終えたか?」
「は? 前回の宿題? そんなもんあったか?」
「やっぱお前、