真剣に私と貴方で恋をしよう!!   作:春夏秋冬 廻

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第84話投稿。


第84話 箱根旅行、占われる未来

  side 暁神

 

芦ノ湖のほとりにある遊歩道をモモと腕を組んで歩く。

 

他のみんなは遊覧船の方に乗り込んだが、モモが2人っきりになりたいと言ったので俺たちは乗らなかった。俺としては遊覧船に乗ってみたかったが、今日は部屋以外ではモモと2人っきりになっていなかったのを思い出し、彼女の可愛い我がままに付き合う事にした。

 

「しかしあれだな。たまにはこうしてゆっくり歩くのも悪くないな」

 

「確かにそうだな。何かにつけて騒がしいメンバーが多いからなウチは」

 

それに今日はヤマとクリスの勝負もあったしな。いつかぶつかると思っていたがまさかこの旅行中にぶつかるのはさすがに予定外だった。

これもあの親馬鹿軍人のせいだ。そうに違いない。俺はそう思う事に決めた。

 

「なあジン」

 

「どうした?」

 

「何かあったのか? 少し雰囲気がいつもと違うぞ」

 

バレてる。

出来る限りいつもどおりしていたつもりだったが、どうやらモモには通用しなかったようだ。昔からそうだった。俺はモモにだけは隠し事が出来ない。上手く隠しているつもりでも何故かモモには見抜かれてしまう。

 

モモは『彼女としての勘だ』って言うけど、たぶんいつも一緒にいるからこそ僅かな気配の変化を察する事が出来るんだろう。もちろん、勘も十分あり得る。

 

「あの後、ワン子たちを襲った軍人……確かマルギッテだったか? そいつと何か話をしたんだろ?」

 

「気付いてたのか」

 

「当たり前だ。いつも通りの雰囲気でいられるから大したことじゃないんだろうけど、ほんの僅かでもブレる程度の事ではあったんだろ?」

 

かなわないねホント。的確に見抜いてくれる。

 

だけどモモに言う事じゃないのも確かだ。確信があるわけじゃないし関わり合いになる可能性は殆どゼロだ。話をして変に心配させる事じゃない。

 

「モモの言う通りだけど大丈夫だ。本当に大した事ないからな」

 

これ以上話す事じゃない、という意味を持たせた言葉で返事をする。俺から話すつもりがないのだからこれで納得してもらうしかない。

モモも俺の伝えたかった意味を察したのだろう。それ以上は追及することなく小さく息を吐くと、俺の肩に頭を預けてきた。

 

「私はお前を信じているからな。もし、相談するんだったら真っ先に私に話せよ。いいな」

 

口調は命令だったが懇願するような声音だ。俺は肩に預けられているモモの頭を撫でることで、了承の意を示す。完全に納得したという雰囲気ではなかったが、どうやら溜飲は下げてくれたようだ。

 

静かな沈黙が俺たちを包む。丁度いい、暫くの間この沈黙を保ったままゆっくりと遊歩道を散策して風景を楽しむとするか。

 

そう思い、言葉も交わさず腕に感じる重さと温かさにそれなりの幸せをかみしめながら歩いていたら、急にモモが組んでいた腕を解き正面から俺を抱き締めた。運がいいのかどうかは分からないが今俺たち以外に遊歩道を歩いている人の姿はいない。

 

突然のモモの行動に驚いたが、どこか悲しげな寂しさを纏う雰囲気に、俺は何も言わず腕を背に回ししっかりと抱き締め返した。

 

「で? 急にどうしたんだ?」

 

少しの間抱き合い、モモの雰囲気が落ち着いたところで行動の真意を問う。その問いにモモは俺の背に回した抱き締める腕に力を込めた。

なんかこの状況、秘密基地の屋上で再会した時と何となく似ているな。何かモモを不安にさせるような事をしたかな?

 

「再会してまだ日が経っていないから思うのかもしれないが……時々、お前が私に黙ってどこかに行ってしまいそうな不安を感じるんだ」

 

モモの言葉は完全に予想外のものだった。俺が思っていた以上にモモの心は不安定だったという事なんだろう。

 

「想いが繋がって、身体も繋がったからなのかもしれない。私らしくない女々しい考えなのかもしれない。でも、私はお前がいなくなったら、どうにかなってしまいそうで怖いんだ……」

 

縋るような雰囲気で顔を上げたモモの唇に、間髪入れず自分の唇を重ねる。それと同時に背に回した腕に力を入れてより強く抱き締める。さらに深いつながりを示すように重ねた唇を割って舌を絡める。

 

時間にして1分も経過していないだろう。唇を離し力の抜けた身体を俺に預けるモモ。その身体をしっかりと抱き止め左手は腰に回し、右手は頭を撫でるように髪に指を絡ませて優しく梳く。

 

「安心しろ。もう俺はお前の前からいなくなる事はない。もしどこか行くことになったら、絶対にお前も一緒だ」

 

抱きしめられたまま小さく頷くモモに思わず笑みが零れる。それが聞こえたんだろう、モモの雰囲気が少しだけ不貞腐れたようなものに変わった。恐らく自分が不安に思った事に失笑されたと思ったんだろう。

 

そう意味で笑ったわけじゃない。俺は嬉しかったんだ。弱さなんてないんじゃないかと思うモモが、俺の前では不安をぶつけてくれて甘えてくれる。それが無性に嬉しくてたまらない。

 

暫く抱き合っていたがどちらからともなく離れ、今度は腕を組むのではなく手を繋ぎ指を絡ませる。そのまま視線を合わせお互いに小さく笑みを零した後、またゆっくりと遊歩道を進む。

その途中に湖が見え、遊覧船が通るのが見えたからそちらに視線を向けると、何かが船から飛び出して湖の中へ落下していくのを見た。

 

「…………」

 

「…………」

 

さっきまでとは違う微妙な沈黙が俺とモモの間に流れた。

 

湖に落ちていったあれって……間違いなくキャップだよな? バンダナ付けていたし、何より気配で間違えようがなかった。

 

確認するようにモモに視線を向けたら、同じように俺の方を向いて、全く同じ意味を持たせた視線を送ってきた。お互いの視線の意味を悟り、同時に溜息を吐く。

 

キャップ、お前はいったい何をやっているんだ……

 

  side out

 

 

  side 篁緋鷺刀

 

船尾で湖を眺めていたら何かが湖に落ちる音が聞こえ、何が落ちたんだろうと思っていたら船がゆっくりと速度を落とし、いつの間にか止まっていた。

 

こういった遊覧船は時間通りに定期航路を通っているから止まるような事はないんだけどなぁ……エンジントラブルなか? まあそのうち動き出すから気にする事じゃないか。

 

「こんな所にいたんですねタカさん」

 

「まゆ?」

 

後ろから掛けられた声に振り向く。視線が合うとはにかんだ笑顔を浮かべるまゆに僕も笑顔で答えると、1歩横に移動して所を開ける。その行動の意図を察したまゆは僕の隣に並んだ。

 

「そういえば船が止まったけど、従業員さん何か言ってた?」

 

暫く一緒に湖を眺めていたけど、少し気になりまゆに問い掛ける。するとまゆは体を震わせ気まずそうな表情を浮かべ視線を逸らすと、何やら言いにくそうに答えてきた。

 

「えっとですね。バンダナをした男の人が……その、湖に落ちたらしく……」

 

「あ、うん。分かったからそれ以上は言わなくていいよ」

 

キャップが何かをして湖に落ちたってわけだね。つまり、船が止まる前に聞こえた何かが湖に落ちる音の正体はキャップだったってわけだ。

 

なんて言えばいいんだろう。やる事なす事、いつも周囲を騒ぎに巻き込むよねキャップは。それがいい方向だけなら全く問題ないけど、悪い方向にも平等に起きるだからある意味で凄い。ジン兄曰く。

 

『あいつはそういう星の元に生まれているんだ。どうにか出来るものじゃないよ。本人が楽しんでいるんだし、特に言う事もないさ。俺たちはいい事が起きたら一緒に喜んで、悪い事が起きたら一緒に解決してやればいいだけだよ』

 

らしい。的確にキャップと僕たちの関係性を表した言葉だよね。

 

「他のみんなの反応は?」

 

予測は出来ているけれどとりあえず聞いてみる。まあ、まゆの口から出た言葉は実にその予想通りだったけどね。

 

「一緒にいた京さんとモロさんとガクトさんは他人のふりして無視を決め込んでます」

 

「やっぱりね……でもそれじゃあどうしてまゆはここに?」

 

「一応、タカさんにも報告しておこうかと思いまして……」

 

ああ、そういう事ね。恐らくキャップと一緒にいた大和君と一子ちゃんとクリスさんは直接原因を見ているから報告の必要はないか。

 

「うん、わざわざありがとね」

 

「いえいえ、お礼を言われるほどのものじゃありませんから」

 

少しは仲間に慣れたみたいだけど、まだ恐縮する癖は直ってないみたいだ。

 

でもそれも仕方ないかな。仲間に入れてほしいと懇願してから10日。金曜集会で注意されてから5日。そして今日、本当の意味で仲間になったようなものだし、急に変われというのも難しいしね。

 

徐々に対人スキルを上げていけばいいだけの事。なにしろジン兄や大和君といった最高のお手本が近くにいるんだ。参考にして人と接する機会が増えれば、恐縮する癖も自ずとなくなるだろう。

 

そんな事を考えている内に船が動き出した。どうやら落ちたキャップを救出したんだろう、にわかに客室の方が騒がしくなってきている。戻って巻き込まれるのもあれだし、もう少しここにいようかな。

 

「旅行はどうだった、まゆ?」

 

心配そうに客室の方に視線を何度も送るまゆに声を掛ける。いきなりの事に戸惑っていたけどすぐに穏やかな笑みを浮かべた。

 

「ちょっとしたハプニングもありましたが、楽しかったです」

 

「僕たちの場合、ハプニングがない方が珍しいけどね」

 

主にキャップが原因。時々モモ先輩のもあるけど。苦笑を浮かべた僕にまゆも小さな笑い声を漏らした。

 

「私、学校の行事以外で同年代の人たちとこういった旅行に行った事ないんです。だから本当に嬉しくて……」

 

思い出して悲しくなったのか、それとも嬉しくて声に出来ないのか。体を小さく震わせ言葉を詰まらせて俯くまゆ。僕たちにとってはいつものような騒がしい日常の延長でしかない今回の旅行だったけど、まゆにとってはそれこそ僕たちには分からない想いがあるみたい。

 

まゆの気持ちは僕には分からないけど、少しでも何かしてあげたくて、震える背に手を当てゆっくりと落ち着かせるように小さく叩く。

 

 

「男ならここは抱き締めるべきだぞ緋鷺刀」

 

 

「うわぁ!?」

 

「はうわぁ!?」

 

いきなり後ろから掛けられた声に、僕もまゆも驚きお互いに1歩飛び退き離れる。知った声だから確認しなくても分かっているけど、それでも一応声のした方に視線を向ける。

 

予想通り、そこにいたのは凛奈さんだ。っていうか、なんで遊覧船に乗ってるんですか? バス乗り場で集合って決めてましたよね?

 

「ん? ああ。なに、思った以上に執筆作業がはかどってな、予定していた分は既に終わったんだ。それでお前たちが遊覧船に乗る予定だったなと思い出してな、私も時間を合わせて乗り込んだというわけだ」

 

気配から僕の疑問を感じ取ったんだろう、凛奈さんはあっさりと答えた。別にそれはそれで全然構わないんだけど、黙っている必要はないと思うんだけどな。乗り込む時にひと言、声を掛けてくれればいいのに……たぶん、黙っていた方が面白いと思ったんだろうね。

 

「まったく。お前はそんな顔をしているが男だろ。いい雰囲気なんだから抱き締めるぐらいの甲斐性を見せろ」

 

「ちょっと待って! いったいつから見てたの!?」

 

というかそれ以上もう言わないでよ! ほら見てよ! まゆが真っ赤になって俯いちゃったじゃないか!

 

「いつからって。もちろん由紀ちゃんがお前に声を掛けた時からだ」

 

それって最初からじゃないか! って事はこの人、気配を消して覗いていたって事!? 性質悪いにもほどがあるよ凛奈さん!

 

あまりの事に返す言葉のない僕を無視して、凛奈さんは真っ赤になって俯いているまゆに近付くとその両肩に手を置く。ビクつきながらも顔を上げたまゆに真剣な表情で視線を合わせる凛奈さん。

 

なんだろう……雰囲気真面目なんだけど物凄く嫌な予感がしてならない。

 

「由紀ちゃん」

 

「は、はいぃ」

 

「緋鷺刀の嫁になる事は考えてくれたか?」

 

「はうわぅわぁ!?」

 

嫌な予感的中だよ! もういい加減にしてくれませんか!? 僕もまゆもいっぱいいっぱいだから!

 

  side out

 

 

  side 直江大和

 

何とかキャップを無事に引き上げ、船は再び動き出した。

 

クリスは突き落としてしまった責任を感じてずぶ濡れになったキャップに付き添って行った。いま甲板にいるのは俺とワン子だけだった。

 

「んー風が本当に気持ちいいわー」

 

目を閉じて気持ちよさそうに風を受けているワン子を眺める。元気で純真で、疑う事をしないワン子。そんなこいつに俺はずっと聞いてみたかった事があった。

今、周りに仲間は1人もいない。丁度いいから聞いてみるか。

 

「なあワン子」

 

「な~に~、大和?」

 

「お前の夢って、川神院の師範代になることだよな?」

 

「うん、お姉様の手伝いが出来るようにね」

 

いつの頃からだろうか、ワン子はまるで自分に言い聞かせるかのように夢をみんなに語っている。天涯孤独になった自分を助けてくれた姉さんを助けるために、いずれ川神院の総代になる姉さんの手助けをするために自分は師範代になるんだ、と。

 

そのために毎日の修練を欠かしてない。それどころが厳しい川神院の修練以上のものをいつもこなしている。

 

その姿が時に妬ましく見えるほどワン子は頑張り続けている。

 

自分が、かつて子どもの頃に目指した夢をいつの間にか諦めてしまったのに、ワン子は子供の頃から夢を実現させるために今も邁進している。

 

それを見て自分が情けなく感じる時がある。だから聞いてみたかった。

 

「その夢、諦めようと思った事はないのか?」

 

だが、俺の言葉にワン子は不思議そうな顔をしただけだった。

 

「なんで諦める必要があるのよ。だって結果はまだ出てないじゃない。やりもしないで諦めるなんて事、アタシには出来ないわね」

 

ああ、そうか。今は叶わなかった時の事を考えていないんだ。そんな事考える前に叶えるための努力をしている。だから真っ直ぐ進めるんだ。

 

純粋に、ただひたすら夢のために進む姿は、こんなにも綺麗なんだ。

 

「ワン子」

 

「うん? なに?」

 

「その夢、俺も応援してるからな」

 

急な俺の言葉に、一瞬ポカンと間抜けに口を開けたワン子だったが、すぐに満面の笑顔を浮かべ嬉しそうに頷いた。

 

「うん!」

 

今からでも諦めた夢を目指すのは遅くないかもしれない。ワン子の笑顔を見て、俺はそんな事を思うのだった。

 

  side out

 

 

  side 篁凛奈

 

旅館の前で駅に行くためのバスを待つ中、ガキどもは占いの爺さんに声を掛けられ、面白そうだからを占ってもらっている最中だ。

 

まあ、バスが到着留守までまだ10分あるんだ。丁度いい暇潰しにはなるだろう。

 

「お主は素晴らしい気質をしておるな。人としての魅力に溢れ、絶対的な強運にも恵まれておる。お主は自分の信じるままに進みなさい。それが最良の結果を生むはずじゃ」

 

的確に風間の坊主の人なりを見抜いているな。

占い師ってのは胡散臭い奴も多いが、あの爺さんはどうやら本物のようだ。道具を使わず相手の気質を読み取って行く末を占っている。そんなこと出来る占い師はそうそういないからな。

 

「お主は可もなく不可もないのぉ。じゃが自分を信じるのは良い事じゃな。その思いは大事になさい」

 

はは、島津の坊主は良くも悪くも普通ってわけか。何を落ち込んでるか知らないが、普通ほどいい事はないぞ。波乱万丈なんて疲れるだけだ。

 

「現実と夢の葛藤。現状と将来への不安。お主は迷いがあるな。じゃが思いを貫きなさい。それがお主の未来をよりよいものにしてくれるはず」

 

現実と夢の葛藤か……師岡の坊主は家の事があるからな。現実を1番考えなければいけないのはあいつなんだろうな、きっと。

 

「お主は強い信念を持っておるな。じゃがその信念がお主の世界を小さきものにしてしまっている。心を広げなさい。さすればお主の可能性もまた広がるはずじゃ」

 

正義っ娘は爺さんの言葉に真剣な表情で頷いている。どうやら思うところがあったようだ。そういえば旅行初日の時より雰囲気が柔らかいな。何かあったなこれは。後で緋鷺刀から聞き出すか。

 

「閉ざされた世界と一途な心。いずれそれがお主の未来に立ち塞がることになる。道標の光を見失わないようにするのじゃ。想いもまた1つではないぞ」

 

不機嫌になるな弓っ娘。明らかにお前の将来を危惧してるんだから素直に受け取っておけ。そのうち分かるさ、お前のその危うさがきっと不協和音を生むって事をな。

 

「夢と思いの壁。進むべき道は1つに在らず。じゃが今の道も行けるところまで行きなさい。思いは時に壁を越える力にもなる。そして全ては自分のためである事を忘れぬように」

 

意味深だな犬っ娘。よく分かっていないようだが、お前の川神院師範代の夢。どうやらかなり厳しい道のりになりそうだが、頑張れよ。

 

「前を進む者への憧憬。幾多の選択。進むべき道はお主次第じゃが、お主は支える者であり指揮する者。変わる事なく在り続けよ。そうすればお主の未来は約束されるじゃろう」

 

直江の坊主が支える者ね。指揮する者ってのは分かるけど、いまいちピンとこないな。どうやら同じ事を思ったらしく首傾げているな。

 

「過去からの来訪。忘却の事柄。お主は近い未来、進むべき道を見失うかもしれない。じゃが傍らの友と正面の想い人が必ず助けてくれる。心をしっかりと持ちなさい」

 

おお、想い人の言葉でチラリと緋鷺刀を見たな由紀ちゃん。やっぱり少なからず想ってくれているようだな。だが、少し嫌な占い結果になったな。

 

「過去のしがらみ。再び繋がる因縁。追い求める背中がお主を待ち受けておる。お主は思いのままぶつかるがよい。それが縛る鎖を断ち切る力となる」

 

やはり避けては通れないな緋鷺刀。それにしても『再び繋がる因縁』ね。占いだから絶対とは言えないが、出来れば当たってほしくない結果だ。

 

「ほほほ、これはまた凄い。切れる事のない絆。絶対的存在。お主には何も言う事はない。自分を信じ、想い人を信じれば未来は絶対じゃな」

 

これまた凄い結果だな戦っ娘。まあお前と暁の坊主なら何があっても大丈夫そうだ。それこそ全人類を敵に回しても何とかしてしまいそうだしな。

 

「ん? これは……っ?」

 

何やら暁の坊主を見ていた爺さんが息を呑んだ。思い思いにお互いの占いの結果を推測していたガキどもも黙り込んで、爺さんの次の言葉を待った。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや……伝えていいものかどうか……私では判断が付けられん」

 

訝しげに問う暁の坊主に、爺さんは戸惑ったような言葉を返す。それに対して少し考え込んでいた暁の坊主は爺さんを真っ直ぐに見て言葉を返した。

 

「構いません。教えてください」

 

自分を真っ直ぐに見る暁の坊主に爺さんはその視線に迷いがないのを見て取ったんだろう、諦めるように息を吐くと居住まいを正した。

 

「分かった。では伝えよう。お主は近い将来、最大の試練を迎える。鏡合わせの落ちた明星。それに纏わり付く荊の蛇。夕闇がお主とその仲間たちを巻き込むことになる」

 

意味深過ぎる占いに誰もが言葉を失う中で、暁の坊主だけが変わらない口調で爺さんに言葉を返す。

 

「俺の未来が、みんなを巻き込む危機を招くって事ですね」

 

「その通り。じゃが悲観することはない。お主は繋がりを大切にし、1人ではない事を忘れなければきっと夕闇は晴れる」

 

「分かりました。心に留めておきます。ありがとうございました」

 

暁の坊主がお礼を言った丁度その時、宿の前の停留所に駅に向かうバスが止まった。占いの結果のせいか少し空気が重いな。爺さんにはちょっと悪いがあえて言葉にさせてもらおう。

 

「行くぞガキども! 占いはしょせん占いだ! いちいち気にするな! 乗り遅れた奴は問答無用で置いて行くぞ!」

 

私の言葉に一応は重い空気は払われたようだ。現金な奴らに呆れると同時に、占い師の爺さんに謝罪の意を込めて頭を下げる。私の意図を理解してくれていたのだろう。気にするなと言うように首を振って答えてくれた。

 

それに対してもう1度感謝の意を込めて頭を下げ、私はバスへ乗り込んだ。

 

最後の最後で、何やら全員の未来に暗雲が漂うような旅行になってしまったが、まあこいつらの事だ、きっと何とかしてしまうんだろうな。

 

つまり心配するだけ損だ。楽観的に行け。それがお前たちだろ。

 

な? 風間ファミリー?




あとがき~!

「第84話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」

「篁凛奈だ」

「はいお久し振りです。さて今回のお話ですが――」

「これでもかってな具合に意味深なものを詰め込んだな」

「はははは。ちょっと調子に乗りましたね。原作にも箱根旅行の帰りのバスに乗る前に占いのシーンがあるから入れてみたんだけど――」

「乗り過ぎだ。どうする気だ、最後の占いのシーンの全員の結果」

「深い意味は特にないんだけどね、それぞれのこれからを簡単に示唆したものと思っていただければ……」

「そう思えないものもあるが?」

「そうだね。特に神の占いの結果は物凄く重要なものです。今はそれ以上言えません」

「緋鷺刀や由紀ちゃんの結果もか?」

「2人の結果は読んでいただければ何となく予測できるんじゃないかと思います。貴女の心情も書かれていますからね」

「まあな……」

「とりあえず、今回で箱根旅行の大まかな終了となります」

「待て。大まかとはなんだ?」

「うん。次回で川神に着いてからの事をちょっと書こうかなと思って……あくまでも予定だから変わる可能性は多々あります」

「終わり方が締まらないからだろ」

「それもあります。まあ、意味深な終わり方でもいいんですけどね。あ、そういえば今回ついに8000文字を超えました」

「どうでもいい事をいちいち報告するな」

「こっちにしてみればどうでもいい事じゃないんだけど……」

「知るか」

「グダグダな終わり方ですが……次投稿もよろしくお願いしますね?」

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