side 暁神
午前の部が終わり、昼食を挟んでそれぞれの競技の決勝トーナメントも終了した。
結果から言えばバスケは俺たちが優勝。ちなみにテニスは文字通りモモの1人勝ちだった。まあ、決勝でコユキと『女王蜂』のコンビと当たったらしいが危な気なく勝ったらしい。
さて、いよいよお待ちかねというか、次が『マル秘』とされている競技が始まる。とりあえずグラウンドにクラスごとに集合という事になっているが、はてさて、いったいどういう競技なのやら。
「オイ、神」
いつも通りの雰囲気でグラウンドに向かう仲間たちを少し後ろから眺めて歩いていたら、小走りでゲンが近付いてきた。
「どうした、ゲン?」
「ああ、この間の頼まれ事なんだが、来週中頃には持ってこれるぞ」
「ギリギリのラインらしいぜ。もう少し経てば完全に、裏ではかなりの値がつくかもしれねぇってオヤジが言ってた」
表情の変化から俺の考えていた事を察したのか、補足する様なゲンの言葉。それに分かったと頷いて答えたあと、手を挙げて『話しはここまで』と合図するとゲンも頷いた。
仲間がいる近くではあまり続けたい話題じゃないしな。下手に耳に入って興味を持たれたらたまったもんじゃない。まあ、ヤマの情報網に引っ掛かりはしているかもしれないが、確証がない限りはあいつも仲間に話したりはしないだろう。
「それよりも、これから始まる競技、どんなやつだと思う?」
「余り考えたくねぇな。あの学長が考えたってんだらかロクなもんじゃねえのは確かだろ」
「否定したくても出来ないな。まあ、さすがのあの人も、常識を逸脱した競技はやらないだろ」
「一応、お前の言葉を信用する事にするさ」
「そいつはどうも」
ゲンは最後に軽く俺の肩を叩くと、小さく手を挙げて離れていった。どうせグランドに集合なのだから一緒に行けばいいと思ったが、向かう先に宇佐美先生が見えた。何か報告する事があるんだろう。
一瞬だが宇佐美先生と視線が合った。小さく頭を下げて挨拶すると向こうも軽く手を振って応えた後、ゲンを伴ってグラウンドへと歩き出した。
さて、あの人の目に俺はいったいどんな人物像で映っているのやら。さっきの視線と雰囲気からして友好的とまではいかないが、取引するに当たっては信用に値する、といった感じだったが……必要以上に親しくする間柄でもないし、凛奈さんとも知り合いらしいからそこら辺から俺の人物評価は聞いているはずだ。気にする事でもないか。
「何してんだよジン兄、置いてくぜ」
前にいたキャップからの声に、手を挙げて応えた俺は少しだけ足を速めてみんなの元に急いだのだった。
side out
side 直江大和
「貴様ら! 優勝の称号が欲しいか!?」
オォオォォオォォォ!!
「己の全てを賭けてでも勝利が欲しいか!?」
オォオォォオォォォ!!
「ならば! その身をもって最強を証明してみせろ!!」
オォオォォオォォォ!!
「なんだこのテンションは……」
場所は川神学園のグラウンド。全校生徒がクラスごとに分かれ次の競技が始まるのを待っていたら、いきなりスピーカー越しに聞こえてきた姉さんの声と、それに応えるように震える生徒たちの歓声に兄弟は思わず溜息をもらした。
「まあ、川神学園だし」
その思わずもれた呟きに、苦笑いを浮かべ答えを返す俺に対し、兄弟も苦笑いを返す事しかできなかったようだ。だがそれ以外に言いようがないのも事実だしな。
「つーわけでだ。今からマル秘競技を始めるぞ。と言ってもこの競技は今年初めてやる競技という事で、2クラスが代表してやることになってるらしい」
聞いていなかった事実に2−Fの生徒たちがざわめき始めたが、すぐにそれは収まった。
競技のメンバーを決める
「代表参加クラスは2−Sと2−F。ほんじゃ説明を始めろジジイ」
「モモ、学園では学長と呼べと言うとるじゃろ」
朝礼台に上がりながら苦言を呈する鉄心さん。マイクのスイッチが入っているため2人の会話がスピーカーから流れているが、いつものやり取りという事で誰も気になんかしない。
「相手はS組か……燃えてきたぜ!」
「俺様の力を見せてやるぜ!」
相手がS組という事でキャップとガクトが早くもやる気十分だ。
しかしS組かよ。どう考えても意図的としか思えないんだけどなぁ……どの学年もS組と他のクラスは余り仲がいいとは言えない状況だけど、2年はそれが顕著だ。だからここらで一端、鬱憤晴らしにといったところなんだろう。
こっちには兄弟がいるから負ける事はないと思うんだけど、いったいこの『マル秘』はどんな競技なんだろう。場合によっては兄弟に制限が掛りそうだ。
「うむ、では競技を発表するぞい。競技名は『サークル・ドッジボール』。略して『CDボール』じゃ」
競技名に一瞬だけ静寂がグランドを覆った。そしてすぐに小さなざわめきがあちこちから聞こえてくる。
生徒たちの困惑も分かる。まさかドッジボールとは思わなかった。確かに球技ではあるが、あれってどう考えても小学生までだろ。まあ、頭に『サークル』なんて名前がついてるから普通のドッジボールじゃないのは確か何だろうけどな。
「皆の混乱はよう分かるが、説明は最後まで聞くもんじゃぞ。大まかなルールは皆が知っておるドッジボールと同じ。ただし顔面への攻撃は有効じゃ」
なるほど、確かにそこは違うようだ。だがよくよく考えてもみろ、高校生が顔面攻撃ありのドッジボールをするってある意味で物凄く危険じゃないか? 恐らく誰も遠慮なんかしないだろうし、もし姉さんだったら喜々としてぶつけにくるぞ。
今回姉さんは参加しないけど俺たちの相手はS組だ。あいつら頭がいいけどそれだけじゃないのも多い。つか半数以上は運動もできる奴らだ。
九鬼英雄、忍足あずみ、榊原小雪、井上準。あと以前俺が賭場で泣かした着物の女……たしか不死川心だったっけ。間違いなくこの5人は参加してくるだろう。
まあ、俺たちのチームは兄弟がいるし、他にも一筋縄ではいかない奴らが多いからからそれなりに互角にやるんだろうけど、いかんせん俺とモロが足を引っ張る。
よける事に関しては自信がある。姉さんの姉弟のスキンシップと言う名の暴力をよけてきたのはダテじゃないぞ。だがよけてばかりじゃボッチボールは勝てない。
とりあえずは特殊ルールに期待しよう。場合によっては違う形で勝負に貢献できるかもしれない。
「では今から特有のルールを説明する。試合をするコートは競技名にもあるように円、サークルじゃ。それぞれのクラスが攻守に分かれ攻撃側が円の外、防御側が円の内に着く。攻守は1回ごとに交代じゃ」
それってつまりは、防御側はひたすら円の中でよけ続けるって事か? 学長の説明からするとボールを取って相手にぶつけても意味がないって事になるんだが……
「次に3つのサイコロを使って攻撃側の人数、防御側の人数、1回の攻防時間を決定する。青が攻撃、赤が防御、黄色が時間じゃ。3つとも6面のサイコロじゃが1回の参加人数は攻守ともに3人まで。4以上の目が出た場合、余りの数は攻防時間に足し引きする事にする」
なるほど、つまり3つ全てのサイコロの目が『4』だった場合、攻撃側の余り『1』と防御側の余り『1』が足し引され、結果的に攻防時間は±0の『4分』になる、といったルールか。かなり運に左右される勝負だな。参加メンバーが自分たちで決められるだけマシと考えるべきか。
「サイコロを振るのは公正を期して審判がする。そして防御側の参加者がアウトになった場合、次以降の攻撃時に相手をアウトにしない限り防御に参加する事はできない。この辺りは普通のドッジボールと同じルールじゃ」
チームの人数は9人、最悪の場合3回の攻防で勝負がついちまうってわけか。
「攻撃に参加したメンバーは連続して攻撃に参加は出来ない。必ず1回休みを挟むこと。そして最後に、攻守ともに同じ位置からスタート。ボールは開始と同時にコートに向かって投げ込まれ奪取した方がイニシアティブを握る」
つまり、防御側がボールを取れればそのまま時間が過ぎるのを待てばいい。取れなくても攻撃側からのボールをキャッチすればいいって事だな。
「じゃが、ボールを取った直後から防御側が全員コートに入るまで、選手同士の攻撃を有効とする」
ちょっと待て。なんだそのルール。つまり場外乱闘有りって事かよ。
「そして最後のルール。1回の攻防ごとに勝敗が付けられ、例え相手チーム全員アウトにしたとしても勝ち数が劣っていた場合、負けになるから気を付けい」
また厄介なルールだな。つまりあれか、どちらかのチーム全員がアウトになった時点で勝ち星の多い方が勝者ってわけか。ただ単にアウトにする事だけを考えてちゃダメって事かよ。
「やっぱりまともな競技じゃなかった……」
隣にいたモロが俺の心の声を代弁した。でもまあ、大方の予想はついていたけどな。だってここは川神学園でそしてあの人は川神鉄心だし。『普通』なんて言葉で括れるわけがない。
人数と時間は運任せ。勝つためのカギは参加するメンバーの人選だな。
「軍師としてのお誂え向きな状況だなヤマ」
俺と同じ事を考えたんだろう、少しだけおどける様な兄弟の言葉に肩を竦めることで応えた。
要はこの隣にいる兄弟の使いどころだな。相手がS組の誰であろうとも兄弟がアウトになる事は絶対にない。兄弟が防御に参加し続ける限りF組が負ける事はないが、だからと言って勝てるとは限らない。絶対に兄弟の行動に制限がかかるはずだ。
そう考えて戦力的には五分五分か? いや若干だが
「なお、F組参加者の1人である暁神には特別ハンデを課す」
きた。このハンデによってある意味で勝敗が左右される。
自分で考えといてあれだが、たった1人の存在で勝敗が左右されるなんてさすが兄弟だな。姉さんも似た様な存在だけど、姉さんは
さて、どんなハンデがつけられるのやら。
「暁神は攻防どちらに参加しても手を使うことを禁ずる」
ちょっと待て。ドッチボールで手を使うの禁止ってどういうハンデだよ? 他の生徒たちもその異常なハンデにざわついてるし。
「ジン兄、手を使うなって事だけど大丈夫?」
「……ま、何とかなるだろ。ドッチボールって当たってもそのボールが地面に着かなければセーフなんだろ?」
伺うような京の質問に暫く腕を組んで考え込んでいた兄弟だが、実にあっけらかんとした風に答えたあと確認するように聞いてきた。
「ルール上はそうだな」
「なら大丈夫だ。方法はいくらでもある」
「そうかい。じゃあ、期待させてもらうぜ」
本人が言っているんだ、心配するだけ損ってもんだろう。だいたいこの男に『心配』なんて言葉は無用の長物以外の何物でもない。着の身着のままでアマゾンのジャングルの奥地に放り込まれても、恐らく年単位で生き延びる事が出来るだろう。富士の樹海でも生き延びそうだ。
「結構めんどくせぇルールだな」
「なぁに、楽しければそれでいいんだよ!」
「とりあえず、さっき説明したのがドッチボールの大まかなルールだから。忘れないでねクリス」
「ああ、ありがとう京」
「頑張ろうね! タッちゃん!」
「まあ、それなりにやるさ」
「本当にマイペースな人たちばっかだね、このチーム」
「気負ってても仕方ないだろ。結局のところは遊びの延長線なんだし」
みんな思い思いの言葉を口にしているけど、兄弟の言うように球技大会なんて言ってしまえば遊びの延長線上にあるものだ。
だがだからと言って負けるつもりはない。それなりに頭を使うようだし、何よりS組には葵冬馬がいる。以前賭場で交わした約束を果すとまではいかないが、それでもお互いの策略を駆使する事にはなるはずだ。
軍師として負けていられるか。
side out
side 葵冬馬
神君は両手を使えないというハンデですか。しかしそれは彼にとってハンデになり得るのでしょうかね。規格外という言葉すら子供遊びの様な彼には、そのハンデすら無意味な気がしないでもありませんが。
「あってない様なハンデではないか。その程度で神の行動を制限出来るとは到底思えん」
どうやら英雄も私と同じ考えだったようですね。ですが、両手が使えないというのはドッチボールではある意味で致命的と言っていいでしょう。考え方と戦略によっては神君にひと泡吹かせる事が出来そうですね。
「で? どーするよ若。かなり人選が重要になってきそうだぜ」
「そうですね……」
参加人数と時間がサイコロ、しかも他人の手で振られるとなる完全に運任せ。準の言う通り勝つためには参加メンバーの人選が重要ですね。
こちらの参加メンバーで神君と対等に渡り合える人はいませんが、ハンデを考えると忍足さんとユキがどうにか出来るといった感じですかね。いや、ユキではまず無理ですね。忍足さんでもギリギリといったところでしょうか。
そうなると今回の場合、私がどう考えるかよりも直江さんがどう神君を使うかを考えた方がよさそうですね。
F組は風間ファミリーと源君の9人。1番警戒するのは神君ですが両手を使えないとなると使いどころがやや中途半端になりそうですね。直江さんもその辺りは理解しているはず。そう考えるならば神君はそれほど注意するべきではないのかもしれません。
恐らく神君の使いどころは防御の参加メンバーが1人になった時と考えるのが妥当でしょう。両手が使えないとはいえ彼なら何とかしてしまいそうですからね。
実際、直江さんがどういった作戦を立てるかはゲームが始まってから確認しなければなりませんが、恐らく私と同じような考えでしょう。屋上や賭場での勝負で感じましたが、彼は私と同じタイプ。ならば私の考えた事がそのまま直江さんの考えと思って問題ないでしょう。
となると神君を抜いた8人。それならばこちらのメンバーも引けを取りませんね。さらに運動面となると直江さんと師岡君は苦手な方。こちらは私以外は運動が出来るメンツ。
それらを統合的に考えて――――
「勝てそうか? 我が友、トーマよ」
「ギリギリ、といったところですね。若干、私たちの方が有利なのかもしれませんが、やはり最終的には神君をどうにかしないと勝てないでしょうね」
「ふむ、ならば神以外をまず仕留めればよいだけよ」
「一筋縄じゃいかねーんじゃねぇか?」
準の言葉ももっともですが、英雄にその言葉は無用の長物ですよ。
「ふん、貴様、我を誰と心得る。我は九鬼英雄! いずれ世界の頂点に君臨する王となる男だ!」
「さすがですぅ! 英雄様ぁ!」
「フハハハハハハ!」
忍足さんの称賛を浴びて高らかに笑う英雄。その姿に小さく笑いが漏れ私はいつものように呆れた目で英雄を見る準の肩を軽く叩きました。
あれが九鬼英雄なのですよ。そういった言葉を声にする事なく目だけで語ると、分かっているというように準は肩を竦めて答えました。
「いつも思うのじゃが、九鬼のあの根拠のない自信はいったいどこから出てくるのじゃ」
「それは~、心の無駄な虚栄心と同じ所からじゃないかな?」
おや、なかなか的確に突きましたねユキ。
「無駄な虚栄心とは何じゃ!? 此方は不死川の人間! 其処らの者とは格が違うのじゃ! それすらも分からぬのか!?」
「あはは~。ムキになってる~」
「だあぁぁ! 少しは会話を繋げようとせぬか!? そなたと話しておると頭が悪くなりそうじゃ!」
……風間ファミリーもそうですが、
こちらを伺うように見ていた神君の、どこかからかいを含む視線に気付いた私は、肩を竦めることでしか答えを返す事が出来ないのでした。
あとがき~!
「第94話終了。あとがき座談会、司会の春夏秋冬 廻です。今回のお相手は――」
「どうも、葵冬馬です」
「はい久し振り」
「投稿も久し振りですね」
「いきなり抉ってきたね……事実だから反論できない」
「スランプ中なのですか?」
「それもあるけど最近はあんまり時間が取れないんだよね。まあそのおかげでいろいろ妄想する事が出来たからネタのストックの方はそれなりに貯まってきているんだけど、いざ書こうとなるとどうしても手が進まない状態」
「難儀ですね」
「まあ、徐々になんとかしていくさ。さて、今回のお話ですが」
「何ですかあの競技は?」
「いきなり核心突いてきたね。でも申し訳ないけどツッコミは受け付けないのでお願いします」
「逃げの一手ですか」
「そう、三十六計逃げるにしかず。という事で今回はこれにて」
「次回の投稿がもっと早い事を祈りますよ」
「本当に自分でもなんとかしたいよ……」