あの長いお話が終ってから、僕達一同は黒うさぎの後ろを歩いていた。
「ジン坊ちゃ―ン!新しい方を連れてきましたよ―!」
黒ウサギさんが元気一杯に手を振りながら一人の少年に近づく。
見た感じまだ子供。……む。だれだ。僕の事を子供なんて行ったのは! 160はあるぞ!……タブン
ちなみに、その子供の大きな特徴はダボダボのローブに跳ねた髪の毛がポイントです。髪の色は濃い緑色で、瞳は青色なのだ。
「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」
「はい、こちらの御四人様が――」
ジンくんの言葉に固まる黒ウサギ。
そして、ゆっくりと僕たちの方を振り返る。
「……え、あれ?もう一人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君のこと?彼なら『ちょっと世界の果てを見てくるぜ!』と言って駆け出して行ったわ」
久遠さんの言葉に黒ウサギがウサ耳を逆立てる。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「『止めてくれるなよ』と言われたから」
「なら、どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「『黒ウサギには言うなよ』と言われたから」
「華姫さんもどうして!?」
「『黒うさぎには喋るんじゃねぇぞ!』って言われたから?」
「嘘です!絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう!」
「「「うん」」」
打ち合わせをしたかのような息の合い具合がとてもいい。うん、凄く楽しいよ!
そんな僕らのノリに黒ウサギは前のめりに倒れる。
ジン君はというと顔面蒼白になって叫んだ。
「大変です!世界の果てにはギフトゲームのために野放しになっている幻獣が!」
「幻獣?」
「は、はい。世界の果てには強力なギフトを持った幻獣がいます。出くわしたら最後、人間じゃ太刀打ちできません!」
「あら、なら彼はもうゲームオーバー?」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?……斬新?」
……二人とも身もふたもないこと言うねぇ。
『じーーー……』
あと僕は何故か春日部さんの頭の上に乗っているいいお歳の三毛猫さんに睨まれてるよ。……なぜなのでしょうか?
それにしてもすごいな~、春日部さん。さっきまでずっと三毛猫を見てたけれど、春日部さんの頭の上にいるのにも関わらず、一切揺れないよ。バランスいいよね。
「…ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
すると、ゆらりと立ち上がる黒ウサギ。
なんか怒ってる……?
「わかった。黒ウサギどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。ついでに――――“箱庭の貴族”と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」
その瞬間、黒ウサギさんの青い髪が桜色に変わった。
感情が高ぶると髪の色変わるんだねぇ。東方の月兎こと、苦労人の優曇華は、見た目は殆ど変わりないが赤い目がさらに不気味に赤く光り、赤いオーラも体からでるね。
髪を緋色に染めた黒ウサギさんは空中高く飛び上がった。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフを御堪能ございませ」
門柱に飛び乗り、そこから全力の跳躍で僕たちの視界から消えた。おぉ〜、早いねぇ。
「箱庭のウサギは随分速く飛べるのね」
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属ですから、力もありますし、様々なギフトに特殊な特権も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣に出くわさないかぎり大丈夫なはずです」
ふーん。黒ウサギさんって意外と凄いんだな~。
「取りあえず、十六夜君のことは彼女に任せて、箱庭に入りましょう。貴方がエスコートしてくださるの?」
「は、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ものですがよろしくお願いします。御三人のお名前は?」
「久遠飛鳥よ」
「…春日部耀。で、隣に居るのが」
「月神華姫だよぉ。よろしくね~」
「それじゃあ、箱庭に入りましょう。まずは、軽い食事でもしながら話聞かせくれると嬉しいわ」
久遠さんはジン君の手を取り笑顔で箱庭の外門をくくった。
箱庭の中に入りまずは驚いた。
天幕で覆われていたのに中は太陽の光が指している。
『お、お嬢!外から天幕の中に入ったはずなのに、お天道様が見えとるで!』
春日部さんの頭の上で猫が騒ぐ。
まぁ、確かに普通は驚くよね〜普通はさぁ。
「……本当だ。外から見たときは箱庭の内側は見えなかったのに」
春日部さんが三毛猫と会話している。傍から見たら独り言にしか見えないよね、これ。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんです。この箱庭には太陽の光が受けられない種族もいますし」
春日部さんの言葉を聞き、ジン君が解説してくれた
「あら、それは気になる話ね。この都市には吸血鬼でもいるのかしら?」
「はい、いますよ」
「……そう」
少しおどけただけのつもりが、本当に吸血鬼がいて驚いてる。
その後、“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに入り、そこで休憩&軽食を取ることになった。
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」
店の奥から猫耳を生やした少女が注文を取りに来た。
あの猫耳本物だね。……猫又なのかな?
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ、オレンジジュースを一つ。あと軽食にコレとコレと『ネコマンマを!』」
三毛猫がニャーと言ってネコマンマを要求した。
「はい紅茶お二つに緑茶お一つ、オレンジジュースがお一つ。それと、こちらの軽食にネコマンマですね!」
「「……ん?」」
猫耳の女性の言葉に驚く久遠さんとジン君の2人。僕は三毛猫の言葉が分かるからそこまで疑問に思ってないけれど、2人は聞こえないからね。はたからしたらニャーニャーいってるだけだし。
「ネコマンマなんて頼んでないのだけれど……」
久遠さんが疑問に思っているので僕が答える。
「確かに頼んでたよ? そこの三毛猫さんが。ねぇ、三毛猫さんに猫耳の店員さん」
『おう、頼んだぞ!』
「ええ、頼んでいましたね」
三毛猫さんと猫耳の店員さんが頷いた。
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「貴方、三毛猫の声が分かるの?」
久遠さんと春日部さんが驚く。
「そだよ〜。春日部さんの三毛猫さんの声は最初から聞こえてたよ? あの湖で溺れて助けを読んでた時からねぇ」
「……やっぱり。あの時のは気のせいじゃなかった」
春日部さんは何か考える様にブツブツと言っていた。
「それに、猫耳の店員さんは、同じ猫さんだから聞こえるんじゃないかな?……そうでしょ?猫の店員さん」
「そりゃ、猫族ですからね。分かりますよ。それにしても、お歳の割に綺麗な毛並みの旦那さんですね。ここは、少しサービスさせてもらいますよ。」
『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。 今度機会あったら甘噛みしにいくわ』
「やだもー、お客さんったらお上手なんだから♪」
猫耳店員は鉤尻尾を揺らしながら店内に戻る。
すると、春日部さんは嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「箱庭ってすごい。私以外に三毛猫の言葉が分かる人いたよ」
『よかったなお嬢』
「も、もしかして、猫以外にも意思疎通は可能なんですか?」
ジン君が興味深く質問してくる。
「うん。生きているなら誰とでも話はできる」
「そう、素敵ね。なら、あそこに飛び交う野鳥とも会話が?」
「うん、出来……る?ええと、鳥で会話したことがあるのは雀や鷺、不如帰ぐらいだけど
ペンギンがいけたからきっとだいじょ「ペンギン!?」…う、うん、水族館で知り合った。他にもイルカとも友達」
へぇ〜、ペンギンかぁ。
「……そういえば、ハクさんは元気かなぁ」
「ハ、ハクさん?だれですか?」
僕の独り言にジン君が聞いてくる
「白龍のハクさん。とある地方の土地にいる土地神みたいな龍神様だよ」
「りゅ、龍神!? 華姫さんは龍種とも話を出来るのですか!?」
「うん。龍種だけじゃなく、龍を含めた幻獣種に、動物以外には植物とも話をできるよ。さすがにコンクリートや鉄などといった無機物系統とは話せないけどね」
「そ、そうなんですか……凄いですね」
ジン君は少し引きながらそう言った。……まぁ、僕は話せないけれど、とある国のとある王族の一家にいる女の子に、建物などの無機物とも話せる超能力をもった娘は知ってるけどね〜。
「し、しかし、全ての種と会話可能なら心強いギフトです。箱庭において幻獣との会話は大きな壁ですし」
「へぇ〜、そーなのかー」
「一部の猫族や黒ウサギのような神仏の眷属として言語中枢を与えられていれば意思疎通は可能ですけど、幻獣達はそれそのものが独立した種の一つです。同一種か相応のギフトがなければ意思疎通は難しいと言うのが一般です。箱庭の創始者の眷属に当たる黒ウサギでも全ての種とコミュニケーションをとることはできないはずですし」
てことは、春日部さんの多種族意思疎通できるギフトは凄いんだ。……まぁ、自分も人のこと言えないけどね。
「そう……春日部さんに華姫さんは素敵なギフトを持ってるのね。羨ましいわ」
久遠さんに笑いかけられ、困ったように頭を掻く春日部さん。
対照的に、憂鬱そうな声と表情で久島さんは呟く。
「久遠さんは…」
「飛鳥でいいわ」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
春日部さんの質問に更に顔を曇らせる。まるで自分の能力が好きではないように言った飛鳥が少し哀しみを帯びた笑顔を春日部さんと僕に向けてくる。春日部さんは困ったように頭を掻き、僕は少し眉を寄せた。
出会ってからまだ数時間しか経ってない間柄だけど、それでも久遠さんの表情が彼女らしくないと感じたからだ。春日部さんも僕と同じことを思ったらしく、久遠さんに聞いた。
「久遠さんは」
「飛鳥でいいわ。」
「う、うん。飛鳥はどんな力を持っているの?」
春日部さんがそう聞くと、久遠さんが苦笑いした。どうやら、聞いてはいけない質問だったようだ。
すると、久遠さんが自嘲気味に言った。
「私?私の力は………まあ、酷いものよ。だって」
久遠さんが自分の力の話をしようとすると、余計な奴が会話に入ってきた。
「おやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュニティ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
ジン君を呼ぶ声。
見ると、二メートルは超える巨体にピチピチのタキシードを着た変な男がいた。