ピチピチのタキシードを着た男はジン君の隣に腰を下ろした。
「貴方の同席を許可してはいません。それと僕らのコミュニティは“ノーネームです”。 “フォレス・ガロ”のガルド=ガスパー」
「黙れ、名無しが。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいな。 コミュニティの誇りである名も旗印も無いのに未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだな――――そう思わないかい、お嬢様方」
僕達に愛想笑いを浮かべるガルド。
対して冷ややかな目を向ける僕達。
「席に座るなら、名前ぐらい名乗ったらどうですか?」
「そうね。それと、一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
「おっと、これは失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ
“六百六十六の獣”の傘下の「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧!!」
ジン君が横槍を入れ、ガルドが怒鳴る。
「口を慎めや……紳士で通ってる俺にも聞き逃せない言葉もあるんだぜぇ」
「森の守護者だったころの貴方なら少しは相応の礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの二一○五三八○外門付近を荒らす獣です」
ガルドの脅しに怯まずに真っ向から勝負するジン君。
意外にも度胸があるね。……ふぅん。面白いなぁ、この人間は。
「そういう貴様は過去の栄華に縋る亡霊と変わらん。自分のコミュニティがどういう状況か理解できてるのか?」
「そこまでよ」
ジン君とガルドの険悪な雰囲気を久遠さんが遮る。
「二人の仲が悪いの承知したわ。それを踏まえた上で質問なのだけど………ジン君、ガルドさんの言った私たちのコミュニティが置かれてる状況を説明していただける?」
「そ、それは……」
久遠さんがそう言うと、ジン君は気まずそうなそして、申し訳なさそうな顔をする。
「ジン君、貴方はコミュニティのリーダーなのでしょ。なら、新たな同士として呼び出した私たちにコミュニティがどういう物なのか説明する義務があるはずよ」
久遠さんはナイフのような切れ味でジン君に問う。
そんなジン君は震えながら膝の上で拳を握る。……だけど、今回は仕方がない。追い詰められたジンはどうしようもなく縮こまっているが、今回は飛鳥の方が正しいと言えるからだ。それと、ここへ来てから変わっていたけれど"隠し事"をしているのは知っていたからね。
「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界とルールを教えるのは当然の義務、いや責務です。しかし彼はそれが出来ない、いやしたがらないでしょうねぇ」
ガルドはいやらしい目でジンくんを睨めつけた。
「よろしければコミュニティの重要性と小僧―――ジン=ラッセル率いる"ノーネーム"のコミュニティを客観的に説明させていただきますが、どうでしょうか?」
久遠さんは訝しげな顔で一度だけジン君を見るが、当のジン君は俯いて黙り込んだまま。それらを男は一瞥しただけで口を挟まずにただ流れを見つめるだけ。
「そうね、お願いするわ」
「承りました。まずは・・・そうですね。コミュニティとは読んで字のごとく、複数名で作られる組織のことを指す総称です。受け取り方は種によって違うでしょう。ヒトはその大小によって家族・組織・国とも言い換えますし、幻獣は群れとも言える」
「それぐらいはわかるわ」
「ええ、もちろん。これは確認するまでもありませんでしたね。
・・・そしてコミュニティは活動していく上で箱庭に"名"と"旗印"を申告しなければなりません。特に旗印はコミュニティの縄張りを示します。
ほら、この店にも大きな旗が掲げられているでしょう?あれがソレですよ」
ガルドはカフェテラスに掲げられた"六本傷"の旗を指す。
「六本の傷が入ったあの旗印は、この店を経営するコミュニティの縄張りであることを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと臨むのであればあの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければいいのです。私のコミュニティは実際そうやって大きくしましたから」
自慢げに語るガルドはピチピチのタキシードの胸に刻まれた旗印を指す。
彼の胸には虎をモチーフにした紋様が刺繍されていた。
春日部さんと久遠さんは辺りの至るところにそれと同様の紋があることに気づき、龍夜はガルドから視線を逸らすことなく見続けているが、先程周囲を見渡した際にあった事を思い出す。
「その紋様が縄張りを示すというのなら・・・この近辺はほぼ貴方達のコミュニティが支配していると考えていいのかしら?」
「えぇ。残念なことにこの店のコミュニティは南区画に本拠がある為に手出しはできませんがね。この2105380外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すは本拠が他区か上層区にあるか・・・奪うに値しない名も無き弱小コミュニティぐらいですよ」
クックッと嫌味を込めて笑いを浮かべるガルドにやはりジン君は俯いたままローブの端をグっと握り締めることしかできなかった。
「さてここからがレディ達のコミュニティの問題です。実は貴女たちの所属するコミュニティは―――数年前まではこの東区画最大手のコミュニティだったんですよ」
「あら?それは意外ね」
「とはいえ、リーダーはジン君とは別人でしたがね。ジン君とは比べようもない優秀な男だったそうですよ。ギフトゲームにおける戦績は人類最高の記録を持っていたこの地区最強のコミュニティだったそうですから」
ガルドは先程までとはうって変わり、心底つまらなそうに自身の前駆者の事を語る。
「彼は東西南北に分かれたこの箱庭で東の他に南北の主軸コミュニティとも親交が深かった。いやホント、私はジン君のことは毛嫌いしてますがね、これはマジでスゲェんですよ。
南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだったというのは嫉妬を通り越して尊敬してやってもいいぐらいにはすごいのです―――まぁ、先代は、ですがね」
その言葉にもジン君は言い返さない、いや言い返せない・・・・・・・。
このガルドの話の持って行き方はゴシップ週刊誌と通ずるものがあった。あれらは先ず対象を持ち上げることで問題を述べる事で対象を徹底的に貶めるように書かれているのである。
そしてガルドは続ける。
「人間の立ち上げたコミュニティではまさに快挙とも言える数々の栄華を築いたコミュニティはしかし!・・・彼らは目をつけられては、敵に回してはいけないモノにみそめられ、ギフトゲームに参加させられたった一夜にして滅ぼされました。『ギフトゲーム』が支配するこの箱庭世界の唯一にして最悪の天災によって、ね」
「「「天災?」」」
僕達3人は同時に聞き返す。当然でしょうね。それほどまでに巨大で強力な組織がただの自然災害程度で滅ぼされたとは思えないから。ましてや人間は天災だけに滅ぼされるほど弱くはないのだから。
……それは僕が一番よく知っているもの。
「此れは比喩にあらず、ですよ、レディース&ジェントルマン。彼らは箱庭世界で唯一にして最大の天災―――俗に言う"魔王"と呼ばれる者たちの手で、ね」
「魔王ねぇ・・・」
お母様や紫さんがお土産で持ってきてくれる外界のゲームや小説という物でよく出てくる存在だったはず。どれも、最後は無残に滅ばされる『絶対悪』と呼ばれるような者達だったはずだ。
そんな、頭に浮かんだ事を考えながらガルドの話を聞いた。
「えぇ、魔王ですよお嬢さま。よく外界で取り上げられる者とは少し異なりますがね。
"魔王"とは"主催者権限ホストマスター"という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏を指す言葉なのです」
「"主催者権限"?」
聞きなれない言葉に僕らは揃って疑問符を浮かべる。その様子を満足そうに見たガルドは続ける。
「"主催者権限"とは読んで字のごとく『ギフトゲーム』を開催できるもののことで・・・・・・ただし、挑まれれば強制的に参加させられるという持つ者が大変有利となる権限ですが」
ガルドは心底恐れた様子でその存在を話す。強制されるということ、それすなわち―――どんなに難易度が高くても、どんなに攻略するのが無理に近いゲームでも参加させられるということ。
「―――以上が彼のコミュニティがたどった末路ですよ」
そう締めくくったガルドは運ばれてきたカップに口をつけ、楽しげに嗤う。
その様子にジン君は怒りが込み上げてくるも、何も言い返せなかった。事実、彼のコミュニティは述べられたように滅んだも同然の状態にされたのだから。
「つまり"魔王"は特権を持ちそれを自由に使う神々etc.指し、ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰された。そういうこと?」
「その通りですよ、レディ。神仏というものは古来から生意気な人間が大好きですからね。愛しすぎるがゆえに使い物にならなくなることはよくあることですから」
ガルドはカフェテラスの椅子の上で両手を大きく広げ、ただでさえ大きな体を更に大きく見せ、皮肉そうに嗤う。
「名も旗印も主力陣の全てを失い、残ったのは膨大な居住区と役足らずな子供だけ。もしもこの時に新たなコミュニティでも結成していたならば、前コミュニティは有終の美を飾っていたんでしょうがね?
今は名誉も誇りも失墜した名もない弱小コミュニティの1つでしかありません」
「・・・・・・・・・・」
ジン君はなおも黙したままだ。確かにガルドの言っていることは正論であり、最善の策である。だが、彼ら"ノーネーム"はその選択肢を取らなかった。
ただただ彼らは守りたかったのだ。かつての仲間がまた集う、名を奪われた居場所コミュニティを!それはコミュニティの総意であり、幼い彼らなりの意地であった。
ガルドは饒舌に語り続ける。
「そもそも考えてみてくださいよ?名乗ることを禁じられたコミュニティに一体どんな活動ができます?商売ですか?"主催者ホスト"ですか?
しかし名も無き組織など信頼も信用もされません。では、"参加者プレイヤー"は?これは可能です。ですが!優秀なギフトを持ち多くのゲームを勝つ者が名誉も!誇りも!何もかもが無い地の底にまで墜ちたコミュニティに集まるでしょうか?」
「そうね・・・・・・常識で考えれば誰も加入しようなんて思わないわね」
「そう。つまり、彼も彼のコミュニティも出来もしない夢を掲げて過去の栄華に縋りつく恥知らずな亡霊でしかないのですよ!」
ガルドは嗤い続ける。品の欠片も存在しない豪快な貶めるのが楽しくて堪らないといった顔でジン君を、そのコミュニティを嘲笑う。
それでもジン君は黙し続け、耐える。顔を赤くし、自身の爪で手の平を破いてしまいそうなほど強く強く握り締める。
「もっと言えばですね、彼はコミュニティのリーダーと名乗ってはいますが、ほとんどリーダーらしいことはしていません。
コミュニティの再建を掲げてはいますがその実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけの寄生虫」
「ッ!」
「私は本当に黒ウサギの彼女が不憫でなりません。ウサギと言えば"箱庭の貴族"と呼ばれるほど強力なギフトの数々を持ち、どこのコミュニティでも破格の待遇で愛でられるはずです。
コミュニティにとってウサギを所持しているということはそれだけで大きな"箔"が付く。なのに彼女は毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティをやり繰りしている」
「・・・・・・そう。事情のおおよそは分かったわ。それでガルドさんは私たちにそんな話をどうして懇切丁寧に話してくれたのかしら?」
久遠さんは含みのこもった声でガルドに問いかける。
それを察したガルドはニヤリと口角を引き上げ笑う。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
「何を言い出すんです、ガルド=ガスパー!?」
そのガルドの言葉に誰よりも真っ先に反応したのは誰であろう、今まで黙し続けていた"ノーネーム"のリーダーである、ジン君であった。
ジン君はあまりの言葉に怒りを露わにし、テーブルを叩いて講義をする。
しかしガルドは獰猛な瞳でジン君を睨ねめ返す。
「黙れジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。
それを貴様の我が儘わがままでコミュニティを追い込んでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」
「そ、それは・・・・・・」
「何も知らない相手になら騙しとおせるとでも思ったのか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら・・・・・・こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねぇ仁義があるぜ?」
先ほどと同じ獣の瞳に似た鋭利な輝きに貫かれて、ジン君は僅かに怯む。それはガルドの瞳以上に僕達に対する後ろめたさと申し訳なさが大半なようだ。
しかしガルドの言葉に片眉をピクリと動かし反応するものがいたが、今はまだその時ではないと心の内に秘め、会話に加わろうとはしない。
「・・・・・・で、どうですかレディ達?返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも貴女達には箱庭での30日間の自由が約束されています。
一度、自分達を呼び出したコミュニティと私たち“フォレス・ガロ”のコミュニティを視察し、十分に検討してから―――」
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
「「え?」」
ジン君とガルドが声を上げる。彼女は先程までの事が無かったかのようにティーカップの紅茶を飲み干すと、春日部さんと僕に笑顔で話しかける。
「春日部さんと月神―「華姫でいいよ!久遠さんに春日部さん!」なら私も飛鳥でいいわよ華姫さん。それで、2人は今の話、どう思う?」
「別にどっちでも。私は友達を作りに来ただけだもの」
その言葉に飛鳥さんは目を丸くし、意外そうに続ける。
「あら、意外ね。じゃあ私が友達第1号に立候補してもいいかしら?私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
「なら僕は2号に立候補しよかなぁ」
「……そう。ありがとう。なら、私の事は耀と呼んで」
「わかったは、耀」
「よろしくね、耀さん」
飛鳥さんは自身の髪を触りながら気恥かしそうに、僕は笑顔で春日部さんに問う。
耀さんはそれらの言葉に目をパチパチと瞬かせ、2人の顔を見つめ・・・・・・・・・小さく笑って頷いた。
ホロリと泣く三毛猫とリーダーをほったらかしにして盛り上がる3人。
……でもみんなはまだ気づいていないんだろうなぁ。僕はまだ、飛鳥の問いかけに答えていないということに。
そんな中、ほったらかしにされたガルドは表情を引きつらせながら、それでも取り繕うようにして問う。
「し、失礼ですが、理由を教えてもらってもよろしいですか?」
その問に飛鳥さんはさっきまでの様子とは一転して冷ややかに返す。
「だから間に合ってるのよ。春日部さんは友達を作りに来ただけだから、ジン君でもガルドさんでもどちらでも構わない。そうよね?」
「うん」
「そして私、久遠飛鳥は―――裕福だった家も約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってこの箱庭に来たのよ。
それを小さな小さな1地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃いんぎん無礼に言われて魅力的に感じると思ったのかしら?
だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、エセ虎紳士」
ピシャリと言い切られ、ガルドは怒りで体を震わせていた。飛鳥さんの言葉に今すぐに怒号をぶつけたい気を必死に抑え紳士に努めようとしている。
「で、ではそちらのお嬢さまはどうです?」
「僕もジンのコミュニティで間に合ってるからいい。」
「な、何故私のコミュニティではなくジン=ラッセルのコミュニティなのかお聞きしてもよろしいですか?」
「確かにジン君のコミュニティは絶望的な状況だよ? 普通ならガルドさんのコミュニティに行くだろう。……でもね、僕は困ってる人を見過ごせないタイプなんだよ、昔からね。だから、魔王とのギフトゲームで壊滅的状況に落ち込まれたジン君のコミュニティを助けたくなっちゃったからね。あと理由を付けるならガルド僕はアンタが非情に気に食わない」
「……私のどこが気に食わないのですか?」
ガルドは不思議そうに尋ねてくる。でも、僕はガルドに会った時からある匂いがしてた、そう、決して取れることのない匂い。……それに、その"薄汚れた心"もね。
「じゃぁ、聞くね? ねぇ、ガルド。何故アンタから濃密な血の匂いがするの?」
「な、何のことですか?お嬢さま」
ジン達は僕の発言に驚愕しガルドは僕の言葉を聞くと体が一瞬震え、その後何もなかったかのように答えるが明らかに動揺していた。
「……まぁ、いいさ。僕には"全て分かってるし"。そんなことよりもさ、なんか飛鳥さんが聞きたいことがありそうだから僕はここまでにしておくよ」
「えぇ貴方には聞きたいことがあるから『私の質問に答え続けなさい』」
ガルドはパニックに陥っていた。どういう手段かは分からないが、手足の自由が完全に奪われて抵抗することさえできなくなっているのだ。
その様子に驚いた猫耳の店員が急いで飛鳥達に駆け寄る。
「お、お客さん!当店で揉め事は控えてくださ―――」
「ちょうどいいわ。猫耳の店員さんも一緒に聞いて。多分面白いことが聞けるわ」
飛鳥さんは悪そうな顔をして言う。
「さっきこの地域のコミュニティに両者合意で勝負をしたと言ってたけど、コミュニティそのものを賭けるゲームはそうそうあるのかしら?そのへんはどう、ジン君。」
「は、はい。やむを得ない状況なら稀に。ですが、コミュニティの存続をかけたゲームですからそうそうありません」
「でしょうね。なら、どうして貴方はコミュニティを賭ける大勝負ができたのかしら。
『教えて下さる』」
飛鳥さんの命令に歯向かうように抵抗するが徐々に口が開く。
「相手のコミュニティの女子供を攫って脅迫し、ゲームに乗らざるを得ない状況に圧迫していった」
「小物らしい手ね。でも、そんな方法で吸収したコミュニティが貴方に従ってくれるのかしら?」
「各コミュニティから子供を人質にとってある」
「そう。それで、子供たちは今どこに幽閉されてるの?」
「もう殺した」
空気が凍り付いた。
周囲がざわめく。
ガルドは手をついたテーブルに罅を入れながら、憤怒の表情で口を開き続ける。
「始めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭に来て思わず殺した。それ以降は自重しようと思っていたが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降、連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。けど身内のの仲間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食――『黙れ!!』」
久遠さんの言葉でガチン、と再びガルドの口が塞がれる。
さっきよりも力を強めたためか、勢いよく閉じた。
周囲から音が消えていた。ガルドの口から聞かされた惨劇を思い浮かべ、声を発することが出来なかった。飛鳥さんと耀さんも隠すことなく不快に顔を歪めていた。
「素晴らしいわ。まさしく絵に描いたような外道ね。さすがは人外魔境の箱庭ね」
「か、彼のような悪党は箱庭でもそうそういません。」
飛鳥さんの言葉を慌ててジン君が否定する。
「ねぇ、ジン君。今の証言でコイツは箱庭の法で裁ける?」
「ジン君、箱庭の法がこの外道を裁くことは可能かしら?」
「難しいです・・・・・。ガルドの行いは間違いなく違法ですが・・・裁かれるまでに箱庭の外に逃げ出してしまえばそれまでです」
全てを捨てて逃げ延びる。それもまた裁きといえなくはない。
「そう」
飛鳥はつまらなそうに言い捨てるとおもむろに指を鳴らす。するとソレを合図にガルドの体を縛り付けていた力が解かれた。それが解放の合図だったのか、ガルドの拘束が解けると飛鳥を襲い掛かろうとしていた。
「こ……小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガルドは絶叫と共に人間の姿から虎の姿へ激変する。ガルドの体が激変し、タキシードは弾け、体毛が黄色と黒の縞模様になった。
彼のギフトは人狼に近い系譜を持つ、通称ワータイガーと呼ばれる混在種なようだ。
「テメェ、どういうつもりか知らねえが……俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!?箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味が――」
「『黙りなさい』私の話はまだ終わってないわ」
先ほどと同様にガルドの口がまた閉じられる。
だが、一歩遅くガルドの腕が久遠さんに迫まる。
春日部さんが盾になろうとするが間に合わない。
――だから
「黙れ下種野郎」
勢いよく黙る。
今度は歯が折れるような音が聞こえる。
しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。
ガルドは飛鳥に襲いかかろうとするがその前に僕に螺子伏せられているからだ。
床にナイフで縫い付けられるがガルドは構わず服を引き千切って立ち上がろうとするが首元に僕は自分の愛刀をあてる。
「さて、たかがその程度の虎風情が僕の友達に危害を加えることなど許さない。まぁ、君のこれまでの行動は"全てわかっていた"けどね。
はっきり言ってあげるね。僕は今すぐ君を殺したい。でも、それだと僕は君と同じになるし、それにアンタのコミュニティが瓦解するくらいじゃ殺された子供達が報われない。――――だから皆に提案があるんだ」
僕の言葉を聞いていたジン君や店員さん達は首を傾げる。
「僕達と『ギフトゲーム』をしようよ。君の"旗"の存続と"ノーネーム"の誇りと魂……そして、いままで君に殺されてきた子供達の"想い"を賭けて、ね」
僕はガルドに殺気をあてる。
「そして図に乗るな。身の程をわきまえよ、ただの獣風情が」
僕の言葉に、ガルドは怯えきっていた。