僕だ!
そんなわけで映画見てません。(2016.07.03現在)
DVD! Blu-ray! まだかなー?
……つまり、これはパラレルワールドです。
『海馬コーポレーションの社長こと海馬瀬人と言えば?』
この問いには誰もがこう答えるだろう。
――『
この認識は全世界共通である。
理由は二つ。
一つ目は、他ならぬ海馬瀬人本人が『
そして二つ目は、海馬コーポレーションが運営している施設『海馬ランド』には必ず『
海馬ランドは古今東西のゲームが楽しめる施設だが、目玉はやはり『デュエルモンスターズ』だろう。
デュエルリングは大きく分けて二種類。デュエルディスクを必要としないテーブル型と、デュエルディスクを使用するフィールド型。そのどちらも人気があり、休日になれば老若男女を問わず誰もがここを訪れる。
今日もまたそうだ。
ずらりと並ぶデュエルリング……その中央。
誰もが注目するその場所で、二人の青年がデュエルを行っていた。
◆
「行け、《ブラック・マジシャン・ガール》! 城之内くんにダイレクトアタック!」
青い魔術衣装の少女に攻撃命令を下す。
少女は視線を交わした後こくりと頷いて、愛用の杖を相手プレイヤー――“城之内克也”に向ける。
杖に魔力がチャージされ、赤い魔弾となって城之内くんに放たれた。
「ぐわああぁぁぁ――――!!!」
城之内
LP:4000 → LP:2000
魔弾はそのまま城之内くんに直撃し、遅れて絶叫が聞こえてきた。
「ボクはこれでターンエンド。さあ、城之内くんのターンだよ」
とはいっても、これは仮面だ。笑顔という仮面。戦略を隠すためのポーカーフェイス。
……
「くっそぉ、いい気になるなよ遊戯! このターンで一気に逆転してやるぜ!」
「うん。ボクも楽しみだよ」
逆転してやる。そう宣言されて、思わず心が踊る。
――状況を確認。
遊戯
LP:4000
城之内
LP:2000
こちらのフィールドには魔術師の少女――《ブラック・マジシャン・ガール》が1体と、2本のランスをそれぞれ両手に持つ騎士――《暗黒騎士ガイアロード》が一体。
対して城之内くんの場にカードはない。
手札――遊戯、2。城之内、1。
――確認終了。
盤上は城之内くんの圧倒的劣勢。
けれど、今の彼に悲観はない。むしろここから這い上がるのだというアツアツの闘志が現れている。
「行くぜ! 俺のターン、ドロー!」
ドローしたカードを確認した瞬間、城之内くんの顔が分かりやすくニヤけた。
「よし来た!
ライフを800払い、デッキの上からカードを4枚めくる。その中にレベル3以下の通常モンスターがあった場合、可能な限り特殊召喚できる!」
「でも、ボクのフィールドには攻撃力2000以上のモンスターが2体いる。モンスターを2枚以上引き当てないと次のターン、ボクの攻撃は防げないよ」
「ああ! つまり、こいつは確率50パーセントのギャンブルってことだろ? だったら望むところだぜ!」
「うーん……そう、かなぁ?」
肯定とも否定とも取れない微妙な反応。
彼の計算は穴だらけ……どころか穴しかない。しかし、彼の強運を考えればあながち間違いとは言い切れない……かもしれない。
城之内
LP:2000 → LP:1200
「そんじゃあ、カードを4枚めくるぜ!」
城之内くんはデッキの上からカードを4枚引き、それを公開する。
カードの色は――黄、緑、黄、黄。通常モンスターは3枚。
「よっしゃあ! 俺は《ランドスターの剣士》、《ランドスターの銃士》、《ランドスターの騎士》を、それぞれ守備表示で特殊召喚!」
妖精ランドスター。特徴は肌色のまるっとした独特の顔。
城之内くんは意気揚々と、それぞれ剣士・銃士・騎士の格好をした三体のランドスターを召喚した。
……相変わらずの強運に感心する。
デッキに入っているモンスターカードの割合を考えれば、3枚も引き当てるには相当の運が必要だ。
「流石は城之内くん。ここぞという時の勝負運は侮れないね」
「へっへーん。だがな、まだ俺のターンは終わっちゃいないぜ!
俺は、場の三体のランドスターの力を使い! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》を召喚!」
三体のランドスターが風に包まれ消滅し、新たに稲妻の騎士が召喚される。
銀の鎧と赤いマントを纏う筋肉質な男。その背には身の丈ほどの大剣。
男は剣の柄を握り、こちらのフィールドを見据えた。
――バチバチ。
大剣を雷が迸る。
ひっ、と《ブラック・マジシャン・ガール》は身を引き、ガイアロードは攻撃に備え腰を落とした。
「《ギルフォード・ザ・ライトニング》の特殊効果発動!
3体のモンスターを生贄にして召喚した時、相手モンスターを全て破壊する!
喰らえ、『ライトニング・サンダー』!」
「っ――!」
《ギルフォード・ザ・ライトニング》が大剣を引き抜き、振り下ろした瞬間、特大の雷が2体を襲った。
――防ぐ術はない。
自分を守る2体は雷撃を受け、硝子片のように消滅した。
「ようし! 《ブラック・マジシャン・ガール》、《暗黒騎士ガイアロード》を撃破!
そして遊戯、そのままお前にダイレクトアタックだ!
『ライトニング・クラッシュ・ソード』!」
攻撃命令を受け、稲妻の騎士は再度雷撃を放つ。
遊戯
LP:4000 → LP:1200
「ぐっ……」
ライフが並ぶ。僅か一ターンの攻防で戦況が変わった。
――だからこそ、面白い。
攻撃を受けた箇所を抑えながら笑う。
――ダメージを受けた。それこそがセットカードの発動トリガー。
デュエルディスクのボタンを押す。右手を掲げ、
「
ダメージを受けた時、デッキからその数値以下の攻撃力を持つ黒魔術師を呼ぶ!」
「黒魔術師!? まさか――!」
ざっ、と城之内くんが後ずさりする。
召喚できるのは『攻撃力2800以下の黒魔術師』
となれば、召喚すべきはあのカードのみ――!
「そう! ボクが呼ぶのはこのカード!
現れろ、《ブラック・マジシャン》!」
《ダーク・ホライズン》のカードが二つに裂け、人一人通れるくらいの、異次元へ通じるゲートが開く。
――その中から、一人の黒魔術師が現れる。
漆黒の衣装。漆黒の杖。かの白き龍と同等の知名度を誇り、
そして、
……いや、正確には“だった”と言うべきか。
武藤遊戯の中にもう彼はいない。過去の
ここにいるのは、三千年の時を超えて
――故に。《ブラック・マジシャン》は、武藤遊戯のエースでもある。
「城之内くん、今の攻撃は迂闊だったよ」
「くっ……だけど、《ブラック・マジシャン》の攻撃力は2500! 《ギルフォード・ザ・ライトニング》には敵わねえ! ターンエンドだ!」
強がりじみた終了宣言。
それを聞いて、自分のターンを開始する。
「ボクのターン、ドロー!」
ドローしたカードを手札に加え、すぐさま別のカードを取る。
引いたカードがなんであろうと関係ない。
何故ならこの時点で――《ブラック・マジシャン》を召喚できた時点で、既にパターンに入っていたからだ。
「
来い、《ブラック・マジシャン・ガール》!」
自分フィールドに《ブラック・マジシャン・ガール》を呼び戻す。
これで揃った。師匠と弟子、黒魔術を使いこなす魔術の徒。
「この状況で《ブラック・マジシャン・ガール》……? 何をする気だ、遊戯」
城之内くんは訝しげに眉を潜める。
《ギルフォード・ザ・ライトニング》の攻撃力は2800。確かに攻撃力という面なら《ブラック・マジシャン・ガール》では敵わない。
だが――それ以外なら話は変わる。
黒魔術の弟子。彼女が誇る
「答えはこれだよ!
自分の場に《ブラック・マジシャン・ガール》が存在する時、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する!」
「なぁにぃ!?」
少女はキッと稲妻の騎士を睨む。
――大気が震え始め、杖の先端に魔力が集う。バチバチとスパークが発生し、赤い球体が出現した。
攻撃力の数値に見合わない高純度の魔力。それは、あらゆる魔物を滅殺する黒魔術である。
少女は気合の一声と共に大きく跳躍し、先ほどのお返しと言わんばかりに赤い魔弾をぶっ放した。
「ぐはーっ!!」
そうして、唯一の壁である《ギルフォード・ザ・ライトニング》は消滅した。
残っているのは、中途半端なライフの城之内くんのみ。
「行け、《ブラック・マジシャン》! 城之内くんにダイレクトアタック!
――『
止めの攻撃命令。
黒魔術師は杖を振りかぶり、黒い魔導弾をプレイヤー目掛けて発射した。
赤に続けて黒。二度目の魔法攻撃が城之内くんを襲う。
「ぐわぁぁああぁぁぁ――――!!!」
城之内
LP:1200 → LP:0
またもや直撃、そして決着。
――とある休日の決闘は、武藤遊戯の勝利で幕を閉じた。
◆
海馬ランドは最近建てられた施設なのだが、休日は驚く程盛況だった。
特にこのデュエルリングは大入り満員で、一回デュエルが終わったらすぐ退かなければならないほどだ。
「おい、早くしろ! 後がつっかえてんだ!」
「あ、はーい。城之内くん、行くよ」
バトルシティ優勝者“武藤遊戯”の名前は、ここでは殆ど意味を成さない。
立派な肩書きを持っていても、所詮は単なるお客さんなのだ。
そんなわけでそそくさと、半ば追い出される形でデュエルリングを後にして、観客席へ移動する。
つい先程まで《ブラック・マジシャン》がいたそのリングでは、5分も経たない内に次のデュエルがスタートしていた。
「ほっほっほ、流石はワシの孫じゃ!
それにしても城之内よ、お前さんは相変わらず進歩がないのう!」
観客席に戻ってきて、爺ちゃん――“武藤双六”が上機嫌に笑いながら城之内くんの背中をバッシバシと叩く。
とっくに還暦を迎えているのにこの元気、我が祖父ながら流石というほかない。
「いってーなじーさん! 俺だって着々と進歩してらぁ!
なあ遊戯、そうだよな!?」
「うーん……そうだね、今回は少し危なかったよ」
「だろ!?
へん、聞いたかじーさん。俺だって伊達に遊戯とデュエルしてるわけじゃねえ。経験を重ねるごとに、一歩ずつ強くなってるのさ!」
「むぅ……」
ぐぬぬと押し黙る爺ちゃんと、得意げになる城之内くん。
天狗になるのはいけないと思うので、今のうちに釘を刺しておこう。
「でも、やっぱり城之内くんは詰めが甘いよ。最後の《ギルフォード・ザ・ライトニング》の攻撃は、もう少し考えるべきだったんじゃないかな?」
「んなことねーって。あれは単に運が悪かっただけだ」
「ううん、他にもやり方はあったはずだよ。《ギルフォード・ザ・ライトニング》は3体を生け贄にした時に効果を発動できるけど、敢えて2体のみを生け贄にする手もあった。
あの時ボクのフィールドにいたのは、攻撃力2000の《ブラック・マジシャン・ガール》と、2300の《暗黒騎士ガイアロード》。効果を使わず攻めていれば、まだ勝敗は分からなかったはずだよ」
「うーん、そーかなぁ……いやまあ、確かにそうだけどよー……」
城之内くんは腕を組み不満そうにこちらを見ている。どうやらまだ納得できていないらしい。
「つまり、城之内には警戒心が足りんというわけじゃな! これを克服できんようでは、いつまで経ってもプロにはなれんぞい!」
「ぐは!」
胸を突くその一言に、城之内くんは大げさによろめいた。
――そう、プロ。城之内克也は、プロデュエリストを目指している。
それはつまり目標……進路が決まっているということだ。城之内くんは未来を見据えて、少しずつ前へ進んでいる。
では、自分は?
武藤遊戯は、どうだろうか……?
「くっ……じーさん、痛てぇトコロを突きやがって」
「ぬはははは! 悔しかったら遊戯から一本取ってみることじゃな!」
「上等だぜ! 今は無理でも、いつか遊戯に勝ってみせるぜ! 覚悟しろよ遊戯! ……遊戯?」
「……!」
名前を呼ばれ、現実に戻る。
「……ごめん、何?」
「だから、いつか遊戯に勝ってやるって話。プロの世界はよくわかんねーけど、遊戯レベルのヤツがうじゃうじゃいやがるんだろ?
だったら、遊戯と肩を並べられるくらいには強くならねーとな!」
「……そうだね。城之内くんなら、きっとプロになれるよ」
「おう! ありがとよ、遊戯!」
親指を立てて、城之内くんは気持ちよさそうに笑う。
実際、彼ならプロになるのも夢ではない。未だに運に頼っているところもあるが、実力は間違いなく伸びている。加えて“
「そういえば遊戯。お前さんはどうするんじゃ?」
「え?」
……思わぬ角度からの追求に、つい間抜けな声が出た。
爺ちゃんは何食わぬ顔でこちらの顔を窺っている。
けれど、それは間違い。何食わぬ顔、というのは見かけだけの仮面だ。
心配しているのだ。一人の祖父として孫の行く末を。
「どうって、何が?」
「じゃから、プロじゃよプロ。遊戯がその気なら、今すぐにでもプロになれるじゃろ? 城之内はともかくな」
「んだとぅ!? おいじーさん、それどーゆー意味だ!」
「いいから黙っとれ城之内。それで、どうなんじゃ遊戯」
爺ちゃんに諭され、城之内くんもまたこちらを見る。
……本当のことを言うと、爺ちゃんの言う通りなのだ。
高校卒業後という条件付きだが、様々なところからプロ入りのオファーが来ている。
ゲームデザイナーであるペガサスに勝利し、バトルシティでも優勝を修めた
――でも。
ボクは、それが嫌だった。
「今のところ、そういうつもりはないかな。
なんというか……今のボクがプロになるのは、何か違う気がする」
そう、違うのだ。
プロ入りのオファーはありがたいと思う。しかしそれを受けるのは武藤遊戯ではなく、
「……うん。やっぱりできない。
ボクはデュエルが好きだ。だからこそ、彼の偉業を奪ってまでプロになるのは嫌なんだ」
彼。
それだけで、二人には伝わる。
「ふむ……そうじゃな。それでこそワシの孫じゃ。
いくら姿が似ていてもお前さんとあれは別人じゃ。遊戯よ、お前はお前の人生を歩めばいいんじゃ」
「けどよ、だったら遊戯はどうすんだよ。その理屈だと、遊戯が遊戯である限りプロにはなれねーんじゃねーか?」
「うーん……」
城之内くんの指摘に閉口する。
そう。“武藤遊戯”としての経歴に拘る限り、ボクはプロになれないのだ。
それ自体に思うことはない。城之内くんのような野心はないし、プロに対する特別な憧れもないのだから。
かといって、他に目指したいものもない。いっそデュエルのことはすっぱり忘れて大学を目指すのも一つの生き方だ。
「――だったら、こいつを受けてみたらどーだ?」
と。
城之内くんでも爺ちゃんでもない第三者が、一枚のチラシを片手に現れた。
青みがかった髪と吊り上がった目元。身長は自分より少し低いくらい。上物のスーツを着込んでいるせいか、実年齢より大人っぽく見える。
「モクバくん?」
「よ。久しぶりだなー、遊戯」
――“海馬モクバ”。海馬瀬人の弟にして、海馬コーポレーションの副社長である。
モクバくんからチラシを受け取り、爺ちゃんと眺める。
城之内くんはというと……モクバくんをからかっていた。
「モクバ? お前なんでここにいるんだ?」
「ただの見回り。見ての通りウチは盛況だからな。マナー違反してるヤツがいないかパトロールしてるんだよ」
「ホントかぁ~? モクバって確か小学生だったよな? 難しいことはまだできねーから、とりあえずパトロールさせてるだけじゃねーのか?」
「っ――うるさい!!」
ガスッ。
モクバくん渾身の蹴りが城之内くんの脛に炸裂した。
「ぐっ――うおおおお……!」
城之内くんは苦悶の表情を浮かべて
改めて渡された紙を見る。
ざっと目を通すと、海馬ランド主催のイベントのチラシのようだった。
内容は……
「新型デュエルディスクのベータテスト?」
「なにぃ!?」
変な声で唸っていたはずの城之内くんは、脛に受けたダメージから一瞬で回復しチラシを覗いてきた。
……彼が喧嘩に強い理由が分かった気がする。
渡されたチラシの内容は、新型デュエルディスクのベータテスターを一人だけ募集する、というものだった。
童実野町内でこのチラシは見たことがない。おそらく、公式にはまだ配布されていない物なのだろう。
選ばれる条件は二つ。一つ目は
この二つを確認した城之内くんは、食い入るようにアピールし始めた。
「おいモクバ! これ、俺でもいいんだよな!」
「いいと思うけど……多分無理だよ。その企画の責任者、兄サマだから」
「そんなことねーだろ! 俺だってそれなりに腕の立つ
「そうじゃなくて、兄サマ直々のオーダーなんだよ。この企画は遊戯にやらせるべきだってさ」
「うっ……そっか」
途端、城之内くんは落胆し溜息をついた。
「そのチラシ、まだ公には出回ってないんだよ。まずは遊戯に参加を依頼する。もし断られたらこれで募集して、兄サマを含めた海馬コーポレーションのスタッフが厳選するって流れだ。
だから城之内が選ばれるとしたら、遊戯がこれを断った上で兄サマに気に入られた時だな」
「一生来ねーだろ、それ。
はぁ……まあいいか。遊戯を指名する気持ちは分からんでもねえ」
「うーん、そうかなあ」
チラシから目を離し、正直な気持ちをモクバくんに伝える。
「海馬くんなら、こういうことは自分でやりたがると思うんだけど」
「まぁ、そうなんだけどさ。今回の実験はちょっと違うんだよ」
――待って。
今、聞き逃せない単語があった。
「……モクバくん。実験って何?」
「え? ああ心配すんな、そんな怖いことじゃないんだ。今回テストするデュエルディスクは、海馬コーポレーションの最新技術をふんだんに使った特別製なんだ。
正直オレもよく分かってないんだけど……なんでも、異次元の
「異次元?」
「ああ。こう、専用のゴーグルをつけてさ。違う世界の
「ふーん……」
言葉で説明されてもイマイチピンと来ず、もう一度手元を見た。そこにはベータテストで使われるであろうデュエルディスクの画像が載っている。これをつけてデュエルする、ということだろうか。
黙ってチラシを眺めていると、モクバくんは得意げに補足した。
「実はこのデュエルディスク、もう殆ど完成してるんだぜ。
今回遊戯に頼みたいのは最終テスト。ただ、最後の最後で不備があるといけないから、兄サマも裏方に回るらしいぜ。今回のデュエルディスクは、バトル・シティの時の初期型以上に力を入れてるんだ」
「ふむ、中々面白そうじゃな」
「爺ちゃん?」
爺ちゃんは後ろで手を組み、少し離れてこちらを見た。
年を重ね、皺だらけになった顔。けれど、その奥にある瞳は変わらず。
こちらの思いを見透かすように、爺ちゃんは優しく笑いかけた。
「遊戯よ。お前さん、これを受けてみたらどうじゃ? 何かを掴めるかもしれんぞい」
「そんな気楽な」
「気楽でいいんじゃよ。それが若さの特権じゃ。
遊戯。失敗が許される時期にこそ挑戦を繰り返し、うんと失敗するんじゃ。どんな結果になろうと、その経験は必ずお前さんの未来に繋がるぞい」
「爺ちゃん……」
つい持論を語るのは年寄り共通の癖なのかもしれない。
普段は鬱陶しいことこの上ないけど……この時は、少しばかり役に立った。
ボクはデュエルが好きだ。それだけはこれからもずっと変わらないだろう。
なら、断る理由はなかった。
「モクバくん」
改めてモクバくんを見る。
似合わない白のスーツ姿。子供が大人に近づこうと頑張っている姿。
進路。
この言葉で真っ先に思い浮かぶのは杏子だ。彼女はダンサーになるのが夢で、そのために随分前から動き出している。
城之内くんもまたプロデュエリストという進路を決め、彼なりに歩き始めた。
なら、自分もそろそろだ。
ゆっくりでいい。重い腰を上げて、少し遠出をしてみよう。
「この依頼、受けさせてもらうよ」
遊戯がデュエルするだけの話を書きたかったのに、なんでこんな話になったんだろう。