武藤遊戯のデュエルロード   作:YASUT

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デュエル導入回。異次元移動~「デュエル!」まで。
タイトルから察せると思いますが、展開は少々……かなり強引です。ちょくちょく修正する可能性あり。


道場破り!? その名は「武藤遊戯」!

 時を待たずして、その日はやってきた。

 

 海馬コーポレーションが開発した新型デュエルディスク『ディメンジョン』の最終テスト。その被験者として自分――武藤遊戯が指名されたのだ。

 事前に聞いた話によると、『ディメンジョン』はこことは違う別世界、すなわち異次元の決闘者(デュエリスト)とデュエルができるらしい。

 社長の海馬瀬人――海馬くんは『ディメンジョン』の開発にこれでもかと力を注いでいて、今回の最終テストでも彼はバックアップに回るようだ。

 彼の性格を考えれば、こういったテストは自分でやりたがるものだと思っていたけど……今回のテストは、それほど大事な案件なのかもしれない。

 

 ズラリと並ぶ無数のデュエルリング、その中央。自分以外誰もいないリングの上で周りを見渡す。

 本日、海馬ランドは閉館。お客さんは“一部を除いて”誰もいない。休日でこそ賑わうここでは非常に珍しい光景だ。

 

「おー。久しぶりに来てみたけど、やっぱり広いなーここ」

「なんでオメーがいるんだよ本田。今日のことは世間一般には知らされてねーはずだぜ。新聞にも載ってなかったしよ」

 

 1人目、妙に尖ったリーゼントの青年――本田ヒロトがデュエルリングを見て呟き、すかさず2人目、城之内くんが不満げに文句を言う。

 

「まあまあ、いいじゃないこれくらい」

 

 3人目、真崎杏子。幼少の頃から付き合いのある幼馴染。イメチェンでもしたのか、髪は後ろで一つに括られている。

 ダンサーを目指してるだけあって(?)、その身体は非常に健康的だ。出るトコロは出て、締まるトコロは締まる。かといってだらしがないわけでもない。世間一般的には美人(モデル)カテゴリーに属するだろう。

 

「そうだよ。なんでも今回のは、海馬くん直々に遊戯くんを指名したそうじゃないか。気になるのは当然だよ」

 

 4人目、獏良了。杏子が美人(モデル)なら、こちらは美人(イケメン)だ。

 転校生という非日常的な立ち位置と、優しげ、物憂げな表情が異性に人気がある……らしい。

 

 以上、観客4名。いつもの4人。

 ちなみに全員私服。男子勢(自分含む)はいつもの服を着回してるが、唯一杏子は新コスチュームである。

 ……杏子を見ていると、幼馴染としては意識せざるを得ない。

 いつも同じ服というのは安心感こそあるものの、やっぱりどこか味気ない。私服に関して色々と勉強、もとい冒険すべきだろうか……?

 

「フン、またいつものギャラリーか。随分とお気楽なことだな、遊戯」

 

 バサリ、とコートが(なび)く。満を持して、主役兼脇役が登場する。

 海馬コーポーレーションの若き社長にして天才、海馬瀬人その人である。

 その存在感、カリスマ性は圧倒的だ。登場して一言喋るだけで、駄弁っていた4人が静まり返る。

 

「遊戯、準備はいいな?」

 

 肯定以外を許さない威圧感。

 敵対してるわけでもないのに、と心の中で愚痴る。

 とはいえ、既に準備は出来ている。海馬くんの確認には頷きで答えた。

 

「よし、スタッフは準備に入れ! 磯野、遊戯に例の物を」

「はっ」

 

 海馬くんの後ろから黒スーツのスタッフが数名現れ、台車を押して機材を運び始める。

 その動きは洗練されており、流石というほかない。

 磯野と呼ばれた側近の男は海馬くんからデュエルディスクを受け取り、無数にならぶデュエルリングを横切ってこちらへ歩いてきた。

 

「武藤遊戯。これが新型デュエルディスク『ディメンジョン』と、そのゴーグルだ」

 

 2種類の機械を受け取る。

 1つはデュエルディスク。性能は勿論、デザインも1から考えられているようで、バトル・シティの時に使われた物とは似ても似つかない。

 ――格好いい。そんな、シンプルな感想が浮かんだ。

 ただ、もう1つはよくわからなかった。

 水泳、バイク、材料加工等に使用されるゴーグルは、目を保護するために何かしらの防壁があるものだ。

 けれどこれはそういったものがない。かろうじて耳にかける機械だというのは分かるが、目を守る機構は存在しない。現存する物で例えるなら、モノクルが一番近いだろうか。

 

「『ディメンジョン』とデッキをセットし、ゴーグルをかけろ。それを合図に実験を開始する」

 

 連絡事項を伝え、磯野……さんはデュエルリングを後にした。

 その頃には既にスタッフの準備は終えていた。怪しげな箱型の機械が幾つも並び、全員がパソコンを開いて画面を睨んでいる。

 

「モクバ、マイクとモニターの用意だ」

「了解だよ兄サマ。あーそれと、モニターのことなんだけどさ。あいつらもいいかな?」

 

 モクバくんは親指で城之内くん達を指して、海馬くんに懇願する。

 海馬くんは数秒ほど逡巡した後、

 

「……勝手にしろ」

 

 無表情のまま、そう告げた。

 

「ありがとう兄サマ! おーい、おまえら!」

 

 了承を得た後、モクバくんは4人の方へ走っていった。

 海馬くんはそれを見送った後、ケーブルで機材同士を繋ぐ。

 ――しばらくすると、あらかじめフロアに設置されている巨大モニターに、武藤遊戯の姿が映し出された。

 断片的に聞こえてきたモクバくん達を会話を纏めると……モニターを通じて自分のデュエルを観戦するらしい。

 

「遊戯、こちらの準備は既に整っている! 貴様も早くデュエルディスクを装着しろ!」

 

 早く実験を始めたいのか、それとも単なる照れ隠しか。海馬くんは準備をするよう急かしてきた。

 なんとなく微笑ましい気分に浸りながら、言われた通りデュエルディスク、ゴーグルを装着する。

 続けて、ケースからデッキを取り出す。

 (■■■)から受け継いだものと、自分で磨き上げたもの。ここには“武藤遊戯”の全てがある。

 それを、デュエルディスクにセットした。

 

「――よし。

 只今より、次世代デュエルディスク『ディメンジョン』の最終テストを行う!」

 

 海馬くんの開始宣言を聞きつつ、虚空を睨む。

 しばらくして視界が薄れてきた。両目はしっかり開いているのに、目の前が真っ暗になっていく――。

 

 

 ◆

 

 

 ――気が付くと、世界は一変していた。

 視界に映るのは海馬ランドとは違う何処か。ただ、突拍子もない意味不明な場所ではない。

 そこは運動場のようだった。四方は緑のフェンスで覆われ、灰色の床が広がっている。

 ……そして、何人か人がいた。

 一際小さな子供が4人。モクバくんより少し年上の同年代が3人。保護者と思われる方が1人。

 共通しているのは、全員が自分を奇異の目で見ていること。

 簡潔に言うと、ポカーンとしている。

 

『聞こえるか、遊戯』

「あ、海馬くん?」

 

 ゴーグルから海馬くんの潜めるような声が聞こえてきた。どうやらこれは通信機としての役割も果たしているらしい。

 

『……フン、成功したようだな。数値は上々。俺までバックアップに回る必要はなかったか。

 まあいい、一先ずは褒めてやるぞ遊戯。貴様のお蔭で次元間の移動が可能ということが、科学的に証明されたのだ』

 

 海馬くんが通信機越しに上機嫌で言う。実験が上手くいってご満悦のようだ。

 

「ちなみに海馬くん、ボクはそっちに帰れるんだよね?」

『その点は心配要らん。が、それは断じて認めん。せっかく異次元へ移動したのだ。デュエルの1つでも見せてみろ。

 そら。ちょうど目の前に絶好の獲物がいるぞ』

 

 海馬くんに言われて正面を見る。

 奇異の目で見ていた8人。そのうち7人は一箇所に集まり、こちらを観察している。

 そして1人――保護者と思われる、炎を模したジャージの男――が歩み寄り、尋ねる。

 

「えーっと。君、名前は? どこから来たのかな?」

「ボクは――」

 

『俺の名は決闘者の王(キング・オブ・デュエリスト)、武藤遊戯! 道場破りに来てやったぜぇ!』

 

『何っ……!?』

 

 突然、耳をつんざくほどの大声がゴーグルから発せられた。遅れて海馬くんの声。

 声の主は城之内くんだった。慌ててゴーグルを操作し、通信の音量を下げる。

 それと同時に、周囲の状況……具体的には、この場にいる計8人の様子を観察する。

 

 ――地雷を踏んだ。そう直感した。

 

 危機的状況を察知し、男の人から距離を取る。

 

『城之内、お前なんてこと言うんだ! マイク返せ!』

 

 通信機からモクバくんの声が聞こえる。

 ……そういえば次元移動する前、海馬くんはマイクを持っていた。きっと、こちらと通信するための専用マイクがあるのだろう。

 それをモクバくんが城之内くんに渡して、城之内くんが面白半分で余計なことを言った、というところかな。

 

「道場破りぃ!? LDSに続いてまたか!?

 だが、遊勝塾を舐めるなよ! こっちにはとっておきがあるんだからな! 行け遊矢、柚子! 遊勝塾の底力を見せてやれ!」

「…………」

 

 案の定、目の前では大変なことが起こりそうだった。

 男の人からは明確な敵意と、焦がすような熱い視線が向けられる。一触即発というやつだ。

 ――とはいえ、殆ど一人相撲だったのは言うまでもない。

 この場所……“遊勝塾”の生徒と思われる後ろの子達は、冷めた目で彼を見ている。

 

『なんだよ、別に間違ってねーだろ? ケンカを売るならこう言うのが一番早いんだよ』

『向こうにいるのはお前じゃなくて遊戯だ! あんまり下手なこと言うと遊戯が動きづらくなるんだぞ!』

『へ? 一回デュエルして終わりじゃねーのか?』

『んなわけないだろ! デュエルディスクが商品化したら、向こうの決闘者(デュエリスト)と何度もデュエルするんだぞ! 多分!』

『そーなのかー。

 ん? それってつまり、俺にも可能性があるってことか!』

『ああそうだよ! 

 そしてそれだけじゃない! 今後の予定次第では、遊戯は何度もあっちに行くことになるんだよ!』

『マジか! よっしゃあ!

 って、あれ? マジでか!? すまん遊戯!』

「……あはは」

 

 今更詫びられても時既に遅し。苦笑いするのが精一杯だった。

 

「――三連戦だ」

 

 男の人は腕を組み、仁王立ちして宣言する。

 

「たった一人で道場破りを名乗るからには、相当腕に自信があるのだろう。

 だったら三連戦だ! 三回連続で遊勝塾の生徒が君とデュエルを行う。三連勝なら君の勝ちだ。遊勝塾の看板は持っていくといい。

 ただし、一度でも負ければそこまでだ! この塾から出て行ってもらうぞ!」

「は、はいっ」

 

 ビシッと指を差しての戦線布告。

 彼の瞳には、闘争心という名の炎が燃え盛っている。

 

『フン、面白い。それくらいのハンデがなければ勝負にならんからな。

 行け遊戯! 無様なデュエルを晒してくれるなよ』

「――――」

 

 こっちもメラメラ燃えていた。

 先程の城之内くんといい、血気盛んなことこの上ない。

 

「…………はぁ」

 

 頭を抱えたくなるのを堪えて、これ見よがしに溜息をつく。

 当然海馬くんは聞いていない。聞いていても無視するだろう。

 ……これはもう、観念して付き合うしかない。

 デュエルディスクを展開し、名乗り上げる。

 

「武藤遊戯です。遊勝塾の皆さん、ボクとデュエルしてください」

 

 ――かくして、武藤遊戯VS遊勝塾の決闘が始まるのであった。

 

 ◆

 

 遊勝塾の生徒達は全員観客席へ移動した。

 三連戦ということは、デュエルの相手は3人。

 とはいえ、誰が来るかは大体想像がつく。

 総勢8人のうち、候補は5人。

 一人目は塾長と親しまれている男の人。観客席へ移動した今もなお、時々熱い視線を送ってくる。

 二人目は首に緑のペンダントを提げた少年。年齢はモクバくんより少し上くらいか。理由はまだ判明していないが、どうも塾長って人に一番頼られているみたいだ。

 三人目はノースリーブの制服・ネクタイにミニスカートの少女。年齢はペンダントの少年と同じくらい。一番燃えているのが塾長なら、一番落ち着いているのが彼女だ。この集団のまとめ役なのかもしれない。

 四人目は赤いハチマキ、白い学ラン、長いリーゼントの少年。身体はペンダントの少年より一回り大きいが、顔にはまだ幼さが残る。年齢は同じくらいだろう。

 五人目は、黒いアンダーシャツの上に青い制服を着た子。年齢はモクバくんと同じくらいか。棒つきの飴玉を口に入れ、頭の後ろに手を組んで退屈そうに眺めている。

 

『遊戯ー』

 

 通信機から女性の声が漏れる。杏子だ。

 

「杏子? どうしたの?」

『ううん。特に用はないんだけど、大丈夫かなって。遊戯、本当にそっちにいるんだよね?』

「? どういうこと?」

『さっき海馬くんも似たようなこと言ってたけど、こっちには遊戯の姿がないのよ。モニター越しでなんとか確認できるだけ。ああ、こういうところに遊戯がいるんだなって』

 

 モニターというのは、次元を移動する前に見た巨大なモニターのことだろう。あれにはさながらゲーム画面のように、自分の後ろ姿が映っていた。

 ……そういえば、あの映像はどうやって撮ってるんだろう。実は後ろに目に見えない定点カメラなんかあったりして。

 

『遊戯?』

「心配要らないよ。これはデュエルなんだから。折角なんだし楽しもう。杏子はそこからデュエルを見ててよ」

『……うん』

 

 安心したような声音を最後に、杏子からの通信は途絶えた。

 しばらくして、デュエルの相手が運動場に現れる。

 対戦相手は……緑のペンダントを提げた少年だった。大きなゴーグルと白い制服、緑のカーゴパンツ。マントのように制服を着こなすスタイルは、かつての“自分”を思い出させる。

 

「あのー。デュエルの前に一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 

 少年はおずおずと片手を挙げ、尋ねる。

 

「? いいけど、何?」

「貴方は本当に道場破りですか?」

「違います」

 

 丁寧に即答する。こういうことはハッキリ言っておかないと大変なことになる。

 何故なら今、その“大変なこと”が起こっている。城之内くんの失言の後、すかさずフォローしていれば誤解されなかったかもしれない。

 ペンダントの少年は数回瞬きした後、大きく溜息をついた。

 

「はぁ……やっぱりなぁ。道場破りにしては大人しいなと思ったんだ」

「ゴメンね、勘違いさせたみたいで」

「いえ、違ったならいいんです。これで余計なことを考えずにデュエルができます」

 

 少年はズボンのポケットから赤い端末を取り出し、左腕に装着した。端末からメインデッキ・エクストラデッキが出てきて、ソリッドビジョンの(ディスク)が展開される。

 その光景を見て、ここは異次元なんだと改めて認識した。

 物理法則を無視したデュエルディスク。あれは海馬コーポレーションでも開発されていない。

 

「それじゃ、塾長ー!」

「ああ! 両者共に準備はいいな!

 アクション・フィールド、オン! 第一ステージはこれだ! 《マジカル・ブロードウェイ》!」

「っ!?」

 

 頭上から激しい機械音が響いた。

 音源を確認するため見上げると――未知の機械が光を発し、忙しなく作動していた。

 

 ――再度、世界が一変する。

 

 次元移動とは違う。人物はそのままで、背景のみがガラリと変わる。

 上空は暗闇に包まれ、光溢れる建物が並び立つ。

 夜の街。眠らない街。そんな言葉が連想されるフィールドだ。

 

「――――」

 

 感嘆の吐息が漏れる。

 ブロードウェイと言えばニューヨークの劇場街。街区を貫くメインストリート。行ったことはないから知らないけど、よくミュージカルが開催されてるとか。

 勿論これは作り物、フィールド魔法の類だ。スイッチ一つで消えてしまう夢の建物。

 それでも。いつか杏子はこういう場所へ旅立つのだと思うと、心が躍った。

 

 ――パチン、と指の音。

 

 ペンダントの少年は空を指差し、高らかに名乗り上げる。

 

「レディース、エーンド、ジェントルメーン!

 ワタシの名前は榊遊矢! 武藤遊戯さん、及び観客の皆様方!

 これより榊遊勝の息子、榊遊矢によるエンタメデュエルを開催します! どうかコールには合いの手を!」

「合いの手?」

 

 何のことか分からず首を傾げるが、そんなことで流れは止まらない。

 

「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」

「?」

 

 突然、ペンダントの少年――“榊遊矢”が声を張り上げた。

 ……戦いの殿堂に集いしデュエリスト達。

 もしかして自分のことかと再度首を傾げたが、それは間違いだとすぐ気づかされた。

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「? ……?」

 

 何が始まるのか分からないまま、観客席から口上が響く。

 誰も待ってくれず、教えてくれることもない。

 

「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」

「アクショーン――!」

 

「…………? ?」

 

 この凄まじいアウェー感。確実に何かが起きてるのだが、何一つ理解できない感じ。知らない場所に放り出されて迷子になった気分だ。

 実際、迷子みたいなものだけど。

 

「デュエル!」

「……デュエル!」

 

 一瞬遅れて最後のみコール。

 結局、理解できたのはここだけだった。

 




登場人物(ギャラリー)が急に増えて扱いに困ってます。

時間軸は舞網チャンピオンシップ開催直前です。
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