『まずは一勝。当然の結果だな』
ゴーグルに内蔵された通信機越しで、海馬くんの退屈そうな呟きが聞こえた。
武藤遊戯ならば勝って当然という確信と、ある種の信頼が混ざった言葉だった。
『遊戯。ペンデュラム召喚についての感想を聞かせろ』
海馬くんは当事者としての感想を求めてきた。
当然といえば当然だろう。ボクらのいた世界にペンデュラム召喚なんてものは存在しない。ボク自身は勿論のこと、海馬くんだって初めて見たのだ。
「凄い召喚法だと思ったよ。一人の
『それに関しては俺も同意見だ。あれはまだ底が知れん』
と、海馬くんは最後に意味深に付け足した。
「どういうこと?」
『俺の見た限り、ペンデュラム召喚には可能性が秘められている。先程榊遊矢がやってみせた融合召喚との併用がそれだ。もう少し探せば有効な活用法はごまんと見つかるだろう』
どうやら海馬くんの中ではペンデュラム召喚はかなりの高評価らしい。
そういえば、と先程のデュエルを思い出す。彼はペンデュラム召喚以外にも、
「アクションデュエルについてはどう思ったの?」
『愚問だな。あの程度、俺なら何の問題ない』
自信満々に即答された。
体力に関してもそうだけど、まだ一度も経験していないのにこの自信は流石と言う他ない。
『遊戯。次はシンクロ召喚、もしくはエクシーズ召喚の使い手とデュエルしろ。ペンデュラム召喚同様、詳細なデータを取りたい』
海馬くんの申し出に頷きで答える。個人的にもその二つは気になっていたのだ。
……まあ、この塾にそれらの使い手がいるとは限らないけど。
先程デュエルした榊遊矢くんは既に観客席へ戻り、炎を模したジャージの人――塾長さんと話していた。
遊矢くんは身振り手振りを交えて数回、塾長さんに何かを言う。塾長さんは大げさに仰け反って――直後、デュエルフィールド入口の扉が勢いよく開かれた。
「遊戯くん!」
こちらに猛ダッシュし、目の前で急停止。間髪入れず、直角に頭を下げた。
「すまない! 俺としたことが、君の話を最後まで聞かないまま勘違いしてしまったようだ! 本当に申し訳ない!」
「いえ、誤解が解けてよかったです」
怒涛の勢いに怯みながらも答える。
遊矢くんが誤解を解いてくれたみたいだ。
「いやーよかったよかった。実は内心焦ってたんだよ。すぐにお帰り願おうと思って一回戦から秘密兵器を投入したんだが、まさか負けるとはなぁ。それも融合、シンクロ、エクシーズ、どれも使わない相手に。ま、遊矢もまだまだってことだな」
「いえ、遊矢くんは手強かったですよ。もう少しで負けるところでした」
アクションデュエルとペンデュラム召喚。先程のデュエルは何もかもが新鮮で、驚きの連続だった。
デュエル開始時にフィールド魔法を展開し、カードを
何より驚かされたのは、このデュエル形式はお決まりの口上が作られるくらいには一般的だということ。この世界の
そしてペンデュラム召喚。秘密兵器と称したことから、やはり特殊な召喚法なのだろう。少なくとも、この塾でのペンデュラム召喚の使い手は彼一人なのだ。
「それで遊戯くん、この後はどうしようか。試合はあと二回残っているけど、君を敵視する理由はなくなった。こっちとしてはお詫びに何かしてあげたいところなんだが……何がいいだろう?」
「そうですね。では、シンクロ召喚とエクシーズ召喚の使い手とデュエルさせてください」
「えっ……うーん」
途端、塾長さんは悩ましそうに腕を組んだ。
「シンクロとエクシーズ……シンクロ、エクシーズ、か……なあ、遊戯くん。融合じゃダメだろうか? 融合召喚のエキスパートなら一人いるんだが」
「そうですね……少し、時間を――」
『駄目だ』
ください、と続けようとしたところで、海馬くんが代わりに答えた。ちょうど彼に判断を仰ごうと思っていたので、グッドタイミングではある。
『融合召喚など見飽きている。我々が観察したいのはシンクロとエクシーズだ』
「え? 遊戯くん、今の声は?」
『ただのナビゲーターだ。貴様が知る必要はない』
関係ない、と。海馬くんは姿を見せないまま、音声のみで拒絶を示した。
とはいえ、“ただのナビゲーター”なんて言い訳で相手が納得するはずもなく。男の人は眉間にシワを寄せ、怪訝そうにこちらを見ていた。
城之内くんと違う声だったのも大きいだろう。
――というわけでここは一つ、海馬くんをフォローしよう。
「彼はボクの友達です。訳あって人前に顔は出せないんです」
『何っ……!?』
「なるほど友達か。ゴーグルで見た映像を送ってるのかい?」
「はい。彼がシンクロ召喚とエクシーズ召喚が見たいそうで。なんとかなりませんか?」
「エクシーズは無理だが、シンクロはどうにかなるかもしれん。少し待っててくれ」
そう言って、塾長さんは観客席に戻っていった。
彼はノースリーブの少女と何度か言葉を交わした後、白い学ランを着た大柄の少年に話しかける。
『遊戯ィ……ッ、後で覚えていろ』
最後に怨念じみた呟きを残し、海馬くんからの通信は途絶えた。
……少々、調子に乗りすぎたかもしれない。
どんな報復があるのだろう、実験に付き合ったのだから許して貰えないだろうか、などと
赤いハチマキ。白い学ラン。大きなリーゼント。およそ少年らしくない少年は二つ返事で頷いた後、遊矢くんと同タイプのデュエルディスクを装着し、デュエルフィールドに出た。
「待たせたな。この男権現坂、僭越ながら遊勝塾の二番手を務めさせてもらう」
カツンと鉄下駄が床を鳴らす。同時に、一回戦とは違った空気が流れ始めた。
遊矢くんの時は、デュエルそのものを楽しもうとする空気だった。どんな結果であっても、最後に笑い合って“楽しかった”と言い合えたらそれでいいと。
だが彼――“権現坂昇”は違う。その目には、絶対に武藤遊戯を打ち負かすという覚悟が宿っている。
「権現坂くん、だね。君が塾長さんの言ってたシンクロ召喚の使い手なのかな?」
「……それは買い被りだ。確かに俺はシンクロを使うが、習得して間もない未熟者。ことシンクロに限っては、他の塾の
しかし、デュエルは召喚法だけで勝てるほど甘くはない。それは先程、貴殿が遊矢とのデュエルで証明してくれた。
だからこそ今度はこちらの番。シンクロだけではない、我が権現坂道場の掲げる“不動のデュエル”をお見せしよう」
「権現坂道場……? 君はここの生徒じゃないってこと?」
「確かに俺は遊勝塾の生徒ではない。だが、ここにきてそれは
俺は先程のデュエルを見て思ったのだ。融合・シンクロ・エクシーズ。これらの召喚法を使わずに遊矢を打ち負かした貴殿と、是非手合わせ願いたいと!
「……そうだね」
確かにそうだ、と頷く。
誤解は既に解けた。自分はもう道場破りではなく、従って彼らとデュエルする理由もない。海馬くんに言われた件だって、彼ら以外の
けれど。権現坂昇くんは、デュエルを望んでいる。
遊矢くんとのデュエルをその目で見て、今ここにいる
ならば、応えてあげるのが
「決まりだな。
――では行くぞ。手加減は無用。貴殿もそのつもりで頼む」
「勿論」
戦いの熱気が両者の間に満ちていく。
心地よい刺激と緊張感。期待と恐怖がバランスよく混ざり合い、精神が昂ぶる。
そこに、火を点けるような塾長さんの声が響いた。
「第二ステージはこれだ!
アクションフィールド、オン! 《
頭上の機械が激しく稼働を始め、再び世界が変わる。
中心に炎が生まれ、境界線を引くように地面を奔る。
熱のない炎が視界を覆い尽くし――次の瞬間には、灰色の荒野が広がっていた。
空は暗雲に覆われ、大地は枯れている。
生命という生命が死に絶え、代わりに無数の剣が墓標の如く突き立っていた。
「――――」
その景色に、しばらく圧倒されていた。
感傷はない。これはあくまでフィールド魔法。デュエルのために用意された舞台でしかない。
ただ、リアリティは凄まじいものだった。モデルになった世界があるのではないかと疑うほどに。
「《剣の墓場》、か。いい判断だ、塾長殿」
「どういうこと?」
「このアクションフィールドは俺がシンクロ召喚を習得するきっかけとなり、同時に初めて披露した場所でもあるのだ。
貴殿はシンクロ召喚を所望しているのだろう? ならば、これほど相応しい場所はない」
カツン、と鉄下駄が地面を踏む。同時に、ソリッドビジョンのデュエルディスクが展開された。
アクションデュエルが始まる。となれば当然、遊矢くんの時にもあったあれが――
「戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が!」
「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」
「フィールド内を駆け巡る!」
「見よ、これぞデュエルの最強進化系!」
「アクショーン――!」
「…………」
生憎、一回聞いただけで全部覚えられるほど自分は賢くない。
黙っていても口上を進めてくれるギャラリーの皆さんには感謝しかない。
「「デュエル!」」
◆
遊矢くんの時同様、上空にカードが出現し、弾ける。
同時に互いのライフポイントが表示され、デュエルがスタートした。
権現坂
LP:4000
遊戯
LP:4000
今回もまたアクションデュエル。こちらの世界では、通常のデュエルよりもアクションデュエルが主流なのかもしれない。
対戦相手・権現坂くんの全身を正視する。
身長こそ同じくらいだが、体格の差は火を見るより明らか。体力も遊矢くん以上だろう。
けれど、突破口は必ずある。ないなら作る。そう心に決めて、権現坂くんを見据えた。
「行くぞ! 俺のターン!
俺は《超重武者カゲボウ-
機械でできた虚無僧が召喚される。
「カゲボウ-
動かざること山の如し! 不動の姿、今見せん! 《超重武者ビッグベン-
虚無僧が消滅し、そのモンスター効果が適用される。権現坂くんのフィールドに巨大な武士が召喚された。
よく見るとこちらも機械だ。和風の鎧を模した橙の装甲。鋼でできた豪腕には、巨大な刺叉が握られている。
「守備力3500のモンスター……」
圧倒的な守備力を前にして、思わず呟く。
“不動のデュエル”。なるほど、これは確かに不動だろう。
動かざる壁。立ちはだかるモノノフ。それはさながら弁慶の如く。
「俺はこれでターンエンドだ!」
「じゃあ……行くよ、権現坂くん! ボクのターン!」
カードをドローし、手札に加える。
権現坂くんのフィールドには守備力3500のモンスター。これを突破するのは容易ではない。少なくとも、このターンでは倒すことはできない。
ただし、あれはあくまで壁。いくら数値が高かろうと所詮は守備力。こちらから攻撃しない限りは問題ない、ハズ。
「ボクは、《ベリー・マジシャン・ガール》を召喚!」
桃色の魔術衣装。口元にはおしゃぶり。
ようやく歩けるようになったばかりの、幼き魔術師を召喚する。
「そのような幼子で我が不動のデュエルに挑むと? この男権現坂、小手先の術で倒せるほどヤワではないぞ!」
「君を舐めているつもりはないよ。
《ベリー・マジシャン・ガール》の効果発動。このカードの召喚に成功した時、デッキから《マジシャン・ガール》を一体手札に加えることができる。
ボクはデッキから、このモンスターを手札に加える」
手札に加えたカードを公開する。
爽やかなグリーンの髪、小悪魔めいた魔術衣装を着た少女、《チョコ・マジシャン・ガール》。
とはいえ、今彼女に出番はない。これはあくまで手札の補充。
本命は――このカード。
「更にボクは《ベリー・マジシャン・ガール》の力を使って、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を特殊召喚!」
《ベリー・マジシャン・ガール》が風に包まれ霧散し、中から新たな魔術師を現れる。
銀色の髪をした温和な女性。女性らしく成長した四肢を包むのは、白を基調とした魔術衣装。《ブラック・マジシャン》とは対照的な白魔術師である。
彼女は白い杖を構え、冷徹な瞳で《ビッグベン-K》と相対する。
「サイレント・マジシャンの攻撃力は、自分の手札1枚につき500ポイントアップする。ボクの手札は5枚。よって、攻撃力は3500となる!」
「なるほど。先程、デッキからモンスターを加えたのはこのためか」
「そう。でも、それだけじゃないよ。サイレント・マジシャンは一ターンに一度、相手の
つまり、
「……どうやら、勘違いをしているようだな」
「え?」
「遊矢とのデュエルを経て
だが、その認識には一つ穴がある。先程申した通り、俺が掲げているのは“不動のデュエル”。その真髄は動かずして勝つこと。元より、
「
「その疑問にはデュエルで応えさせてもらう。ターンは終了か?」
「……ターンエンド」
「うむ。では行くぞ! 俺のターン!」
権現坂くんがカードをドローした瞬間、モンスターもかくやというほどの突風が起きた。
どれほど身体を鍛えればこんなものが起こせるのか、非力な自分では全く想像できない。元来カードゲームとは机でやるもの。デュエルディスクの登場によってその認識は覆されたが、身体能力を必要としない点は変わらない。
だが、このアクションデュエルという概念は、更に認識を覆した。身体能力が高い方が決定的に有利。体格の良い権現坂くんは、まさにアクションデュエル向きの
そのことは誰よりも本人が理解しているだろう。その上で彼は言ったのだ。
「俺は《超重武者ワカ-
巨大な双腕を持った青いボディの超重武者が召喚される。
「ワカ-
そして、また守備表示。
一ターン目に召喚された《超重武者ビッグベン-
何かを待っている……?
例えば《波動キャノン》のような、一度に大量のダメージを与える
いや、それは違うだろう。彼は守ろうとしているのではない。特殊な戦術を用意しているわけでもない。将棋の一手目で歩兵を動かすように、何も考えず、愚直に、普通に攻めようとしている。
「更に、手札から《超重武者装留グレート・ウォール》の効果発動! 自分フィールドの《超重武者》に装備することで、守備力を1200ポイントアップする!
俺はこれを、《超重武者ビッグベン-
権現坂くんはモンスターカードをさながら
巨大な緑の盾が出現し、ビッグベン-
驚異的な守備力、数値にして4700。《
「行くぞ、バトルだ!」
「バトル? でも、君のモンスターは全て守備表示のはず――」
「フッ――これこそがビッグベン-
行け、ビッグベン-
ビッグベン-
守備力を攻撃力として扱う――つまり、このビッグベン-
遊戯
LP:4000 → LP:2800
「くっ……だけど、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》は破壊された時、手札かデッキから《サイレント・マジシャン》モンスターを一体、召喚条件を無視して特殊召喚できる!
来い、《サイレント・マジシャン
細部――主に露出度――が異なる衣装を纏い、銀色の魔術師は再度降臨する。
こちらの攻撃力は常に3500。ビッグベン-
「ふぅ……驚いたよ。まさか守備表示のまま攻撃してくるなんて」
「これが我が権現坂道場の掲げる“不動のデュエル”。一歩も動くことなく、向かってくる敵を己の肉体のみで迎え撃つ。
故にこそ、俺は
「……そう。その理由は、訊いてもいいのかな?」
「無論。俺が“不動のデュエル”を貫くのは、それこそが最強であると信じているからだ」
権現坂くんの目に迷いはない。彼は嘘偽りなく、心の底からそれが最強だと信じている。
正直に言うと、彼の“不動のデュエル”はボクの考えとは正反対だ。強力なモンスターも結構だが、それを補助する
でも――“一念岩をも通す”という言葉もある。どんな思想であれ、強い信念をもって貫ければあらゆることを成し遂げられる。
理解できなくとも、彼の志は認めるべきだろう。でなければ、このデュエルには勝てない。
「もしやと思うが、相容れぬと考えているのか?」
「え?」
「隠す必要はない。先程の遊矢とのデュエルを見れば誰でも分かる。
状況に合わせてあらゆる
彼の指摘は、100パーセントと言い切ってもいいくらいに的中していた。
思いのほか慧眼らしい。とても遊矢くんと同い年とは思えない。
「……そうだね。ボクは君のデュエルを――“不動のデュエル”を肯定できない。だってボクのデュエルは、君のデュエルとは正反対にあるから」
「分かっているとも。同じ“不動のデュエル”でも、俺が目指すものと親父殿が目指すものは違う。デュエルの型は
だが、だからこそ良いのだ。肯定できない? むしろ望むところだ。俺には決してできないデュエルをここで見せてくれ。
――俺はこれでターンエンド! さあ、来い!」
「……分かったよ、権現坂くん。それじゃあ見せてあげるよ、ボクのデュエルを!
ボクのターン! ドロー!」
カードを引く。これで手札は6枚。
前のターンでは《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の攻撃力を維持するため伏せられなかったが、もうその必要はない。
「
ここでするべきは守りを固めること。
今の《超重武者ビッグベン-
だけど――“逆”ならば。
「仕込みは終わったようだな。
罠であることは分かっている。だがこの男権現坂、如何なる魔術をも打ち破ってみせる!
俺のターン、ドロー!
手札から《超重武者装留ダブル・ホーン》の効果を発動! このモンスターをビッグベン-
両肩に巨大な角を持つ鎧が出現する。
鎧は中心で二つに分かれ、挟み込むようにビッグベン-
「ダブル・ホーンを装備した《超重武者》は2回攻撃できる!
行け、ビッグベン-
刺叉、盾、鎧。重装備で身を固めたビッグベン-
しかし、それが直撃することはない。
「速攻魔法発動! 《ディメンション・マジック》!
自分フィールドのモンスターを一体墓地に送り、手札から魔法使い族を特殊召喚する!
《サイレント・マジシャン
沈黙の魔術師は風に包まれた後消失し、代わりの魔術師が前に立つ。
眩しい金の髪と、レモンをイメージさせる黄色の衣装。背中には天使のような白い羽根の装飾。
そんな女の子が、ちろりと赤い舌を出してウィンクする。
「ぬぅ――そのような
「違うよ。ボクの狙いはもう一体の方、《超重武者ワカ-
「なにっ!?」
「《ディメンション・マジック》の効果発動! 特殊召喚した後、相手モンスター一体を破壊する!」
《レモン・マジシャン・ガール》は空中から黄色の杖を出現させ、一発の光弾を放つ。
着弾し、爆発。狙い通り、《超重武者ワカ-
「ビッグベン-
「そんなに難しいことじゃないよ。ワカ-
「ほう。それはつまり、ビッグベン-
「それはまだ分からない。権現坂くんの対応次第だよ」
言葉の裏で挑発する。“不動のデュエル”の力を見せてみろ、と。
《超重武者装留ダブル・ホーン》を装備したビッグベン-
守備力4700の2回攻撃。対して《レモン・マジシャン・ガール》の攻撃力は800。彼女を守りきれなければボクの負けだ。
「――ふ。いいだろう。その挑発、買わせてもらう!
行け、ビッグベン-
ビッグベン-
しかしここで、マジシャンガールズ特有の効果が発動する!
「《レモン・マジシャン・ガール》の効果発動! 攻撃対象になった時、手札から効果を無効にして魔法使い族を特殊召喚する!
ボクは、《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚!」
黒魔術の弟子を喚ぶ。
青い衣装を纏った少女がレモンの前に立ち、戦闘を続行する。
「更に、攻撃してきたモンスターの攻撃力を半分にし、特殊召喚したモンスターと強制的にバトルさせる!」
レモンが光弾を放つ。
光弾はビッグベン-
「無駄だ!
忘れたか。ビッグベン-
故にこそ、いくら攻撃力を下げても無意味! 俺の不動の心は、その程度で揺らぎはせん!」
「――ううん。それは分かっているよ」
「なに……?」
そう、マジシャンガールズが半減させるのはあくまで攻撃力。守備力を使って攻撃してくる彼のモンスターには一切通用しない。
だからこそ、この
「
でもね。使わないのと使えないのとでは、天と地ほども違うんだ。
――
このカードは、フィールドに存在する全ての効果モンスターの攻守を入れ替える!」
「攻守を入れ替えるだと!?」
「ビッグベン-
迎え撃て、《ブラック・マジシャン・ガール》! 『
少女は青い杖を振るい、赤い球体を撃ち放った。球体は衝撃波を撥ね退け、そのままビッグベン-
ビッグベン-
権現坂
LP:4000 → LP:2800
権現坂くんのライフが減少する。
本来守備表示のモンスターを破壊しても戦闘ダメージは発生しないのだが、《超重武者》モンスターは別のようだ。
「くっ……グレートウォールの効果は攻撃対象にされた時のみ発動できる。攻撃を仕掛けたのはこちら側。破壊は免れなんだか。
――見事だ、武藤遊戯殿」
嫌味のない、純粋な賛美が向けられる。
それは相手の力を認め、同時に彼自身の至らなさを認めてのものだった。
「“使わないのと使えないのとでは、天と地ほどに違う”
確かにその通りだ。どうやら俺は無意識の内に、
だが、まだ勝負は分からん。このターン、俺にはまだ通常召喚が残っている。
手札からモンスターを裏守備表示で場に出し、ターンエンドだ」
「ボクのターン、ドロー!」
カードを引く。手札は2枚。
その中から、最初のターンで手札に加えたマジシャンガールを召喚する。
「ボクは、《チョコ・マジシャン・ガール》を攻撃表示で召喚!」
悪魔の翼の装飾、チョコレートを連想させる黒の衣装。少女は緑の髪を払った後、短めの杖を構えた。
権現坂くんのフィールドにはモンスターが1体のみ。
今こそ好機。バトルフェイズに移行し、命令を出す。
「バトル! まずは《ブラック・マジシャン・ガール》で守備モンスターを攻撃! 『
《超重武者》の守備力を警戒し、最も攻撃力の高い《ブラック・マジシャン・ガール》で攻撃を仕掛ける。
彼女は杖を振るって魔導弾を放ち、直後、裏側表示のカードを貫いた。
「この瞬間、《超重武者装留イワトオシ》の効果発動!
このカードがフィールドから墓地に送られた時、デッキからイワトオシ以外の《超重武者》を手札に加える!」
「まだボクの攻撃は残ってるよ! 《チョコ・マジシャン・ガール》、権現坂くんにダイレクトアタック!」
追撃の命令を下すと《チョコ・マジシャン・ガール》は黒い杖を振るい、一発の光弾を放った。
権現坂くんを守るモンスターはなく、故に、その攻撃は彼自身へ向かう。
――直撃。ライフダメージが発生する。
権現坂
LP:2800 → LP:1200
「くっ……効いたぞ。だがダメージを受けたことにより、手札の《超重武者ココロガマ-
現れろ! 《超重武者ココロガマ-
「っ――!」
ダメージが与えた直後、刺叉を手にした緑の《超重武者》が立ちはだかった。
守備力は2100。一人一人の攻撃力が低いマジシャンガール達では突破できない。
……これが《マジシャン・ガール》の弱点だ。
搦め手に特化している分、純粋な攻撃力が低い。守備力2000を超える壁モンスターを召喚されただけで攻めきれなくなる。
彼はそれを見切って、イワトオシの効果でこれを手札に加えたのか。
「……このターンのバトルフェイズを終了するよ。
《レモン・マジシャン・ガール》を守備表示に変更して、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー!」
権現坂くんはカードを引き、そして――
「――来たか」
――ニヤリ、と笑った。
「武藤遊戯殿。ビッグベン-
だが、本当の勝負はここからだ。ここからは俺が手に入れた、新たな“不動のデュエル”をお見せしよう。
俺は手札から《超重武者ビッグワラ-
権現坂くんのフィールドに金色の《超重武者》が召喚される。
しかし、これまで登場したそれらとは明らかに違っていた。
武器がない。足がない。ステータスこそあるものの、外見的には戦いに向いているとは思えない。
「更に、手札から《超重武者ホラガ-
続いて召喚されたのは、法螺貝の笛を持つ小さな武者。
確か法螺貝は戦国時代において、軍の進退の際に使われた笛だ。ここぞというタイミングを見極め、笛を吹く。同時に、自軍の武士達が突撃する。
権現坂くんがこれを召喚したのは、つまり、そういうことだろう。
――シンクロ召喚。
融合召喚ならば《融合》を。儀式召喚ならば《儀式魔法》を。
この基準がシンクロ召喚にも適用されるのならば、この法螺貝のモンスターこそ鍵。
「行くぞ!
レベル3のココロガマ-
「チューニング!?」
法螺貝の音が鳴り響き、笛を持った武者が二つの光輪に変換された。
その中心を、2体の《超重武者》が突き抜ける。
「荒ぶる神よ! 千の刃の咆哮と共に、砂塵渦巻く
シンクロ召喚! いざ出陣! レベル10、《超重荒神スサノ-
――そうして、彼の切り札は現れた。
《超重荒神スサノ-
……これがシンクロ召喚というものか。
レベル3、レベル5、レベル2。合計レベルは10。
素材となるモンスター達のレベルを合計し、条件にあったモンスターをエクストラデッキから召喚する――。
「スサノ-
俺は貴殿の墓地から
「なっ――!」
権現坂くんのフィールドに、一枚の
――《
これでもう攻守反転の奇策は通じない。《マジシャン・ガール》の連携は完全に封じられてしまった。
“相手のカードを奪う”。見た目の豪胆さに対して、能力は非常にトリッキーだ。確かにこれは新しい“不動のデュエル”と言えるかもしれない。
だが、従来の力強さが失われたわけでもない。守備力3800、ビッグベン-
「スサノ-
バトルだ! 《超重荒神スサノ-
薙刀による一閃。
豪快にして正確無比な刃は、瞬時に、息つく間もなく《ブラック・マジシャン・ガール》を捉えた。
剣戟を受けた少女は悲鳴と共に、硝子片となって散っていった。
遊戯
LP:2800 → LP:700
「ターンエンドだ。
どうだ。これがシンクロによって進化した我が“不動のデュエル”。貴殿が如何程の
「いや。それはまだ分からないよ」
巨山の如くそびえる武者を睨む。
手札は一枚。フィールドには《マジシャン・ガール》が2体。彼が操る《超重武者》は守備力を使って攻撃を行うため、彼女達の能力は意味を成さない。
今の自分にあれを倒す手立てはない。
そう――“今”の自分には。
「ボクのターン! ドロー!」
引いたのは魔法使い族、《ブラック・マジシャン》。
……違う。これじゃない。
エースモンスターではあるけれど、この状況を打破できるカードではない。
「ボクは、《チョコ・マジシャン・ガール》の効果を発動! 手札の魔法使い族を1体墓地に送り、デッキから一枚ドローする!」
《ブラック・マジシャン》を墓地へ送り、再びカードを引く。
――それでも駄目だった。
キーカードを引き当てることができない。
……仕方ない、ここは耐えるのみだ。魔術師達の力を信じて、チャンスを待つ。
「《チョコ・マジシャン・ガール》を守備表示に変更して、ターンエンド」
「万策尽きたようだな。このまま一気に決めさせてもらう! 俺のターン!
俺は《超重武者テン
権現坂くんはドローしたカードを確認し、それをそのまま召喚した。
二つのたらいを天秤のように担ぐ武者。装甲はココロガマ-
「《テン
これにより、《超重武者ホラガ-
片方のたらいから、1体のモンスターが現れる。
法螺貝を持つ武者。先程、《超重荒神スサノ-
ならば彼の狙いは、二度目のシンクロ召喚か――!
「レベル4の《超重武者テン
雄叫び上げよ、神々しき鬼よ! 見参せよ、砂塵渦巻く
シンクロ召喚! いざ出陣! レベル6、《超重神鬼シュテンドウ-
《超重荒神スサノ-
装甲は赤。巨大な金棒を地面に打ち付け胡座をかく様子は、赤鬼と称するに相応しい。
「これが、二体目のシンクロモンスター……!」
守備力2500と3800。《超重武者》の場合は、これがそのまま攻撃力となる。
見たことがないモンスター。見たことがない召喚法。
気分が高揚する。危機的状況ではあるが、だからこそ。
だからこそ、楽しい。
だからこそ、胸が躍るのだ。
敵が強大であればあるほど、それを突破した時のカタルシスはより大きくなる。
「バトルだ!
まずはシュテンドウ-
「攻撃対象になったこの瞬間、《チョコ・マジシャン・ガール》の効果を発動! 墓地から魔法使い族モンスターを特殊召喚し、攻撃対象を移し替える! その際、攻撃する相手モンスターの攻撃力は半分になる!」
「だが、シュテンドウ-
「だけど、攻撃対象は変えられる。
ボクは墓地から《ベリー・マジシャン・ガール》を攻撃表示で特殊召喚し、シュテンドウ-
「攻撃表示だと!?」
《チョコ・マジシャン・ガール》が杖を振るった瞬間、何もなかった空間に《ベリー・マジシャン・ガール》が出現する。
この瞬間、攻撃対象は変更される。
「そして、《ベリー・マジシャン・ガール》の効果発動! このカードが攻撃対象になった時、自身の表示形式を変更して、デッキから《マジシャン・ガール》を喚ぶことができる!
これにより、《アップル・マジシャン・ガール》を守備表示で特殊召喚!」
ベリー、レモン、チョコに続いて、4人目の《マジシャン・ガール》を喚ぶ。
漆のように黒い髪、林檎のように赤い衣装。背中にはレモン同様の翼の装飾。ただし、こちらは杖を持たない。その代わり、衣装の腕部分が篭手のように太くなっている。
《ベリー・マジシャン・ガール》の効果はここまで。他の《マジシャン・ガール》のように攻撃対象を変更したり、攻撃力を半減させたりする効果はない。
シュテンドウ-
「上手く躱したか。だがこちらには、まだスサノ-
スサノ-
再度、薙刀が振るわれる。
《チョコ・マジシャン・ガール》の効果は一ターンに一度しか発動できない。彼女はスサノ-
……徐々に追い詰められつつある。
残っているのは《アップル・マジシャン・ガール》と《レモン・マジシャン・ガール》の2体。どちらも攻撃対象になった時、手札から代わりの魔法使い族を特殊召喚し、バトルさせる効果を持つ。
――だから、ここが限界。
手札は2枚あるけど、どちらも魔法使い族ではない。
権現坂くんのフィールドには攻守の値を入れ替える《
次のターン、2体のシンクロモンスターで《マジシャン・ガール》達を退け、攻撃力か守備力が1000以上のモンスターで攻撃されれば、ボクの負け。
付け加えると、彼は
実質次が、自分にとってのラストターンとなる。
「俺はこれでターンエンドだ」
「ボクのターン――ドロー!」
――終わりの時は来た。
引いたのは待ち望んでいたカード。
全てを壊す。全てを破壊する。
これは、そんな攻撃性の塊のようなカードだ。
「ボクは2体の魔術師の力を使い、このモンスターを召喚する!
現れろ! 《破滅竜ガンドラ
《マジシャン・ガール》達を贄として、漆黒の竜が降臨する。
強靭な肉体と、禍々しい紅い瞳。全身には幾つもの光点があり、
「な……なんだ、これは」
権現坂くんが後ずさりする。
風向きの変化を感じた。一方的だった空気の流れは、1体の竜の出現により逆流する。
――竜に命令を下す。破壊せよ、と。
「ガンドラ
このカード以外のモンスターを全て破壊し、その中で最も攻撃力が高いモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」
「なんだと……!?」
「スサノ-
行け、ガンドラ
胸部の紅のコアが輝いた後、黒竜は曇天を仰ぎ咆哮した。
熱線が放たれる。全身の光点一つ一つから無差別に、理不尽に、破滅が撒き散らされた。
スサノ-
「うおおおああぁぁぁ――――!!!」
権現坂
LP:1200 → LP:0
――決着する。勝者、武藤遊戯。
権現坂くんがこのまま押し切る――誰もがそう予想したであろう展開を一枚で覆し、勝利をもぎ取った。
今回やりたかったことは、
①デュエル前にとあるフラグを立てる。
②遊戯がアクションデュエルに対応する。
③マジシャン・ガールで《超重武者》を倒す。
④権現坂がシンクロ召喚をする。
⑤最後にガンドラ
《マジシャン・ガール》が以外と固くて構成に苦戦しました。