戯れた、戯れた   作:星の屑鉄

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 今回は物語がそれなりに進む回となっております。
 文章量が比較的多いので、ドライフルーツを召し上がりながらお読みください。




決まったね、じゃあ行こう

 とんでもない。酷すぎる。

 出逢った矢先に血塗れだ。

 ズタズタにやられて意識ない。

 

 およそ誰がやったか予想の出来る僕は。

 責任感じて付きっきり。

 

 おっと、意識戻って気がついた。

 僕は何者誰かって?

 何、僕はただの、キミの同類さ。

 一緒に旅でもしてみよう。

 

 

 

 ドドンとドドンと聳え立つ。

 キミの大きさ規格外。

 山が動きゃ馬鹿でも気づく。

 

 およそ無い知恵絞って頭を捻り。

 彼を小さく人間に。

 

 おっと、文句は後で言ってくれ。

 またまた見つかるのは嫌だろう?

 何、威厳もへったくれも無いなんて、キミはとんだ我儘小僧だ。

 さっさと先に進もうか。

 

 

 

 また逢うまた遭うまた会った。

 キミは未だに臭い臭い。

 そんだけ臭けりゃ良薬だ。

 

 およそ傷の治らぬ彼の為。

 僕はドラ息子に頭を下げる。

 

 おっと、頭を下げるな友人よ。

 君と私の仲だろう?

 何、筋が通らないなんて、君はとんでもない頑固者だ。

 早くこの薬を塗り給え。

 

 

 

 ルンルン韻を踏んでいく。

 小僧のキミもやってみて。

 心は軽く体が弾み顔はとっても穏やかだ。

 

 およそ後先見えぬ愚かな僕は。

 小僧と一緒に踊り狂う。

 

 おっと、何だいこの矢は危ないな。

 一体誰がやったんだい?

 何、ソラからここまで届くとは、とんでもない神様だ。

 ありがと蛇くん。今度月まで旅行しよう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 全く、こんな無様な姿を晒すとは、いよいよ私も幕引きか。

 スサノオの乱暴者に体をズタズタに切り裂かれ、尾に隠していた秘蔵の逸品まで盗まれた。

 ただ嫁を娶ろうと、ちょっと強欲に女を求めただけで、こんな始末とは我が事ながら失笑ものだ。

 

 私の山もかくやと言われるほどの巨体は、無様に地に臥せている。差し詰め、突然緩やかな傾斜の丘が視界の先まで現れた、といったところか。

 

 自信満々に酒を飲んで、それに呑まれるなど、本当に格好がつかない。

 

 蛇としての性と言い訳をしてみたいが、すれば私が余計に惨めになるだけだ。

 願わくば、子孫だけでも残したかったものではあるが、最後にあのような益荒男と立ち会えただけでも贅沢なものだと、納得することにしよう。

 

 いくら化け物の私でも、死に際くらいは、綺麗に取り繕いたいものなのだ。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

 ……何故だ?

 私は意識を手放した。あの傷ならば、この大地を私の血で染めていた筈だ。もはや死んでいた筈だ。

 それにも関わらず、更に不思議なことに、痛みが和らいだ。無くなったのではなく、和らいだのだ。

 

 痛みは、即ち私が生きている証拠だ。

 一体誰が、目を開けて見てみれば、そこには豆粒のように小さな幼い男が、私を献身的に介護する姿があった。

 

 私は思わず問うた。何者だ、誰だ、と。

 小さな男は答えた。同類だ、と。

 

 その上で、一緒に旅をしようなどと、命知らずなことを言ってきた。

 

 ……まぁ、良いだろう。

 私は怪物だが、恩を仇で返すほど腐ったわけではない。

 命救われた身として、それくらいの願いは聞き入れよう。

 どうしようもなくか弱い存在の男、貴様の用心棒くらいの役割は果たしてやろう。

 

 まったく、この男もこの男ならば、私も私だ。

 この私が焼きを回すなど、世も末とはまさにこのことだ。

 

 私は心の中で自嘲した。

 

 

 

 さて、動けるほどには回復した。貴様の言う通り、旅に出るとしよう。

 何、私の大きさが規格外? 化け物なのだ。それくらいは気にするな。

 

 山が動けば馬鹿でも気づく、か。褒めているのか、私の浅はかさを戒めているのか、貴様はどっちなんだ。

 

 ……いや、そこまで真剣に考えるものなのか。

 そもそも、私は力を持つ化け物ではあるが、術に対しての心得は無い。こればかりはどうにもならん。

 

 ……ん? いや、何だその怪しい呪は。

 待て、待て、待て!

 私の視点がどんどん低くなっている! これは私が縮んでいるのか。一体どうやったんだ、貴様は!?

 

 怒鳴り散らすも、結局私は成人男性程度の大きさになってしまった。

 それも、蛇の姿ではない。紛れも無い、人間の男としての姿形となってしまった。

 

 いや、どうしてこの姿にした?

 あぁ、力に影響はない。それは問題無い。だが、質量は話が別だ。これでは木っ端の塵芥共が群がって鬱陶しいことこの上ない!

 

 また見つかるのは嫌だろう?

 そんなのは当たり前だ。今度はスサノオの乱暴者だけでなく、アマテラスやらイザナギやらが出ても不思議ではない。少なくとも、私はそれほどの力を有している自負がある。

 

 しかし、これでは最大の怪物として恐れられた威厳もへったくれもあったものではない。

 ……私が、我儘小僧、だと?

 貴様、未だ幼子のような姿形をして、この私を小僧と呼ぶのか?

 

 くっ、くくっ……ここまで虚仮にされたことは、未だかつてない。

 良いだろう、その喧嘩、この私が買ってやろう!

 

 ……あっ、待て!

 口上決めてる最中に、勝手に先に行くんじゃない!

 まったく、何て自分勝手で気ままな男だ!

 

 私と名前も分からぬ幼い男との旅は、こんな風に慌しく始まった。

 本当に、愉快な話だと思う。

 

 

 

 御大(みほ)の御崎にそいつは居た。

 小人の神だ。正確には、小人の姿をした神だ。鼻につくこの臭いは、薬草の臭いが染みついて、ぐちゃぐちゃに混ざり合った時の混沌としたものだ。

 

 私の傷は未だに癒えていない。動けるほどではあるのだが、潮風に当たれば傷口に染みるし、何かが当たれば電流の如き痛みが走る。

 

 それにしても、どうしてこの神は此処で、私たちを待っていた?

 偶然、というわけではなさそうだ。旅先の連れ子ともいえる仲間の男、まだ名前も知らぬ命の恩人がそいつに聞いてみれば、何でもオオクニヌシを待つついでに、困っていそうな友人である私の恩人の相談に乗りに来た、という。

 

 何とも奇怪な奴だ。姿形は変われども、私はこの世最大の化け物と自負している。この体からでも、放たれる力は中てられた木っ端共を発狂させ、神でさえも恐怖を抱かせるに十分なほどに強い。

 それにも関わらず、脆弱な小人の姿の神は、まるで私が存在していないかのように平然としている。

 

 恩人は神に頭を下げた。どうか傷の治らない彼の為の薬をください、と。

 まさか、頭を下げて薬を求めるほど大切にされているとは、私自身が思っていなかったから、こればっかりは命を助けられた時よりも驚いて、ただただ呆然としてしまった。

 

 何、筋が通らないなんて、とんでもない頑固者だ。

 そんな神の声と共に、私の意識は覚醒した。呆然から脱した。気が付けば、神は私をただじっと見つめていた。

 私を認知したというのに、遠慮無用にジロジロ見つめて、肩を竦めて溜息を吐いてみせた。

 

 早くこの薬を塗り給え、と神は私に塗り薬の入った容器を渡してきた。

 既に頭を上げた恩人に目配せすると、頷いて返された。私は容器の蓋を取り外し、中の薬を傷に塗りたくる。

 その神の大きさのせいか、薬は傷口全てに塗ると無くなってしまったが、塗った矢先から私の傷口がみるみる塞がって、更には嘘みたいに痛みが消えるのだから、凄まじい良薬であることに違いない。

 

 ……まぁ、その後、全身臭いと恩人に距離を取られたが、それも含めて、伊達に神と称されるわけではないものだと、私はしみじみと思った。

 

 

 

 今日の恩人は極めて機嫌が良い。

 鼻歌を口ずさみながら、謎の踊りを惜しげもなく披露している。

 こんな私を踊りに誘ってきた。芸術の「げ」の字も解さぬ私を、だ。誘われたことは嬉しいが、しかし、その小僧呼ばわりはどうにかならないものか。

 

 まぁ、それでも恩人の誘いを無碍にするのも私の道理に反する。

 ならば少しは踊ろうか。

 しかし、今が楽しければそれでいい、なんて考えていそうな恩人は、一体どれほど歳をくっているのだろうか。私を小僧呼ばわりしたことといい、あの神と友人であることといい、人のことは言えないが、色々と規格外だ。

 

 ……そう言えば。

 そもそも、私は恩人の種族か何かさえ、未だはっきりと理解していない。

 てっきり、最初は命知らずの人間かと思っていたが、そもそもこんな幼子が私を助け、私を小僧呼ばわりして、更には神との交流があるなんて、とんだ笑い話だ。

 

 ならば、必然人外という答えが出てくるものだ。

 さて、さて、この恩人の正体とは一体、何なのだろうか。

 

 ……いや、ちょっと待て。

 今考えれば、なんだ、恩人の異形は? 左足の関節は逆。右手の中指は無く、左手にそれが追加されたような姿形。

 今、恩人は踊っているわけだが、その時折、軟体動物のような動きを見せる。

 

 不味い、すっかり私は、化け物の観点から恩人を見てしまっていた。

 それに、あの神のことをドラ息子と、私の事を同類と……。

 着ている服は、赤子が身に着ける様な小さな布だ。僅かばかり、神力を感じる。

 

 つまり……嗚呼、そういうことか。

 

 わかったぞ、貴様の正体が。

 八百万と呼ばれる神々の中でも、この条件に当てはまる者は、貴様しかいない。

 いや、そもそも貴様は八百万とは無縁の番外か?

 

 どちらにしても、私にとっては関係ない。

 恩人よ、貴様は真に私の仲間だ。友だ。そして恩人だ。

 末代まで、貴様とは良き友であるようにと、口酸っぱく、子が出来たら言っておこう。

 

 さて、ならば私ももう少し、激しく踊るとしようではないか。

 ……いや、その前に。

 恩人を傷つける不埒者には、裁きを!

 

 私は恩人に向かってきた矢を掴み、その拳を大地に叩きつけた。衝撃に耐えられぬ矢は半ばから圧し折れ、大地は蜘蛛の巣状に砕け散る。

 成人男性四人分ほどの深さの大穴が、私を中心に作られた。まったく、何処の不埒者なのか。

 

 恩人にその矢を見せてみれば、天を見上げて楽しそうに笑っていた。

 

 ソラからここまで届くとは、とんでもない神様だ。

 恩人は確かにそう言った。どうやら、何処から飛んできたか、そして矢を見ただけで、恩人は何者の仕業か理解したらしい。

 ……存外、頭が回るみたいだ。

 

 それに、礼を言われるほどではない。借りを返しただけだ。

 あと、小僧から蛇くんって、呼び方は変わったが……そのどうにも締まらない気の抜ける呼び方はどうにかならないのか? ならないのだろうな。

 

 何、月まで旅行をしようと?

 なるほど、私も理解した。月でもここまで弓矢を届ける存在は唯一無二。八意オモイカネだ。

 

 それは、それは、とても面白い提案だ。

 しかし、いくら乱暴者のスサノオが居ないと言っても、向こうは最高の頭脳がある。ツクヨミも、スサノオほどではないにしても、警戒はしなければならない。

 だから、まずは木っ端共をその気にさせて、月に一当てするとしよう。

 

 混乱に乗じて、私たちが八意オモイカネを叩けばいい。

 当然、そんなことをすれば今度はアマテラスが黙ってはいないだろうが、三貴子といっても、単騎ならば負けはしない。

 

 ……さて。

 まずは木っ端を珠に磨き上げるところから始めようか。

 だからその前に、まずは山の木っ端共から選別をしよう。

 

 心配することはない。山の1つでも占拠してやればいい。

 どの山にするかというのは……まぁ、見て回ってから決めるとしよう。

 

 方針も決まった。楽しく、面白おかしく、気楽に、これから歩みを進めていこうか。

 

 

 

 




 New!月に行くフラグが立ちました。
 New!八意さんがロックオンされました。
 New!妖怪を片っ端から選別する作業を開始しました。
 New!蛇くんがオリ主の正体に気が付きました。
 New!スサノオ怖い((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

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