大召喚祭-辰の大魔導士の一番弟子と受け継がれる遺志- 【六野】   作:Game Holic

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闇を孕む計画

 外で待機していたモーデルと一同が合流し、魔法院に引き返す頃には、既に建物全体を騎士団によって包囲為れて居た。とは謂いつつも、攻撃を為る心算は無い様で、エイボン達が戻って来たのを目に為ても牽制為る事は無い。裏口から入り、一同は逃げ支度を整え乍ら、頭を悩ませていた。

 この魔法院には、帝国の人間で在る魔法使いも多く、祖国や家族、財産を容易く棄てられる状況ではない者が殆どであった。其の為、魔法使い同士で意見は大いに割れた。然し、追手が何時まで待っても来ない事から、如何やら此方の処分は保留状態なのだろう。

 「此の国がこの様な状態では、動くことも儘ならぬ。今は機を窺うとしよう」

 ライアルフの提案により、魔法使い達は一時的に分散して隠れる事となった。

 それから事が大きく動いたのは、二日後の事である。その間に判った事と云えば、皇帝は魔法院に対し罰を与えない様だった。現状、魔法院の立場悪く為り、施設の周囲を騎士団が固め拘束している状態である。帝国内の民の間では、魔法院に居た魔術師達は御政道に触れる研究を為たのだ、と云う不穏な噂が実しやかに囁かれていた。一方で、帝国の新たな顧問魔術師と為て、件の黒い導師が選ばれた。彼と、彼が引き連れていた居た四人の弟子に依り、思念の具現体騎士団が作られ、思念獣の兵士や魔物達が軍隊とて編成されて行くらしい。

 「まあ、当たり前と云えば当たり前ですかね」

 隠れ家の一室で、持ちよった情報を整理していたアリエスが、溜息と共に現状を憂う声を発した。

 「実際は皇家の失態……だからと言って、それをそのまま国民へ伝える訳にはいかない。皇帝の面子を保つには、人柱が必要。……今回は我々と云う事でしょうか」

 「まったく、嫌な空気だ。っと、お客さんだぞ」

 窓の外を眺めながら話を聞いていたルディが、詰まらなそうに鼻を鳴らしながら、眼下に見えた来客の存在を告げる。

 遣ってきたのは、ゴーバッシュだった。酷く憤慨した様子で、普段の紳士然と為た様子が見る影も無く、乱暴にソファへと腰を下ろす。

 「帝室魔法顧問は信じられん計画をぶち撒けたぞ」

 怒りに任せるような語気に、ソファの脚が細く悲鳴を上げるも、それを無視しながらゴーバッシュは分厚い胸板の前で両腕を組んだ。彼の周りに集まった一同は、何事だという様に様子を窺う。アリエスの差し出した冷えた紅茶を一気に飲み干すと、ゴーバッシュは潤いを得た声で話を続けた。

 「帝国内部に存在する“悪”を具現化し、其れを自壊為せる事で、帝国を“善”の国に為ようと云うのだ」

 「馬鹿らしい計画ですね。……だが、それが実行に移されつつあると」

 「能く許したな、そんなすげえ計画」

 窓に背を預けていたルディが呆れたように嘆息し、呆気にとられた様な顔でデュマが問うと、ゴーバッシュは苦虫を噛み潰した顔で忌々しそうに頷いた。

 「……件の顧問は口が巧くてな。言い方を変えて居ったのだ」

 その時の光景を思い出したのだろう、ゴーバッシュが苦々しく吐き捨てる。

 「『欲望の無理の無い有効活用と総括術。此れは政治の本質で在る』とか何とかで、丸め込んだのだ。皇帝陛下も自信が幾らか在るからこそ、ある程度の管理は出来る様に為たいと思っていらっしゃるのだろう」

 言葉を切ったゴーバッシュの表情は、酷く重い物であった。

 「まあ、魔導師自身も、其の具現化させた“悪”を上手く御する自信があるからこその提案なんだろうな。魔神を同時に複数体呼び出す技量を持ち合わせていたし」

 対面のソファで師と共に話を聞いていたエイボンが、考え込む様に木苺色の瞳を伏せる。

 「後は……何だかんだと強がっていても、守りの剣を封印させられていると云う弱みもある。下手に逆らいきれないっていうのもあるんじゃないかな」

 本来、蛮族への最大の盾である守りの剣が無いとなると、其れは国を揺るがす一大事である。皇帝と国への不安に揺れるゴーバッシュを、落ち着ける様にエイボンが静かに言葉を紡ぐ。その言葉を継ぐ様に、隣の師が口を開いた。

 「其れは実に由々しき事。皇帝殿は御気付きではないのだろうが、此の世の悪を具現化為ると云う事は、大いなる邪神の召喚と等しき行為。……然様な物が呼ばれて仕舞えば、此の歴史から帝国は消え去るじゃろう」

 星の様に光る青い瞳を曇らせ乍ら、ライアルフは白い髭を思案気に撫でつける。ゴーバッシュにより齎された計画の行く先に、其々が苦い顔へと変わる。

 「人の欲望とは飽くなきもの……其の膨大なエネルギーの矛先が、国の消滅とは笑えませんね」

 「抑々、悪意を取ったから善意だけが残るとも限らないだろうに……」

 ゴーバッシュの空になったカップに新しい紅茶を注ぎながら、アリエスは吐息の様な細い溜息を吐きながら皮肉気な冷笑を浮かべ、窓へと凭れ帝都の街並みを眺めるルディは、隠そうともしない溜息をついた。

 「……若しかすると、其の“悪の具現化”を実現させる為に、守りの剣を封じたのか?何が出てくるかは解らないけれど、邪悪な存在と云うなら穢れも持って居そうなものだし」

 未だ考え込む様にエイボンが現状を冷静に分析していく。其の声を是と為る様に、ライアルフは頷き、窓の向こう側へと、蒼い眼を向ける。

 「皇帝の力に為らねば為らぬ。彼には魔法の理解が在らせられぬが、此の問題には魔法の力が必要不可欠じゃ」

 静かに、毅然とした声が部屋に響く。

 「然し、我々が独断で解決為る事は、必ずしも正しいとは言えぬ。皇帝直々に、事の顛末を理解し、解決を打診為る可きなのだよ」

 動かねばならぬ、とライアルフは告げる。

 「あの!」

 その静かな声を止める様に、部屋の隅で小さくなっていたユリアンが声を上げた。その身体は、微かに震えていた。

 「……その、僕……怖いんです。又、襲われたり為るんじゃないかって……。だから、済みません」

 一斉に集まった視線から逃げるように、ユリアンは小さな声で早口に告げると、ライアルフとゴーバッシュへ頭を下げ、奥の方へと急ぎ足で引っ込んでいく。

 「俺もパス。彼奴の事、嫌いになっちゃったし。手を貸すのも気が向かねえんだわ。今は少なくともな」

 道化染みた仕草で、デュマが肩を竦め乍ら告げる。其の声には、明らかな失望の色があった。

 「先生とか、皆には悪いけど、俺は留守番為せて貰うわ」

 そう言うが早いか、デュマは軽く右手を挙げてユリアンが立ち去った方向と真逆へと歩き去る。

 「あー、まあ。私は先生とかに着いて行くぜ」

 二人の様子に大袈裟に首を傾けて見せたのはモニーク。

 「私も、兄弟子殿と師匠殿に是非ともお付き合い致しましょうぞ」

 意気込んで見せたのは、ハームートである。

 「好きも嫌いも、立ち向かうかも自由だ。でも、手を打たないと最悪帝国が滅びるかもしれない。……となれば、行かない訳には行かないよな」

 行かないという前提は無いと、力のこもる瞳でエイボンが頷いた。

 「俺もまあ、微力ながら。……多少は力になれると思う」

 控えめに言葉にするのはルディ。

 「……ルディが行くのならば、私も共に行くまでです」

 同行するのが当然という顔で、アリエスも頷く。過保護だなという視線と、なんとでもという視線が一瞬交わる。

 「……守る事が我の務め。何処までも着いて行こう。例え地獄で在ろうと」

 今まで事態を静観し続けていた、鎧の騎士、モーデルが重々しく声を発した。

 「私は、友人、仲間を守りたいだけだがな」

 其々の言葉に、深くゴーバッシュが頭を下げる。本来ならば、臣下たる己が諫めなければならない立場に彼等を巻き込む事に、懺悔の色を濃くしながら、その顔をあげた。

 「済まないが、宜しく頼む。出立は夜に致そう。目立たぬ様にしなければ」

 その言葉に、一同は決意の籠る眼差しで頷いた。

 

 

 「然し、モーデルが来てくれるなら、戦力的にもだいぶ安定するな。助かるよ」

 部屋で準備を進めながら、エイボンはモーデルの広い背中を見る。

 「そうだな。よかったな、ルディ」

 モニークは、茶化すようにその近くにいたルディを見やる。

 「ああ。……本当にな」

 先の戦闘では危うく血達磨に為りかけたルディは、嘆息しながらも頷いた。モニーク程のタフさも技量も持ち合わせていないのは自覚済みであり、盾役として優秀なモーデルが居るのと居ないのとでは、戦況に大きく差が出るのは百も承知済みである。

 「……ルディが斃れる事が少なるのは在り難い事です」

 まったくだと言わんばかりの顔でアリエスが頷く。

 「悪かったな」

 「いつも心配するこっちの身にもなってください」

 「好きで怪我してる訳じゃない」

 重ねて言われた言葉に、ルディが拗ねたような顔で、嘆息しきりのアリエスを見やった。そんな二人の様子を生ぬるい笑みでモニークが見やる。更に言葉を重ねようとルディが口を開きかけたところで、好々爺然とした笑い声が部屋に響いた。

 「ほっほ。若さは金では買得ぬ、掛替えのない賜物で御座いますなあ」

 アリエスとルディを眺めて、ハームートは笑い声を転がした。

 「…………」

 「…………」

 その笑みで周りの空気を察し、気まずい顔で黙り込んだアリエスと、頭を掻いて窓の外に視線を外すルディ。

 「い、行きましょう」

 空気に耐えられず、顔を赤らめながらアリエスが出発を促す。

 「出立は夜だぞ」

 水温35℃くらいの微笑みをモニークが浮かべる。時計は未だ夕刻を指していた。

 「ぐ……」

 「ほっほっほ」

 何とも言えない空気に、響くハームートの笑い声。アリエスは更に顔を赤くさせた。

 「何、何時も通りの雰囲気で行ける事は良い事さ」

 その様子に思わず吹き出しながら、エイボンが話を締めくくり、一同は準備を再開した。

 

 

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