大召喚祭-辰の大魔導士の一番弟子と受け継がれる遺志- 【六野】   作:Game Holic

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砂上の安寧

 

 薄く雲の張る空は、窓辺に柔らかな光を落とす。本を読むには丁度良い、穏やかな灯りと、遠くで聞こえる賑やかな声。デュマは未だに具現化魔法の習得に躍起で、時折奇妙な、生き物と言って良いのかも分からない冒涜的な物体を作り出しては悲鳴を上げている。ユリアンはと云えば、真面目な勉強家らしく本を周囲に積んで、ノートと向き合っていた。カシュカーンでもルキスラでも働き詰めで有り、大魔導士と為て多くの弟子を持つライアルフは、凡そ其の尊厳とは無縁な“余暇”を楽しんでいた。窓辺に腰を掛け、魔導書を眺めては、緩慢に其の擦り切れた頁を捲って行く。

 そんな具現化魔法使い達の居る新設魔法院は、帝国の一角に在った。王宮とは距離があり、周囲には一般の家屋等も立ち並んでいる。其の中で、広大な敷地を有し、中央の聳える様な建物がが学舎だ。寮の様な物は無いが、此処で暮らす事も出来る。

 帝国から目を付けられて居るものの、大規模な統制や管理は行われていない。ゴーバッシュ曰く、黒の導師と騎士団がお互いに信頼為て居ないと云うのが理由の一つらしく、政府も一枚岩では無い事が露呈した。又、表向き“皇帝”は黒の導師を尊重為ているが、英霊を無視し勝ちな導師を牽制出来る様に、此処の取り潰しに待ったを掛けているのだとか。其れ故の、箱庭の中で許された安寧。ライアルフ達は一時の平穏を手に入れていた。

 其の内情を知ってか知らずか、魔法院に在籍する弟子達は、自分達の魔法を試す為、日々様々な練習をしていた。植木鉢を持った女の魔法使いは、呪文を唱えれば咲き乱れる花を具現化し、貴族風の男は高価そうな骨董品を出して満足げに眺めている。其の中でも取り分け燥いだ様な声を上げるのは、薄黄色のローブを纏う老人。

 「御覧なさい、私も斯様に攻撃力の高い物が召喚出来る様に為りましたぞ!」

 意気揚々と、ハームートは大量の金貨、金の延べ棒、黄金象ハームート等を出していく。

 「ブレ無いな、ハームートの爺さんは」

 「全くだ」

 魔法と云えば魔動機術を齧っている程度のルディはと、神聖魔法の覚えのあるモーデルは、感心した様な、呆れた様な声を上げた。

 そんな目に眩しい光景が繰り広げられている庭の一角、大きな枝を広げた樹の下で、ライアルフの弟子達とアリエスは、小難しそうに本を開き、文面を睨んでは議論を繰り広げて居た。

 「……うーん、此の魔法が有れば、武器と防具が手元に無くても、何時でも装備出来るようになるな」

 モニークが胡坐をかいた膝の上に広げた魔導書の一部分を指さし、其の文字をなぞる。高位の具現化魔法の一つであり、自身に馴染みの深い物を作り出すという魔法が乗っていた。其の中身を読み解く様に、丁寧に指を追っていく。

 「後は、頑張れば自分の得意な地形を作れる……か?」

 「其れ丈じゃあ無さそうだぜ」

 小難しそうにテキストを見ていたモニークの横から、鼻から上を黒紫の刺激臭を放つ何らかの液体で汚しつつ、デュマが顔を覗かせる。すかさず、近づいた分だけモニークが体を離す。

 「デュマ、お前また……」

 エイボンの呆れた声など聞きもしないデュマは、得意げにモニークの読んでいた頁の一部分を指さす。

 「まあ、是は難しい分野だけど、腕を増やしたりも出来る」

 ほう、と魔法使い達の眼がデュマに向けられる。

 「疑似的なクリエイトウェポンと云ったところでしょうか。クリエイトウェポンも強力な魔法ですが……」

 口元に白魚の様な指をあて、アリエスが考え込み乍ら、魔動機術の一例を挙げる。

 「系統的には似てるけど、武器じゃなくて生体を作っているって点でまた別の使い道が出来そうだよな。見た目やっべぇけど、攻撃回数増えるじゃん」

 アリエスの言葉に頷きながらも、実際前に出て戦う戦士であるモニークからは実践的な意見が飛び出す。

 「四回攻撃も夢じゃありませんか。……見た目的に召異魔法と勘違いされそうな気がしますが」

 「難しいけどな。まあ、見た目は兎に角、具現化なんだし、中々良い案だと思うぜ。私は両手武器だから、二回攻撃とかに為るけど」

 優し気に微笑みを浮かべる、細身のうら若いエルフであるアリエスと、勝気な顔に波打つ金髪を木陰に晒すモニーク。何も言わずに見るだけであれば、絵にもなる光景なのだが、話す内容は物騒である。然し、冒険者として、戦士として、魔法使いとして。生きる為に手を考えるのは必要な事であった。

 「嫁さんがこれ以上物騒になるのも困るけどな。生体を具現化できるなら、食料や水を大量に生み出す事が出来れば、助かる人も多いだろうなぁ」

 苦笑しきりで、木苺色の眼を細めるエイボンが少し話題を変える。言葉尻に思い起こされるのは、一番初めの夜。餓鬼に囲まれた部屋と彼らの言葉。

 「特殊神聖魔法や、水の妖精魔法で水を生み出す事は可能ですが、食料となると難しいですからね」

 「食べ物を生み出して食べることが出来るっていうのは、既に実践済みだしな。効果は落ちるけど、一般的な食糧を生み出す事に関しては問題ない筈」

 もしかすると、食糧難の一助となるのではないか。古い魔導書の頁を捲りながら、エイボンは考える。帝国だけではない、多くの国が抱える問題を、各国を旅するエイボン達は目の当たりにしていた。そうだな、とモニークは静かに頷く。先の授業で、ライアルフが全員に授けた言葉が彼らの脳裏に過る。魔法の使い手の意識やモラル、其れに依り、齎される物は変容する。今の黒の導師と己等の様に。

 「……おい、飯だってよ」

 想い耽る様な沈黙を割るのは、昼食の時間を告げに来たルディだった。気付けば太陽は真上。枝葉の作る木陰は随分と小さく為っていた。

 「まあ、今言っても仕方の無い事か。お昼ご飯としようじゃないか」

 気を取り直す様に、エイボンが腰を上げる。銘々、持ち寄った魔導書を抱えながら、食堂へと向かうのだった。

 

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