大召喚祭-辰の大魔導士の一番弟子と受け継がれる遺志- 【六野】 作:Game Holic
――……一方その頃。
ルキスラ帝国、とある帝国侍従官の部屋に三人の冒険者が訪れていた。一人は、背の高い三つ目のシャドウの少年、もう一人は全身を鎧で覆う騎士、もう一人はシャドウの少年の傍で控える様に座る女のエルフ。皇帝の直属よりの召喚ということもあり、全員(一人は甲冑に隠されているため表情は見えないが)やや緊張した佇まいで、部屋のソファに腰を下ろしていた。
三人が通された部屋は、皇帝の侍従官という、本来は血の気等無い平穏な仕事には珍しく、騎士の部署と云う様を呈していた。というのも、その部屋を司る部署は、皇帝付きの武官という顔も併せ持っていたからだ。其の為、此処に属する侍従官は騎士という身分の他にも、冒険者として別の顔を持つ者も多い。此度、彼らを呼んだのは侍従方と云う地位に在る、ゴーバッシュと云う男だった。暴力、と云う単語の権化の様な見目の男で、全身に夥しい刀傷を刻んでおり、彫りの深い顔に在る双眸は、白刃の如く鋭い。その見目から、帝国の鬼とも呼ばれている。そんな男が、今三人の目の前で、小難し気に唸り、己の顎に手を添えて首を傾げていた。
「……それで、お話とは?」
ルディは相手の雰囲気に気圧されまいと背筋を伸ばし、鬼の様な侍従官に声をかけた。若干、語尾が震えていた気もするが、隣に控えるアリエスは聞かなかった事にした。
「うむ。実は最近、皇帝陛下の心身が優れん。……どうやら夢見が悪い様でな。陛下の悪夢は、如何なる医師、魔法使いにさえ判らなかった奇病だと言われているのだ」
ルディの問いに、ゴーバッシュは重い口を開く。穏やかで理知的な話し方をするのだが、如何せん見た目で損をする性質なのだろう。深刻な顔をしている筈なのだが、その顔は蛮族もかくやという程の様相であったが、気づかぬ本人はそのまま話を続ける。
「心の病と云う話には為っているが、呪いの類で在る可能性も在る。優れた魔法使いの意見を聞いておきたい」
鋭い眼光が三人に注がれ、思わず戦場を思い出すが、そこは幾度となく困難を乗り越えた冒険者である。三者三様に、考え込む様な仕草を見せる。
「悪夢ですか。生憎と魔法は専門外でして……アリエス」
何か解るだろうか。そんな問いを含む視線を、ルディは隣に控えた彼女に向けた。
「……そうですね。如何なる魔法使いもとなると、光、もしくは闇の妖精使い、またその妖精も症状が分からなかった。そういう事でしょうか」
「嗚呼」
「精神に作用する魔法となると、闇の妖精魔法の系列に関する物が多いでしょうが……はて」
この中で唯一の魔法使いと呼べるアリエスが、考えを述べるもそれは既に試された物であった様だった。
「国内の魔法使いの見立てでは、魔法ではないと云う事だが、此れは新しい切り口に為るだろう。……其処で、だ」
ゴーバッシュは、己の片膝を叩き三人を視界の中に入れる。本人としては、普通に見詰めている心算なのだろうが、如何せん眼光の切れ味が鋭利な為、威圧感が否めない。
「カシュカーンから此の国に、代々様々な遺失魔法を受け継いできた魔導師一行が来ていると云う事だ。彼等と話がしたい。貴殿等には、皇帝陛下の悪夢を消し、心身穏やかであらせられる様、協力を頼みたい。就いては先ず、其の魔導師とやらに話を訊きに行かねば為らん。同行を頼めんだろうか」
鋭い眼光に、懇願の色が加わり、頭が下がる。その様に三人は顔を見合わせた。
「成程、話は解りました。名ばかりの若輩者ですが、御力に成れるようなら是非に」
先に頷いたルディに続く様に、アリエスも厳めしい騎士に柔く微笑んで見せる。
「こちらも、御期待に添える様に致します」
モーデルはと云うと、終始無言であったが、流石に周囲の目もあったのだろう。
「……是」
金属音を響かせながら首肯した。
「在り難い。貴殿等の活躍は、フェンディルから聞き及んでおる故、頼むぞ」
顔を上げたゴーバッシュの表情は、子供が見れば卒倒するか大泣きするかのようなものであったが、嬉し気であった。
「では、参ろうか」
腰を上げた騎士に続き、三人は帝国の街へと出かける事となった。