大召喚祭-辰の大魔導士の一番弟子と受け継がれる遺志- 【六野】   作:Game Holic

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帝国の翳り(1)

 特別魔法院の設立から、僅か数日後。エイボン等、顧問として招かれた魔術師達に加え、剣士として招かれていたルディ、そして新たに弟子となったハームートが皇帝の元へと呼び出された。アリエスとモーデルは一時フェンディルへと戻っていた為、先にエイボン等が召喚に応じる形となったのだ。

 参じた先に居たのは、皇帝と、いくつかの影。背後に控える様に立つ影の様な四人の黒いローブを纏った者達、そして幽鬼の如き老人が一人。その姿に目を鋭く細めるライアルフとは対照的に、向こうの老人は烏の様な笑みを浮かべて居た。その姿にやはりこれも対照的にライアルフの後ろに控えるエイボンやルディ達も、微かに険しい表情へと変わる。

 そんな彼等の剣呑な様子など気にすること無く、皇帝はライアルフ達を見下ろし、口を開いた。

 「今迄は邪念を具現化為る丈で在ったが、今後は具現化為た兵士や軍隊を作って行く事と為る。其れ等の秘法は既に、彼の手に依って完成為て居ると云うではないか」

 期待と野望に溢れた視線を、皇帝は黒い老人の方へと向ける。其れに応える様に、老人は狡猾そうな細い笑みを隠し乍ら、恭しく頭を垂れた。

 「……左様。野心を束縛為る忍耐の路等、既に古い。野心は鎖に繋いで飼い慣らすが良い方法なのです」

 「馬鹿な。左様な事が在り得る筈が……――」

 「在り得るのだ」

 ライアルフの眼が驚愕に見開かれ、否を唱えようとするより早く、その口を縫い付ける様に老獪な嘲る声が響く。

 「貴様は用済みだと皇帝は仰って居るのだ。……早に失せよ」

 「然し、具現化魔法で実体化させた兵士を、実践に投入させられるなんて……アレは具現化した物を意の儘に操る事は出来ない筈じゃ……!」

 口を閉ざされた師に変わり、エイボンが声を上げるも、黒き老魔術師は笑うのみで、答えを寄越す事は無い。

 「……確かに、貴殿等は私を悪夢より救い出し、帝国へ貢献為て来た。然し、逆に其の技術が他国に流れる方が危険な物で在ると云う事が判った」

 重々しく、皇帝が宣言する。

 「遣れ。其の者等を捕らえよ」

 玉座より、其の手がライアルフ達へと向けられる。周囲より現れるのは、玉座の周りで控えていた騎士達。其の数、凡そ50。

 「……そういう事かよ」

 素早くルディとモニークが武器に手を掛け乍ら、魔術師達を守る様に前に出る。更にその後ろでデュマがユリアンとライアルフを庇う様に両腕を伸ばした。然し、騎士達は円状に囲み、其の輪を徐々に詰めていく。

 「……罪悪感なんて、消さない方が良かったんじゃないか?」

 杖を握りながら、呆然とした声がエイボンから零れ落ちた。

 「たら、れば、で話が済めば良いんだけどな。……今はそうも言ってられないぞ、エイボン」

 油断なく双剣を構えたルディが、背で聞こえた声に張りつめた声で返す。鋭く向けた視線の先、囲む輪はもうすぐそこまで迫っていた。

 剣先を触れ合わせる。その距離まで迫った時。背後で、歌う様な、独特の呪文詠唱が小さく聞こえる。

 「具現の叡智、此処に見よ!」

 ハームートの杖が振り上げられる。すると、天井から大量の、黄金の雨粒……基、金貨が降り注ぐ。其れは留まる所を知らず、濁流と為って騎士達を場内の階段の方へ押し流していく。騎士達の悲鳴を余所に、ハームートは呆気にとられている面々の背を押す。

 「さあ、導師、兄弟子、剣士殿!今の内に参りましょうぞ!」

 「すげえな、金貨のじいさん!」

 「ハームートさん、ありがとうございます!……急げ!」

 金の道で退路を作った今、この場に留まる意味は無い。駆け出そうとすると同時。皇帝と黒の魔導師の視線が交わる。そして一歩、黒の魔導師の背後からフードを被った人物が前へと進み出た。黄色く濁った、丸で蛙の様な容貌をフードの下から覗かせた其れは、己の親指の表皮を噛み切り、5枚の羊皮紙に血の文字を躍らせる。

 「!……彼奴、拙い!早く外へ出ろ!」

 殿を務めていたルディがその所作に、苦虫を噛み潰した様な顔と共に鋭く声を上げる。古い羊皮紙、叩きつけられる血文字。其れは、世間からは禁術とされ、冒険者の中でも異端とされる呪術。召異魔法の魔神召喚の術であった。

 羊皮紙が宙を舞う。次元が切り裂かれ、切れ目から瘴気が漏れ始める。本来なら在る筈の無い空間から、手が伸び、その小さな裂け目を抉じ開けるようにして、五体の魔神が姿を現した。

 張りつめる空間、溢れる瘴気。思わず足を止めたエイボンは、現れた魔神の姿に見覚えが在った。何時か、学院の古い書庫で見た、忌むべき魔物を束ねる将。5mは超えるであろう巨躯に、黒い山羊の頭。手に長い柄のグレイブを持つ、禍々しきその姿の名は。

 「ゲルダム……!何てものを召喚して……!!」

 其れが5体。此れが街中へと放されたら。全員が足を止める。

 「私とデュマで二匹受け持つ。一匹はゴーバッシュ殿。ユリアンとハームートは先に隠れて居為さい。……エイボン、モニーク、ルディ殿。残りは頼むぞ」

 ライアルフが、静かに、けれど張りつめた声で指示を出す。其れに応じるように、無駄なく一斉に陣形を整えていく。

 「やるしかないか……!」

 エイボンは一歩下がり、杖先を目標である2体の魔神将へと向ける。

 「クソ、来い山羊頭ァ!」

 「あいよ、爺さん方。エイボン、背中は任せた」

 モニークとルディは其々の武器を手に背を守る様に前に出る。近い瘴気と明らかに格上の相手。ルディは素早く動く為に、懐から一枚、赤く煌くカードを取り出し、太腿に括ったガジェットに差し込もうとした。エイボンも前衛の守りを固める為に碧に輝くカードを差し込む。然し、其れ等が忽然と消える。

 「なっ!」 

 視線を巡らせれば、其のカードは、笑う黒い老人の手の中であった。思わず目を見張るルディを嘲笑う様に、カードは小さなブラックホールの様な物の中に吸い込まれて行く。

 「マジかよ……」

 「うわ、この……!とんでもないアルケミスト殺しだな!」

 それでもカードが使えずとも手はある。エイボンは己の知力を高め、魔力の伝達速度を上げる。ルディは呼吸を整え、気を体中に巡らせる。速く、そして力強く。体を動かし敵を屠る為に。

 真っ先に動くのは後衛たるエイボン。手にしたジャベリンの先、軍師たる証の旗を閃かせ、其の切っ先から深智魔法を放つ。攻撃ではなく、前衛を守る為の魔法は二人の抵抗力を底上げする。

 「一気に攻めるぞ!守りに入ったら駄目だ!」

 その声は力を持ち、二人の背を押す。モニークは広い謁見室ということもあり、懐から小さくされたビーグルを取り出し札を取る。元の大きさになったビーグルに跨ると、手にしたメイスを勢いよく振るう様にして飛び出した。その最中に紡ぐのは、従属を造り出す操霊魔法の呪文。魔法で強化された金属が、彼女の言葉に応える様に淡く光る。

 「深、第三階位の創。瞬間、従僕……出ろドラコ・プラチニジウム!」

 輝く白金に染まるドラゴンが彼女の傍へと造られる。それと同時に、ハンドルを離し両手に持ち直したメイスで、ゲルダムと交錯する様に足元を駆け抜ける。その打撃は凄まじく、巨大な足の腱を確実に抉る。痛みに場内に轟く様な咆哮が響き、瘴気を撒き散らし乍ら、山羊頭の瞳はモニークへと鋭い殺意を灯らせた。

 「おい!そっちは大丈夫そうか!?」

 その声に、妖精とゴーレムを操り乍ら、デュマが声を投げ掛ける。

 「さあな、ゲルダムがどう動いてくるか……!」

 「なんとかする」

苦い顔で答えるエイボンに背を向け、静かな声を共にルディが飛び出す。向かう先は、モニークが相手どる相手とは違う、もう片方のゲルダム。

 「急げよ!」

 デュマの声を背中に聞きながら、ルディの双剣が閃く。然し、軽戦士たる刃では魔神の厚い皮膚を裂くには些か浅く。フードの下で苦い顔をしながら、初手の勢い其の儘に更に二対の刃を敵の脚へと重ねる。それと同時に、魔神の撒き散らす瘴気がルディの肺腑を焼く。毒に強いシャドウと云えども咳込む程の其れは、彼に僅かな隙を作らせた。其の隙を魔神が見逃す筈も無く、咆哮と共に無慈悲に敵の刃が鋭くルディへと振り下ろされた。

 「っ!ぐ、ぅ」

 避け様とした足が、身に生じた衝撃に踏鞴を踏む。崩れぬと踏みしめた足の間に、夥しい血が痕を作る。

 

 

 

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