…本当に当たらなさすぎて困る。酒呑童子は二枚当たったのに…はっ!まさか、それが邪魔しているとか…無いか。
とにかく、本編をどうぞ
「
彼女の名は唯奈、俺の初恋の相手、今はもう会うことがないであろう相手。
「そっか、唯奈だね」
「うん! よろしくね! ハルくん!」
さらには俺のあだ名を初めて考えた人でもある。
「…ハルくん?」
「うん! はるとくんだからハルくん!」
正直に言えば少し気恥ずかしかったな。あだ名なんて俺の種族を考えれば、あったとしても白鳩が名付けた恐怖の対象としての名ぐらいだしな。
「そ、そっか…うん、よろしく唯奈」
俺はあだ名をつけられたことに驚いてキョドってしまった。かっこつかねえな。
「うん、それじゃあ、何して遊ぼうかなぁ」
早速遊ぼうとする唯奈だけど、俺はその前に聞きたいことがあった。
「ねぇ、なんで唯奈はひとりでいたの?」
そう、彼女ほど明るく可愛いらしければ、知らず知らずに誰かが寄ってきそうなものだ。なのに、彼女は砂場で一人で遊んでいた。
「えっ? えっとね、うん…私ね、おかしいの」
どうも彼女は周りの奴らに変に思われているみたいだ。なんでそんな風に思われているのか俺には全然わからず首を傾げるしかできない。
「おかしい?」
「うん。ねぇハルくんはぐーるって知ってる?」
喰種って言われて一瞬びびったな。暴露たんじゃないかって。
「…! うん…」
と、一応首を縦にふる。まあ知っているも何も俺自身が喰種だしな。
「みんなね、ぐーるは悪い奴らだ! っていうんだ」
「…うん、みんなそう言ってるね」
正直、そんな話をするのは嫌だったな。なんだか俺らが悪役みたいで。
だけど、唯奈はそんな話をしたいわけじゃなかった。
「でもね、私は違うと思うの」
「…! なんで?」
このことにはかなり驚いたな。喰種なんて恐れられて当然って言うのが人間の一般常識って言っていいくらいだというのに、あろうことか唯奈はそんな常識を否定した。
「だってね、ぐーるは生きたいからにんげんを食べちゃってるんだよね!」
「うん、そうだよ…」
確信したように言う唯奈に俺は頷く。
そうだ、俺らは人間を喰って生き永らえている。本当、嫌になるよ。意思疎通できる奴を喰らうってのは。あの死ぬまでの悲鳴、死にたくないっていう絶望的な叫び、精神的に逝かれそうだった。もう慣れたがな。
正直、俺は自分は生きるべきではないのではないかとか、ずっと考えていた。だからか、その後言った唯奈の言葉は俺には衝撃的な事だった。
「だからね、私たちと同じだと思うんだ!」
そう、彼女は喰種と人間は同じだと言った。まさか人間に…それもこんな子供がそんなことを言うとは思わなかったな。人間を喰う俺らにどうしてそんなことが言えるのか、ますます疑問に思う。
「? どうして?」
「だってね、私たちだってお肉を食べているでしょ?」
確かに人間は牛だったか豚だったか、動物を殺してその肉を食べている。なんで人間はそんなもんが食えるんだか、俺も小学生の頃、給食で異臭のするその肉を食ってみたことがあったけど、正直、あり得ないくらい不味かったな。出来ればもう一生食いたくない。
「うん、そうだね」
そんなこともあってか正直に言うと回答に迷ったが、暴露ないように頷いておく。
「そうだよね! でもね、そのお肉はお牛さんだったり豚さんだったりするんだよ! ね、同じでしょ?」
つまり、彼女は人間だって生き物を殺して肉を食らっているから一緒だということらしい。
彼女のこの言葉には感動させられたな。昔の俺はあんな親父の元で育ったからなのか、人間には憧れみたいなものを感じていたから俺は昔から色んなとこに忍び込んでは人間の観察ばっかやってた。
だから、当時の俺は喰種も人間も同じだと言ってくれたのが、すげぇ、嬉しかった。
「……うん…そう、だね…っ」
そのおかげで俺は泣くという情けねえ姿を見せちまった。殆ど初対面で、それも初恋の相手に。
「? どうしたの? お腹痛いの?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう唯奈」
俺は泣きながらも礼を言う。心配してくれたことに、同じだと言ってくれたことに。
「ううん! いいよ! ハルくん!」
彼女は前者にしか聞こえなかったのだろうけど、それでも礼を言えて良かったと思う。
(これが俺と彼女の初めて出会った記憶。我ながら切なくて甘い記憶だねえ)
公園の柵に体を預けて一人ごちる晴人は、こんな所で油売ってても仕方ないと、そろそろ移動しようかと思っていたその時、
「あれ? そこにいるのって、もしかしてハルくん!?」
突然後ろから声が聞こえてきた。
◇
「…よし、報告書いっちょ終わり」
14区喰種対策局の本部にて、服部は昨日見つかった喰種に喰われたと思われる遺体を処理するのに時間がかかりできなかった報告書を書いていた。
「お疲れ様です。服部准特等」
服部が報告書を書き終えて体を伸ばしていたら、部下である咲原がコーヒーを入れたカップを片手にやってきた。
「ん? ああ、咲原か。お前もお疲れ」
服部は咲原が持ってきたコーヒーを飲んで一息つく。
「…それにしても、強かったですね、『深層のご令嬢』」
咲原は服部が書いた報告書に目を配らせ昨日の戦闘について思い出す。
「ああ、本当にな。あの時は押してると思ったんだが、ありゃ演技だったみたいだしな」
後一息でいけそうなところを最も簡単に逆転された事が悔しいのか頭を掻く。
「ええ。それにしても、あんな幼い子供だというのにあそこまで強いなんて」
「…幼い?」
咲原が昨日見た七実の姿を思い出すが、服部は何故か疑問符を浮かべる。
「? どうかしました?」
「いや。ああ、そうか知らないのか」
何が知らないのかわからない咲原は同じように疑問符を浮かべる。
「えっ? どういうことですか?」
「あいつは確かに子供という年齢ではあるだろうけど、実際にはお前と二、三歳しか違わないと思うぞ」
そして、服部が咲原に教えた事は色々と衝撃的な事実であり、咲原は驚きを隠せない。
「えっええ!? 本当ですか!? それは!?」
「ああ、五年前くらいから騒ぎ立てているからな。少なくとも十代後半ではあるだろう」
自分と大して変わらない年齢と知って、咲原は自分の知識不足に嫌気がさす。
(まさか、私と大して変わらない年齢なんて、はあぁ〜、せっかく上等捜査官にまでなったのに、これだから私に部下ができないんだ)
普段の若さを感じさせる活発な姿とは裏腹に以外にもネガティヴなようだ。
「おいおい、何落ち込んでいるんだ。まあ、お前の事だから知識不足でどーのこーのと後ろ向きに考えているんだろうが」
まさにその通りであり、見破れた咲原は言葉に詰まる。
「あ〜、それにしても、なんでうちの区はこうも曲者な喰種ばかりなんだか」
咲原が言葉に詰まっていると、服部は自分が担当している喰種の名簿を見る。
「私達の区にはどんな喰種がいるのですか?」
「…お前、本当に知識不足だな」
本来なら捜査官は自分の担当の区の喰種くらいは知っているのが当たり前であり、そんなことも知らない咲原に服部は呆れる。
「す、すみません!」
咲原は謝り、「まあ、いい」と、服部は言ってくれるのでとりあえず安心する。
「んで、うちの区にいる喰種といえば、」
服部は喰種の名簿をパラパラと見ながら答えていく。
「昨日戦った『深層のご令嬢』や『
服部が言った喰種は知っている喰種もいれば知らない喰種もいた。だが、その中でも『
「『
咲原にとっては因縁の相手であるため知らない訳が無かった。
「…やはり、奴が憎いか」
「ええ、奴だけは絶対に倒してみます」
咲原と『
「まあ、お前の気持ちもわからんわけじゃないが、あんま復讐に取り憑かれるなよ」
服部の言葉に咲原は「わかりました…」と静かに答える。
「ふぅ…それにしても、『
冷静になった咲原は、服部にほかのSSレートについて聞いてみる。
「ああ。だがな、そいつらだけじゃなねえ。今言った二体はここのSS級の中でも強力ってだけであって、ほかのもそんじょそこらのSS級やS級と比べればかなり強力だ」
そのことについては昨日の戦闘により納得できる咲原。
「こんなに強力な喰種達が勢揃いしているなら、何故本局は特等捜査官を派遣しなかったのでしょうか」
「それは仕方ない。ここ以外だって強力な喰種はたくさんいる。いくら特等とはいえこちらに構っている暇はないんだ」
「その代わりに」と服部は喰種の名簿から目を離してから続ける。
「ここでの捜査官は准特等と上等のコンビが許されているし、俺以外にももう一人『第二の死神』と言われてる准特等がいるからな。そこまで冷遇されているわけじゃない」
そこまで言って服部はそのもう一人の准特等が思い浮かぶ。
(………本当ならあんな奴にだけは絶対に頼りにしたくないがな)
服部はその捜査官が気にいらないでいる。何故なのか、それはその人の性格である。更には、そんなのが同業者というのも嫌っている要因となっているようだ。故に、その捜査官には仕事を任せたくないと思っている。
「もう一人の准特等と言ったらあの人ですか」
「ああ。しっかし、そう考えれば本当20区の奴らが羨ましいよ。まったく」
そこで、服部は唐突に20区の話をする。
「? 20区だとそんなにいないんですか?」
「ああ、あそこはここより比較的平和だ。そこまで強力な喰種もいねえし、あの区にいたSSレートの『ブラックドーベル』や『魔猿』も最近は鳴りを潜めてるし、精々強力なのといえばSレートの『
それらを聞き確かに平和だなと思う咲原。
「確かに、SSレートである二体は今現在表立ったことは一切してないから、油断はできないですが今の20区の脅威といえばそのSレートの二体だけですね」
「ま、それでも脅威には変わらんから完全に平和とは言い難いがな」
なるほどと、頷いている咲原の傍らで服部は喰種の名簿に載っている『
(…SSレート『
服部はその喰種について思い出す。
服部は以前その喰種と一回だけではあるものの戦ったことがあった。その時思ったのがその身のこなしの巧さ、その喰種は自分以上にうまく立ち回ってこちらの戦法をもののみごと完封したのだ。服部は今まででさまざまな喰種と戦ったが、ここまで戦闘技術が高い喰種は初めてだった。
そして、この喰種はそれだけではないような気がした。もう一つ、何か奥の手がある気がしたのだ。だが、現状それがどんな物なのか、形なのかしらもわからないため、判断がつかない。
(…まあ、俺にはどうでもいいか。コイツは曲者揃いのSSレート喰種の中でも比較的温厚だしな。強力なことは変わらんが)
この喰種に関しては自分があれこれ考えることじゃないと、その事についてはこれ以上触れないようにする。
「服部准特等、少し聞いてみたいことがあるのですが」
と、そこで先程から唸っていた咲原が何か聞きたい事があるらしく、服部は「言ってみろ」と、聞く姿勢になる。
「もしもですよ? もしそのSSレート達を、一斉に相手にする事ができる捜査官か喰種っていますか?」
咲原は恐る恐ると聞く。服部はそう聞かれて少し悩んだ後、こう答える。
「そうだな…もし、そんなことができるとするならば」
もし、その質問に答えるのであれば、誰しもがあの人かあの喰種と答えるであろうそれは、
「我らCCG最強の通称『死神』か、SSSレート喰種『隻眼の梟』を除いてほかにいないだろうな」
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