晴人がSレート『ヘッド』の討伐依頼を任されてからしばらく、今日のところは七実との戦いの疲れもあり、一旦家に帰る事にした。
「はぁ、今日は疲れたなー、って今日もか……あれ?」
家に着いた晴人はドアノブを回して家に入ろうとするが、ガチャガチャと回してもドアノブが回しきれない音が鳴り開かない。
「? …まあ、いいか。えーっと、ほい、よし」
もう外は暗くなっているため、てっきり亜蓮はとっくに帰っているだろうと思ったが鍵がかかっていたあたり、家にはいないようだ。
バイトならばもう終わっているだろう、亜蓮は夜遅くには帰れるようシフトを調整してもらっている筈だからだ。故に、帰ってない事に不審に思うが、とりあえず合鍵を使って家の中に入る晴人。
「う~い、帰ったぞ~」
おっさんかあんたは、そう突っ込みたくなるがそれはさておき、晴人はそう言いながら家に入るが、返事はない。やはり帰ってきていないようだ。バイト中に何かあったのかなと、そう思うことにして玄関から自分の部屋に行き、そこでナイフやもらった封筒を机の上に置いてから風呂場へ移動して衣類を脱いでゴミ箱に入れる。
(今日も服ボロッボロだな)
脱ぎ捨てた自分の服を見ながらそんなことを考え、風呂場に入る。
晴人は明日討伐する『ヘッド』がどんな喰種なのか考え、その時の戦闘もイメージしながら頭を洗い体を洗う。洗い終われば風呂に入ろうとするが、
「あっ(やっべ、風呂湧かすの忘れてた)」
仕方なく浴槽にお湯を入れながら入ることにした。
「はあ~(いつもやってたことなのに何やってんだ俺)」
何故亜蓮がいないのか、晴人が分かる訳もない。何故なら、知っての通り亜蓮は兄弟である晴人でさえ、謎のある人物だからだ。
「…………」
無言のまま溜まった風呂にしばらく身体を浸らせる。
身体が温まったと思った頃に、上がり風呂場から出て着替え、リビングに行くが、まだ亜蓮は帰って来る気配はない。仕方なく、晴人はもう寝ることにした。
(とりあえず、今日のところは寝て明日に備えるか)
晴人は寝室のベッドに横になり、そのまま沈む様に眠ってゆく。
◆
…また夢か。
なんとなくわかんだよな。自分が夢を見ている時って。さて、前はいい夢見れたけど、今度はどんな夢かな。
晴人は浮遊感に身を委ね、瞑っている目をうっすらと開ける。すると、
「…なんだ、これは」
目の前に広がる光景、それはほとんどが白色に染まっていた14区の街並み。この街を白く染めているのはどうやら雪のようだ。空は曇り、雪が降っている。
『はっ…はっ…くっ』
『亜蓮‼ しっかりしろ‼ 亜蓮!‼』
『お、前だけは、逃、げろ…。大丈、夫だ、お前なら--』
『-ッ! なんでだ、なんで俺がこんな目に遭わなといけないんだ…‼︎ あ、ああぁ…! ああアァアァァッ‼︎』
◆
「…ッ! ハァッ‼︎ …はぁ…はぁ」
朝、晴人は目覚めるのと同時に目を見開き起き上がる。
「はぁ…はぁ…はぁああぁー(あー、ヤバい、恐ろしい夢見て醒めちまった)」
今までのが夢だったことに安堵する。
気付けば体中汗だくだ。なので着替えようとベッドから出てリビングに向かう晴人。
「はぁ(どうしよ、あんな夢見ちまったから、なんだか無性に不安な気分なんだけど)」
晴人が見た夢は、亜蓮がクインケを持った誰かに殺される夢だった。どんなクインケだったのかは分からない。持っている人物もわからない。とにかく、夢の中の晴人はもう瀕死な状態の亜蓮を救おうとしていたが、結局死なしてしまう、それを自分は眺めて見ていた。そんな夢だった。
「クソッ(大丈夫だ大丈夫だ、あんなモンただの夢だ)」
そんな夢を見てしまったため、自己暗示をかけて自分を落ち着かせる晴人。それでも不安は拭えない。
「おはよう晴人」
だが、それは杞憂だったらしく、リビングに行けば亜蓮が普通にそこにいて、普通に朝の挨拶をする。
「…お、おう。おはよう亜蓮」
晴人は夢の事もあり少し戸惑ってしまうが、亜蓮が普通にいる事に安心する。
「? どうした、晴人」
目敏く戸惑っているのが分かった亜蓮は不審に思い晴人の様子を伺う。
「い、いや、何でもない。そう言う亜蓮こそ、昨日はどうしたんだ? 俺が帰ってもいなかったし」
晴人は愛想笑いを浮かべながら、昨日亜蓮は何をしていたのか聞く。
「うん? ああ、昨日はバイト先で少し厄介な事があってな」
「厄介事? 何があったんだ?」
やはりバイト先で何かあったらしく、その事を聞いてみれば、「なに、単なる万引きだ」と言った。確かに厄介事だ。しかし、あの亜蓮がそんなことでここまで遅くなるものかと思い聞いてみれば、
「ああ、その万引きした奴は喰種でな、それも既に親が白鳩に殺されている孤児だったんだ。だから、俺がその子を引き取ってくれそうな誰かを探したんだ」
つまりは、亜蓮は昨夜バイト先で万引きがあり、すぐさま捕まえて大事にならない様にしたが、その万引きしたのは子供の喰種だったらしく、更には親は既に白鳩に殺されていたため、仕方なく亜蓮はその子供を引き取ってくれる喰種を探し、あちこち彷徨っていた。と言う事で遅くなったらしい。
「ふーん…まあ、分かったよ」
晴人は特にこれといったことは無いなと思い、もうこれ以上聞くことがなくなったので着替えが入ったタンスを引いて着替える。と、そこで唯奈と買った服が目に入る。
(そういや唯奈と買った服、いつ着ようかな。今日も依頼あるから、これ着ていったら折角の服が台無しになるし)
晴人は依頼を遂行しては毎回服がボロボロになっている。折角愛しの彼女から買ってもらった服なのだ、台無しにしたくはない。なので、今日は着ない事にする。
「(よし)それじゃ、今日も頑張るか」
着替えが終わる頃には亜蓮は学校に登校して、それに続き晴人もナイフを持って外に出る。
「~♪(さて、確かあの人が言っていたのはあそこだったよな、こっからじゃ少し遠いか)」
晴人達の家から少し遠い場所にSレート『ヘッド』の狩場があるらしい。ただ、『ヘッド』は頻繁に狩場を替えているらしくそこにとどまっている期間が短い。けど、聞いた情報は最近の物なので信憑性が高い。なので、とりあえずそこに行ってみる晴人。
だが、やはりといおうか、そこでは思いにもよらぬ試練が待ち受けていた。
◇
「はぁ、はぁ、クソッ! クソッ! クッソたれがぁッ‼」
少し歩き、晴人は『ヘッド』の狩場らしき場所に着いていた。
『ヘッド』の狩場ははっきりと、一言で片付けるならゴミ処理場。至るところにゴミの山ができており、なんでこんな目立つのに今まで捜査官に見つからなかったのかと疑問に思うが、『ヘッド』は様々な場所を狩場としていたため、『ヘッド』が去った後はこのようなゴミ溜まり場になっているので、それにより、カムフラージュになっているようだ。
晴人はこの狩場にいると踏んであっちこっち探し始めたが、一向に見つかる気配が無かった。ありとあらゆる場所を探し回っても見つからない。
そんなことがずっと続き、苛々が溜まり、悪態をつきながら走って探すが、それでも一向に見つからない。ただ、いたであろう最近の跡らしき物はたくさんあるため、まだこの狩場を捨てていないと思うが、まるで見つからない。
「はぁ、はぁ、何でこんなにも探し回って、いないんだ。はぁ、はぁ」
晴人が探し回ったことによりゴミの山が崩れており、最早山と言うより海といったほうがいいだろうか。
そんな中、匂いで探ろうとしてもそこら中にあるガラクタから様々な匂いの跡が混ざり合って、どれが誰の匂いか判別がつかない。
「チックショウ‼︎」
もう暫くの間、晴人の奔走は続く。
◇
(昨日の事はどうにか誤魔化せて良かった)
まだ家から出たばかりの亜蓮はそのような事を考えながら登校していた。
(昨日の事を話せばあいつはなんて言ってくるか分かったものじゃないからな)
亜蓮が晴人に言った事は全てその場で創った嘘だった。あんな嘘がその場しのぎで考えれる程亜蓮は嘘をつくのにかなり馴れているのだろう。
ならば、本当の理由とはなにか、
(俺が昨夜遅くまで家に帰らなかった本当の理由…)
それは、昨日の『盗賊』と話してから放課後までに遡る。
◇
昨日、亜蓮は放課後になったら、バイトも無いため家に直行した。家に帰った亜蓮は直ぐに着替える。すると、黒く動きやすそうな上下の黒い服に、黒い羽織タイプのマントを着て、右腰に赤黒い刀を鞘に収めたのを帯び、最後に黒い鬼を模した仮面をつけるといった、黒ずくめの姿になった。その格好になった亜蓮は裏口から家を出て14区の喰種が徘徊している中を何か探しに行くかのように飛び出し彷徨う。
(…奴の情報によれば、ここら辺だったな……!)
「…ようやく、見つけた」
「…! あれは…! まさか『
彷徨うことしばらく、亜蓮は情報を頼りに恭弥と仄の二人を見つけた。亜蓮はその二人の前に降り立つ。突然降り立ってきた亜蓮に、恭弥は亜蓮が…神出鬼没な『
「…CCG『第二の死神』とは、そこのお前か? 女(確かめるまでもないがな)」
亜蓮は威嚇するかのように低い声で言い放つ。言われた仄は臆さないどころか、あの死んだ目からはあり得ない位に爛々とした目で亜蓮を見つめている。
「多分、そうだと思う。でも、今はそんなことはどうでも良いから。『
仄は早く亜蓮を殺したいと、片刃で峰側には銃口があり、柄に引き金が二つ付いた大剣の形をした羽赫のクインケ、『オーガハイド』を出して亜蓮に斬りかかる。
「…相変わらず、イカれた女だな」
人間とは思えない速さで斬りかかってくる仄を亜蓮は手は出さず、ただそれをギリギリのところを素早く身を引いて避ける。避けられた仄は方向を変えてまた斬りかかる。
「はっ、はぁっ、はぁぁっ‼︎」
普段の凛とした物静かな彼女はどうしたのか、今の彼女はとても歓喜に満ちた顔をしながら狂戦士のようにクインケを振り回している。だが、それは適当に見えて的確に亜蓮を斬り殺さんと人体の弱点となる部位を狙い定めている。亜蓮は、その斬撃を一つ一つ的確に見切り霞を斬る。
「ふむ、適当に振っている様でなかなかに的確な箇所を狙っているな。流石、『第二の死神』、狂った様はさながら質の悪い喰種に似ている」
亜蓮は余裕そうに相手の実力を測り挑発するように言うが、当の本人である仄は全く聞いておらず、ただただ亜蓮を殺したいということが目から分かるだけだ。
(まるで聞いてないな)
聞いてない様子を受けて、亜蓮は挑発は無駄だと断定して、自分からも反撃を開始する。
「!」
唐突に反撃がきた事に多少驚きはしたが、すぐに対応してくる。亜蓮はもう対応してきた事に流石だと思いながら洗練された格闘技術を披露する。
「…! あの人と同じ格闘技術…! やっぱり、貴方はあの人の…!」
仄はどこか色気が混じった、それでいて狂ったような声で亜蓮の格闘技術を『
(同じか。当然だ、その人から学んだからな)
亜蓮は断片的に聞こえた同じだということに否定はしない。
(まあ、それはいいとしよう。それよりも、奴のあのクインケ…匂いや形状からしても間違いないな。あれは…)
亜蓮は仄が持つクインケを見て懐かしく、同時に哀しさと怒りが沸いてくる。何故そうなるのかは、彼女が持つクインケとその名前を聞けば察することができるであろう。
そうあのクインケは、
(親父…)
晴人達の父親、『
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