晴人は腹に何が貫いてきたのか見ると、そこには触手のような鋭利な赫子があった。
「なっ…! バカなっ…! これは鱗赫の…!」
息が絶え絶えながら、どこからと、思い、赫子の出所を確かめようと苦痛の表情で後ろを見ると、地面からその鱗赫の赫子が出ていた。
(地面、から…? 何故…? …まさか!)
晴人は朦朧とする頭の中、何か思い当たることがあるのか、少女をよく見ると、少女の腰の後ろから鱗赫の赫子が出ているのが見えた。
「おいおい、マジかよ…! お前、混合タイプかよ」
喰種は通常、一種類の赫子しかない。だが、稀に二種類の赫子を持つ混合種も存在する。
晴人が状況を理解したのを見たら、少女は晴人から赫子を抜く。そして、抜かれた晴人は呻き声を上げながら血を出し倒れる。
「ざんねんだったね、おにいちゃん」
少女は地面に刺していた赫子を戻すと、不気味な笑顔で、腹に刺さったナイフを抜き晴人に近づいてく。
晴人はどうにか動こうともがくが、先ほどの一撃でかなり痛んでいるのかなかなか思うように動けない。
「ふふっ、けいせいぎゃくてんだね♪」
少女は楽しそうに笑い挑発する。
だが、晴人の顔を見てその笑顔は消える。
「…ッ! …ははっ」
晴人は悔しそうに歯軋りしていると思えば、晴人もまた笑っていたのだ。
「…? どうしてわらっているの?」
少女は晴人がおかしくなったのかと、思うが、
「いやぁ、なに、久しぶりに強い奴に会ったなって…はぁっ、思っただけさ」
それで何で笑っていられるのかわからず、少女は首を傾げる。
「わかんねえか? …まあ、いいさ。それよか、突然なんだがよ、俺は戦いが好きなんだ。どうしようもなくな。今まではそれを隠すようしてたけどよぉ…!」
晴人は腹が痛むのか辛そうだが、それを抑え言葉を続ける。
「やっぱ本当どうしようもないな、この気持ちは。どれだけ隠してもこうして戦って、追い込まれるとついつい出てきてしまう、本当にどうしようもねえ」
だからなんなのかと、思う少女だが、こうしている内に晴人は傷が塞がり自力で立ち上がってきたので、赫子を構える。
「だからよぉ、嬉しいんだ俺は、こうして強え奴と戦えるのがな」
晴人は立ち上がると、今まで一本だけだった赫子をもう数本出し全部で四本となった。
「! …いっぽんじゃなかったんだ」
「ああ、今までは衝動を抑えるために出さないでいたけど、そんなことして勝てる相手じゃないと思ってな」
晴人はそう言っていると、少しずつ顔が狂喜を孕んだ笑顔になっていく。
「そっか、それじゃあ…」
「ああ。遊びはもう終わりだ。こっからはーー」
晴人が口角を曲げると、それに応えるように赫子がざわめき出す。
「血みどろな"戦い"の始まりだ‼」
完全に狂喜の顔になった晴人は、凄まじい速さで飛び出し、少女をガス状から硬化した赫子で切り裂こうとする。少女は咄嗟に甲赫の赫子で防ぐが、手に持っていたナイフを落とされる。晴人は勢いに乗ったまま落としたナイフを拾い、もう片方の手に別のナイフを持つ。
「…それ、さっきのとちがうね、ぜんぶちがうのかな」
晴人が持つナイフは一本一本違う赫胞で作られている。故にこのナイフを使い分けることによって、相手に有利な戦いができるのだ。今晴人が抜いたのは、滑らかで質感が良さそうなナイフである。
「ああ、俺のナイフは全部違う赫胞で出来てる。そんでもって、こいつは尾赫のナイフだ」
晴人は、なんの躊躇いなく教える。
「へぇ、わたしのかぐねにたいおうするため、だね」
少女はたいして慌てずに解析をする。晴人はそんな余裕の姿を見て、ますます楽しそうに笑う。
「んじゃ、そろそろ行くぜ‼」
晴人はまた凄まじい速さで突撃し、今度はナイフで切りかかる。
「…っ!」
少女は晴人の速さに対応できず、赫子ごと切られる。晴人は休む暇も与えず、さらに切りかかり、時に硬化した赫子で射撃をして、徐々に少女を追い詰める。
少女はどうにか反撃しようと赫子を動かすが、晴人のナイフで全ていなされ反撃できずにいる。
「オラァ!!」
反撃できずにいる少女を見て、好機と言わんばかりに攻め立てる。少女は上手く躱そうとするも、どうしても掠めてしまう。
「うっ! …つよいねおにいちゃん。このままじゃあ、やられるね、しかたないなぁ」
至る箇所を切り刻まれた少女は、どうにか晴人から距離を取り、赫子をしまう。
「?(なんだ…? 何をしようとしてる…!?)」
少女の動きを不振に思った晴人は訝しげな顔で一度止まり、様子を見る。
「これをだすのはひさしぶりだなぁ。わたしね、おにいちゃんはつよいからね、もっとかぐねをだそうと、おもうんだ」
もっと赫子をだすと、聞いて晴人はまだ赫胞があるのかと、思ったが、それは違うようで、どういう意味なのかを考える。
(赫子をもっと出す? どうゆう意味だ? …待てよ、そういやコイツは…)
何か思い当たることがあり、それを踏まえて考えると、一つの結論が出た。結論が出た晴人は「まさか」と、今までの狂喜の顔から一転、絶望した顔になる。
「ふふっ、いいかおだよ、おにいちゃん」
晴人が結論を出すのと同時に、少女の体のいたるところから赫子が出てきて、それが身に纏うように少女の体を蝕んでいく。
そして、体の半分を赫子で覆い尽くされた、異様で不気味な姿になった。それを晴人は目を見開いて見る。。
(嘘だろ…まさか本当に、
赫者とは、喰種は共食いをすることによって、強くなり、赫子の数も増える。赫者は共食いをした喰種の最終形態のことで、喰種を喰うことで体内の赫子の素となるRc細胞が増加して赫子の量が増え、身に纏えるほどになると云われている。
この形態になるために喰種を喰うのは、食事をするという意味ではとてつもなく辛く、精神的にも辛く、なった喰種は指で数えられるほどしかいないとされている。
(いや、聞いた話じゃ赫者は体全体に赫子を纏う筈だ。確かにあれは体に赫子を纏っているが、全体ではない。そうだな、言うなれば半赫者と言ったとこか)
晴人は最早目の前にいる少女が絶望にしか感じなくなっているが、どうにか精神を保ち、まだ戦えると意気込む。
(まだ赫者に完全になってないなら、勝機はある筈)
まだ希望をもっていこうとナイフを構えるが、まだ完全ではないとはいえ、赫者の力は想像以上だった。
「…は?」
瞬間、何が起こったのかわからない。突如なんの音もなくナイフを持った晴人の腕が宙に舞って飛んでいく。晴人はそれを茫然と見上げてから、自分の腕を見ると、そこに腕はなく代わりに血が吹き出していた。
「あっ、あがっ、がああああああぁぁぁぁ!!!」
晴人は確認すると痛みが出て叫ぶ。少女はそれを見て楽しそうに、嬉しそうに笑う。
一体何が起こったのか。それは、少女が鱗赫を使い、目に見えない速さで晴人の腕を吹き飛ばしたのだ。
「っ! はぁっ…はぁ…はぁ…」
晴人は痛みが少し治まったのか、地面に伏し荒い息を整えようとする。
「はぁ、はぁ、クソッたれ…!(予想外だ、まさかここまで強いとは…!)」
SレートとSSレートの力の差を見せつけられた晴人はもう倒すのは不可能だと悟り、どうやって逃げるか考えるが、
「おにいちゃん。もしかして、にげようとしてる? だったらむりだよ。だって、わたしがにがすわけないもん」
と考えを察せられ、楽しそうにそうに言われてしまえば、もう諦めるほかなかった。
「……! クソッ…! たれ…!」
晴人は歯軋りして死を覚悟した。
◇
最早万事休すかと、晴人が諦めていた時、ある者達が晴人達に近づいていた。
「…今の騒音、どう思います?」
「どうもこうもねえ、ありゃあ間違いなく喰種が争っているんだろ」
急ぎ晴人達に向かって走っているのはスーツを着、アタッシュケースを持った二人組。
「…何故喰種が争っているのでしょう」
その内の一人は疑問に思ったことを言うと、
「大抵は縄張り争いだが、もしかしたら違うかもな…」
「…と、言いますと?」
もう一人は鋭い眼光をして言う。
「純粋な殺し合いとかな」