ある日、晴人は情報屋の喰種から依頼を受け、標的である少女ことSSレート喰種『深層のご令嬢』を討伐しにその狩場に来たが、想像以上の実力の差に抗いはしたが、真の力を前に一瞬にして打ちのめされたのであった。
「ぐっ…! クソッ」
地面に伏せながら、晴人がどうしようもない、最早死を待つしかないと、諦めた時だった。突然、遠くから複数の走ってくる足音が聞こえてくる。
「…!(誰だ? …この足音からして人数は二人、匂いは……!)」
そこで晴人は思考が切れる。何故なら、その匂いは人間の匂いだからだ。なぜこんな所に人間が、と驚いた晴人だが、再び思考を開始する。
(足音はこっちに向かって来てるな。さっきの騒音を聞いてやって来たのか。…人間の匂い、二人で来ていて、ここらの騒音を聞いて来る、と言うことは…)
晴人はこんな所に迷わずに真っ直ぐ来た人間が誰なのか、そこまで考えれば、出る答は一つ。
(
こちらにやって来る人間は、喰種の敵である捜査官だった。それがわかった晴人は慌てる。
(まずい! 今は仮面ないからここに来たら顔が見らるれし、最悪捕まってアイツらの武器にされちまう!)
なんとか逃げたいと思うが、その前に目の前にいる少女に殺されるので顔はどうでもよかった。だが、それでも武器にだけはされたくないため、どうしようか考える。
「はとがちかづいてきたね、このままだとまずいね。わたしはかくじゃだから、かおはかくされているけど、おにいちゃんはまるみえだね」
当然と言うべきか、少女も捜査官に気付いている。それでも不気味な笑顔は崩さない。
晴人はそんなのはどうでもよく、捜査官をどうするか考えるが、考えてもこんな状況ではどうしようもなく、もう打つ手無しだと絶望する。だが、
「でもそうだなぁ。おにいちゃんとたたかったのたのしかったしなぁ。とくべつだよ、たすけてあげる」
思いもよらぬことを言ってきた少女に、晴人は驚きを隠せない。その提案は願ってもない話だが、先ほどまで本気で殺しあっていた相手をそうそう信頼できるほど、晴人はお人好しではない。
「…………」
「そんなにうたがわなくていいよ。だって、ただのわたしのきまぐれだもん」
警戒した顔でいる晴人に少女はこう言うが、それでも信用できるか不安でどうするか悩む。しかし、もうこれしかないと決断する。
「…分かった…だが、殺すなよ」
晴人は最後に捜査官を殺すなと言い、この場を少女に任せて体を少しだけ起こして這いつくばりながら近くの建物に隠れる。少女は「うん、わかった」と返事をし、早速捜査官が来る方向に向いて待ち伏せする。
「ここか……! お前は…!」
たどり着いた捜査官二人は、アタッシュケースを持った中年の男性一人と若い女性一人で、二人は少女の姿を見てすぐに構える。
「ふふっ♪こんにちは、はとさん」
捜査官は、奇妙な格好をしている少女を見てすぐに分かる、その少女の正体が。
「…こいつはSSレート喰種『深窓のご令嬢』だな。ずいぶんな大物が見つかったもんだ」
男性の捜査官は少女の正体がわかっても動揺せずに冷静にいる。
「SSレート…!? こんな少女がですか!?」
SSレートと聞き驚いたのは、女性の捜査官。目の前にいる十歳近い少女がSSレートとは思えないようだ。
「なに、世の中俺より若いのに強い奴なんてごまんといるんだ。喰種ならなおさら、何も驚くことない。そんなことより来るぞ、『クインケ』を出せ」
見かけ通り経験が深いのか、男性の捜査官はただの少女にしか見えなくとも強敵と理解し、動揺せずにアタッシュケースを開き、喰種の赫子みたいな赤黒い斧を展開する。
「っ! はいっ!!」
女性の方もケースを開き、一見したら銃身が長めというだけの拳銃だが、その銃身には刃らしき物が付いている武器を展開する。
「それでどうします、
「いや、いい」
女性の捜査官は応援を呼ぼうとするが、男性の捜査官…服部は「その必要は無い」と言う。
「な、何故ですか!? いくら准特等の貴方でも、完全ではないとはいえ赫者のSSレートは厳しい筈です!」
女性の捜査官は、それでも呼ぼうとするが、
「なーに、幾ら相手がSSレートだろうと、赫者だろうと、どんな奴にも弱点があるし、動き次第では幾らでもやりようがある。それに、お前はいつから俺の命令から反対できるようになったんだ、
「…すみません」
冷静になり、女性捜査官…咲原は素直に自分の上司に謝る。
「フッ。ま、いいさ。それより、俺が出るからお前は隙を突け、わかったな」
ニヒルな笑みを浮かべながら言う服部に「了解ですっ」と、咲原は威勢よく答え、距離を置いていつでも撃てるよう構える。
「それで、おはなしはもういい?」
「ああ、こちらが準備できるまで待ってくれてありがとさん、お嬢さんよ。そんじゃ、いくぞっ!」
かけ声と共に服部は少女に向かって飛び出し、クインケで重々しく切りつける。
「ムンッ‼︎」
「おそいよ、おじちゃん」
少女は軽々と避けて、腕に纏った赫子で切ろうとするが、
「デヤッ‼︎」
「!」
服部は読んでいたように体の向きを変換して、切りつける。少女は一瞬で動きを切り替えて素早く距離を置きながら避ける。
「へぇ、すごいね、そのうごき……!」
と、少女が感心していると、突然赫子の射撃が襲ってくる。それを避けるが、少し頬に掠ってしまう。
「……っ!」
誰が撃ってきたのか見ると、咲原が少女に向かってクインケを構えて撃っていた。
「余所見してると、危ねぇぞっ!」
そして、不意にやってきた攻撃に間一発で避ける。
「ふぅっ、なかなかまともに当てられんな、流石だ」
「………」
服部は余裕そう振る舞うが、決して油断せずに、咲原はしっかりと見据えて構えを解かない。
「そんじゃ、もういっちょ行くぞ‼」
もう一度と飛び出す服部。少女は、感情の読めない表情をしながら、自分からも攻撃を開始する。
ーーーーー
「おぉう、ずいぶんとやるな、あの白鳩達。流石ここの担当捜査官だな。けど、それでもアイツを倒すのは無理だろうな。なら、早くしないとな」
一方、晴人は物陰に隠れていざというときの回復のために持ってきていた人肉を食べながら観戦していた。
「うしっ、腕も治ったし、完全ではないけど、とりあえずこれでまた戦えるな」
どうも、晴人は最初から少女を信用する気はないようで、このまま任せるつもりは無いらしい。
(さて、アイツがこんな約束を守るとは思えんし、どうにかしなきゃな。もともとアイツに白鳩を殺させなようにするために来たんだし)
そのため、白鳩と少女の戦いを見て、どう参戦して白鳩を殺させないようにするか考える。
(にしても、どうするか。今出てもあっちの女はどうにかできても、もう片方は無理だしなあ)
晴人は戦いを観戦しながら捜査官の実力を測っていた。そのうち、咲原は自分でも抑え込めると思ったが、もう片方の服部は流石に無理らしく、二人とも、ということは今は出来ないため、頭を悩ませる。
(そうだな…アイツらは多分、ここに二人いるのは気付いている筈。だが、まだ俺がどこにいるかまではわからない筈だ。ならば…)
この位置にいるということならばいつでも奇襲を仕掛けれるということで、後はどう仕掛けるかなのだが、
(しかし、相手はアイツとも渡り合える捜査官、少なくとも上等以上の二人だ。もし失敗したら逆に俺が殺られるよなぁ。くそっ、まだ不安要素が多いな)
少しの失敗も許せない状況、相手が相手なため、やはり迂闊に動けない。
「とりあえず、今は状況を見て判断するしかないな」
今はまだ観戦に徹することにして、晴人はしばらくの間、じっと機会を伺う。
ーーーーー
「フッ、ハッ、セヤッ!!」
交戦してからしばらく経ち、捜査官達は体力が消耗してきた様で息が切れている。それでもお互い一歩も譲らずの戦いを続ける。
「ふぅ〜、なかなか思ったようにはいかないか。やはり、そうそう一筋じゃあいかないな、コイツは」
「ええ、目眩しか何かあれば、一気にいけるのですが」
決め手に欠けている白鳩達。だが、少女の方は、
「はぁ(このままだとめんどくさいなぁ。どうしようかな)」
余裕で殺せるといった風である。
このままであれば捜査官が先に体力がなくなって撤退してくれるかもしれない。
が、少女は二人を殺して喰いたいと考えている。だが、晴人の言いつけ通り殺さないでいようとするが、
(…もういいや、ころしちゃえ)
定か十数分で言いつけを破る、と言う晴人の予想通りの展開になった。
(…でも、ただころしちゃうのはおもしろくないなぁ。…すこしあそんじゃお)
ーーーーー
角から様子を伺っている晴人はあからさまに殺すと言っている殺気を出している少女を見てため息を吐いていた。
(…やっぱりアイツ約束守る気さらさら無いな。ハア、全くめんどくさい。まあいいとして、このままだと上手い具合に白鳩達は体力を消耗するな)
それならばあの方法でいけると、晴人は道が見えてきたようで、その機を伺う。
(よーし、それじゃいつでもやれるよう準備するか)
作戦を立てた晴人は、早速今手元に有るものを確かめ、いそいそと用意する。
(これでよしっと。さてと、後はアイツらの勘が鋭く無いのとタイミングが合うのを願うだけだ)
準備が完了した晴人は、上手くいくかわからない作戦の成功を願う。
ーーーーー
「ちっ、本当に決着つかねえな(だが、少しずつ追い詰めてはいる)」
なかなか決着がつかないことにイラついている服部だが、追い詰めている感じはある。ので、もう少しの辛抱だと、ラストスパートをかけようとするが、
「(そろそろいいかな)そーれっ」
どうやら、今まで手加減をしていただけの様で、少女から思わぬ反撃が来て優勢だと思われていた状況がひっくり返る。
「! うおっ!!」
鱗赫の赫子の高速の一撃を間一髪で避けた服部だが、さらに甲赫の追撃がくる、
「!(まずい‼)」
ギリギリで避けたため体制が崩れ、その状態では流石に避けれず殺られると思ったら、咲原が援護射撃をしてくれて、どうにか無事で済む。
「ふい〜、すまない助かった」
体制を立て直し安堵したのもつかの間、少女はまだまだ攻撃を仕掛けてくる。そして、それは咲原にもやってくる。
「咲原!」
「クッ!」
咲原はどうにか体制を崩しながら避けて、そのまま射撃をするが、甲赫に防がれる。
「チッ! このままじゃ埒があかない。咲原! そのクインケのモード変えてお前も接近してこい!」
「はいっ!」
服部に命令されクインケの形を変えてナイフのようになり、それを持って近寄っていく咲原。
「ふ〜ん、こんどはふたりでくるんだ」
「ああ、流石に一人じゃ無理だと思ってな。悪りぃがこっからは一気に行かせてもらう!」
そう言って少女に向かって走り出す二人。だがそれは痛手だった。
少女は早く片付けたいため二人で一緒にくるのを待っていたのだ。故に、少女はこの時を待っていたように赫子をまとめて、二人を一緒に串刺しにしようとする。
しかし、ここで誰も予測することができなかった事態が起こった。それは、
「今だっ…‼︎」
晴人が何かを投げたと思ったら、投げたものが破裂して白い煙幕に少女と服部達が巻き込まれる。
「なっ!? 何だ!」
いきなり目の前が白く覆われ視界が機能しなくなったと思えば、
「!?」
自分のクインケから奇妙な音が鳴り、軽くなったので見れば、刃と持ち手部分が切り離されていた。
「…っ! どこにいる…!?」
これが少女の仕業ではないと、見抜いた服部はもう一人の喰種と思われる敵を探す。
「キャア!!」
「! どうした咲原!?」
服部が探してると、咲原が悲鳴を上げた。その悲鳴に振り向くが、真っ白で何も見えない。仕方なく、服部は悲鳴がした方へ近づくと、
「うっ」
「…!」
転んで尻餅をついた咲原と服部のクインケと同じく切り裂かれたクインケがあった。
(よし、上手くいった…! 後は顔を見られる前に、アイツを抱えて逃げるだけ‼︎)
何が起こったのかわからず唖然とする二人をそのままに、晴人は先程から茫然としてる少女を抱えてその場から離脱する。
「…逃げられたか」
晴人が走り去る音が聞こえ、それが徐々に遠ざかっていくため逃げたのがわかった。
◇
「はっ、はっ、はっ(よっしゃ! 大成功!)」
晴人は走りながら後ろを確認し捜査官が追ってきていないのを確かめる。二人はもう見えなくなっており追ってる気配もないので、完全に撒いたと見ていいだろう。そう思った晴人は立ち止まる。
「ふい~。どうにかなって良かったぜ。捜査官から逃げるための煙幕弾、持ってきて正解だったな」
晴人はいざというときに持ってきたのが功を成した事に安心していた。
「よし、念のためもうちょい遠くまで逃げるか」
そう言って晴人は先程から黙ったままの少女をそのまま抱え、また走り出す。
◇
「いっつつ」
「大丈夫か? 咲原」
晴人が逃げ去った後、残った二人は周囲を捜索しているのと同時に腹の内臓が殆ど無くなっていた遺体を片付けていた。
「ええ。大丈夫です。それにしても、私達を殺さず、クインケだけを破壊していったのは誰なんでしょう」
咲原は壊された自分のクインケを見てそう一人言とも取れる質問をする。
「…真っ白で何も見えなかったが、こんなことをする奴はこの地区では限られている。そして、クインケを瞬時に壊す程の腕前にあの『深窓のご令嬢』と戦っていたと思われる喰種。ともすれば、ありゃあSレート喰種『
咲原のその質問に服部はある程度の自信を持って答える。
「…! 『
「それは俺にもわからん。何せ、あいつらは喰種とはいえど、俺らと同じ思考回路だ。何をしにここに来たかなんて人間と同じように千差万別だ」
服部は晴人が去っていったと思われる方向を何か模索するように見る。
(…二人以上いるのはわかっていたが、まさか奴だったとはな。しかし、何故奴は俺らを殺さなかったうえに『深窓のご令嬢』を連れ去ったんだ? 奴に用があったからか? もしくは仲間だから…いや、無いな。奴はわからんが『深窓のご令嬢』は仲間を作らない。ならば一体…)
服部は晴人の意図を読もうとするが、喰種が考えることを人間である服部がわかるはずもなく断念するほかなかったのだった。
では、ご感想お待ちしております