「科学技術が進歩し、超能力が世界中に認知されている」なんてSF映画みたいな妄想も/backspace、「世界の影で、三大勢力が鎬を削る魔術師達の抗争が日々行われている」なんてファンタジー小説みたいな妄想も/backspace、結局のところ現実には存在しない/return。
誰もが夢見る不思議な力は、残念ながら血と怨嗟の歴史の上に積み上げられた『召喚儀礼』でしか成し得ないんだよね/return。
1999年、神話の神々よりもさらに奥。この世の全ての深奥に眠る存在が発見されたこの年が、人類の歴史を揺り動かすターニングポイントとなった/return。
そう/return。
そんな世界の、そんな悲劇/return。
誰にでもある絶望と、誰にでもない希望を抱えた貴方/return。
さあ、始めよう/return。
この世界のアリスはだあれ?/escape
(Opening X-01 Open 07/31 01:21)
トイドリーム。
それは財政破綻に陥った街を、とある外資系企業が買い取って巨大なテーマパークへと変貌させた国際再生都市。
その35番目となる旧名・
そんな夜道を、一人の少年が歩いていた。
歳は高校生くらいに見える。真っ白に色素が抜け落ちた髪、アルビノのように紅い瞳。首輪のように戒められたチョーカー。右手で現代的なデザインの杖をつき、左手で缶コーヒーが大量に入ったコンビニ袋を提げている。
不健康にやせ細った体躯は、触れれば折れてしまいそうな程に見ていて痛々しい。ことトイドリームにおいて、夜遊びする不良の格好の的になりそうな程だった。
事実、そうなった。
「へいへい、兄ちゃん。ちょっといいスかァ?ちょっとお金貸して欲しいんだけど」
ヘラヘラと笑いながら、不良達が五、六人、彼の元へ近づいて来た。
無言で通り過ぎようとした彼を、不良達が肩を掴んで引き留めた。
「おい、シカトこいてんじゃねえぞテメェ」
「…………」
少年はなお無言を貫いた。どころか、不良達を見渡して大きな溜め息すらつく始末だった。
あからさまに舐められた不良達が、こめかみをヒクつかせながら懐から得物を取り出した。
「オウオウオウオウ、俺ら相手にシカトこくなんていい度胸じゃねえか!?」
「兄貴を知らねえなんてとんだ田舎ヤローだぜ。いいか、兄貴は『垣根コーポレーション』の跡取り息子のマブダチなんだぜ?頼めば、いくらでもダークマター製の最新兵器を渡してくれんだよ。こんな風になァ!!」
そう言って、不良の一人が、少年の眼前のアスファルトを思い切り砕いた。あまりの威力に瓦礫の粉塵が舞い上がる。
不良の手に握られているのは、2メートル大の真っ白な鎌だった。数年前にダークマターという謎の物質が発見され、今では様々な技術に応用されている。とはいえ、それは大企業に限った話であり、たかが個人がこんな風に携帯できるような代物ではない。
不良の喧嘩のレベルを超えていた。あまりに強すぎる武器により、そこが殺人事件の現場になってしまう。
しかし。
そんな光景を目の当たりにしても、白髪赤目の少年は顔色を一つも変えなかった。
「引き金だ」
そんな呟きが聞こえた。
「オマエが引いた。末路も受け取れ」
あろう事か、少年は現代的なデザインの杖を逆手に持ち、棍棒のように大上段から振り下ろして不良の脳天へ叩き込む。一瞬の早業だった。
「ぎ、ァ……ッッ」
白目を剥いて膝から崩れ落ちる不良に弾かれたように、周囲の不良達がダークマター製の鎌を構え直す。殺気立つ不良達が、本当に殺しかねない勢いで白い少年へ向けて鎌を振り抜いた。硬度や重量といった概念を超越したダークマターは、切り結べば胴体を真っ二つに切断させる威力がある。
しかし、鎌は空を切った。
間抜けに鎌は虚空を空振りし、不良達は疑問符を浮かべる。
つい、一瞬前まで目の前にいた白い少年は、どこへ瞬間移動したのかと。
答えは、きっちり3秒後に炸裂音と共にやって来た。
不良達から10メートルほど後方。そこの地面に魔法陣が浮かび上がり、青く、薄く、儚く輝く立方体の檻の中に不良達は閉じ込められた。檻の中のあちこちに真っ黒な闇の塊が発生する。そして、檻の中を照らすミラーボールのように輝く真っ赤な塊。
「一辺が20メートルの立方体、38ヶ所のスポット、そして『薔薇』……兄貴、これって『人工霊場』じゃねえのか!?」
「そうだ。間違いねえ!!……まさか、まさかテメェ……『召喚師』か!?」
不良達が顔色を変えて絶叫を上げる。
対する白い少年は、杖を逆手に構えていた。そんな彼の姿勢を支えるように、いつの間にか彼の横に黒いマントを羽織った金髪の少女が寄り添っていた。
「はぁ……先生、またただの不良相手に『
「違ェよ。こいつらは通りすがりの俺に声をかけてきた。アワード保持者、『召喚儀礼』の関係者だ」
少女は体のあちこちをベルトで締め上げていた。それは彼や彼女にとって特別な意味を持つ象徴だ。物理的ではなく、精神を戒めるための拘束具。
「に、逃げろ!!こいつら『召喚師』と『依代』だったんだ!!俺らじゃ敵わねえ!!」
大声を上げて逃げ出す不良達だったが、立方体の側面にぶつかって足を止める。体当たりしても、ダークマター製の鎌で何度も殴りつけても、その檻は絶対に壊れる事はない。
パニックのまま腰を抜かしてその場にへたり込んでしまった男は、背後の白い少年を見返してハッと表情を一変させた。
「お、思い出した……男か女か分かんねえぐらい細い体、杖をついて歩く障害者、白髪赤眼の召喚師……お前、『蟻塚計画』の唯一人の生き残り、アワード972『
問いに、少年ではなく金髪の少女が口を開いた。
「その情報を知ってるって事は、君達は、まさか本当に……」
「さっきそォ言っただろォが。さっさと構えろ、エステル。ここで拷問して吐かせンぞ」
白い少年は少女の答えも聞かず、虚空より浮かび上がった白い球体を現代的なデザインの杖で弾き飛ばした。まるでビリヤードのキューでボールを弾いてポケットに入れるような気軽さで、杖に弾かれた白球は頭上へ直進していき、ミラーボールのように紅く輝く塊に直撃した。
瞬間、赤のミラーボールが砕け散り、檻の中に発生した闇に赤い破片が吸い込まれていく。
変化はあっという間だった。金髪の少女の輪郭がにゅるりと揺らめき、絵の具をかき交ぜるかのようにぼやけたかと思った直後、その姿形が3メートル大の巨大な粘液の塊と化していた。
見る者を正気ではいさせない、冒涜的な化け物が顕現する。
「緑色のスライム……最弱シリーズの『
それが不良達の最後の言葉になった。
粘液の塊と化した少女は、その体を捩って錐のように鋭く尖らせ、不良達を次々と吹き飛ばしていく。冗談抜きに、粘液の塊が軽く撫でただけで人間の体が軽々と宙をかっと飛んだ。最新鋭のダークマター製の鎌なんて棒切れのようにへし折られ、そのままノーバウンドで10メートル以上も吹き飛ばされる。
文字通り、瞬殺だった。
気絶して泡を吐く不良達を尻目に、檻が解除される。同時に、少女の姿も緑色の粘液の塊から元の人間の姿に戻った。
「手加減はしたけど、数人は顎を割ってしまったかもしれない」
「上出来だ。一人でも喋れる状態ならそれでいい」
言いつつ、『
「不味いな…」
「?その缶コーヒーがですか?」
「……どこまでもズレてやがるな。コーヒーじゃねェ、
「先生はいつも説明不足で分からない。一から教えて下さい」
「……面倒臭ェ。俺はアジトに戻る。オマエは不良共を適当に選んで運べ」
「あっ、待ってください先生!ちょ、ちょっとー!!」
杖をついて先を行く
【Facts】
◆犯した罪は償えない。だからこそ、この世に正義が生まれ続ける。