未踏召喚://インデックス   作:白滝

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ステージ01 広く流離う者

(Stage 01 Open 07/31 09:17)

 

 

 

 朝食を終えた打ち止め(ラストオーダー)は二の句を言わせず一方通行(アクセラレータ)に向けて不満をぶつけ始めた。

「ミサカも一緒に外へ遊びに行きたい!ってミサカはミサカはあなたの心に超重い錨を降ろしてみる。行かないで!!」

「駄目だ」

「なーんーでー!!!!」

 一方通行(アクセラレータ)がチラリとエステルの顔へ目をやる。打ち止め(ラストオーダー)を説得しろ、という無言の圧力だった。自分でやって欲しい、という想いはエステルは胸の内に仕舞っておく。

「ほら、打ち止め(ラストオーダー)は一昨日迷子になっただろう。R区画の地図を覚えるまで大人しくしていよう。ね?」

「迷子になんかなってなーい、あれは未知への探求だー!ってミサカはミサカは心臓の前に拳を当てて軍人さんみたいに敬礼してみる」

 嫌だ嫌だと喚く打ち止め(ラストオーダー)をなだめるのは難関だ。何せここは巨大なテーマパーク、トイドリーム35。朝から晩まで遊び尽くしてもまだ足りないほど娯楽に溢れ返っている。

 目の前にこれほどの玩具が転がっているのに部屋でずっと籠っていろと諭すのは、確かに可哀想ではある。

「遊びじゃねェンだ。新しいアジトを捜しに不動産店を回る。終わったらすぐに帰宅。どこにも寄らねェぞ」

「別にそれでも構わない!ってミサカはミサカは希望の光を絶やさないんだから。だって、トイドリーム35には道のあちこちに屋台があって楽しめるもん!」

「それも寄らないぞ。先生が人混みが嫌いなのは打ち止め(ラストオーダー)も知ってるだろう?」

「大丈夫、そんな人付き合いが苦手なあなたのためにミサカがここにいるんだよ、ってミサカはミサカはあなたにエールを送ってみたり」

 頑なに姿勢を崩さない打ち止め(ラストオーダー)を前に、エステルが困惑の表情を一方通行(アクセラレータ)へ返す。

 とはいえ、いつどこで打ち止め(ラストオーダー)が敵の襲撃に遭うのかも分からない。そもそも『背中刺す刃』の情報によれば、ずっと以前からこちらの動向を監視されていた可能性もあるという。ならば、常に目の届く範囲にいた方が良いのかもしれない。このアジトが『ガバメント』側に既に特定されている可能性もなくはないのだ。

「……しょうがねェ。いいか、俺より5歩以上離れるな。言う事を守れるならついて来い」

「!?やったー!!ってミサカはミサカは自分の交渉能力に天賦の才能を感じてみる!」

「え、先生、いいんですか?」

「オマエはガキと一緒に手ェ繋いで歩いてろ。俺も念を入れておくが、オマエも周囲の警戒も怠るな」

「分かりました。ほら、打ち止め(ラストオーダー)、手を繋いで一緒に……って、あああああああ!?もう行ってる!?」

 ひゃっほー!と玄関から駆け出していく打ち止め(ラストオーダー)を慌ててエステルが追い駆けて行く。一方通行(アクセラレータ)励起手榴弾(インセンスグレネード)を詰めたウエストポーチを腰に巻き、靴を履いて部屋を出た。

 彼らの部屋はマンションの7階にある。打ち止め(ラストオーダー)と彼女を追い駆けたエステルは、二人でさっさとエレベーターに乗り込んでしまっていた。

「…………」

 杖をついて歩く一方通行(アクセラレータ)には追いつく事もできない。一人でぽつんと溜め息を吐いた。

 エレベーターが1階まで下り、再び7階まで上昇してくる。ピンポーンという乾いた電子音と共に、扉が左右に開いた。

 中には既に青年が一人乗っていたが、彼がこの階で降りる気配はない。一方通行(アクセラレータ)は階数表示に視線を移したが、エレベーターは下方向きでもう一度下り直すだけだ。これ以上、上の階層まで上らない。

「押し間違えたか?オマエが先に行って良い」

 そう声をかけた一方通行(アクセラレータ)に対し、エレベーターに乗ったままの青年は『開』のボタンを押し続けながらこう返答した。

「いや、ここが目的の階だ。そして、目的の人物にも会えた。さあ、乗ってくれ」

「…………」

 一方通行(アクセラレータ)は目を細めて青年を観察する。

 女性のように長い、腰まで届く長さの金髪。蒼い双眸に、好戦的な笑み。ストールとボトムスは黒く、トップスと靴は黄色。X字に重ね掛けしたベルトと手袋は紫。外見だけみれば女性のような体躯だが、それを払拭するようなぐつぐつと煮える獰猛さが全身から漏れ出している。

「メイドも召使いも頼ンだ憶えはねェな。人違いだ」

「いーや、間違っちゃいないねえ。白髪赤眼の召喚師、『イリーガル』アワード972『一方通行(アクセラレータ)』―――――アンタの姿を目にしなくても、その瞳の奥を覗き込めばハッキリ分かる。俺と同じ、世界に歓迎されていない人間特有の淀んで屈折した光が灯っている」

「そりゃ結構。嫌われ者同士、お友達にでもなれると思ってンのか。御託はいい、用件を言え」

 ここまで挑発的に構えられれば、気付かない方が難しい。金髪の青年は『ベツレヘム計画』主導者の尖兵と見て間違いない。『ガバメント』に雇われた高アワードの召喚師。見た所一方通行(アクセラレータ)の近くに青年の依代の気配はないが、その気になればいつでも臨戦態勢に移れるだろう。

 しかし、だとすれば疑問が浮かぶ。

 こちらの考えを読むように、金髪の召喚師がニヤリと笑った。

「ここまで用意周到に先回りできた俺が、どうしてエレベーターで打ち止め(ラストオーダー)とエステル=ローゼンタールを見逃したのか、って考えてんだろ?」

「……善人気取りか。その甘さは嫌いじゃねェが、発言には気を付けた方が良い。返答次第ではオマエをブチ殺す事になる」

「お前のその殺気、俺も嫌いじゃねえよ。まぁ安心しな、俺は『ガバメント』に雇われちゃいるが、所属は『フリーダム』だ。今回の依頼に関して好きなようにやらせてもらう事になってる。何より、女子供を人質に取るのは俺の主義信条に反するんだ」

 典型的な『フリーダム』所属の召喚師だ、と一方通行(アクセラレータ)は断じた。横や縦の繋がりが皆無で組織としての形態が維持されていない『フリーダム』らしく、金や名誉を貴ぶ常識的な価値観が抜け落ちている。

「何より俺は『経験値』が欲しい。金でも善行でも満たされないこの心を、唯一癒してくれるのは『召喚儀礼』の闘争だけだ。そして目の前に立っているのは、『ガバメント』を半壊させたあの『0930事件』を引き起こした張本人、『蟻塚計画』の生存者だって言うじゃねえか……ゾクゾクが止まらないねえ」

 そう言って、金髪の召喚師はエレベーターの『開』のボタンから指を離した。

「アンタには召喚師として勝負を挑んでから依頼をこなす。人質なんてセコイ真似せず、堂々と殺らなきゃ楽しめないってモンだろう!―――――なぁ、フロイライン!!」

 金髪の召喚師の声に、反射的に後ろを振り向いた。

 マンションの外、柵を乗り越えるかのように、長い銀髪でワンピースを着た少女が彼の首を背後から締め落としにかかった。

(クソが―――――1階からよじ登って来やがったってのか)

 このマンションは直方体の中心に縦に穴を空けたような「ロ」の字のような構造になっている。その中央の空間からの攻撃だった。見れば、マンションの柵の傍らには屋上の貯水槽から伸びる水道管のパイプが続いている。これを伝って登ってきたのだろう。何者か分からないが、状況から考えて金髪の召喚師と契約を交わした依代と見て間違いないだろう。

 少女の腕力に負ける訳ではないが、不運にも一方通行(アクセラレータ)は杖をついている。利き手ではない左手で、フロイラインという少女の両手を振り払うのは難しい。

 なにより、

「――――死ぬ気で避けないと死んじまうぜ?」

 エレベーターから降りて走り込んできた金髪の召喚師が、軸足を中心に回し蹴りを放つ。首を刈り取るようなハイキック。フロイラインに背後から纏わりつかれたこの状況では身動きが取れない。喉を潰されてそのまま絶命しかねない。

「チッ―――――」

 だからこそ、一方通行(アクセラレータ)は回避を諦めた。杖を支えに踏み台にして、自分の腰を柵の上に乗り上げる。そのままギロチンの刃のように迫り来る金髪の召喚師の蹴りを左肩で受け止めた。

 パァン!!と、蹴りの衝撃に押され、一方通行(アクセラレータ)の体が柵から転げ落ちた。マンションの7階から、頭を下にして落下する。

 流石に予想外だったのだろう。金髪の召喚師の表情が驚きに染まるが、そんな相手を待ってやる義理は一方通行(アクセラレータ)にはない。空中で身を捻り、7階の召喚師を視界に収めたまま腰のウエストポーチから励起手榴弾(インセンスグレネード)を取り出して頭上へ放り投げる。

 『召喚儀礼』には様々な法則があるが、中でも励起手榴弾(インセンスグレネード)の使用時にはとあるルールが存在する。

 "―――――励起手榴弾(インセンスグレネード)を使用した際、その使用者は炸裂地点に引き寄せられる。"

 つまり、重力や空力を無視して瞬間移動ができるのだ。昨晩、不良共の前から消えてみせたのもこの原理のためである。

 マンションから落下しようが、墜落前にワープしてしまえばいい。それを見越して一方通行(アクセラレータ)は飛び降りたのだ。

 しかし、

「無駄です。炸裂に、3秒は、かかります。間に合いません」

 背中に纏わりついたまま一緒に落下しているフロイラインが耳元でそう呟いた。

 彼女の言う通りだ。7階という高さなら、2秒程度で地面に墜落してしまう。励起手榴弾(インセンスグレネード)が炸裂して不可視の引力に身を委ねる前に、一方通行(アクセラレータ)は地面の血溜まりと化しているだろう。

 そして、一方通行(アクセラレータ)もそれを理解していた。

 現代的なデザインの杖を握りしめ、外から見えない持ち手内部のトリガーを指でスライドする。

 直後、杖が2メートル大へと一気に伸長した。マンションの柵へ物干し竿を引っかけるような要領で、3階の柵に一方通行(アクセラレータ)はその身を引っかけた。

 同時、ぐん、と落下の慣性がかかり、彼の背中にしがみついていたフロイラインが振り落とされた。ギシギシと杖が不気味にしなったが、この杖はダークマター製なので硬度や柔軟性に問題はない。

「へっ―――――やるな。そうでなきゃ困るが」

 7階から見下ろしていた金髪の召喚師が不敵に笑ったのと同時、8階の壁面で励起手榴弾(インセンスグレネード)が炸裂した。

 一辺が20メートル大の『人工霊場』が発生する。直後、不可視の引力に導かれて一方通行(アクセラレータ)の体が宙を舞った。『人工霊場』はマンションを丸ごと一つ包むような檻となる。

 マンションの外から不可視の引力に引き寄せられたエステルが、訳が分からないといった表情をしながらも臨戦態勢を取った。

「せっ、先生!?これって、一体、」

「寝ぼけてンな。『ガバメント』の召喚師だ」

 二人はマンションの柵に垂直に立っていた。そう、『人工霊場』の床からは疑似重力が発生する。この空間では、本来の重力とは異なる重力で全てが支配されるのだ。

 対して、重力が変更された今、『人工霊場』の天井側から金髪の青年が(ゆか)に飛び降りてきた。その手にはマンションの水道管のパイプが握られていた。手頃な長さに引き千切り、その鉄パイプをブラッドサインとして扱うつもりなのだろう。

「依代の女の子とはさっきエレベーターを乗り降りする際にすれ違ったかな?」

「き、君は……!?」

 『人工霊場』の奥から、金髪の召喚師の依代、フロイラインもやって来た。

 二組の召喚師達が、ブラッドサインを構えて対峙する。

「自己紹介から始めようか。俺は『フリーダム』アワード901『広く流離(さすら)う者』―――――もしくは『雷神トール』と呼んでくれ」

 

 

 

 




【Facts】


◆一方通行はかつて『0930事件』という大事件を招き、『ガバメント』を半壊させた過去がある。

◆励起手榴弾によって人工霊場を展開される。炸裂時、召喚師と依代は人工霊場の中心に引き寄せられる。人工霊場の床からは疑似重力が働き、壁の側面に立つ事もできる。

◆『ダークマター』という未知の物質が発見され、『垣根コーポレーション』によって家電から小道具、軍事兵器に至るまで様々な技術に応用されている。その詳しい原理は不明だが、従来の物理法則に捉われない不思議な性質を示す。

◆雷神トールには様々な呼び名があり、「広く流離う者」もその一つ。




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