「打ち止めを呼び捨て」など。
(Stage 03 Open 07/31 10:43)
捕縛した雷神トールとフロイラインからは、有益な情報を得られなかった。アジトの部屋に置いてきたが、彼らは『フリーダム』の召喚師なので共謀者はいないだろう。
「『ガバメント』に雇われただけの個人召喚師ですし、予想はできていましたけど」
「そんな仕事の話はいいの、エステルは休んでて、ってミサカはミサカはあなたの体を心配してみる」
「これくらいへっちゃらだぞ、
「んんーー……」
「もう、あなたがついていたのに守ってあげられなかったの?ってミサカはミサカはプンスカプンスカと擬音を交えてやり切れない想いを表現してみる」
「そりゃ俺の力不足で悪かったな」
「せ、先生も気にしないで下さいね?しょうがなかったんですから」
もちろん
「着いたぞ」
そうして、目的の不動産店の前に到着した。マンションのあった区画からモノレールで2駅分離れた複合ビルの6階。『表』の店では『ガバメント』にビッグデータを嗅ぎつかれ追跡される可能性があるため、彼の所属する『イリーガル』に内通した不動産店を選んでいた。
「いらっしゃいませ~」
そのため、内装は通常の不動産店と同じだが店員の恰好は全く異なる。金髪の巻き髪に、スーツとは程遠い……どころかもはや水着と露出度が大差ないパレオのような衣装を着た妖艶な女性が
「……あら、珍しい子が来たわね。そろそろ夏も終わりだし、お姉さんと大人の思い出でも作りに来たの?」
「ここは不動産店だ。物件探し以外にやる事あンのか?」
オリアナ=トムソン。
『
彼女自身はアワードを持たないため普通の客に対しては普通に接し、召喚師が客として現れた時に限り『召喚儀礼』に関する記憶を思い出して彼ら向けの応対をする。故に、一枚岩ではない『イリーガル』内でも彼女は顔が利き、ほぼ全ての組織と面識があると言われている。
「そう、残念。まぁ後ろにそんな可愛い子達を連れられていたらお姉さんに勝ち目はないかしら?」
「「そ、そういう関係じゃないです!」」
何故かハモって否定する
「楽しそうじゃない」
「そォ見えるか?眼科を紹介してやる」
「『ガバメント』に追われてる。3週間ぐらい間借りできる部屋を探せ」
「ランクは?」
「A+以外を俺に提供する気か?」
太々しい彼の対応にも慣れた素振りで、オリアナはパソコンを操作していく。
そんな様子を少し離れた待合席で見守る
そんな折、ぐー、と腹の虫が鳴った事で、
「先生。そろそろお昼時ですし、話が長引くようなら私がご飯でも買ってきましょうか?」
「……オリアナ、この物件は?」
「駄目よ。あなたより条件の良い先客が予約してるもの。諦めて」
「……だ、そォだ。長引くな。飯を頼む」
と、エステルの後に続いて
「ミサカもエステルと一緒に散歩に行きたい、ってミサカはミサカはあなたに――――」
「駄目だ、ここにいろ」
「………、」
「先生、流石にこんな早く『ガバメント』がここを特定する訳がないですよ。尾行にも気を付けてここまで来ました。刺客は数人しか派遣されていないって話ですし、この広大なトイドリーム35でバッタリ出くわす可能性だって、」
「駄目だと言った。我慢しろ」
「………、………」
うるうると涙が溜まり始めた
「ちょっと過保護じゃないかしら?」
「俺とガキの問題だ。オマエには関係ねェ」
「その子が大切なのは分かるけど、誰もがあなたのように心の贅肉を削ぎ落せるもんじゃないでしょう」
「そォいう議論をしている状況じゃねェンだよ」
オリアナは溜め息をついて、何かを逡巡した後に言葉を選ぶようにして呟いた。
「『グループ』とは違うのよ」
「………………その名前を、出すな」
空気が、凍った。
対して、オリアナ=トムソンは冷ややかに受け流す。
「その子の人生に寄り添う気があるなら、もうちょっと肩の力を抜いてもいいんじゃないかしら?眩し過ぎて触れるのが怖いの?生憎と、あなたよりも芯の強い子だと思うわよ」
「…………」
「……俺はここで交渉を続ける。……遠くへ行き過ぎるな。何かあったらすぐに電話しろ」
諦めたような彼の一言を受け、
「ありがとうございます、先生!」
「あなたとおばさんにもお土産買って来てあげるからね!ってミサカはミサカはこの喜びを全世界と共有したい!」
おば…、と一瞬こめかみがチリっとしかけたオリアナを他所に、二人で昼ご飯の買い出しに向かっていく。
去りゆく二人を店から見送った後、オリアナは何の気なしに呟いた。
「まだ『グループ』の子らとは会うの?」
「『ベツレヘム計画』を機に顔は合わせてねェ。情報屋の男に電話で依頼するぐらいだ」
「そう……」
オリアナも深くは触れなかった。何事もなく、彼らは物件の交渉を再開した。
「これとかあの人は好きそうだよ!ってミサカはミサカはお土産にかこつけて自分の欲求をオブラートに包んでみたり!」
「もうお金はないぞ。先生に怒られるから駄目だ」
「えーーー」
複合ビルから徒歩3分もない道に広がる屋台で、エステルと
「さあ、帰ろう。あんまり遅いとまた先生が心配するから」
「むぅぅぅうううう……」
悪足掻きをみせる
「あ、す、すみません!大丈夫ですか?」
12歳くらいの金髪の少女は高級そうな白のブラウスとスカートを着ていたが、それが転んだ拍子に手に握っていた苺ソフトクリームを落として服を汚してしまっていた。見たところ、かなりのお嬢様のように伺える。
わなわなとその場で震える少女にどんな顔をすれば良いか分からず、狼狽えながら「すみません」を繰り返すエステル。そんな彼らに向けて、少女の保護者のような礼服の男性が近寄って来た。
うわ、弁償かー、先生に何て言われるんだろう!?と頭を抱えそうになったエステルに対し、礼服の男性は思いがけない言葉を放った。
「……ボス自ら尾行を志願しておいて、ターゲットに迂闊に接触されちゃってどうするんですか……?」
「私のミスではない、不可抗力だ!!どうもこうもあるか!!……私は、牙を剥いた者にはそれ以上の然るべき報いを与える人間だ」
エステルは違った。ただ、ヤバイという直感に従った。
咄嗟に買い物袋を礼服の男性に投げつける。そのまま
その判断は賢明だった。
「服を汚した恨みだ。ここで死ね」
直後、景色が一刀両断された。
アスファルトを転がりながら身を起こすエステル達の前に、金髪の少女が握っているのはその身に不釣合いな氷の大剣。まるで『
「――――『ガバメント』の刺客!?いや、でも、『人工霊場』無しでそんな力が……ッッ!?」
「ほう、すぐにそこに気付くか」
少女が再び氷の大剣を振るう。状況が掴めず硬直するエステルだったが、
「
「でも!!」
「先生との約束でしょ!二度としない、って!!」
そう言って、
「、ふっ」
先ほど屋台を回って新調したナイフを引き抜き、エステルは男性の靴をナイフで斬り払って二人から距離を取る。急いで片手を尻ポケットに突っ込み携帯電話を漁るが、そこにあるはずのものが無い。
「探し物はこれですか?」
いつの間にか、礼服の男性がエステルと
それをアスファルトに落として、靴で踏み潰す。
「……さっきの交差の中で、足を犠牲にしてまで私達のポケットから電話を掠め取ったのか?セクハラで訴えられても文句は言えないな」
「私だってくるぶしが切られたんだから正当防衛ですよ。……まぁ、ボスの下じゃあ逆セクハラなんて日常茶飯事ですが」
「マーク、主人のやり方に不満があるのならこの場で決闘を受けてやってもいいんだぞ?」
つまり、
「……ミサカの霊媒体質を警戒してるっぽい、ってミサカはミサカは推測してみる」
だとすれば『人工霊場』を展開される事はないかもしれない。とはいえ、『人工霊場』無しに氷の大剣を操る少女が脅威である事に変わりない。
「……あなた達は『イリーガル』だな?」
「ほう。どうしてそう思う?」
「私達のアジトを出てからまだ一時間弱。ビッグデータを追跡しても『ガバメント』がこんな早く私達を特定できる訳がない。なら、別件で私達を追っていた勢力になる」
「なるほど、あのアワード972『
褒美だ、と、上からの物言いで少女は名を告げた。
「『イリーガル』アワード771『
バタバタとプロペラを羽ばたかせながら、トイドリーム35の上空をヘリが数機も飛んでいた。機体の下から広告用の垂れ幕が吊り下げられている。
そんなヘリさえ見下ろせる程高い高層ビルの屋上で、街を眺める二人組がいた。
「トイドリーム、か。好かんな」
「第一の質問ですが、あなたが何かを好きだと評価するのを私は見た事がありません。単純に世の中が嫌いなのでは?」
「ハッ…言い得て妙だな。否定はしないでおく」
そう言って、取り出したのはパイナップル型の球体。
「行こうか」
「間に合うといいですね」
バードウェイと名乗った少女は、3メートル大の氷の大剣を軽々と振り回す。それを寸での所で躱しながらエステルは分析を図る。
「
バードウェイが握っているのはただの魔術剣。だが、それを包み込むようにして氷がコーティングされている。
封入された『
「一撃で地面を抉り砕くこの威力、『召喚儀礼』を始める前に敵を倒してしまうからアワードが低い、ってのは噂通りのようだ……!!」
「アワードなど何の指標にもならん。私は、自分の人生を大三角の未踏級に捧げてやる程お人好しでも暇人でもないんだよ」
「エステル、何とか隙を作れない?その隙にミサカがあの人を呼びに行ってくるよ、ってミサカはミサカは提案してみる」
「……うん、それしかないな」
「よし、行ってくれ!!」
氷の大剣が眼前のアスファルトを砕いた拍子に、立ち上る砂煙に乗じてエステルは細い路地へ
「それで逃げれると思うか?」
粉塵のカーテンを斬り払うように、バードウェイは横凪に氷の大剣を一閃する。
しかし、ガキッ!と硬質な衝突音と共にその刃が途中で止まった。
晴れる砂埃の中から現れたのは、土の壁をドーム状に数枚展開しているエステル=ローゼンタール。
それは土砂をイオン吸着して纏う岩石の盾だ。
「ほう、ダークマター製の玩具か。興味深い、名は何という?」
「『死者の鎧』とでも呼んでくれ――――そして、これで攻撃力も上がった」
一転攻勢。バードウェイの間合いにエステルが自ら飛び込み、拳を振り被る。
対するバードウェイに動揺はない。ダークマター製の兵器がいかに優れていようと、彼女の操るブラッドサインは神格級の『
両者の得物が眼前で激突した。
「!? これは……」
『死者の鎧』が氷の大剣と正面から鍔迫り合った。
『死者の鎧』は脆い。ただし、破壊されながらも同時進行で地面から土砂を吸着して修復している。言うなれば、再生する鎧。
「あなたが所構わずアスファルトを砕いたお蔭で、私も土砂を利用できた。感謝しておく」
「……ふん、言ってくれるじゃないか」
もはや岩のガントレット。エステルの拳に弾かれたバードウェイが後ろに飛び退いて距離を取る。
(……本当は雷神トールとの対決で使えたら良かったんだけど)
あの時はマンションの上空での戦闘。土砂を利用できない地形だったのが悔やまれる。
とはいえ、『死者の鎧』を使えれば何とか互角に相対できる。
エステルがバードウェイに接近し、その岩の拳と氷の大剣が激突を繰り返す。単純な火力では群を抜いてバードウェイが優勢。しかし、武術の心得がないバードウェイに対し、巧みにフェイントや牽制を放つエステルが彼女を錯乱させる。
苦虫を踏み潰したバードウェイに、
「手詰まりか?もう手がないのならば、お引き取り願いたい」
やれる。
エステルはそう思った。
「……仕方がない。アレをやれ、マーク」
「了解です」
そう呟いたバードウェイが、目の前に同時に3つの
「……!?」
慌てて全てを拳でプレスし、炸裂前に処理し切る。見れば、バードウェイはエステルから一目散に距離を取っていた。
困惑する。
疑問を処理できない彼女の頭上で、バタバタとヘリコプターが集まってきた。宣伝広告用の垂れ幕を下げて上空を巡回しているのだろうが、それにしても密集のし過ぎではないか。
直後、全ての疑問が払拭された。
数機ものヘリコプターから投射された光が、エステルの眼前で重なり合う。浮かび上がるのは5メートル大の魔法陣。
「これ、は――――――――!?」
回避は間に合わないと悟った。慌てて周囲の土砂をかき集めて『死者の鎧』を厚くする。
エステルの眼前、魔法陣に異形の存在が浮かび上がる。
皮膚という概念を失ったのっぺりとした少女のような外見。手足は原型を失い刃物のように尖っている。頭頂部から伸びるのは黒い避雷針。その表情は闇に包まれて判然としない。
未踏級の『
顕現と同時、その威光が炸裂した。青白い電光がスパークし、周囲を切り裂きながら電光が駆け巡る。電撃が空気を焼いて熱波が津波のように辺りを席巻した。
『死者の鎧』では防ぎ切れずに砕け散り、その身が風圧に叩かれる。数メートルも地面を転がされたが、幸い、エステルは命を取り留める。2発目を撃ち込まれたら、五体満足でいられる自信はない。
「これは、『投射式召喚爆撃』……!?」
依代を用いずに『
ただの『なんとなくすごい』という威光が、矮小な人間にとっては劇物なのである。一度でも浴びれば焼き焦げて絶命する。
「ボス、この子はどうしましょう?」
「必要ない。ここで潰して
離れた場所で二人のやり取りが耳に入った。
上空からのレーザー測距を行い、プロジェクターマッピングで投影するなど金のかかり方が尋常ではない。バードウェイは『イリーガル』の中の組織の一つ、『明け色の陽射し』を統括するボスだ。広告用ヘリに偽装した彼女の兵器を上空に待機させておいたのだろう。大組織にしかできな大胆な戦力。
そして何より、
「デタラメ過ぎる……『召喚儀礼』をまともに扱う気が感じられない……」
『召喚儀礼』とは、異世界の住人『
ぼおっ、と。彼女の眼前に再び光の魔法陣が投影される。
もう『死者の鎧』はない。走って逃げ切る時間はない。
一瞬先の未来を予想し、迫り来る死を受け止めて目を瞑る。
「―――――――誰が死ンで良いと言った?」
そんな声が、頭上から聞こえた。
思わず目を開けたエステルの上空で、ヘリコプターのプロペラに向かって2メートル大の長い杖が飛んでいく。杖は
ギシリと機体がバランスを崩す。プロペラに巻き込まれるが、ダークマター製の杖は絶対に折れない。浮力を失ったヘリコプターが進路を崩し、隣にホバリングしていた機体に衝突する。2機、3機と次々と煙を上げて墜落していった。
当然、重なり合うプロジェクターマッピングの投影がズレて魔法陣は消失し、『紫電の淑女』は顕現しない。
「―――――先生……ッッ!!」
「遅くなった。立てるか?」
「問題ないです。あの、
「オリアナに預からせた。心配すンな」
エステルの手を引いて立ち上がらせたのは、彼女の召喚師、『イリーガル』アワード972『
対して、彼らの前にバードウェイ達は現れた。
「やあやあ、まさか杖1本でこの布陣を壊滅させられるとは思ってなかったよ
「三下の名前はすぐに忘れちまうもンだ。余計な手間は省こォじゃねェか」
挑発し合う彼らの間に、マークが割って入った。
「とはいえ、あなたはたった今、自分のブラッドサインをヘリへ投げ捨ててしまったでしょう?実は我々も先ほど、ボスが手持ちの
「何が言いたい?」
「今日はここで『分け』にしませんか、という提案です」
二組の間で、沈黙が落ちる。
「断る。"―――――牙を剥いた者にはそれ以上の然るべき報いを与える"、ガキから聞いたが、オマエの言葉だったらしいな。生憎、俺も似たよォな生き方をしている」
彼の言葉を受けて、エステルはナイフを再び構えて臨戦態勢に移る。
溜め息をついたマークとは裏腹に、好戦的な笑みを浮かべるバードウェイも氷の大剣を構えた。
対峙する両者が、互いに地を蹴る。
その、寸前。
両者の中間地点に、コツンと
直後、一辺が20メートルの『人工霊場』が発生し、両者が檻の中に閉じ込められる。
「えっ、これって―――――」
戸惑うエステルを制止させ、
いつの間にかそこに、赤髪に朱い装束の青年と、ワンピース型の拘束服を着用した、赤い外套を羽織った少女がいた。リード付きの首輪をしている事から、その役割も察せられる。
「『イリーガル』同士の醜い身内争いも興が乗るが、俺様の管轄域で派手に遊ばれるのは頂けないな。咎める気はないが、俺様も一枚噛ませてもらうぞ?」
そう言って、どこまでも赤い二人が名乗りを上げた。
「『ガバメント』アワード994『聖なる右』。本命はそこの
【Facts】
◆オリアナ=トムソンは『イリーガル』所属の依代。一方通行が『グループ』に所属していた頃を知っている模様。
◆『明け色の陽射し』のボス、バードウェイは一方通行と同じ『イリーガル』所属。ただし彼とは敵対勢力。
◆バードウェイはエステル達の尾行の途中に腹が減ってソフトクリームを買い食いしていたら迂闊にも彼女達とぶつかった。本当はもう少し泳がせておくつもりだったけど照れ隠しも兼ねてエステル達を殺しにかかった。
◆打ち止めの『戒めの象徴』は手首に巻いたミサンガ。これが切れた時に霊媒体質を発揮するらしいが、一方通行に止められている。
◆「紫電の淑女」の姿は、そこはかとなく短髪の少女に見えなくもない。年齢は中学2年生程度。