未踏召喚://インデックス   作:白滝

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ステージ04 敗北は勝利より易し

(Stage 04 Open 07/31 12:13)

 

 

 

 『人工霊場』に発生する『薔薇』と、36ヶ所の『スポット』。同時、3つの『白棘』がそれぞれの召喚師の前に浮かび上がった。これをブラッドサインで弾いて『薔薇』を粉砕するのが『召喚儀礼』の第一ステップだ。

 だが、3組の召喚師は揃いも揃って全く別々の動きを取った。

「エステル」

「はい!」

 具体的な指示は要らない。一方通行(アクセラレータ)の声色で彼の意図を察したエステルが、ナイフを構えてバードウェイに向かって突進する。

「ボス!私が、」

「たわけ、貴様は『ガバメント』の相手だ」

 対照的に、こちらは意思疎通に一手必要とした。バードウェイは氷の大剣を振り被るが、エステルの凶刃から彼女を守ろうとしたマークがその身を彼女の眼前に滑り込ませる。邪魔だ、と不機嫌に呟いたバードウェイに彼は尻を蹴飛ばされて、『聖なる右』の前に転がり出された。

「第二の質問ですが、私はどう動けば?」

「ガキでも答えを知ってる質問だ。『かかってきた奴から潰す』、世界の摂理だ」

 赤い拘束服の少女が腰からノコギリやハンマーを引き抜いたのを見て、マークは涙目になりながら攻撃に備えた。鉄板仕込みの革靴を振り抜き、彼女の武器を捌き切る。

 同時、バードウェイの氷の大剣がエステルの腰を真横に一閃しにかかる。

 エステルには『死者の鎧』がなく、ただのナイフでは受け止める事ができない。しかし、マークを蹴飛ばして重心の崩れたバードウェイの姿勢から、次に迫り来る大剣の軌道を彼女は予測していた。

 背中の黒いマントを翻し、カーテンのように壁を作って彼女はその身を隠す。氷の大剣がマントを真横に斬り払った時、その裏に隠れていたはずのエステルはバードウェイの視界から消えていた。

「どこに―――!?」

「ただのトリックだよ」

 真下からエステルの声が響き、バードウェイは自分の足元に視線を下ろす。

 真下に、いた。

 マントでその身を隠した後、彼女は地面を這うトカゲのように超低空姿勢で地面を滑っていたのだ。

 気付いてからでは遅い。真下からエステルの投げ放ったナイフを、バードウェイは首を逸らして寸でのところで回避する。前髪が数本、宙を舞った。

「悪いが借りるぞ」

 直後、彼女の右手が万力のように締め上がる。エステルの両足がバードウェイの腕に巻きつき、肘の関節を砕きにかかった。

 痛みに怯み、氷の大剣を手放してしまう。彼女の手から離れ、氷のコーティングが瞬時に融解してただの魔術剣に戻った。

「先生!!」

 落下する魔術剣を空中でキャッチし、何やら携帯電話に向かって独り言を話す一方通行(アクセラレータ)へ向けてエステルが魔術剣を投げる。

 これで、ブラッドサインを失った窮地から彼は脱する。

「ちょこざいな」

 バードウェイは呟き、背中に隠していた物を引き抜いてエステルの眼前に突き付ける。それは骨董品クラスの短銃。

「ブラッドサインが1本だけだと思うなよ」

 パァン!!と、バードウェイの手にしたフリントロック銃が火を噴き、間近にいたエステルから血飛沫が舞った。

「ぐ、ゥ―――」

 それでも咄嗟に身を捻り、心臓を狙いを外して肩に直撃したのは幸いだった。1発1発を弾込め式にしているフリントロック銃に連射性能はない。肩を押さえてエステルが後退し、一方通行(アクセラレータ)の傍に近寄る。

「騒がしい奴らだ。もう少し優雅に振る舞えないものか」

 襲いかかるマークを赤い拘束服の少女に丸投げしながら、召喚師『聖なる右』はどこまでも余裕そうに一歩たりとも動かない。

 その彼の右手が、ぐじゅりと粘質な音を立てて蠢いた。

 まるで骨が抜けて軟体動物となったのかと勘違いしかけるが、直後に気付く。彼は元々隻腕で、その右手はダークマター製の義腕なのだと。

 ギチギチと今度は硬質な音を響かせながら、その義腕は鳥の足のように巨大に膨れ上がった。

「『第三の腕』、これが俺様のブラッドサインだ」

 全長3メートルはあろうかというサイズ。リーチに関して彼の右に出るブラッドサインは存在しないだろう。

 そうして、ようやく3組の召喚師の手元にブラッドサインが握られる。

 『白棘』の打ち出しはまさに同時だった。

 『薔薇』が粉砕され、『スポット』に叩き込まれた『花弁』を対価に依代へ『被召物(マテリアル)』が憑依される。

 一方通行(アクセラレータ)は、始祖の黄(s)

 バードウェイは、始祖の緑(k)

 『聖なる右』は、始祖の赤(b)

 3人とも『音域』はバラバラ。スタートに差はない。

 3人の召喚師がブラッドサインを振り回し、高度な頭脳戦を繰り広げる。

 中でも圧倒的だったのは『聖なる右』だ。

「どうやらコイツも今日は調子が良いらしい。ラッキーデイだな」

 彼はその場から一歩も動かない。ただし、彼のダークマター製義腕型ブラッドサイン『第三の腕』は、彼の肩から離れて幽霊のように『人工霊場』内部を浮遊する。まるでリモコン操作されるドローンのように、鳥の足のようなブラッドサインが『白棘』を弾いて『花弁』を『スポット』へ叩き込む。バスケのダンクシュートのような軽やかさだった。

「召喚師と神経を接続させてない……脳波リンクか!?あれでは地面を走り回る我々とは支配域が違い過ぎる!!」

 バードウェイもフリントロック銃のブラッドサインを振り回すが、それでも彼女の伸長では地上2メートル程度の高さまでしか触れられない。残りの高さ18メートル分、つまり『人工霊場』の90%もの空間を『聖なる右』は独占する。

《先生、あの手みたいなブラッドサイン、私が撃ち落としましょうか?》

《要らねェ。どォせ躱される。それより、今から俺の言う通りに動け》

 ほとんど手を止めてその場から動かない一方通行(アクセラレータ)を横目に、バードウェイは『人工霊場』を駆け回って『白棘』を打ち続ける。

「存分に足掻け、『イリーガル』アワード771『模倣神技(アタッチセイント)』。貴様の実力なら俺様を他の色に染められるかもしれんぞ?」

「たわけ。貴様が『低音』の『被召物(マテリアル)』しか使わぬのなら、私は『中音』で貴様を潰すだけだ」

 彼女の言う通り、『聖なる右』は『低音』の『被召物(マテリアル)』にしか自身の依代を錬成(アップデート)していない。これは何もハンデを設けて舐めている訳ではなく、

「仕方ないだろう。俺様は『神の如き者(ミカエル)』というアワードを持っていてな、これのせいで契約した依代は強制的に『低音』の『被召物(マテリアル)』との親和性が高くなってしまうんだよ」

 事実、『聖なる右』の『被召物(マテリアル)』は器用に攻撃を行う。地面を攻撃し落盤させ即興で落とし穴を作ったり、敵の『被召物(マテリアル)』の攻撃を受け流してもう一体の『被召物(マテリアル)』へぶつける。

 まるで依代本人が『被召物(マテリアル)』の意思を完全掌握しているかのように錯覚させられる。

「問題ないだろう。俺様は赤の『低音』を好む。相性が悪ければコスト差を10以上開いて上から叩き潰す。ただそれだけの、単純な話だ」

 それができる時点で異常。頭一つ抜けている。

 対して、バードウェイも冷静だった。

 彼女の『被召物(マテリアル)』の姿は、全長40メートルを超える人骨だけで組み上げられた船である。『高音』のコスト26。

 そのままでは『低音』のコスト32の『聖なる右』の『被召物(マテリアル)』に打ち負けてしまう。

「終わりだ。呆気なかったな」

 そう『聖なる右』は呟き、『第三の腕』を『人工霊場』の端へ飛ばして『白棘』を掴み取りにかかる。

「――――――かかったな」

 直後、バードウェイは『被召物(マテリアル)』を錬成した。その巨体はみるみる内に縮小し、全長3メートル程度の人面サソリに変化する。

 すると、『人工霊場』もそれに合わせて縮小した。縮小しながら迫り来る『人工霊場』の壁に『第三の腕』が激突し、空中でバランスを崩す。

《やれ》

《イエス、ボス》

 そこに、狙い澄ましたかのようなタイミングで人面サソリがブラッドサインを叩き潰した。地面へ追突し、粉々に砕け散る。

「ほう、面白い。だが俺様の『第三の腕』はダークマター製、何度でも再生して元の形に復元されるぞ?」

「再生するのに何十秒かかると思ってる?それだけあれば、『中音』に錬成し直して貴様の『被召物(マテリアル)』を叩き潰すのなど造作もない」

 バードウェイと『聖なる右』が生み出す高度な掛け引きに、しかし当の一方通行(アクセラレータ)は全く乗じていなかった。

 彼らの攻撃範囲をすり抜けるように移動し、目立たないように『人工霊場』の隅を離れない。『被召物(マテリアル)』の錬成も『人郭』が破壊されそうになって瞬間にしか最低限行わず、バードウェイと『聖なる右』がコスト40を超え始めたのに彼だけは未だにコスト17。

 運が悪ければ即死する程に貧弱であった。

《よし、準備が終わった。行くぞ》

《……すごい怖いが、先生を信じます!!》

 そんな念話を交わした後、これまで隠れ続けていた一方通行(アクセラレータ)達がバードウェイ達の攻撃範囲に飛び込んだ。

「ハッ、話にならん」

「どうやらメインディッシュには程遠いらしな……」

 二人が揃って悪態をつき、その指示を受けた『被召物(マテリアル)』の攻撃がエステルの『人郭』を一撃で粉砕した。あまりに貧弱なエステルの『被召物(マテリアル)』は後方へ吹っ飛ぶ。その身が人間の姿に戻るのを一方通行(アクセラレータ)は抱き止めたが、杖をつく彼の力じゃ勢いは殺し切れない。一緒に転がって肌を削り、地面に血の軌跡を描いた。

「『イリーガル』アワード972『一方通行(アクセラレータ)』、撃破だ」

 『聖なる右』はそう吐き捨て、彼らから視線を外そうとした。

 しようとした。

 彼の視線が、縫い止められる。一歩もその場から動いていなかった彼が、初めて硬直して動揺を示した。

 なんと彼の目の前で、一方通行(アクセラレータ)がエステルを抱きかかえて歩き始め、『人工霊場』から抜け出したのだ。

「なん、だと――――――!?」

 バードウェイも驚きの声をあげて驚愕する。

 確かに『召喚儀礼』の敗北者は『人工霊場』から出られるようになる。けれど、それ以前の問題として彼らは『己の奉ずる神が目の前で惨殺された衝撃』を受け、精神を破壊されているはずだ。外の刺激に簡単に反応してしまうソンビのような絶望的忘我状態。

 では、なぜ彼らは自力で行動できたのか。

「あれは……ッッ!?」

 見れば、一方通行(アクセラレータ)は耳にイヤホンをつけていた。イヤホンは彼の携帯電話に接続されている。

 そう言えば、『召喚儀礼』が始まってから彼がずっと携帯電話に何かを呟いているのをバードウェイは思い出した。

「まさか、ボイスレコーダー機能を……自分の声を録音し、再生した音声で自分を操縦してるとでもいうのか!?」

 いや、そうでなければ説明がつかない。

 一方通行(アクセラレータ)は最初からバードウェイなど、『聖なる右』など、眼中になかったのだろう。まともにやり合う気もなく、さっさとその場を撤退する事しか考えてなかったのだ。

 待て!と叫んで追い駆けたバードウェイだが、ガツンと彼女の体が『人工霊場』の壁に激突した。

 当然だが、最後の一人になるまで『人工霊場』は全ての者をその檻から逃がさない。例え励起手榴弾(インセンスグレネード)の使用者であっても。

「……一杯喰わされたな。奴の実力なら俺様達を相手に勝利する事ができたかもしれん。だが、このやり方の方が簡単で楽だと演算したのだろう。現に、俺様は奴を追う事ができん」

 まだ『人工霊場』の残り時間は6分以上もある。

 バードウェイと『聖なる右』の実力は拮抗しており、制限時間いっぱいまで戦う様相を見せ始めている。

 6分もあれば、完全に姿を晦まされる。

「待てえええええええええええええええええええええええ!!」

 バードウェイの叫びも気にせず、一方通行(アクセラレータ)は遠ざかっていく。既に彼は、30分先までの自分の行うべき行動を全て録音済みであった。

 まさに未来予知。

 その場に置き去りにされた2組の召喚師を背に、彼は悠々と歩みを進めていく。

 

 

 

 

 

 




【Facts】


◆『ガバメント』アワード994『聖なる右』は『ベツレヘム計画』の主導者である事に、この場に打ち止めがいれば気付けたかもしれない。

◆『聖なる右』はアワード『神の如き者』を有し、契約した依代に低音の被召物への親和性を高める。

◆『模倣神技』と『聖なる右』は戦闘を続け、制限時間ギリギリまで勝負は決まらない。最後に『聖なる右』が勝利して彼女達を捕縛するが、本命のターゲットである一方通行が見つかる事はなかった。



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