未踏召喚://インデックス   作:白滝

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原作から大分抜粋しました。


ステージ05 銀氷の華

(Stage 05 Open 07/31 17:52)

 

 

 

 一方通行(アクセラレータ)とエステル=ローゼンタールは同時に目を覚ました。二人はそれぞれ手術台の上に寝転がっており、手術室のような無機質な部屋の中には白衣の女性が立って彼らの顔を眺めていた。

「おはようと言うべきか久し振りと言うべきか……。ともかく、こんな無茶はこれっきりにしてよね。『召喚儀礼』の敗北のショックから無理矢理に覚醒させる治療は寿命を縮めるって何度も言ったでしょう?」

「……あ?俺は黄泉川ン家に自分を誘導したはずだったが?」

「愛穂はお仕事中。彼女の家の前でふらふら彷徨ってるあなた達を私が発見して、私の家まで連れて来たの」

「あの、先生。こちらの方は?」

「……『蟻塚計画』の時の知り合いだ。安心していい、コイツも俺と同じで『ガバメント』を抜けた身の上だ」

「初めまして、芳川桔梗よ。ああ、警戒しないで大丈夫よ。アワードなんて20もないから」

 芳川桔梗。元々は遺伝子方面を専門とする一般の研究者だったが、偶然知ってしまった『召喚儀礼』に興味を持ち、片足を突っ込んでしまったのが一方通行(アクセラレータ)との出会いのきっかけだった。

 20代も後半の女性だが化粧らしきものは一つなく、服装は色の抜けた古いジーンズに何度も洗濯を繰り返して擦り切れたようなTシャツ、その上から新品の白衣を羽織っている。

「それより、体の具合はどう?『召喚儀礼』の敗北のショックの治療は久々だったから、ちょっと汗かいちゃたわ」

「問題ねェ。むしろ杖がない方が痛いな」

「そう言うと思って予備の用意をしておいたわよ。あと、あなたのケータイにずっと着信入ってたけど?」

 感謝の言葉をかけるのは照れ臭いのか、一方通行(アクセラレータ)は無言で受け取ってベッドから立ち上がり杖を受け取った。

 携帯電話を開くとオリアナからメールが届いており、一緒に預かっていた打ち止め(ラストオーダー)との合流地点が記載されてあった。

 そう、打ち止め(ラストオーダー)は未だ一人で一方通行(アクセラレータ)を待っているのだ。

 目でエステルに起きろと訴え、そのまま部屋のドアへ歩いていく。

「あら、もう行っちゃうの?私はまぁいいけど、愛穂はきっと寂しがるわよ」

「……これでいい。どォせ上から目線の説教しか言わねェだろォが」

「そんな事ないわよ、ああ見えて私よりも愛穂の方が涙脆いんだから。さっき電話したら、彼女、すごいご機嫌になってスーパーで鍋の具材をしこたま買って来るってはしゃいでたわよ」

「……面倒臭ェ……ガキを放り出して来ちまったンだよ。8時前にはガキを連れて此処に来る」

「はいはい、待ってますよ。あ、エステルちゃん、だっけ?あなたもどうかしら?」

「え、あ、ありがとう。是非!」

「天気予報だと夕方から雨らしいから、気を付けてね」

 そう告げて、一方通行(アクセラレータ)はエステルを手招きして一緒に芳川の家を出た。既に小雨がパラパラと降り始めていたが、一方通行(アクセラレータ)が気にせず歩くためエステルも後ろをついていく。

「優しい人でしたね」

「違う。甘いだけだ」

「? 先生、今晩なんですけど、」

「アジトは『ガバメント』に特定されてる。オリアナもまだ新しいアジトを準備できてねェ。だから今晩は『ガバメント』の包囲網に引っかかってねェ芳川ン家に泊まる。合理的だ、文句あンのか?」

「いえ、別に反対なんて。同じ事を言おうとしてましたから」

「…………」

 無言になって道を歩く一方通行(アクセラレータ)の表情を見て、エステルはふふっと微笑んだ。

 合理的だ、なんて言葉をわざわざ自分から言うのは、本音を建て前で隠している証拠だ。きっと打ち止め(ラストオーダー)に彼女達と過ごさせてやろうと思ったのだろう。

 それを直接言うと彼の逆鱗に触れてしまうため、エステルは気付かなかった振りをして調子を合わせておく。

「そう言えば、芳川って人はどうやって『召喚儀礼』の敗北のショックから私達を復帰させたんですか?絶望的忘我状態は最低でも1日以上は続くはずですが」

「言ったろ、アイツは『蟻塚計画』の関係者だ。……まァ当時から実験には反対で、被験者の治療を請け負ってたらしいが。砕けた精神を型には当て嵌め直して整えるなンて目を瞑ってもできる。特に俺の体には、な」

 『蟻塚計画』の建前とは、依代の量産計画。しかしその真の命題は、とある『被召物(マテリアル)』との親和性を極限まで高める依代を作成する事にあった。そのための足掛かりとして、何度も『召喚儀礼』の敗北のペナルティ、『己の奉ずる神が目の前で惨殺された衝撃』を被験者に浴びせる事で、人間の魂を意図した形に削り取っていく。

 一方通行(アクセラレータ)は色素が抜け落ちたような白髪とアルビノのように赤い瞳を持つが、何も生まれた時からこうであった訳ではない。繰り返される実験の果てに、ホルモンバランスが崩れて体が変質してしまっただけだ。それより酷い症状が発症した被験者は、次々と処分されていった。

「……先生が『ガバメント』の関係者を片っ端から殺戮していたのも、なんだか分かる気がします。『0930事件』だって、」

「無関係なオマエがグダグダ悩ンで意味あンのか?『俺も悪かった』……結論はそれ以外に何も揺らがねェ。今更どォでもいい事だ」

 地獄のような日々で一方通行(アクセラレータ)の精神は壊れていく。研究者達が標的にしていた『被召物(マテリアル)』を初めて自身に憑依させた時、彼が望んだ事は復讐だけだった。

 暴走した彼は『蟻塚計画』の関係者を襲い、片っ端から殺戮していった。特に有名なのは、5年前にたった一人で『ガバメント』を半壊させた『0930事件』。

 あの日、偶然に出会ったただの一般人―――いや、強いて呼ぶなら『フリーダム』アワード1『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の召喚師―――に救われていなければ、彼は未だに復讐に取り憑かれた人生を歩んでいただろう。

 何やら言いたげなエステルを無視して、彼は打ち止め(ラストオーダー)との集合場所に向かって歩みを進めていく。

 エステルの言いたい事は何となく察しがついていた。

 ここまで一人で抱えて、彼が罪を償い続けなければいけないのか。それを許すような温かさがこの世にない事に、純粋な正義感から憤っている。

 眩しくて、綺麗だ。一方通行(アクセラレータ)は純粋にそう思う。

 けれど、それはかつての彼も辿った道だった。わざわざ同じ道を歩かせ、同じように傷つけさせる事もない。

 自分を庇って傷つくのなら、自分を庇わなくていい。

 自分のせいで傷つくのなら、自分は独りになればいい。いや、ならなければならない。

「少し暗くなってきたな」

 思考を打ち切り、自分の内側から外側へ意識を向け直すため、特に意味もなく一方通行(アクセラレータ)は呟いた。

 考えている内に、いつの間にか打ち止め(ラストオーダー)との待ち合わせ場所に到着していた。

 とある公園の自販機の前。まだ彼女は到着していないのか、姿はどこにも見えない。雨脚が強くなってきたため、雨宿りする場所はないかと彼は辺りを見渡し、

 

 

 そこで彼の意識は途切れた。

 

 ゴン!!と。

 猛スピードで突っ込んできた白いワンボックスカーが、一方通行(アクセラレータ)の体に激突したからだ。

 

 背後からの一撃だった。

 分厚いガードレールを引き千切って歩道に乗り上げた純白のワンボックスに、ブレーキをかけた様子はない。ライトやバンパーの破片が周囲に撒き散らされ、細かく砕けたフロントガラスが小豆をぶつけるような音を立てる。

 まるで爆心地のような一角。

 その中で、一方通行(アクセラレータ)は3秒前と同じ格好で平然と立っていた。

 彼の左手はエステルを陰に引き寄せ、右手は首の横に当てられている。

 ゴキリと首の骨が鳴った。

 細い指が触れているのは、チョーカー型の首輪。それが半分外れかかっており、彼の体が薄ぼんやりと白光していた。

 自動車の直撃を受けてもピクリともその場から動かず、その白光が彼の輪郭を包む前にチョーカー型の首輪をキツく締め直す。蝋燭の火が消えるように、一方通行(アクセラレータ)を包む光も消え失せる。

「なん、だ……!?」

 困惑するエステルの視線の先に一方通行(アクセラレータ)も目をやる。

 突っ込んできたワンボックスを眺める。剥き出しになったフレームはダークマター製だった。所謂、ダークマター製の装甲車、つまり軍用兵器という事になる。

 ひしゃげた運転席で気を失っている男も、全身を真っ白なダークマター製の装甲服で覆っている。

(つまり、まァ、『ガバメント』か)

 無音で接近してきたため、エンジンもガソリンが燃料なのかも不明。そんな装甲車に背後から奇襲を受ければ、常人なら全身が弾けて壁の染みと化していてもおかしい。

「だーから言ってんじゃねえかよお」

 道路の向こうに別の装甲車が駐車していた。

 男の声が聞こえた。

「あのガキ潰すにゃこんなもんじゃ駄目なんだよ。杖ついて歩く相手だからって甘い事ばっかしやがって。だから最初に俺が出るっつってんじゃねえか」

 開きっ放しの後部ドアから、白ずくめの男が蹴り落とされた。その後からのっそりと現れたのは、白衣を纏った長身の男だ。研究者の癖に顔面に刺青が彫ってある。その左手には、マイクロマニピュレータのような細いフォルムの機械製グローブがはめられていた。

「……、」

 一方通行(アクセラレータ)は僅かに眉をひそめ、その顔に気付いた瞬間に声をあげて笑い出した。

「く、ククククク…………キハラくんよォ、ンだァその思わせぶりな登場はァ!?ヒトのツラァ見ンのにビビッて目ェ背けてたインテリちゃんとは思えねェよなァ」

 木原数多。

 『蟻塚計画』の最高責任者を務め、一方通行(アクセラレータ)の魂を弄んだ『召喚儀礼』の業界における研究者である。

「いやぁ、俺としてもテメェと会うのはお断りだったんだけどな。上の連中―――『聖なる右』っつったか?―――が騒ぐんだから仕方ねえじゃねえかよ。だから、まぁ、悪りぃんだけどここで潰されてくんねーか」

 木原数多の発言を無視する。

 『0930事件』を機に、『ガバメント』の研究者は例外なく一方通行(アクセラレータ)に恐怖を抱いている。木原数多も、そんな有象無象の一人に過ぎない。

「そう睨むんじゃねえよ。誰がテメェのそのチカラを発現させてやったと思ってんだ?」

「あ?何ですかその義理と人情に溢れた台詞。もしかして俺に罪滅ぼしとか期待しちゃってる訳?いやァ駄目だわ。っつかよォ」

 一方通行(アクセラレータ)は左手の人差し指をこめかみに当ててくるくる回すと、

「イカれンなら一人でやれや。例え俺がどれほど『ガバメント』を憎ンでいよォが、オマエ一人の思い出なンぞ留めておくとでも思ってンのか。眼中ねェからさっさと消えてくンねェかな?」

「つーか本気でムカつくガキだよなぁ、テメェは」

 木原数多は冷え性に悩むように自分の両肩を抱く。

 くすくすと、伺うような笑みを浮かべ、

「いやぁ殺したいわ。メチャクチャ殺したいわー。実を言うと前からその顔潰したくってたまらなかった訳よ。そりゃ昔は研究素材だったし、何よりガキのガキのクソガキだったから踏み止まってたけどよぉ。こりゃー駄目だ、やっぱ『0930』の時にきちんと殺しておくべきだったんだよなぁ。あー失敗だ。あっはっは、何やってんだかなぁ俺」

 そのまま木原数多は一方通行(アクセラレータ)に近づいていく。

「そんな訳で、殺すわクソガキ」

 木原数多は拳を握る。

 ナニ考えてンだこの馬鹿は、と一方通行(アクセラレータ)は呟いた。

 木原数多はアワード60前後の一介の研究者に過ぎず、アワード900オーバーの彼に真っ正面から挑んで勝てる訳がない。

 まるでゴキブリを踏み潰すような視線を向けて、一方通行(アクセラレータ)は腰のウエストポーチから励起手榴弾(インセンスグレネード)を取り出し、

 

 

 ザンッッ!!と、彼のその手が斬り払われた。

 

「が……ぃ……ッ!?」

 木原数多はその場から一歩も動いていない。

 どこから攻撃が飛んできたのか分からない。

 自分の左手から弾け飛ぶ血の軌跡を追うと、その先にナイフがあった。

 それを握るのは、彼の依代のエステル=ローゼンタール。

「っつかよぉ」

 思考が真っ白に飛んだ一方通行(アクセラレータ)に、木原数多は失望したような、人を見下したような声色で告げる。

「テメェごとき眼中ねぇのはこっちも同じなんだよクソガキ。多少『召喚儀礼』の腕が立つからって付け上がってんじゃねえのか」

「ぁ……」

 一方通行(アクセラレータ)が何か言う前に、エステルのナイフが燕のように煌いた。

 彼女の瞳孔は全く拡縮していない。電源を落とした機械のように無機質だった。

 咄嗟に杖を構え、首を刎ねる一閃を防ぐ。

 ビリビリと腕を伝う衝撃に押されるが、杖をついて歩いている彼には踏み止まれない。

 鎌のように振るわれたエステルの回し蹴りを、咄嗟に自分から尻餅をついて強引に回避したが、背後から突撃してきた木原数多の蹴りが顔面に直撃した。

 まるでサッカーボール。

 自分の頭にミシミシと嫌な感触が走り抜け、そのまま地面を転がされる。ばしゃばしゃと水溜りの上を転がりながら、アスファルトに肌が削られた。血反吐が喉に詰まって息が苦しくなり、咳き込んで何とか気道を確保する。

「さっさとひしゃげちまえよ。打ち止め(ラストオーダー)が此処に来るのは知ってんだ。それまで仕方ねえから嫌々遊んでやってるだけなんだからよぉ」

 地面に転がる励起手榴弾(インセンスグレネード)を木原数多は踏み潰し、タバコの火を消すように粉々に磨り潰す。

 エステルを見るが、彼女は感情を喪失したかのようにその場に立ち尽くしている。真横に寄り添う木原数多に全く抵抗を感じていない。

「ナメ、てンじゃ……」

 一方通行(アクセラレータ)は地面に這いつくばったまま、改めて励起手榴弾(インセンスグレネード)を取り出した。

「……ねェぞ三下がァあああああああああああああああああああッッ!!!」

 パイナップル型の球体が地面を跳ねて、炸裂した。立ち尽くしているエステルを彼の真横に引き寄せる。

 一辺が20メートルの檻。真っ白な球体が眼前に浮かび上がる。

 殺す、と一方通行(アクセラレータ)は絶叫した。

 だが、

「駄目なんだよぁ」

 木原数多が、懐から取り出したスプレーのような物を噴きかざした。

 プシュ、と。

 間抜けた小気味良い音が響くと同時に、『人工霊場』が木っ端微塵に砕け散った。

「ッ!?」

「だから死んどけって、な?」

 木原数多が、左手に嵌めたマイクロマニピュレータのようなグローブを動かした。

 直後、真横に引き寄せたエステルが再び動き出す。

 地面を這う一方通行(アクセラレータ)に回避する手段はない。そもそも、彼女を攻撃できない。

 彼の体を次々とナイフが抉り、周囲の水溜りが赤く染め上げられていく。

「いや、気分が良いなぁ。害虫駆除は気分が良い。今日は『コイツ』の調子も優れてっし」

 地面を転がりながら一方通行(アクセラレータ)は木原数多を見やる。

 彼が左手に嵌めたグローブ。これでエステルが操られているらしい。

 木原数多のスプレーの霧が溶けた水溜りに顔を近づけ、舐める。仄かな苦みと独特の臭い。

「まさ、か……俺の香煙(インセンス)を打ち消す成分をピンポイントで調合しやがった、ってのか……!?」

「ギャハハハ!何年テメェの世話ぁ焼いてやったと思ってんのよ?ほーれ、思い出したかー?」

 木原数多の拳が一方通行(アクセラレータ)の頬骨にめり込み、その華奢な体を錐揉みするように回転させながら吹っ飛ばす。

 激しい攻撃の連続に、軽度の脳震盪が現れ始めていた。彼にはもう、立ち上がる気力はない。

 それでも、一方通行(アクセラレータ)の瞳に敵意の炎は消えていなかった。

「ははっ!いつまで最強気取ってやがんだぁ?このスクラップ野郎が!!」

 ガツガツと、木原数多の靴底が空き缶を踏み潰すように何度も振り下ろされる。それを、エステルは何もせず黙って見続けている。

「なぁ一方通行(アクセラレータ)。テメェは打ち止め(ラストオーダー)の価値を理解してねえんだよ」

 木原数多は笑う。

「大体よー、『蟻塚計画』も『ベツレヘム計画』も、『とある「被召物(マテリアル)」への親和性を高め、直接的に召喚できる依代を作成する』って点じゃ共通してるじゃねえか。その差は何だと思う?そこには、テメェがちっとも理解してねぇナニかがある」

「クソッったれが……」

 全身を血塗れにして顔が腫れ上がる一方通行(アクセラレータ)は、それでも意識の糸を手放さず、ゆっくりと告げる。

「……俺以上にあのガキを分かってねェオマエが、テキトーな事言ってハシャいでンじゃねェよ」

「んー?」

 木原数多はニコニコと笑って、左手のグローブをどこか別の方角へ向けた。

「感動的だねぇ。本人も大喜びだ」

 一方通行(アクセラレータ)は心臓が止まるかと思った。

 

 木原数多のグローブの先にいたのは、水玉ワンピースの上にワイシャツを羽織った短髪の少女。

 

 こちらに気付いて動転した様子の彼女は、慌ててこちらに駆け寄って来る。

 来るな。

 そのか細い呟きは、雨音に掻き消されてしまう。

 不気味に笑う木原数多の左手のグローブの指先から、レーザーポインターのような赤い光が一直線に突き進む。

 このままでは、少女もエステルと同様に操られてしまう。

打ち止め(ラストオーダー)ァァああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 喉が潰れて、絶叫する。

 一方通行(アクセラレータ)は、エステルのナイフをわざと自分の首で受け止め、大量の出血と引き換えにチョーカー型の首輪を切り裂かせた。

 直後、暴風が渦を巻いた。

 一方通行(アクセラレータ)の体から漏れ出でる白光。

 その体は既に人間のものではなかった。

 それは背中から銀氷の花弁を翼のように羽ばたかせる天使。

 未踏級『被召物(マテリアル)』。

 『悪風を斬り祓う「銀氷」の華』。

 『銀氷の華』が羽ばたくと同時に、浄化された空気が木原数多の赤い光を追い抜いて少女の体を優しく掬い上げる。そのまま宙へ舞い上げ、ビルの向こうへ運んで行った。

「……あーあーあーあー……ゴルフボールじゃねーんだからよー。ヤード単位で人間を飛ばすんじゃねーよなーもう。一体誰が回収すると思ってんだよ。俺はやんねーけどな」

 木原数多の舌打ちが聞こえた。

 彼は『銀氷の華』から急いで離れ、駐車してあったワンボックスカーに乗り込む。車には彼の部下が数人待機していた。

「とっとと打ち止め(ラストオーダー)を追え」

一方通行(アクセラレータ)はどうしますか?」

「『銀氷の華』になっちまったら殺すのに時間はかかんでしょーが。何より、ああなったらクソガキ自身も意識を失っちまって制御が利かねえはずだ。しばらく暴れ回ってるだろうからほっときゃいい。打ち止め(ラストオーダー)の回収が先だ」

「りょ、了解しました」

 周囲の街灯やビルの看板を無差別に破壊する『銀氷の華』を放置し、ワンボックスカーが夜道を去っていく。

 その場に取り残されたエステルが、プツンと突然に意識が回復した。

 目の前に破壊の嵐が渦巻いている。

 その正体に、心当たりがあった。

「これ、は――――――――――先生ッッ!?」

 

 

 

 

 




【Facts】

◆芳川桔梗はかつて『ガバメント』に属しており、『蟻塚計画』の関係者だった。実験には反対であり、被験者の治療を請け負っていた。現在は『フリーダム』所属。

◆一方通行は『蟻塚計画』によって『悪風を斬り祓う「銀氷」の華』を直接その身に憑依させられるようになった。この力を利用して復讐を始め、後に『0930事件』と呼ばれる殺戮事件を引き起こす。

◆『0930事件』にて、とある一般人によって一方通行は救われた。これを機に『ガバメント』を抜けて『イリーガル』所属となり『グループ』を結成する。

◆木原数多は『蟻塚計画』の最高責任者であり、一方通行の体を直接弄った経歴から彼について詳しい。『聖なる右』の命令の下、打ち止めの回収に駆り出された。


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