むかしむかし、ある時に二匹の龍がおりました。
二匹の龍は仲が悪く、いつも争いを起こしては周囲に迷惑をかけていました。
一匹の赤い龍は荒く、世界をいくつも破壊してしまいました。
一匹の白い龍は静かに、世界をいつくも無かったことにしました。
龍たちは相いれず、いつかは憎しみ合うようになってしまいました。お互い力は強く、互角のため二匹の戦いはいつまでも続きました。
けれど、運が悪いのか……。そんな龍たちの好き勝手な行動を喜ばない人たちも、もちろんいました。その人たちは今まで仲が悪く、一度も手を取り合ったことがありません。
龍たちの横暴さを目のあたりにした人たちは、危機を感じ始め初めて協力し合いました。
二匹は他の存在する全てに興味がないのか、全くその人たちには構いもしません。それを機に、二匹の龍を捕らえ二度とこの世界に実態しないよう封印してしまいましたとさ――――。
世界は龍の恐怖を忘れ、今ではそのような生物は存在しないと語られています。
龍は存在しません――――。
いえ、実際には居るんでしょう。けれども、この大昔の話にはもう一つ続きがあります。
龍というのは、決して神々しいとか、そのようなものではありません。ようは『生きている生物』です。生きているからこそ、魅力を感じるのでしょうが、それは間違いだと思います。
『ドラゴンに間違いとかあるのか?』と――――。
間違いもありますよ、もちろん。この世界は表があれば裏もあります。本物が居れば、偽物も。
私は本物の龍に興味がないのですよ。世界の全ての注目を集め、神や悪魔など言われている彼らが、私は心底嫌っております。私は、ただの龍には何も感情はわきません……。
いえ、これは語弊でしたね。えぇ、何も感情は湧きません。ただ、アレですね。
『アレじゃわからない』、そう言われましても困りますね。私、あまり言葉にするのも得意ではなくて。
でも、理由が分らないのでしたら、その『根元』は教えられます。先ほど、私はまだ続きがあるとおっしゃいましたよね? では、また耳を澄まして、お聞きください。
赤い龍、白い龍は世界に残したのは喧嘩の跡だけではありません。
破壊された跡などは、後に直すこともできます。形があったものは壊れますが、元に戻れます。二匹が残したのは、それは『負の感情』です。
人々は彼らの行ったことは、決して忘れませんでした。家族を失い、村も焼かれ、何もかもなくなった人々は願うしかありませんでした。力がない人々は、思う力はありました。
『負の感情』が、いつしか全世界に広まりはじめました。それでも、二匹の龍はそれに気づかず、ただただ時を過ごしていました。
二匹の龍が、またも大きな闘いをしている間にソレは起こりました。それはもう、必然的といっても過言はありません。
『負の感情』も、だんだん大きくなってきます。世界に具現化しはじめ、黒い靄として現れました。原因は、二匹の龍のぶつかりで実体化したと考えられています。
その黒い靄は形を整い始め、憎いと思っていた龍に姿を似ているのです。手で振り払えば拡散してしまそうな、弱弱しい靄でありますが、触れてはいけないと思われるほど禍々しい雰囲気を纏っていました。
『負の感情』は、自我というのが芽生えました。
驚きの進化を遂げたソレは、二匹が争うところにはいつも現れるようになりました。誰にも気づかれないように、ただただ龍を見つめている。ソレは、年月が過ぎてもいつも近くにいまいた。
いつかは、終わりは来ます。先ほど語ったように、二匹は封印されてしまい世界には姿を見せなくなりました。ソレも、その光景をずっと見ていました。
問題はここからです。『負の感情』は、自我が芽生えたと言いましたが、これが厄介になってきます。ソレは人々の『負』から生まれた『感情体』です。龍だけの憎しみで生まれたわけではありません。
龍だけではなく、人々の汚いところから生まれたソレは自制が効かなくなり始めました。
今までは二匹の龍が憎かったが、もう現世には現れないとわかった『負の感情』は、次の目的がわからず暴走し始めました。子供がよくやるような、駄々っ子と同じように。
『ニクイ……ニクイ……!!』
『ウラヤマシイィ』
『ダレカ……タスケ…』
『オワリオワリオワリオワリ』
『コロ、コロシ』
ソレから聞こえる、何重にも声色が重なっているのが聞こえる。まるであの中には数え切れないほどの人間がいるように。精神がもともと不安定ではあったが、ここにきてさらに狂ってきている。
『負の感情』は自我を保ちながらも、このまま完全に暴走してしまったら己自身がそれに耐えきらずに消えてしまうと思い始めました。感情体ながらも、生物としての本能があり死にたくない、消えたくないと死に対する否定を始める。
そのようなことを考えれば、さらに負の連鎖で体が持たなくなってしまう。早く、何かしなくてはとソレは焦り始めます。
『ねぇ、待ってよみんなー!!』
気の抜けるような、子供の声がソレに届いた。何も考えないで声がしたほうに近づくと、そこは森であった。森に入ってくる数人の子供たち。
子供というのは無邪気なため、『負の感情』にとっては太陽の日光を直接みるように眩しかった。その中で一番眩しいのが、貧相な体つきしている白髪の男の子だ。
ソレはいつしか、その子に魅了しだした。今までみたことない、触ってみたいと。
白髪の子は、先に森に入っている子供たちを追いかけているが、途中で見失ってしまい迷子になっている。けれども、無邪気に笑う。優しい感情、明るい感情と。
『アノコニシヨウ』
『ソウシヨウ』
『キット、ボクタチヲウケイレテクレル』
『キット、アノコナラユルシテクレル』
『ノミコモウ』
『タベヨウ』
『ミーツケタ』
ソレは本能に従い、男の子を襲った。男の子は悲鳴をだしたが、それは一瞬に過ぎない。そう、一瞬でことは終わったのです。
めでたし、めでたし。はい、これで終わりましたよ。どうでしょうか、気に入りましたでしょうか? 私は、一番このお話が好きですので、あなたにも好きになってもらいたいですね。
『その男の子はどうなった』…………。どうもこうも、男の子は襲われたんですよ。無事にはすまないことは、お分かりですよね? あまりそのようなご質問は、頂けませんね。
けれども、これでわかりましたよね? ドラゴンは間違いというのが。
ドラゴンは間違いなのです。間違いを起こすのが、ドラゴンですので、ドラゴンの存在自体が、この世界の間違いです。だから、あのような悍ましいものが生まれてしまう、昔も今も。
正義も悪も、悪魔も天使もドラゴンにはありません。ドラゴンはドラゴン、ただの間違い。それでいいのです、それで理解してくださるとありがたいです。何も、あなたの考えを曲げるほどの原動力は、私にはありません。
『何も感じないとか言ってたよな』と。たしかに、そのような事は言っておりましたね。
『お前はどうみても、ドラゴンが嫌いにしか見えない』。
嫌い――――――――――――。嫌いですか、あぁ嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い。甘美な響きながら、気分を害するほどのお言葉です。他にもいろんな言葉が好きですけど、どれもこれも私には当てはまりません。
私はそんな一言だけでは済ませられないのです。一つに纏めれば………そうですねぇ、やはりアレですよ。
『負の感情』ですよ。
白髪の男が口角を全開まで上げ、笑みを浮かべる。目の焦点も合っていないのに、俺をずっと見ている。ずっと見続けている。目線がこっちに向いていないときでも、視線を感じている。
この薄暗い空間よりも、こいつの纏っている黒い靄のほうが怖い。漏れているように思え、男は体中に出ている靄を必死に抑えようと手で防いでいる。
喉を鳴らし、舌なめずりするこいつを見ると、今からでもここを去りたい。関わってはいけない、むしろ見ちゃいけなかったんだ。
突然俺の肩に両手を置き、グイッと顔を引き寄せられた。
「もうすぐ、もうすぐですよ。この『感情』はもうすぐ、あなたのものになります。怖がらないでください、気味悪がないでください。大丈夫です、コレはあなたの味方です。私ももちろんそうですが、あなたを守ってやれません。ですから、ご安心ください。コレは、もうあなたのものになります」
顔がだんだんと崩れる。文字通りに、やつの顔の半分が無くなっている。その無くなったほうから黒い靄が大量に出ている。
異常すぎる、怖い怖い帰りたい!!!! もう限界だ、こいつから感じるナニかが受け付けられない!
肩に乗っけている腕を振りほどこうとするが、力ではあいつのが強くて無理そうだ。それに、だんだんとだが黒い靄が俺たちを囲むように回っている。
「ハァハァ……待てって、言っているでしょうが。まだ、中に入るのは早いですよ、このデキソコナイ!」
「ッ!! は、はなせっ!!」
「ほら、彼が怯えているでしょ…!! いいから、言うこと聞きなさい。くっ……!!」
一瞬だけ腕の力が緩んだ。
すぐ振りほどき、この暗い空間の脱出を図る。とりあえず、走った。どこまで続くかもわからない、この空間を走り続けた。限界まで、いやそれ以上に走らないとあいつにまた捕まってしまう!
全速力で走ってはいる。
が、それでも耳元からあいつが話しかけてくる。
「今日は、ここまでです。残念ですが、今すぐあなたを現実に返さないと、このデキソコナイが暴走してしまうおそれがありますから。しばしのお別れですが、どうぞ元気良くお過ごしください」
「ハァハァ!!! 二度と会うかよ!!!」
「ハハハ、お返事感謝致します。それでは、よい世界を」
『PIPIPIPIPIPIPIPIPIPI!!』
気づけば、目を覚ましていた。目覚まし時計が鳴る前に、すでに起きていたらしい。背中もそうだが、首や頭も全身が汗でびっしょりであった。
酷い夢………いや、あれは夢なのか? と、自分で自分を疑うなんて…。
「シンジー!! そろそろ起きないと、遅刻しちゃうよー?」
「あー、ごめん姉貴。いま降りるから、待ってて」
「そんな朝勃ち凄かったの」
「ちげぇよ!!?」
昨日に学校の準備しといてよかった。今の状態じゃ朝ごはんも食えないし、仕方ない朝はコンビニで何か買うか。学生鞄を持ち、急いで家を出た。
姉貴はすでに準備万端であった。………寝癖は多少あるけど。
ん? よく見れば、表札が汚いな。昨日風強かったから、ゴミがくっ付いたな。
軽いゴミだから、服の袖で拭くと昨日と同じように綺麗な表札に早変わり。姉貴は急かす様に言ってるから、急がないと。
すでに走ってる姉貴の後を追いかけて、また平凡な毎日が俺を向かい入れる。
「兵藤………ねぇ」