ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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お待たせいたしました!
第十四話でございます。

ちょっと遅くなってしまいましたが、土日に私事で執筆できなかったゆえの遅れですので、ご容赦を。

今回はアニメ第7話の新橋商店街船での救助活動になります。
アニメとは少し異なる展開にしてみました。

それでは、どうぞ!


第十四話 救助でピンチ!

 2016年4月26日午前0時30分

 

 -ムサシside.-

 

 現在、晴風はグアム島より南西へ約400kmのウルシー環礁方面へ急行している。

 急行している理由は、先ほど受信した新橋商店街船からの救難信号があったためだ。

 新橋商店街船は航行中に暗礁に乗り上げ、船体中央部が触底、浸水も発生している極めて危険な状態であると、商店街船の艦長から報告を受けている。

 これに対して、アケノは直ちに現場へ急行することを選択、学校とブルーマーメイドへの連絡を済ませ、晴風の進路を座礁現場へと向けた。

 

 ムサシ

「新橋商店街船……、全長135m、総トン数14000t、全乗員数552名、商業施設と居住区を兼ね備えた移動式の商業船舶、ね」

 

 ヤマト

「私たちの世界の人類船では見られなかった形式の船ね。この前のメガフロート式のショッピングモールも含めて、この世界ではあらゆる地上施設が船上に造営されるのね」

 

 私とヤマトは艦橋の端の方でコウコから貰った新橋商店街船の情報とスペックデータを確認していた。

 

 ムサシ

「それよりもヤマト、ウイルス抗体の進捗は大丈夫なの? ミナミはまだ医務室で作業やっているんでしょう?」

 

 ヤマト

「そっちは大丈夫よ。抗体はすでに臨床試験も完了、今はみなみちゃんが提出用の報告書を纏めているところだから、私は救助活動の手伝いに行ってくれって言ってくれたわ」

 

 ムサシ

「そう、ならお言葉に甘えちゃいましょう」

 

 学校と安全監督室へ提出する私こと超戦艦ムサシの報告書はすでに完成し、もう一つのネズミもどきに関する報告書もヤマトとミナミのおかげで完成の目途が立っている。

 一方、私たちに捜索命令が出ている武蔵については、いくつか目撃情報があるものの散逸的なものであるため、お世辞にも順調とは言えない状況であった。

 そんな中、今回の救助活動となったわけである。

 

 ムサシ

「それで、私たちはどう動くべきかしら。ウルシー環礁付近は水深が浅いから、私の艦で近づくことは不可能、艦を使った救助活動にはかなり制約を受けることになるわね」

 

 ヤマト

「私たちがやれることとなると、船体スキャンを行って艦の状況を確認すること、生命反応を確認して取り残された人の有無と場所を調べること、ってところね」

 

 私たちはアケノおよびマシロの二人から直接的に救助活動に参加するのは控えてほしいというお願いを受けている。

 救助活動には様々な専門的な知識が必要であり、現状知識のない私たちを参加させることはできないという彼女たちの判断があってのことだった。

 そのため、私たちができることは非常に限られてしまっている。

 

 ムサシ

「この前、霧の装備をいくつか作って私の艦に搭載したけど、その中にナチが使っているハイパーレーダーシステムと高感度ソナーがあるわ。これを応用したら、ある程度離れた場所からでも船体スキャンができるはずよ」

 

 ヤマト

「そうね。後は私が個人的に作っておいた装備があるわ。晴風のみんなが使えるように考えたものだから、きっと役に立つはずよ」

 

 私は今後の晴風との共闘を考え、超重力砲を試射した際に停泊していた孤島近海の海底に眠っていたナノマテリアルを使って、霧の艦隊が使用している装備の中から私が使用可能なものをいくつか選定し、艦に搭載しておいた。

 一方ヤマトは、同じくナノマテリアルを使って晴風クラスのみんなが使用できる装備をいくつか考えていたみたいだ。

 私たちは自分たちの考えを纏め、アケノたちに報告をすることにした。

 

 ヤマト

「明乃さん、少しいいかしら?」

 

 岬

「え!? ヤマトさん、どうしました?」

 

 アケノが驚いたようにヤマトの言葉に反応した。

 私はその様子に違和感を覚えたが、とりあえず話を進めることにした。

 

 ヤマト

「私たちなりにみんなのお手伝いができないかと思ってムサシと一緒に考えてみたんだけど、検討してもらえないかしら」

 

 岬

「あ、そうだったんですね。しろちゃん、ちょっとこっちにきてくれるかな」

 

 アケノに呼ばれるとマシロもこちらにきてくれた。

 私とヤマトはディスプレイを表示して二人に自分たちの考えを簡潔に説明した。

 

 宗谷

「船体スキャンに関しては前回の武蔵の時に実績がありますし、この新装備も他の霧の艦で使用実績があるなら十分使えそうですね。ムサシさんは問題なくこの装備を扱えるんですか?」

 

 ムサシ

「一応霧の艦隊の最上位艦を名乗っているから、その艦の専用装備でもなければ大体の装備の使用は可能よ。さすがに本家ほど性能は発揮できずとも、今回の状況なら十分なはずよ」

 

 岬

「ヤマトさんの方は私たちが使う装備ですよね? これは、携帯式の通信機器ってことでいいんですよね?」

 

 ヤマト

「そうね。霧の使う量子通信をみんなが使えるようにしてみたの。小型で耳につけるだけだから救助活動の邪魔にならず相互通信ができるし、量子通信だから途絶の心配も少ない。晴風に設置する大型のものは後で通信室の鶫さんのところに一機設置しておくわね」

 

 岬

「ありがとうございます! 私は二人の提案に異議はありません。しろちゃんは?」

 

 宗谷

「私も異論はありません。では、ヤマトさんは救助班と一緒に現場へ向かう小型艇に乗船して、船内の生命反応確認を外から伝えてください。ムサシさんはここで待機していただいて、新橋の状況報告をお願いします」

 

 ヤマト

「二人ともありがとう。これより霧の艦隊は晴風の救助活動の支援に入ります」

 

 ムサシ

「よろしくね。では早速準備に取り掛かりましょう」

 

 アケノとマシロから活動の了承を得た私とヤマトは、それぞれの準備に取り掛かった。

 

 

 午前1時

 

 晴風はようやく新橋商店街船が座礁しているウルシー環礁の現場付近に到着した。

 先ほどまでの大雨と強風はすでに見る影もなく、雲の切れ間から星空がうかがえる。

 

 納沙

「天気晴朗なれども波高し」

 

 ヤマト

「その言葉、日本海海戦の秋山参謀の言葉ですね」

 

 納沙

「ヤマトさんご存じなんですか?」

 

 ヤマト

「ええ、昔翔像さんから聞いたわ。短い文の中に必要な情報を詰め込んだ名言だって」

 

 納沙

「へー、実は詳しく知らないんですよね。今度教えてもらえますか?」

 

 ヤマト

「ええ。もちろん」

 

 ムサシ

「二人とも、もう現場なんだからおしゃべりは後よ」

 

 私は二人に注意して、遠目に見えている新橋商店街船に目を移す。

 新橋は大きく左に傾いているのがここからでもよくわかる。

 

 宗谷

「ムサシさん、船体スキャンの準備お願いします」

 

 ムサシ

「了解よ。ソナーシステムならびにレーダーシステムを起動、両システムの同期を開始。……レーダー照準方位修正右3度……目標を補足した。これより遠距離船体スキャンを開始する」

 

 晴風より後方6kmの地点で待機させた私の艦に搭載されている高感度ソナーとハイパーレーダーシステムを起動させ、遠方からの新橋のスキャンを試みる。

 私のコアに次々と情報が送り込まれ、私はそれを瞬時に処理していく。

 

 ムサシ

「……現状のスキャン完了。ディスプレイに出すわ」

 

 晴風の艦橋の中に巨大な空中ディスプレイを出現させ、新橋の現状を示す情報を表示していく。

 

 宗谷

「船体の傾きは現在のところ左に約40度、船体中央に巨大な亀裂が発生して船の前方区画に浸水あり、ですか」

 

 ミーナ

「まずいのぅ。今はまだなんとかもっているが、浸水が進んでさらに傾くと亀裂が発生した場所から船体が真っ二つになりかねんぞ」

 

 ミーナの危惧する通り、浸水は今でも進んでおりこのままでは船体崩壊も時間の問題だ。

 ブルーマーメイドの到着にもまだ時間がかかるため、私たちによる一刻も早い乗員の救助が求められる状況となっていた。

 アケノはヤマトの用意した通信機を使って話しかける。

 

 岬

「航海科と砲雷科の救助班は準備できた?」

 

 和住

「はい、人員も小型艇の方も準備OKです!」

 

 アケノの言葉に対して、応急員として現場へ赴くヒメが応答した。

 

 岬

「それじゃ、艦橋からはしろちゃん、ミーちゃん、そしてヤマトさんが救助班と一緒に小型艇で現場へ向かってください。宗谷副長、現場の指揮をお願いします」

 

 宗谷

「わかりました。現場の指揮を拝命いたしました。では、艦長はここから指示をお願いします。ムサシさんは新橋に何か動きが見られたら報告を」

 

 私はマシロの言葉に首を縦に振って応えた。

 そして艦橋からヤマトとミーナが出ていき、最後にマシロが出ようとした時、アケノがマシロのセーラー服の袖口を掴んで引き留めた。

 

 岬

「しろちゃん、絶対に、絶対に帰ってきてね」

 

 宗谷

「……心配しないでください、艦長。もう艦長には二度も辛い思いはさせませんから」

 

 そう言い残すとマシロは艦橋を出て小型艇へ向かった。

 それを見送ったアケノは艦橋メンバーを含む乗員全員に指示を出す。

 

 岬

「これより本艦は新橋商店街の救助活動を開始します! 総員配置につけ! 救助班出発後、晴風は速力5ノットで現場へ近づきます。リンちゃん、準備を!」

 

 

 -ヤマトside.-

 

 晴風備え付けの小型艇に乗り込んだ私は、新橋商店街船のすぐそばまで来ていた。

 大きく左に傾いた船の甲板上には多くの人で溢れており、さらに海の上には運搬されていた荷物がいくつか浮いておりそこにも人が群がっていた。

 

 ミーナ

「ひどい状況じゃ。はよぅ乗員の安全を確保せんと、二次被害が起こりかねんぞ」

 

 宗谷

「そうですね。まずは艦長に報告を」

 

 ましろさんは耳に装着した通信機に右手を当て、晴風へ現状を報告する。

 

 宗谷

「現場に到着しました。新橋の甲板は人で溢れかえっています。海上にもすでに人が飛び込んでいます」

 

 岬

「わかりました。しろちゃんとミーちゃんは新橋の艦橋に上がって状況確認、ヤマトさんと潜水班は船内の生存者の確認と海上の人の救助を、甲板には応急員を急がせて。救助開始!」

 

 明乃さんの号令とともに、それぞれが動き出した。

 小型艇に残った私は早速船体にスキャンをかけ、船内および海上にいる人の生命反応を確認する。

 

 ヤマト

「……スキャン完了。海上に124名、新橋甲板上に302名、居住区画内に87名、艦橋近辺に39名を確認。詳細な位置データを全端末に送信します」

 

 私は晴風ならびに救助班の全通信機に新橋乗員の生命反応が確認された位置のデータを一斉に送信した。

 私とともに小型艇に残った操船担当の聡子さんの目の前に画面が表示される。

 

 勝田

「おぉ! びっくりしたぞな。こんなこともできるんですか?」

 

 ヤマト

「ただの音声通信だけじゃ足りないと思ってね。聡子さん、私たちは海上にいる人たちの救助をはじめましょう。まずは――」

 

 聡子さんに行先を指示しようとした時、私の元に甲板上で救助活動を始めた媛萌さんと百々さんの声が聞こえてきた。

 

 和住

「ど、どうしよう!? 甲板上の人が我先にって群がってきちゃって。大ケガしてる人もいるのに、まともに動けないよ!」

 

 青木

「ど、どうすればいいっすかー!?」

 

 私は甲板の方へ目を向けてみると、人が一か所に群がっているのが確認できた。

 あそこに媛萌さんと百々さんがいるのだろう。

 さらに、聴覚の感度を上げて周囲の声を聞いてみる。

 

 「助けてくれー! 死にたくない!」

 「救助は!? 救助はまだなのか!」

 「この子だけでも助けて!」

 

 海上からも、甲板上からも、混乱する人々の悲痛な叫び声がいくつも聞こえてきた。

 私は思わず聴覚をシャットアウトしたくなる衝動を抑え、なんとか意識を保つ。

 

 ヤマト

≪これが人の、命あるものの声。命の危機にあるものの叫び……≫

 

 私はかつてのムサシとの戦闘での死に際で、このような声を上げることはなかった。

 それは、私が自分のコアの機能停止を受け入れ、後を託すことができたからだ。

 だが、そんなことができる者など極稀な存在でしかない。

 私はそれを痛感させられた。

 

 ヤマト

≪まずはここにいる人を落ち着かせないと。そのためには……≫

 

 私は意を決し、自分のユニオンコアから隣にいる聡子さんの通信機を経由して船体の横に巨大な空中ディスプレイを表示させる。

 突然現れたディスプレイに海上や甲板にいる人たちは何事か注目する。

 そして、自然と叫び声は収まっていた。

 狙い通りに事を進めることができた私は、ディスプレイ越しに話しかける。

 

 ヤマト

「私たちは横須賀女子海洋学校所属の航洋艦「晴風」です。現在晴風乗員は皆さんを救助するべく、活動を行っています。みなさん、まずは一呼吸をしましょう」

 

 私はなんとか乗員を落ち着かせようと語りかけ続けた。

 その後自分の近くに重症者や病人がいないか、いたら近くの晴風乗員に知らせてほしいこと、さらに避難の手順をできる限りわかりやすく伝えた。

 そして、私は最後にこう付け加えた。

 

 ヤマト

「私たちはみなさんの命を、明日を守るためにここにきました。そのためにはみなさんの協力が不可欠です。ただ私たちに身をゆだねるだけではなく、お互いで支え合うことが大切です。どうか、みなさんの協力をお願いします」

 

 

 

 -ムサシside.-

 

 救助を開始して、早3時間近くが経過していた。

 晴風は新橋に接舷し、艦内に救助された乗員たちを乗せる作業を進めていた。

 ヤマトが新橋乗員に対して行った呼びかけ、あれのおかげで混乱していた乗員たちはある程度落ち着きを取り戻し、その後私たちの救助活動をスムーズに進めるきっかけになった。

 

 ムサシ

≪あの場の混乱を声掛けだけで収めるとはね。さすが、おねえちゃんね≫

 

 私はヤマトの行動にただ感心するばかりであった。

 現場にいたヤマトには救助を待つ人間の怒号や絶望の声がいくつも聞こえていたことは想像に難くない。

 そんな声をヤマトは受け止め、人々に優しく語りかけた。

 

 ムサシ

≪でも感心してばかりじゃいられない。私もやるべきことをやらないと≫

 

 私は気を取り直し、自分の仕事である船体の状況確認を継続する。

 船の浸水は全5区画中前方の3区画まで進んでおり、いつ大きく船が動き出すともわからない予断を許さぬ状況であった。

 

 岬

「ムサシちゃん、しろちゃん達からの報告だと救助にはもう少し時間がかかりそうって。ブルマーの到着ももう少しなんだけど、今の船の状態はどう?」

 

 私の前方で指揮をしていたアケノが私に切羽詰った様子で尋ねてきた。

 私は先ほどからのアケノの様子が気になっていたが、彼女の質問に答えることにした。

 艦橋内の空中ディスプレイに現在の状況をアップロードし、投影する。

 

 ムサシ

「浸水がかなり進行していて、もういつ船が大きく動き出してもおかしくない状況ね。海上の人は全員艦にあげたから、後は船内に取り残された人たちの救助を急がないといけないわ」

 

 岬

「うん、そうだね。でも今はこっちでできることをやらないと。ココちゃん、救助した人たちに食べ物と飲み物を行き渡らせるようにミカンちゃん達に言って」

 

 アケノは相変わらず元気のない様子で返事をし、指示を出していく。

 だが私にはどうしてもアケノの様子が気になっていた。

 私にはその様子が何かから逃げようと必死になっているように思えた。

 

 ムサシ

「ねぇアケノ。あなた今何かに怯えているの?」

 

 岬

「え!? ど、どうして?」

 

 ムサシ

「救助する前から様子を見ていたけど、ずっと変な調子なんだもの。あなたらしくないわ。一体何に怯えているの?」

 

 私はたまらずアケノに理由を尋ねた。

 アケノは少し躊躇うような仕草を見せたが、私に向かい合った。

 

 岬

「私ね、子供の頃に船の沈没事故に合ったことがあって、その時に私のお父さんとお母さんも死んじゃったの。だからこういう場面を見るとちょっと思い出しちゃうんだ……」

 

 ムサシ

「……ごめんなさいアケノ。辛いことを聞いてしまったわね」

 

 岬

「ううん、大丈夫。この前ムサシちゃんのことも聞いちゃったし、これでおあいこ、だよ」

 

 アケノは私に笑顔を向けてくれた。

 知らずとはいえ、アケノに辛い過去を語らせてしまったことを私は後悔した。

 私自身も過去を語る辛さを知っているため、余計に罪悪感が大きくなってしまった。

 

 岬

「だからこそ、私はもう目の前で誰も死んでほしくないの。救助を待つ人も、そして救助している人たちも。私は今、救助する側として待っている人と現場のみんなを助けたい。そのためにはムサシちゃんの力が必要なの。お願い、新橋の人たちと救助班のみんなを助けて」

 

 アケノは私をしっかり見つめて懇願してきた。

 今まで命を奪うことしかしてこなかった私が、今人の命を救うことを望まれている。

 できるかわからない、そんな不安を胸の奥に押し込め私はしっかりとアケノに向かい合い応えた。

 

 ムサシ

「ええ! 私はできることを全力でやるわ。だからもう少し頑張りましょう」

 

 岬

「うん! ありがとう、おかげで少し元気になれたよ」

 

 アケノは小さくガッツポーズをしていつもの明るい笑顔に戻った。

 少し元気を取り戻したアケノを見て、私は少しだが安心することができた。

 

 その時、艦橋内に船内捜索をしているマシロから通信が舞い込んできた。

 

 宗谷

「艦長、船内に取り残されていた人たちはほぼ全員避難させました。ただ先ほど救助したご夫婦から小さい子とはぐれてしまったと伺って、今ミーナさんと船体後方の第5区画を捜索中です」

 

 岬

「子供が!?」

 

 マシロの報告によると、まだ船内に子供が取り残されているというのだ。

 私は急いでヤマトに通信をつないだ。

 

 ムサシ

「ヤマト、まだ船内に子供が一人残っているってマシロから報告があったのだけど、位置はわかる?」

 

 ヤマト

「それが、私も船内の生命反応を全部モニタリングしていたんだけど、もう他に反応が見当たらないの」

 

 ヤマトの報告に艦橋内はざわついた。

 生命反応をモニタリングしていたヤマトが見つけられないというのだ。

 艦橋にいる誰しもが最悪の可能性を考えたが、アケノは諦めることはなかった。

 

 岬

「もしかしたら大きなけがをして弱っているのかもしれない。まだ、そうだと決まったわけじゃないよ! ヤマトさん、悪いですけどもう少し詳しく調べ直してもらえませんか?」

 

 ヤマト

「わかったわ。もう少し精度をあげて探索してみるわね」

 

 岬

「しろちゃんとミーちゃんは引き続き船内の探索をお願い。ただし、もう船がいつ大きく動いてもおかしい状態だから、身の危険を感じたらすぐに脱出をするように」

 

 宗谷

「わかりました。宗谷ましろ、船内捜索を続行します」

 

 ミーナ

「わしもじゃ。まかせておけ!」

 

 一通りの指示を出し終えると、アケノは祈るような目で新橋を見つめていた。

 きっと心の内は穏やかでないのだろう。

 それでも、艦長としての責務を果たそうと必死に耐えているのが見ただけでわかった。

 私はアケノに声をかけず、ヤマトたちが無事に戻ってきてくれることを共に祈るのであった。

 

 

 

 -ましろside.-

 

 宗谷

「多聞丸! 聞こえていたら返事してくれ!!」

 

 私はミーナさんと二手にわかれ、船内に取り残された子供、多聞丸ちゃんを捜索していた。

 しかし、私もミーナさんも未だその姿を見つけられずにいる。

 船外ではヤマトが必死に生命反応を探索してくれているが、こちらも結果は芳しくはない。

 こうしている間にも新橋の浸水は進行しており、船体崩壊の危険性は一分一秒ごとに高まっている。

 私を含め、捜索組にも焦りが目に見えて出ていた。

 

 ミーナ

「これだけ探しても見つからんとは。生命反応もないとなると、これは最悪の事態を考えざるを得ないぞ」

 

 宗谷

「だが! もしまだ生きていたとしたら、私たちは救える命を見捨てることになるんだぞ!」

 

 ヤマト

「ましろさん、落ち着いて。私ももっと頑張ってみるけど、もうこれ以上は危険よ。あなた自身も危ないわ」

 

 宗谷

「っ!?」

 

 私は思わず歯ぎしりをしてしまった。

 夫婦から話を聞いた限りでは、避難する途中ではぐれたというからそう遠くへは行っていないはずだが、ヤマトさんを含めた3人がかりでも見つけられない。

 いよいよ手詰まりかと思った時、私はふと気づいたことがあった。

 「多聞丸」という子供の名前のことだ。

 最近の親御さんの名前の付け方の事情を詳しく知っているわけではないが、「多聞丸」という名前をはたしてあの夫婦は自分たちの子供につけたのだろうか。

 思い返せば、あの夫婦は一度も多聞丸のことを自分の子供とは言っていなかった。

 私は頭に浮かんだ可能性を信じて、ヤマトさんに通信をつないだ。

 

 宗谷

「ヤマトさん、もしかしたら多聞丸は人間の子供ではないのかもしれません。私の推測ですがあのご夫婦の飼っているペット、犬や猫の子供なのかもしれません。そういった小動物の反応を探すことは可能ですか?」

 

 ヤマト

「なるほど、それは盲点だったわ。生命反応で探知する生物の範囲を広げてみるわ。少し待ってて」

 

 私はヤマトさんからの報告を祈るように待った。

 時間にしてわずか10秒ほどであったが、私にはとても長い時間のように思えた。

 

 ヤマト

「! ましろさんがいる場所から20mほど先に小さい生命反応あり。これは、子猫のようね。場所を端末に送るわ」

 

 宗谷

「わかりました。私が急行します。ミーナさんは先に脱出してください」

 

 私は急いでヤマトさんが示した場所へ向かった。

 反応のあった区画にはコンビニがあり、その入り口にガラスの自動ドアがあった。

 

 ???

「みゃーお」

 

 すると、私の足元から猫の鳴き声が聴こえた。

 視線を足元にやると、自動ドアの向こう側にグレーとシロの体毛に青い瞳の子猫がいた。

 首には首輪がしてあり、金属のプレートに「TAMONMARU」と刻まれていた。

 

 宗谷

「お前が多聞丸か。もう大丈夫だ、おいで」

 

 多聞丸は嬉しそうに私に飛びついてきた。

 暗い船内の中でたった一匹取り残されていたので、ずっと不安だったのだろう。

 私はみんなに多聞丸発見の報告しようと通信機に手を当てた。

 その時、新橋の船体からギシギシと軋むような音がして、船全体が振動し始めた。

 

 宗谷

「!? なんだ!?」

 

 私は思わず近くの壁に手をつき、胸元にいる多聞丸を守る姿勢を取った。

 音はどんどん大きくなり、振動も大きくなっていった。

 そして、私の立っている場所が突然大きく傾いた。

 身体を支えられなくなった私は突然の動きに対処しきれず、大きく姿勢を崩した。

 

 宗谷

「う、うわぁあああ!」

 

 せめて多聞丸だけでも守らねばと思い、私は咄嗟に胸元を庇うような姿勢を取った。

 空中に投げ出された私の身体はそのまま反対側の壁へ向かい、運悪く壁に頭がぶつかってしまった。

 その衝撃は非常に強く、私の意識は急速に薄れていく。

 

 宗谷

≪……艦長……≫

 

 そこで私の意識は完全に途絶えた。

 

 船体崩壊で大きく動く新橋の中で私、宗谷ましろは頭部を強打して意識を失い、その場で倒れてしまった。




第十四話、いかがでしたでしょうか?

新橋救助の話は一話でまとめるつもりだったのですが、あれよあれよと色々加えていくうちに二話構成になってしまいました。
アニメではミケちゃんとしろちゃんが仲直りするお話ですが、本作では早々に仲直りしてますので、展開を変えてみました。
結果、しろちゃんが大ピンチに!

次回、第十五話は、
大きく転覆した新橋の中で意識を失ってしまったしろちゃんの運命は!?

次回も読んでいただけるとありがたいです。


ここから私事です。
おめーの話なんぞ興味ねーよ!って方はスルーしていただいて大丈夫です。



さて、先週金曜日に今月24日に開催されるはいふりイベント「横須賀赤道祭2016」夜の部の先行抽選結果が発表されましたが、私当選いたしました!
昼の部の抽選で漏れていたので、この夜の部に全てを賭けると言っていましたが、無事に参加できることになりました。
当日、読者の皆様の中にいらっしゃるかもしれない当選者の方々と一緒に祭りを盛り上げましょう!!
もちろん、マロンちゃんの法被は予約済みです。

ちなみに、会場の横須賀芸術劇場は昨年末にアルペジオのイベント「Blue Field -Finale-」で一度訪れたことがありますが、その時は3階席の微妙な場所でした。
今回はかなりいい場所(詳しくはヒミツ)を割り当てられたので、思いっきり楽しめそうですよ!

長くなりましたが、皆さんで赤道祭を楽しめればと思います。
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