ハイスクール・フリート ―霧の行く先―   作:銀河野郎のBOB

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お待たせいたしました。
第十五話でございます。

前回に引き続き、新橋商店街船救助のお話です。
ここまでボリュームある内容にするつもりはなかったのですが、二話分合わせるとすごいボリュームになっていました。

今回、後書きの方で今後の作品投稿に関する大切なお話がありますので、そちらもご覧いただけると幸いです。

それでは、どうぞ!


第十五話 多聞丸でピンチ!

 2016年4月26日午前4時30分

 

 -明乃side.-

 

 それは、突然起こった。

 新橋乗員を晴風にほぼ全員を収容し終わり、まだ船内に取り残されている子供を捜索するしろちゃんとミーちゃんの帰りを晴風艦橋で祈るように待っている時、船の様子を監視していたムサシちゃんが突然大きな声を上げた。

 

 ムサシ

「アケノ! ソナーが新橋から発生する異音を検知したわ! もう新橋はダメよ、船体崩壊する!」

 

 突然の事態に艦橋内は大きくざわついた。

 その直後、新橋からギシギシと明らかな異音が聴こえてきた。

 その音はどんどん大きくなっていく。

 

 ムサシ

「アケノ、早く晴風を離脱させて! 船体崩壊で起こる波に呑まれてしまうわよ!」

 

 岬

「あ! すぐに舫いを解いて! 新橋から離脱する!」

 

 ムサシちゃんの言葉で晴風にも危険が及んでいることを察した私は、晴風を離脱させる指示を飛ばす。

 しかし私はまだ船内に残っているしろちゃんとミーちゃんのことが気になっていた。

 二人は無事に脱出できただろうか?

 すると、小型艇に戻っていた万里小路さんから通信が入った。

 

 万里小路

「艦長、聞こえますか? 万里小路です」

 

 岬

「うん、聞こえるよ。みんなは脱出できたの?」

 

 万里小路

「ミーナさんは脱出できました。しかし、副長がまだ船内に……」

 

 岬

「え……」

 

 万里小路さんの報告に、血の気が一気に引いていく感覚がした。

 しろちゃんが、まだあの船内に取り残されている。

 私は耳にかけていた通信機に手を伸ばす。

 

 岬

「しろちゃん! 返事をして、しろちゃん!!」

 

 必死にしろちゃんに呼びかけるが、応答はなかった。

 

 岬

「しろちゃん! しろちゃん!! しろちゃん!!!」

 

 私は何度も、何度も、何度も呼びかけた。

 艦橋にいる皆は私の取り乱した様子に困惑していたが、私はそんなことを気にかける余裕は全くなかった。

 

 ムサシ

「アケノ! いい加減落ち着きなさい!!」

 

 突然響き渡る怒号。

 私はその声に思わず身を震わせた。

 その声の主であるムサシちゃんが私の傍に近寄り、私の両の手を掴んだ。

 

 ムサシ

「落ち着きなさい。マシロはまだ生きている。ほら、あれを見て」

 

 ムサシちゃんが指差す方向にあったのは、空中ディスプレイに投影された新橋船内の生命反応を示すものだった。

 画面には船体後方に大きなマークと小さなマークが一つずつ表示されている。

 

 ムサシ

「今ヤマトが確認してくれたの。あの大きな反応がマシロよ。だから大丈夫」

 

 岬

「しろ、ちゃん……」

 

 しろちゃんの無事を聞いて安心してしまったのか、私はその場で座り込んでしまった。

 そんな私を心配して、メイちゃんとタマちゃんが駆け寄ってきた。

 

 西崎

「艦長!? 大丈夫?」

 

 立石

「だい、じょぶ?」

 

 岬

「二人ともありがとう。安心してちょっと気が抜けちゃった」

 

 私は介抱しようとする二人の手を制し、自分で立ち上がった。

 そして心配をかけてしまった艦橋のみんなに一人ずつ礼をした。

 そんな中、ムサシちゃんの表情はまだ険しかった。

 

 ムサシ

「安心するのはまだ早いわよ。マシロは確かにまだ生きてるけど、さっきからあの場所から移動する気配もないし、通信にも応じないの。これは推測だけど、マシロは船体が動いた時の衝撃で意識を失っている可能性があるわ」

 

 岬

「そんな!? しろちゃん!」

 

 私は思わず艦橋から飛び出そうとしていた。

 今すぐスキッパーで向かえば助けられる、そう思わずにはいられなかった。

 しかし身体を翻した時、私の頭の中に声が聞こえた。

 

 また艦を放って飛び出すつもりか!!

 

 紛れもない、しろちゃんの声だった。

 この場にいるはずもないのに、その声ははっきりと頭の中に響いていた。

 そして、しろちゃんが新橋に救助に向かう直前に私に言った言葉を思い出した。

 

 宗谷

≪……心配しないでください、艦長。もう艦長には二度も辛い思いはさせませんから≫

 

 岬

≪そうだ、しろちゃんは私と約束してくれたんだ。必ず帰ってくるって≫

 

 私は走り出そうとしていた足を止め、艦橋の窓から見える新橋の方へ視線を移した。

 

 岬

≪しろちゃんは約束してくれた。なら、私はしろちゃんを信じてここで待っていなくちゃ。そして、帰ってきたしろちゃんを迎えるんだ≫

 

 私は震える手をギュッと握りしめ、なんとかその場に留まった。

 冷静になった私はみんなに指示を出す。

 

 岬

「しろちゃんの救助は救助班とブルーマーメイドに任せよう。私たちは状況把握と避難した人たちへの食事と飲み物の配布を続けます。みんな、よろしくお願い!」

 

 私の言葉に艦橋のみんなは「はい!」と返事をして、それぞれ動き出した。

 私は引き続き指揮を執る。

 しろちゃんが帰還することを信じて。

 

 

 

 -ヤマトside.-

 

 晴風の離脱後、私の乗る小型艇も救助班を回収して新橋から離脱する。

 しかしその中にましろさんの姿はない。

 私はましろさんの通信機に呼びかけ続けているが、未だに応答はない。

 船体崩壊の衝撃で通信機を手放したか、意識を失ったようだ。

 

 小笠原

「副長、大丈夫ですよね?」

 

 ヤマト

「生命反応が健在だから、生きているのは間違いないわ。だけどすでに船の全区画への浸水が始まっているみたいなの。このままだとましろさんのいる区画もいずれ浸水してしまう」

 

 日置

「そんな! なんとかならないんですか!」

 

 順子さんが声を荒げる。

 しかし今、彼女たちが新橋に近づくことは被害を増やすだけだ。

 ブルーマーメイドの救助隊の到着はもう間もなくだというが、間に合わないかもしれない。

 この状況で可能性があるとするならば、一つだけ案があった。

 

 ヤマト

「……私が、私がましろさんを助けにいきます」

 

 武田

「え?」

 

 ヤマト

「私はメンタルモデルです。水中下でも問題なく活動できます。今この場でましろさんを救える可能性があるとしたら、私だけです」

 

 勝田

「そんな、無茶ぞな!」 

 

 ミーナ

「ヤマトさんを一人で行かせるわけにはいかん!」

 

 ヤマト

「でも、このままじゃ……」

 

 私は自分の無力さを嘆いていた。

 霧の艦隊の総旗艦として他の生命体とは一線を画する様々な能力を持っている私だが、今目の前の二つの命を救うことができない現実を突き付けられた。

 どんなに強力な力を持っていようと、今この場において私は無力だった。

 

 その時、私は頭上の巨大な飛行物体の存在を感じ取った。

 見上げるとそこにはオレンジ色の巨大な飛行船が浮かんでいた。

 

 小笠原、武田、日置

「ブルーマーメイドだ!」

 

 砲術科三人組が嬉しそうな様子で声を合わせて叫んだ。

 ようやく待ちに待ち望んだブルーマーメイドの救助隊が到着したのだ。

 小型艇を操艦している聡子さんは飛行船と並走するように、船の向きを変える。

 その直後、後方から中型スキッパーの集団が現れ、私たちを追い越していく。

 その中から一台がこちらに近づいてきた。

 

 喜島

「ブルーマーメイド海難救助隊の喜島です。到着が遅れて申し訳ない」

 

 小笠原

「晴風救助隊、小笠原以下6名です」

 

 光さんの言葉が終わると、ブルーマーメイドの喜島さんは私に視線を向けてきた。

 

 喜島

「あなたが、霧の艦隊の方ですね。お話は宗谷監察官から伺っています」

 

 ヤマト

「霧の艦隊、総旗艦ヤマトです。そうですか、真霜さんから伺っているということは我々の事情もご存じということですね」

 

 真霜さんの手がかかった人たちだとわかり、とりあえず一安心した。

 喜島さんはさらに話を続ける。

 

 喜島

「新橋の状況は? まだ人は船内に残っていますか?」

 

 ヤマト

「新橋は10分ほど前に船体崩壊を起こしてあのように完全に転覆しました。それと、船内に一人に救助活動をしていた学生が取り残されています。詳細はこちらに」

 

 私は予備で持っていた通信機を喜島さんに手渡した。

 

 喜島

「これは?」

 

 ヤマト

「私が作った通信機です。通信機能以外にも様々な機能がありますが、今は説明している時間も惜しいです。それを耳に着けていただければ使用できます」

 

 喜島

「了解です。ありがたく使わせていただきます。それでは」

 

 喜島さんは通信機を装着すると、スキッパーの速力を上げて新橋へと向かっていった。

 私は小型艇に乗るみんなに指示を出す。

 

 ヤマト

「私たちは可能な限りブルーマーメイドの救助活動を支援しましょう。聡子さん、ブルーマーメイドのあとを追ってくれませんか?」

 

 勝田

「よっしゃ! まかせるぞな!」

 

 ヤマト

「私は引き続きましろさんの状態を確認、逐次みなさんに報告します。ミーナさんは明乃さんたちへの報告、光さん達はましろさんへの呼びかけを」

 

 私の指示でみんなが動き出す。

 何としてでも、ましろさんを救出してみんなの所へ戻らなければならない。

 この場にいる皆の想いは一つだった。

 

 

 

 -ましろside.-

 

 ??

「みゃお、みゃーお」

 

 宗谷

≪……つめたい……わたし、は……≫

 

 朦朧とする意識の中、私は何かの声に気づき目を開けた。

 目に映ったのは小さな子猫の姿だった。

 

 宗谷

「……多聞丸?」

 

 多聞丸

「みゃお♪」

 

 多聞丸は私に飛びついてきた。

 私は横になっていた身体を起こそうとした。

 

 宗谷

「っ痛!?」

 

 その時、頭に痛みが走った。

 そして私は自分に何があったのかを思い出した。

 

 宗谷

≪そうだ。確か多聞丸を助けた直後に船が大きく動いて、その時に壁に頭をぶつけて、意識を失ったのか≫

 

 痛みが走った場所に手を軽く触れると、再び痛みが走った。

 触った手を見ると、赤く染まっていた。

 どうやら出血しているようだ。

 

 宗谷

≪とりあえず、スカーフを巻いて応急処置を≫

 

 怪我をした箇所にスカーフを巻いて止血をした私は、多聞丸を抱きかかえて立ち上がった。

 周囲を見渡すと、船内の設備が瓦礫となってあちらこちらに散らばっていた。

 どうやら先ほどの大きな揺れは船体崩壊によるものだったようだ。

 すでに私が通って道は瓦礫で塞がれており、反対側も扉が曲がって動かない状態であった。

 

 宗谷

≪逃げ場なし、か。まずは艦長へ報告を……って、あれ? な、ない!?≫

 

 耳の通信機に手を当てようとした時、その通信機がないことに気が付いた。

 先ほど頭をぶつけた衝撃で外れてどこかへ飛んでしまったようだ。

 

 宗谷

≪はぁ、ついてない……≫

 

 元来の不幸体質をつい嘆いてしまった。

 とりあえず近くに落ちていることは間違いないと思い、周囲を探してみることにした。

 しかし、なかなか通信機を見つけることができない。

 

 宗谷

≪こういう時にサイズが小さいことが仇になってしまうなんて≫

 

 その時、胸元にいた多聞丸が突然飛び出し、どこかへ向かっていく。

 

 多聞丸

「うみゃー」

 

 宗谷

「あ、多聞丸。どこに行くんだ」

 

 私は慌てて多聞丸を追いかけた。

 多聞丸は少しだけ瓦礫を進むと歩みを止めた。

 私は多聞丸に追いつき、抱え上げようとする。

 

 宗谷

「まったく、突然飛び出して何を……って、それは?」

 

 多聞丸が立ち止った場所の足元を見ると、そこには通信機が落ちていた。

 私は多聞丸と一緒に通信機を拾い上げた。

 

 宗谷

「お前、これの場所を私に教えるために?」

 

 多聞丸

「みゃー♪」

 

 制服の胸元に入り込んだこの子猫が私の考えを察してくれたとは考えにくい。

 だが、この子は私のために行動してくれたのだと、今は信じたい。

 

 宗谷

「ありがとう、多聞丸」

 

 多聞丸

「みゃ?」

 

 私は多聞丸に感謝し、通信機を再び耳に装着して回線を開いた。

 

 宗谷

「こちら宗谷。晴風、応答願います」

 

 私が呼びかけると、待ち望んでいた人の声が返ってきた。

 

 岬

「しろちゃん!? しろちゃん、無事なの?」

 

 宗谷

「はい、船が動いた衝撃で頭をぶつけて意識を失っていました。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

 

 岬

「よかった。よかったよぉ、しろちゃん!」

 

 通信機越しに艦長の泣きそうな声が聞こえてきた。

 艦長には心配をかけまいと思っていたが、思惑通りにはいかなかったようだ。

 

 ヤマト

「ましろさん! よかった、無事なんですね」

 

 宗谷

「ヤマトさん。私も救出した多聞丸も無事です。ですが、通ってきた通路が先ほどの衝撃で塞がってしまいました。先へ進むにも奥の扉が動かないので、現状脱出不可能です」

 

 岬

「!? そんな!」

 

 私からの報告に艦長から大きな声が上がる。

 逃げ場がない以上、危険な状況であるのは変わりないから仕方のないことだ。

 

 ヤマト

「ましろさん、浸水状況はどうですか?」

 

 私は今一度閉じ込められた空間の浸水状況を確認する。

 すると、三か所から海水が浸水していることがわかった。

 

 宗谷

「浸水は船体後方側に3か所、今は浸水量は少ないですがあまり猶予はないかもしれません」

 

 ヤマト

「わかりました。今ブルーマーメイドの救助隊がましろさん救出のためにそちらに向かっています。位置情報も伝えてあるので、もう少しだけ頑張ってください」

 

 宗谷

「了解しました。多聞丸を保護しつつ、比較的安全な場所で待機します」

 

 私はヤマトさんとの通信を切ると、安全な場所を探すことにした。

 その時、通信機から艦長の声が聞こえてきた。

 

 岬

「しろちゃん、私はここで、晴風で待ってるよ。だから、無事に帰ってきて」

 

 宗谷

「もちろんです。絶対「岬さん」のところに帰ってくるから」

 

 岬

「え? しろちゃん今……」

 

 私は艦長の最後の言葉には応えず、通信を切った。

 正直、言った後で恥ずかしくなってしまったとは口が裂けても言えない。

 

 宗谷

≪でも、いつか普通に「岬さん」と呼べるようになりたいな≫

 

 私は気を取り直して、安全な場所を探すことにした。

 浸水が進んでいない船体前方に向かっていると、周囲に瓦礫が少ない場所を見つけることができた。

 ここなら再び大きく船が傾いても比較的安全だろう。

 私はこの場所に留まることにした。

 

 多聞丸

「みゃー」

 

 宗谷

「お前も不安か? 大丈夫、私が守るよ」

 

 多聞丸

「みゃ?」

 

 多聞丸は私の言葉に首を傾げて一鳴きした。

 子猫に話しかけるとは、私も自分で思っていた以上に不安に感じていたようだ。

 

 宗谷

≪そういえば、小さい頃に多聞丸ぐらいの子猫を飼っていたことがあったな≫

 

 小学五年生の時、雨の降る中で段ボールに入れられていた捨て猫を私は家へ連れて帰った。

 私は子猫にありったけの愛情を注いで可愛がっていた。

 しかし、私が移動教室で外出している間に子猫は伝染病に罹り、死んでしまったことを真冬姉さんが暗に教えてくれた。

 

 宗谷

「それから、私は猫の話をすることを避けるようになって、それがいつの間にか、猫そのものを避けるようになっていたんだな」

 

 多聞丸

「みゃー?」

 

 いつの間にか心で考えていたことが口から漏れていたようで、多聞丸が寄り添ってきた。

 

 宗谷

「でも、お前を助けようと思ったらそんなこと忘れていた。全く私は変な意地を張り続けていたんだな。多聞丸、お前のおかげで気づけたよ。ありがとうな」

 

 多聞丸

「みゃー!」

 

 今度は多聞丸が元気のよい声で私の言葉に応えてくれた。

 子猫相手に会話をするなんて、普段の自分からは考えられないことだが、今はこうしていることで不安な気持ちが楽になっているような気がする。

 私はその後も多聞丸相手に話を続けていた。

 

 それから30分くらい経った時、突然船体後方の方で大きな音がした。

 私はその場から立ち上がり、音がした方向を確認してみた。

 見ると、後方からの浸水速度が速まってこちらの方まで迫ってきているのが見えた。

 

 宗谷

≪しまった! 元から開いていた穴が水圧によって押し広げられたか≫

 

 このままではそう時間が経たないうちに今いる区画全体が海水に沈んでしまう。

 私は多聞丸を服の中に入れ、なんとかできないか周囲を見渡してみた。

 だが、脱出できそうな場所もなく、塞がった扉をこじ開ける道具も見当たらない。

 

 宗谷

≪いよいよ万策尽きたか……≫

 

 多聞丸

「みゃ! みゃー!」

 

 いよいよダメかと思ったその時、胸元の多聞丸が上を向いて鳴きはじめた。

 何事かと思い、多聞丸の視線の先を見てみた。

 そこには人が通れないくらいの大きさの穴があった。

 手を伸ばしてみると、その穴は通気ダクトへと通じているようだった。

 こうしているうちに水が迫ってきている。

 私は、決断した。

 

 宗谷

「多聞丸、お前はこの穴から脱出するんだ。さぁ、早く行け」

 

 多聞丸

「みゃー! みゃー!」

 

 しかし、多聞丸は私の傍から離れようとしない。

 その時、通信機からあの人の声が聞こえてきた。

 

 岬

「しろちゃん! 今ムサシちゃんからしろちゃんのいる場所の近くで異音が発生したって聞いたんだけど、大丈夫なの?」

 

 宗谷

「……艦長、今私のいる区画の浸水速度が急激に増しました。おそらく異音は水圧で穴が押し広げられた時のものでしょう。あと数分でこの区画は海水で満たされる。今、多聞丸だけでも逃がそうとしているところです」

 

 岬

「そんな……。しろちゃん、諦めちゃだめだよ!」

 

 宗谷

「岬さん、ごめんなさい。約束、守れそうになさそうだ。晴風のことを、頼むね」

 

 岬

「だめだよ、しろちゃん! しろちゃーん!!」

 

 私は通信機を耳から外し、すでに水浸しになっていた床の上に置いた。

 海水はどんどん水かさを増していき、すでに膝のあたりまで水に浸かっていた。

 

 宗谷

「多聞丸、ほら、早く行くんだ」

 

 多聞丸

「……」

 

 多聞丸は無言で私にしがみつき、離れることを拒否する。

 意地でも私の元から離れないつもりなのだろうか。

 こうしている間にも水かさはどんどん増していく。

 

 宗谷

≪こうなったら!≫

 

 私は隙を見て多聞丸を無理やり引き離し、通気口の入り口に押し込めた。

 

 宗谷

「早く行け! お前はあのご夫婦の元へ無事に帰るんだ! 行くんだ!」

 

 多聞丸

「みゃお……」

 

 多聞丸は観念したのか、入り口に突っ込んだ私の手元から離れていった。

 とりあえず多聞丸だけでも逃がすことができた。

 気が付けば海水は腰のあたりまできていた。

 もうすぐ私は海水に呑まれ、そのまま死ぬのだろう。

 しかし、思っていたほど恐怖心はなかった。

 

 宗谷

≪死を目の前にしても、こうして満足できるんだな。最後まで不幸な人生だったかもしれないけど、それでも楽しかったな≫

 

 私は、静かにその瞬間を受け入れる準備をした。

 

 

 その時、突然私の横の天井が大きな音を立てて崩れた。

 その大きく開けられた穴から手を差し伸べられた。

 

 喜島

「大丈夫ですか! 今引き揚げますね」

 

 私はその手を掴み、外へと引っ張り出された。

 私はすぐには立つことができず、その場で座り込んでしまった。

 

 宗谷

「助かった、のか…………! 子猫は? 近くに子猫がいませんでしたか!?」

 

 喜島

「ええ。子猫なら、ほらここに」

 

 その人の左手には多聞丸が抱えられていた。

 多聞丸はその人から離れると、私の元へ飛びついてきた。

 

 多聞丸

「みゃー!!」

 

 宗谷

「多聞丸、よかった。無事で」

 

 喜島

「改めて、ブルーマーメイド救助隊の喜島です。遅れてごめんなさい。これから晴風へ護送しますが、立てますか?」

 

 私は喜島さんに言われて立とうとするが、足に力が入らない。

 

 宗谷

「すみません。安心したら腰が抜けてしまったみたいで」

 

 喜島

「では、スキッパーまで私が背負っていきますね。さぁ捕まって」

 

 私は喜島さんに背負われて、沈みゆく新橋商店街船から離脱した。

 その後、小型艇に合流し晴風へと戻っていった。

 

 晴風に戻ってすぐ、私は多聞丸の飼い主であるご夫婦に多聞丸をお返ししようとしたのだが、多聞丸は私の傍を意地でも離れようとせず、結局ご夫婦から私に世話を頼まれるというまさかの事態が起こった。

 大変申し訳なさそうに私に謝ってくるご夫婦に対して、私は陸に戻った時にはうちの実家でいつでも会えるようにすると約束をして、私の責任の元で多聞丸を晴風で預かることになった。

 

 そして、私はミーナさんに支えてもらいながら艦橋へ戻った。

 艦橋にはいつものメンバーが揃っており、その中にはもちろんあの人の姿もあった。

 私は後ろを向いている艦長の元へ近づいた。

 

 宗谷

「艦長、晴風副長、宗谷ましろ、ただいま戻りました。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

 

 岬

「……」

 

 しかし、艦長からの返事はない。

 最後の通信で、自ら死ぬようなことを言って無理やり切ったのだから、当然怒っているのだろうと、私は思った。

 

 宗谷

≪さすがに、嫌われてしまったかな……≫

 

 岬

「……ばか……」

 

 宗谷

「え?」

 

 艦長が何か小さな声で言ったが、よく聞こえなかった。

 すると突然艦長は私の胸元にしがみついてきた。

 その目には大粒の涙が流れていた。

 

 岬

「しろちゃんのばか! 突然あんなこと言って、私ものすごく心配したんだから!! しろちゃんのばかああああああああ!!」

 

 泣きながら大声で私を怒鳴りつけてきた艦長。

 私は艦長を抱き寄せ、優しく包んであげた。

 

 宗谷

「ごめんね、岬さん。私、絶対帰ってくるって約束したのに、結局岬さんを不安にさせちゃったね。本当に、ごめんなさい」

 

 岬

「……もう、二度とあんなことしないって、約束、してよ」

 

 宗谷

「うん。もう岬さんに心配かけない。死ぬだなんて、絶対言わないよ」

 

 岬

「……なら、許してあげる。これからずっと、ずーっと一緒だからね!」

 

 岬さんがしがみついていた手を離し、私に抱きついてくる。

 その時、私の胸元から声がした。

 

 多聞丸

「みゃっ!?」

 

 岬

「へ?」

 

 宗谷

「ああ! ごめん、この子がいたんだった」

 

 私はセーラー服の中にいる多聞丸に出てくるように促す。

 多聞丸は首元から顔出して、「みゃお」と一鳴きした。

 

 岬

「しろちゃん、その子は?」

 

 宗谷

「新橋で取り残されていた子猫なんですけど、私の元から離れてくれなくて、結局飼い主のご夫婦からこちらで預かってほしいということになりました。私の一存で決めてしまいましたが、大丈夫、でしょうか?」

 

 岬

「うん! ええと名前は?」

 

 宗谷

「えと、多聞丸です」

 

 岬

「よろしくね、多聞丸!」

 

 多聞丸

「みゃー!!」

 

 多聞丸は艦橋のみんなに受け入れてもらい、晴風メンバーの一員となった。

 

 

 

 -ムサシside.-

 

 無事に戻ってきたマシロは、今連れてきた子猫の多聞丸の紹介で艦橋のみんなに囲まれている。

 私はその様子を少し離れた場所からヤマトとともに眺めている。

 

 ムサシ

「マシロも無事に戻ってきたし、新橋の乗員も無事にブルーマーメイドに引き渡せた。よかったわね」

 

 ヤマト

「ええ。でも、正直今回はましろさんの件では自分の無力さを思い知ったわ」

 

 ムサシ

「そうね……」

 

 私もヤマトも、マシロの一件で自分たちが何もできなかった無力さを思い知らされた。

 無事に帰ってきたことは嬉しいが、私たちの中で何かモヤモヤするものが残っていた。

 すると、私の後ろの扉が開き、そこからクロが出てきた。

 

 黒木

「あ、ムサシ! 宗谷さんは?」

 

 ムサシ

「クロ、あそこにいるわ。今艦橋のみんなに取り囲まれてる」

 

 クロは視線をそちらに向けると、少し複雑そうな表情をした。

 丁度、アケノがマシロに再びしがみつき泣いているところだった。

 

 ムサシ

「……憧れのマシロをアケノに取られて、悔しい?」

 

 黒木

「べ、別にそんなんじゃないってば!」

 

 ムサシ

「ふふ、冗談よ。ほら、クロも行ってきたらいいじゃない」

 

 黒木

「……いえ、今はいいかな。宗谷さんとは後で話すよ」

 

 ムサシ

「そう」

 

 そういうと、クロは私とヤマトに向かい合うように立った。

 

 黒木

「二人ともごめんなさい。さっき二人が話していること、扉越しで聞いちゃったの。二人は宗谷さんのことで何もできなかったって言ってるけど、そんなことないよ」

 

 クロは力強く私たち二人にさらに言葉をつづけた。

 

 黒木

「ムサシはずっと船の状態を観測して、救助の時にちゃんと指示してたし、ヤマトさんは宗谷さんの位置を正確に把握してくれた。二人のおかげで宗谷さんは無事に戻ってこれたんだよ。何もできなかったなんて、絶対にそんなことないよ」

 

 クロの言葉に私とヤマトは自分たちの手助けしたことは、ちゃんとマシロの救出に役立っていたことにようやく気が付いた。

 

 ムサシ

「そっか。私、ちゃんと役に立てたんだ」

 

 ヤマト

「ありがとう洋美さん。おかげでちゃんと気づくことができたわ」

 

 黒木

「いえ。というか、意外ですね。二人ともそんな簡単なことに気が付かないなんて」

 

 ムサシ

「まったく、その通りね」

 

 私とヤマトはようやく、モヤモヤする何かを取り除くことができたように感じた。

 自分たちが役に立ったと気づき、安心したおかげだろうか。

 

 岬

「あ、クロちゃんきたんだね。ほら、ムサシちゃんとヤマトさんもおいでよ。多聞丸かわいいよ」

 

 黒木

「もう艦長ったら。ムサシ、ヤマトさん、いきましょう」

 

 ムサシ

「ええ」

 

 私たちはアケノたちがいる輪の中へと入っていった。

 

 

 こうして、新橋商店街船座礁事故の救出劇はここに幕を閉じたのだった。

 




第十五話、いかがだったでしょうか?

アニメよりも切迫した状況を作り出してみようとやってみましたが、うまく伝わっているでしょうか?
ここまでするつもりはサラサラなかったのに、プロット作るうちにどんどんしろちゃんのピンチ具合がすごくなっていたw
そして加速するミケ×シロのカップリング。
私はこの二人こそ最高だと思ってますよ!(ミケ×もか も悩ましいですが)

霧の二人は、今回派手ではないですがちゃんと救助に役立つようにできたかな、と思っています。



さて、いつもはここで次回のお話の予告なのですが、今回は前書きでお伝えした大切なお知らせについてお話いたします。

すでに活動報告にてお知らせしているのですが、今回の十五話で本編投稿を11月初めまでお休みさせていただきます。

理由としては、
①10月の誕生日ラッシュに集中して対応するため
②今後の本編の構想をしっかり作りこむため
の二点になります。

より詳しい説明は前述の活動報告に記載していますので、未読の方は是非ご覧ください。

本編投稿は少しの間止まりますが、10月の誕生日記念の投稿は全キャラちゃんとやっていくので、投稿自体は続けます。

それでは、次は10月1日のサトちゃんとミーちゃんの誕生日でお会いしましょう!
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