ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
今回はサトちゃん&ミーちゃん以来のダブル誕生日!
本日1月28日は、つぐちゃんこと八木鶫ちゃんとメイちゃんこと西崎芽依ちゃんのお誕生日でございます。
まずはつぐちゃんから。
つぐちゃんは晴風の通信員担当、そして横須賀の諏訪神社の娘さんです。
アニメでも漫画でも巫女服姿を披露していますね。
私、つぐちゃんがはいふりキャラのイチオシなのです!
いつか誕生日来たら盛大にお祝いしてやるんだ、と待ってました。
こういう形でお祝い出来て嬉しいです。
そしてもう一人、メイちゃんです。
メイちゃんは晴風艦橋メンバーの一人で、役職は水雷長。
トリガーハッピーの気があるのか、作中でも「魚雷を撃ちたい」が口癖に思えるほど、好戦的な子なのが印象的でした。
そしてメイちゃんと言えば、相方のタマちゃんこと立石志摩ちゃんとの仲の良さですよね。
はいふりカップリングの中でも、メイタマは超鉄板ですよね。
そんな二人の誕生日をお祝いする作品です。
是非楽しんでいっていただければと思います。
それでは、どうぞ!
2017年1月28日午前11時
-鶫side.-
横須賀市内にある諏訪神社。私、八木鶫の実家であり、日本が地盤沈下を始めるずっと前から横須賀の街にある古く由緒ある神社である。祀っている神様は「お諏訪様」の愛称で親しまれている軍神・
そんなお正月と受験シーズンがひと段落したばかりの諏訪神社は今日、ちょっと広めの境内に露店が立ち並び、いかにもお祭りといった雰囲気となっている。
実は今日は今年一年の運勢を占う年中行事が行われる日で、それに合わせて境内でちょっとしたお祭りが開かれているのだ。かくいう私も学校の寮を朝イチで出て、実家のお手伝いをしていた。
八木
「ふぅ。もうすぐお昼だから、もっとお客さん増えそうだね」
時間は午前11時。これからさらにお祭りのお客さんは増えていくだろう。
すると、社務所にいる私の後ろから同じ巫女服を着た一人の少女が声をかけてきた。
知床
「お疲れ様、八木さん。はい、お茶だけど飲む?」
八木
「あ、リンちゃん。ありがとう」
彼女、知床鈴ちゃんは学校のクラスメートであり、私と同じく実家が神社の子だ。実は丁度一年前のお正月、高校に入学する前のリンちゃんとこの神社で出会っていた。その時、あろうことか私はお参りにきていた彼女に半ば強引に巫女のお手伝いをさせてしまったのだ。しかし、その時の精力ぶりが神主である私の両親にとても気に入られたようで、高校に入学してからも何か神事やお祭りがある度に私と一緒に彼女を呼んで、お手伝いをしてもらうようになっていた。
八木
「いつもありがとうね。うちの両親もいつもすごく助かるって喜んでいたよ」
知床
「そ、そんな。巫女のお仕事するのは全然嫌じゃないよ。それに、去年のお正月に初めてお手伝いした時も結構楽しかったし」
八木
「う、あの時は本当にごめんなさい……」
私としては早く忘れてもらいたい過去を引き合いに出されて、思わず誤ってしまった。しかし当のリンちゃんはあの時のことを全く気にしてはおらず、むしろ楽しい思い出になっているようだった。
その後、なんとかお昼の一番お客さんが来る時間帯をリンちゃんや他のお手伝いさんたちと一緒に乗り切って、少し落ち着いた頃合いとなった午後1時。
お母さんからリンちゃんと一緒にお手伝いあがってもいいという言葉をもらって、社務所裏の更衣室へ向かおうとしたその時だった。
宇田
「あ、いたいた。つぐちゃんリンちゃん、二人ともお疲れー」
八木
「あれ、めぐちゃん? どうしたの?」
現れたのはリンちゃんと同じくクラスメートであり、私とは高校入学前からの幼馴染であるめぐちゃんこと宇田慧ちゃんだった。
いつもは元気いっぱいで明るい彼女だが、今日はなんだか少しお疲れといった様子だった。
八木
「誕生日パーティにはまだ時間あるよね? もしかしてもう呼び出し?」
宇田
「いやー……、そうじゃないんだけど……」
すると、私の横にいたリンちゃんがある違和感に気づいた。
知床
「あ、宇田さんの後ろにいるのって」
リンちゃんに言われてめぐちゃんの後ろを見ると、さらにもう一人いることに気がついた。見えたのは髪の毛を赤いリボンで結んでいて、オレンジ色のパーカーを着ためぐちゃんと身長が同じくらいの女の子だった。そして、私とリンちゃんはその人に見覚えがあった。
八木
「す、水雷長?」
知床
「メイちゃん?」
そこにいたのは、普段の様子とは全く違うお通夜ムード全開にまで気落ちしてしまっていた、水雷長こと西崎芽衣ちゃんの姿であった。
-芽依side.-
めぐちゃんに連れられて、私はつぐちゃんの実家の神社に来ていた。
神社の境内では何やらお祭りをやっていたようだが、完全に落ち込んでいた私はそんなことには目もくれず、つぐちゃんのお家に招かれていた。つぐちゃんとリンちゃんは先ほどまで神社の巫女さんのお手伝いをしていて、巫女服を着たままだ。
宇田
「ごめんね。さっきまで神社のお手伝いだったんだよね?」
八木
「いいよいいよ。それより水雷長なんだけど……」
知床
「メイちゃん、何があったの?」
私のことを心配して、リンちゃんたちが私に優しく声をかけてきてくれた。
その優しさが今の私にはすごく心に響いたのか、今まで抑え込んでいた感情が一気にあふれ出てくる。
西崎
「う、うぅ、うわあああああああん‼」
知床
「うぇ⁉ め、メイちゃん⁉」
気持ちを抑えきれなくなった私は、泣きながら隣に座っていたリンちゃんに抱き着いた。学生寮からここまでずっと我慢していたため、なかなか高ぶった感情は収まらず、涙も止まらない。
宇田
「ちょちょっ、水雷長大丈夫なの?」
八木
「と、とりあえずこれ飲んで。落ち着くから」
突然泣き出してしまった私を心配してめぐちゃんとつぐちゃんが近寄ってきた。つぐちゃんの手には淹れたての緑茶が入った湯呑が握られていた。
私はリンちゃんから離れ、つぐちゃんから湯呑を受け取って一口飲んだ。さっきまで寒い外にいたせいか、緑茶の熱さに少し驚く。その熱さの後、緑茶独特の苦みが口の中いっぱいに拡がり、少しずつ高ぶっていた気持ちがスーッと沈静化していく。
西崎
「うくっ、うくっ、……はぁ」
お茶を飲み干してようやく落ち着いた私は、心配してくれた三人の顔を見渡した。リンちゃんは少し涙目になっているがその顔には笑顔が戻っていた。めぐちゃんとつぐちゃんは落ち着きを取り戻した私を見て一安心したという表情だ。
西崎
「三人ともごめん。急に泣き出したりしちゃって」
私は恥ずかしい姿を見せてしまったことを謝る。
三人は揃って、大丈夫だよ、と言って私に笑顔を向けてくれた。
すると、リンちゃんとつぐちゃんが私に尋ねてきた。
知床
「それよりもどうしてあんなに落ち込んでたりしてたの?」
八木
「そうそう。いつも元気いっぱいな水雷長があんなに気落ちするなんて」
二人はなぜ私が気落ちしていたのか気になっているようだ。あんな落ち込んだ状態で突然ここに来て、挙句泣き出してしまったのだから、気になるのは当然だろう。
西崎
「そうだね。めぐちゃんにもちゃんと話してなかったね」
私は覚悟を決めて、三人に事情を話すことにした。
西崎
「実は……、タマとケンカしちゃったの」
八木、知床、宇田
「ケ、ケンカぁ⁉」
事の始まりは一時間ほど前に遡る。
私は土曜日の休みをタマと一緒に過ごそうと、タマの部屋の前に立っていた。
西崎
「タマー! ねぇねぇ、遊びに行こうよー!」
ノックもチャイムもせず、扉の前で大きな声で呼び出す。傍から見たらすごい迷惑行為に見えるが、これがいつものタマの呼び出し方なのである。
こうして呼び出すとすぐに扉を開けてひょっこりと顔を出してくれるのだが、なぜか今日は違った。1分以上待っても扉は開かず、全く反応がないのだ。
西崎
「タマー? ねぇ、タマってばー?」
私は何度もタマを呼び続けた。しかしそれでも扉が開かれることはなかった。
西崎
「おっかしいなぁ。まだどこにも出かけてないはずなのに……、ってあれ? タマからメッセージ?」
普段とは違う様子に疑問を抱いていると、スカートのポケットに入れていたスマホにタマからのメッセージを受信した通知が届いていた。早速確認すると、そこにはこう書かれていた。
立石
[ごめん 今はダメ]
私は驚いた。今までどんな遊びの誘いにも二つ返事で了承してくれたタマが、初めて誘いを断ったのだ。
しかし、私は納得がいかず扉の向こうにいるタマに向かって話しかけた。
西崎
「今日はダメってどういうこと? 部屋にいるんでしょ? せめて顔出して理由くらい教えてよ?」
私は何度も何度も問い続けた。しかしその扉は開かれることなく、メッセージで[理由は、今は言えない]の一点張りだった。
そんなやり取りを10分近く続き、私もタマもどんどんヒートアップしていった。
そしてついに、限界を迎えてしまった。
西崎
「あー! もういいよ! そんなに私と遊ぶのが嫌なら、もういいよ! これからも一緒に遊んであげないんだからね!!」
私は吐き捨てるようにタマに叫んだ。
するとすぐに、スマホにタマからのメッセージが表示された。
立石
[いい加減、うるさい 早く帰って]
私はその冷たい言葉に、私は怒りのままに部屋の前から走り出していった。
-鶫side.-
八木
「……それで飛び出した後になって、一気に後悔してしまったと?」
西崎
「……うん」
宇田
「で、ベンチでうずくまっていたところを私が発見したというわけよ」
水雷長の話を聞き終えた私、リンちゃん、めぐちゃんの三人。私は誰よりも仲良しコンビの水雷長と砲術長がケンカをしたことにかなり驚いていた。
しかし同時に、なぜ砲術長が頑なに水雷長の誘いを断ったのか、その理由がなんとなくわかってしまっていた。
八木
≪これって、やっぱりアレだよね≫
私はチラっとめぐちゃんの方を見てみた。どうやら彼女も私と同じく、水雷長の話から砲術長の考えを理解したようだ。
すると、リンちゃんが突然水雷長に話しかけた。
知床
「ね、ねぇ。もしかしてタマちゃんはメイちゃんに……ムグッ⁉」
宇田
「わっ⁉ わーわー!」
私とめぐちゃんはこれ以上はいけないと思い、慌ててリンちゃんの口を塞いだ。そして、水雷長をリビングに残してリンちゃんを廊下へ連れ出した。
知床
「むぐぐ、ぷはぁ。い、いきなり引っ張るなんてひどいよぉ」
宇田
「それはこっちのセリフ! 今ここで水雷長に話しちゃったら、砲術長がケンカしてまで隠してた意味がなくなっちゃうよ」
八木
「そうそう」
予想通り、リンちゃんも私とめぐちゃん同様に砲術長の考えに気が付いていた。しかし、元来の優しい性格が水雷長の誤解を解こうという気持ちを先行させてしまい、つい口が滑ってしまったようだ。
知床
「そ、そうだよね。私、とんでもないことをするところだった……。二人ともありがとう」
リンちゃんもようやく自分がしてしまいそうになったことに気づき、慌てて私たちに謝った。
しかし、水雷長に本当のことを話せないとなるとこの後どう上手くやり過ごせばいいのか、私にはすぐに考えが浮かばなかった。
宇田
「で、この後どうするの? とりあえずなんとか慰めてみる?」
知床
「でも、あんなに落ち込んだメイちゃん初めて見たし、どうしたらいいのかわからないよぉ」
三人揃って色々考えてみようとしたが、なかなかいい考えは浮かばなかった。このままずっと廊下にいると、リビングで待たせている水雷長に怪しまれてしまうかもしれない。そうなってはダメだ、そう思った私は意を決してめぐちゃんとリンちゃんにこう言った。
八木
「とりあえず、お祭り行こうよ。四人で」
宇田、知床
「……へ?」
-芽依side.-
私の話を聞くやすぐに廊下に出て何やら話し込んでいたつぐちゃん、めぐちゃん、リンちゃんの三人は、部屋に戻って来ると突然「外のお祭りに行こう」と言い出してきた。
私はつぐちゃんに引っ張られて再び神社の境内に出ていた。
八木
「ほらほら、水雷長。お腹すいてるでしょ? どれ食べる?」
つぐちゃんは境内にいくつも並んでいる出店を指差して勧めてくる。タマとケンカしてお昼を食べ損ねていた私にはどれも魅力的に見えた。しかし、まだタマとのことを引きずっていた私はまだ立ち直り切れていなかった。
西崎
「えと、つぐちゃん? どうして急に……」
八木
「あれ? お腹すいてなかった? それじゃあっちの射的とかどう? 水雷長って射的得意でしょ?」
西崎
「あ、いや、そういうんじゃなくて……。と、とりあえず何か食べるよ」
私がつぐちゃんにお祭りに連れてきたわけを聞こうとすると、彼女はすぐさま別のお店を勧めようとしてきた。普段とは全然違うつぐちゃんに圧倒された私は、仕方なく彼女の勧めに乗ることにした。
知床
「なんか、つぐちゃんって結構強引なとこあるんだね」
宇田
「そうなんだよねー。普段ぼーっとしてる感じなのに、急にアクティブになるんだよね。そういえば、航海長にも覚えがあるんじゃないの? あんな感じのつぐちゃんに」
知床
「あ、そういえばそうだね」
後ろではめぐちゃんとリンちゃんが一歩引いた様子で私とつぐちゃんの様子を見守っていた。私は二人に暴走気味のつぐちゃんを止めてくれることを期待していたが、今の会話を聞くと三角関数の計算を間違えて放たれた魚雷の如く当たることはないと確信した。
すると、つぐちゃんが出店で買ってきたフランクフルトを手にして戻ってきていた。
八木
「はい。とりあえずこれ食べて」
西崎
「う、うん。ありがと」
私はつぐちゃんから熱々のフランクフルトを受け取り、一口頬張る。程よく焼けたソーセージの香りが口の中いっぱいに拡がり、後からケチャップとマスタードも混じってきた。まさにこれぞお祭りの味といったものだ。
八木
「どう? おいしい」
西崎
「うん。おいしいよ」
八木
「ほんと、よかった!」
私の言葉につぐちゃんはとても明るい笑顔を見せてくれた。その笑顔に私は少し気分が晴れたような感じを覚えた。
もしかしたら、つぐちゃんは元気がなかった私を励まそうとお祭りに連れ出したのかもしれない。私は今ようやくそれに気づいたのだった。
八木
「どう? 水雷長、少しは元気出た?」
西崎
「うん、おかげさまで。ありがとう、つぐちゃん」
八木
「いやいや。これもお祭りとお諏訪様のおかげだよー」
つぐちゃんは神社の拝殿の方に向かって手を合わせながら、一礼した。こうした姿を見ると、彼女がまこと神社の娘であることがよくわかる。
宇田
「よーし、水雷長も元気出たみたいだし、みんなでお祭り楽しんじゃおうよ」
知床
「うん、そうだね」
様子見をしていた二人も加わり、私たちはお祭りを楽しむことにした。
それから私たちはお祭りを満喫しまくった。フランクフルト一本ではお腹は全然満たされなかったので、さらに焼きそばとたこ焼きも追加で食べた。ご飯を食べた後は、得意な射的で景品を取りまくってお店のおじちゃんを困らせちゃったり、めぐちゃんが金魚すくいで20匹近くの金魚を掬いあげるという意外な才能を発揮したりと、いろんなことがあった。
そして気が付けば午後3時。心ゆくまでお祭りを楽しんだ私たちは、境内の隅にあるベンチに腰掛けていた。
その時、私はつぐちゃんがものすごいスピードでスマホをタップして何かを打っていることに気が付いた。何かを一瞬のうちに打ち終わると、つぐちゃんは何事もなかったようにスマホを巫女服の中にしまった。
西崎
「つぐちゃん、誰かに連絡してた?」
八木
「え⁉ う、うん、ちょっとね」
何か歯切れの悪い返答が返ってきたが、私が彼女のプライベートなことに口出しするのはさすがに悪いと思い、再びベンチに深く座ってのんびりすることにした。
そうしてベンチに座って10分くらいしたころ、すっかり気が緩んでいた私たちのもとに人影が一つこちらへと走ってきた。私が誰なのか確認しようとした時、その人影は私の真正面に立ち、こう言い放った。
立石
「ハァハァ、め、メイ!」
西崎
「た、タマ⁉」
それは、私の一番の親友で、ついさっきケンカをしてしまったタマだった。タマの顔を見た途端、私は寮でケンカした時のことが一気にフラッシュバックしてきた。すると、先ほどまでの楽しい思い出はどこへやら、逆に罪悪感が沸き上がってきてしまった。
立石
「メイ……」
西崎
「あ、タマ、えと……」
タマに謝らなくちゃ。さっきはひどいこと言ってゴメン、そう言いたいのになかなか口には出せずにいた。タマも何か言いたそうだが、こちらも言い出せないという顔をしていた。
二人の間に沈黙の時が流れる。実際にはそんなに時間はたっていないはずなのに、私にはそれがとても長い長い時間に感じた。
すると、私の隣に座っていたつぐちゃんが私の背中をポンと叩いた。
八木
「大丈夫。ほら」
たった二言だった。でもその二言が私に大きな勇気をくれた。
私は覚悟を決めて、立ち上がってタマと向き合った。
西崎
「タマ、さっきはゴメン! もう一緒に遊んであげないなんて、そんなこと言っちゃって、本当にゴメン!」
大きく頭を下げて、精一杯の謝意を示した。どう考えても悪かったのは私の方だった。だから、私はちゃんと謝らなくちゃいけない。まさに万感を込めての謝罪だった。
そうしてしばらく頭を下げていると、首から肩にかけてフワッとした何かが掛けられた感覚がした。私は恐る恐る頭を上げて、首元を見た。私の首にかけられたもの、それはオレンジ色の毛糸で編まれたマフラーだった。
立石
「メイ、お誕生日、おめでとう。私からの、プレゼント」
タマが恥ずかしそうに私に声をかけてきた。そしてタマの言葉で私はあることに気が付いた。
西崎
「え? これもしかしてタマの手作り?」
立石
「うぃ」
西崎
「それじゃ、朝に部屋から出てこなかったのは」
立石
「それ、編んでたの。メイを驚かせよう思って。だから、ドア開けられなかったの。ごめんね」
西崎
「タマ……、タマー‼」
私は嬉しさの余り、人目をはばからずタマに抱き着いた。
西崎
「タマ、ありがとう。ほんとにありがとう。すっごくうれしいよ!」
立石
「むぐ、メイ、苦しい……」
それでも私はぎゅーっとタマを抱きしめ続けた。もう絶対離さない、そう思いながら。
-鶫side.-
水雷長と砲術長の熱い抱擁を私はベンチから眺めていた。とりあえず二人の誤解も解け、仲直りできたことに私は一安心した。
すると、いつの間にか隣に移動していためぐちゃんが私にニヤニヤした顔をしながら話しかけてきた。
宇田
「つぐちゃんやるじゃん。いつの間に砲術長に連絡してたなんて」
知床
「え? そうだったの?」
八木
「さて? 何のことかな?」
めぐちゃんとリンちゃんにはとぼけてみせたが、めぐちゃんの言ったことは正しい。お祭りの最中、私は密かに水雷長が神社にいることを砲術長に伝えていた。そして、タイミングを見計らってここに来るようにしたのだ。その思惑は見事に成功、我ながらいい作戦だったと思う。
宇田
「でもよかった。仲直り出来て」
八木
「うん、そうだね」
砲術長から誕生日プレゼントの手編みマフラーをもらって、水雷長はとても嬉しそうな顔をしている。そんな微笑ましい様子を見て、私は少しだけ羨ましいと思っていた。
すると、めぐちゃんが私の巫女服の裾をくいくいと引っ張っていた。私はめぐちゃんの顔を見ると、少し頬を赤くして何か言いたげな様子だった。
宇田
「ね、ねぇ? ちょっと、いいかな?」
めぐちゃんはそういうと、カバンの中から何かを取り出して私に差し出してきた。これは、もしかして。
宇田
「つ、つぐちゃん! お誕生日おめでとう!」
八木
「わぁ、私へのプレゼント? ありがとね、めぐちゃん」
めぐちゃんが私にプレゼントしてくれたのは、手袋と靴下だった。
宇田
「ほら、つぐちゃん神社のお手伝いの時、寒そうにしてたでしょ? そんな時にそれ使ってほしいって思ったのよ」
八木
「うん、この時期すっごく寒いから助かるよ。めぐちゃん、ほんとにありがとう!」
私は早速手袋を両手につけてみた。冷えていた手を手袋が優しく包み込んで、ポカポカと暖かさが指先から全身に巡っていくようだ。これなら冬のお手伝いも楽になりそうだ。めぐちゃんも私が手袋をして喜んでいるのが、とても嬉しいようだ。
すると、めぐちゃんの隣にいたリンちゃんが何やら慌てた様子になっていた。
知床
「あー! どうしよう。私プレゼントを寮に置いてきたままだったよぉ」
どうやら今ここでプレゼントを用意していなかったことを悔いているようだ。
宇田
「まぁまぁ、航海長は二人のお誕生日会で渡す予定だったんでしょ? なら用意してないのは仕方ないよ」
知床
「そ、そうだけど」
八木
≪……ん?≫
二人のやりとりを聞いた時、私はあることに気が付いてスマホを取り出した。画面には「15:30」と表示されていた。
八木
「ね、ねぇ? 私と水雷長の誕生日会って何時からだっけ?」
宇田
「え? 4時からだよ。もしかして忘れてた?」
八木
「いや、もう3時半なんだけど……」
宇田、知床
「⁉」
めぐちゃんもリンちゃんもすでにそんなに時間がたっていたことに驚き、一気に顔が青ざめていった。
知床
「ど、どどどどどうしよう。早くしないと遅刻しちゃうー」
宇田
「とにかく、めぐちゃんと航海長は早く着替えてきて。それと、水雷長と砲術長にも早く知らせないと……ってあれ?」
めぐちゃんが先ほどまで水雷長と砲術長がいた場所を見ると、すでに人影はなくなっていた。
すると、神社入り口の鳥居の方から水雷長の声が聞こえてきた。
西崎
「おーい! 三人とも早く寮に戻らないと誕生日会遅れちゃうぞー!」
八木
「い、いつのまに……」
水雷長の横で砲術長も早く早くと急ぐよう手招きしている。
八木
「とにかく、さっさと着替えちゃおうよ」
知床
「う、うん」
宇田
「二人とも早くねー」
私とリンちゃんは急ぎ社務所裏の更衣室へと向かうのだった。