ハイスクール・フリート ―霧の行く先― 作:銀河野郎のBOB
はいふりキャラ誕生日記念、第21作品目でございます。
本日3月3日は桃の節句、そして万里小路楓さんのお誕生日です!
万里小路さんといえば、超お嬢様育ち、容姿端麗、プロ級のヴァイオリンの腕前、薙刀の達人、と完璧超人と言っても過言でないくらいハイスペックな御令嬢さんです。
でも管楽器が苦手だったり、お嬢様ゆえの浮世離れしたギャグをかましたりと、ちょっと抜けたところがあってすごく可愛らしいです。
色濃いメンバーが集まる晴風クラスの中でも、一つ二つどころでないくらい飛び出たキャラゆえに、人気も高いですね。
今回はそんな万里小路さんの密かな初体験のお話を書いてみました。
それでは、どうぞ!
2017年3月3日午後5時30分
-楓side.-
私、万里小路楓は16年前の3月3日にこの世に生を受けました。
私の家は幕末から続く日本有数の大企業「万里小路重工」を代々経営してきた一族で、現在は私の両親が当主となっています。つまり私は、皆様の言うところの「良いところのお嬢様」ということになります。
そんな私の誕生日は、私のご友人はもちろんのこと、お父様やお母様の仕事仲間やお知り合いをご招待して、盛大に行われることが通例となっていました。今年も一月ほど前に名古屋の実家から、お誕生日祝いをするため一度戻ってきてほしいという話をいただいていました。
しかし、私は今回そのお誕生日祝いの会の開催をお断りさせていただきました。もちろん、お祝いそのものが嫌になったというわけではありません。お父様もお母様もお祝いを盛り上げようと毎回様々な趣向を凝らしてくださるので、毎年楽しみにしている行事の一つであることは間違いありません。
しかし、それをあえてお断りさせていただいたのには、理由があります。
それは私が初めて実家を離れて、学生寮での一人暮らしを始めた昨年4月からずっと思い描いていた「あること」を、自分の誕生日に実現するためだからです。
そして今日、私はそれを実行に移すことになったのです。
万里小路
「ようやく……ここに来ることができましたわ……」
学校での授業を終え、一度寮の自室に戻った後、支度を整えて真っ直ぐこの場所へと向かいました。ここは学校のある横須賀市街からさらに内地に入った衣笠地区と呼ばれる場所で、横須賀市内では珍しく未だ陸地が残り、古き良き街並みを今に伝えています。
私の目的地はそんな衣笠地区のメインストリート「衣笠商店街筋」の一角にあります。入学してすぐにこの場所に素敵なお店があることを知り、初めての航海実習が終わったらすぐにでも訪れる予定でいました。しかし、あのネズミもどきさんの騒動に巻き込まれてしまい、その後余裕をもって外出する時間がなかなか取れなかったこともあり、いつの間にかここへ訪れる機会を失ってしまいました。
しかし、今年に入って誕生日が迫ってきた時に再び思い出し、せっかくなら誕生日に合わせて訪れてみようと思い、本日に至るということになります。
私は約1年越しに憧れの場所を訪れることができ、大きな喜びを噛みしめています。
万里小路
≪では、早速中へ……≫
私は期待に夢を膨らませ、早速店内へ入ろうと歩を進めようとしました。
しかし、緊張からか中々一歩が踏み出せませんでした。
万里小路
≪どうしましょう。私としたことが、緊張で足がすくんでしまうなんて≫
このようなことで足がすくんでしまっては、万里小路の名を持つものとして恥ずかしいことです。それに、お祝いの会を断ってまでここを訪れているのだから両親にも申し訳が立ちません。
私は一度深呼吸をして、丁度1年前の初めての航海演習の時のことを思い起こしました。あの時は親元を離れて間もない時期だったこともあり、必要以上に毎日が緊張状態でした。その時に比べたら今の緊張なんて全然怖くありません。
万里小路
「……よし。参りましょう」
落ち着きを取り戻した私はお店へと歩を進めました。そして扉に手をかけ、いざ中へ入ろうとしました。
その時、私の右側から聞きなれた声が聞こえてきました。
岬
「あれ? 万里小路さんだ。おーい! 万里小路さーん!」
私は扉から一歩離れ、声をかけられた方へと顔を向けてみました。そこには私の所属する晴風クラスの委員長で艦長を務める岬明乃さんと同じく副長を務める宗谷ましろさん、そして岬さんのご友人で直教艦武蔵の艦長の知名もえかさんが3人横並びでこちらに向かって歩いてきていました。
宗谷
「み、岬さん。あまり大きな声を出すと、万里小路さんに迷惑が」
岬
「あ、そうだった。ごめんねシロちゃん」
知名
「ミケちゃん、謝るなら万里小路さんの方じゃないのかな?」
3人は私の近くまで歩いてきて、立ち止まった。
万里小路
「ごきげんよう、艦長、副長、そして知名さん。3人でお出かけですか?」
岬
「うん。シロちゃんともかちゃんと一緒にぷれぜ……」
宗谷
「わー! 岬さん! それ以上はダメだよ」
岬
「あ!」
艦長が何か言おうとした時、突然副長がそれを遮るように大きな声を出して私に聞こえないようにしてきた。
しかし、私は晴風の水測員。そして旅する音楽家です。私の耳は艦長が何を言っていたのかをはっきりと捉えてしまいました。でも、今の雰囲気からすると私には秘密にしておきたいことのようでしたので、あえて言及しないことにしました。
知名
「突然ごめんね。ちょっと3人で遊びに行こうってことになっていたんだ」
万里小路
「そうなのですか。それはとても楽しそうですね」
すかさず知名さんからフォローが入ったので、それに乗ることにしました。私からの言及を免れた艦長と副長はホッとした様子を見せた。
すると安心した様子の艦長が、私を見ていつもの優しい笑顔で話しかけてきた。
岬
「ねぇ、万里小路さん。今から誕生日会まで時間あるなら、私たちと一緒に来ない? どうかな?」
万里小路
「え? そ、そうですわね……」
私は艦長からのお誘いに私は思わず動揺を隠せませんでした。艦長からのお誘いはとても嬉しいのですが、ずっと訪れたかったお店が今目の前にある。せっかく誕生日に合わせてきたのに、この機会を逃すととても後悔してしまうでしょう。しかし、艦長のお願いも無碍にはできません。私はどうしたらいいか、困り果ててしまいました。
宗谷
「岬さん。万里小路さんだって何か用事があってここにきてるんですから、いきなり誘うのは迷惑なんじゃないのか?」
万里小路
「い、いえ。迷惑だなんてとんでもないです」
副長が私の様子を見て助け舟を出してくれましたが、私はまたしてもどっちつかずな返事を返してしまいました。私は再びどうしようかと悩んでしまいました。
すると、今度は知名さんが私を見て何かを察して話してくれました。
知名
「あのねミケちゃん、万里小路さんはこのお店に行きたいんじゃないのかな?」
知名さんの指差す方向には私が行きたいと思っていたお店がありました。さすがは優秀な生徒さんが集まる武蔵クラスの艦長さん、人を見て察するお力も優れていらっしゃるようです。もちろん、岬さんだって負けないくらい素晴らしいお方ですよ。
知名さんに言われて艦長と副長がそのお店の看板を見て、ゆっくりと読み上げはじめました。
岬
「えーと、立ち食い麺や……」
宗谷
「住良……」
お二人は私が行きたいお店「立ち食い麺や 住良」さんを見てキョトンとした様子になっていました。
宗谷
「え? 万里小路さん、立ち食いのお店に行きたかったのか?」
副長が信じられないという様子で私に尋ねてきた。特に隠すつもりもなかったことなので、私は正直に答えることにしました。
万里小路
「はい。お恥ずかしながら、こちらに行きたかったのです」
副長はまさかの答えにさらに信じられないという様子になっていました。艦長も副長ほどではないですが、ちょっと意外だと思われているようです。知名さんはお二人がどうしてそんなに驚いているのか不思議そうに眺めていました。
万里小路
「せっかくですし、お店に入りませんか? 中でわけをお話いたします」
私は3人と一緒に、お店の中に入っていきました。
お店に入ってそれぞれ食べたいものを注文すると、私は口を開きました。
万里小路
「実は私、生まれてこれまでこういった庶民的な立ち食い店やファーストフード店でお食事をしたことがありませんでした。ですが、心の奥底でそういったお店に行ってみたいという願いがあったんです」
宗谷
「まぁ、万里小路さんならそういう庶民派のお店に縁がないのもうなずけるな」
私と副長が話し合っていると、横の知名さんが艦長にひそひそと質問をしているのが聞こえてきました。
知名
「ねぇミケちゃん。もしかしなくても、万里小路さんってあの万里小路重工の?」
岬
「あ、もかちゃんにはちゃんと教えていなかったね」
万里小路
「おっしゃる通りですわ。私の家は代々、万里小路重工の経営をしておりますわ」
知名
「そ、そうなんだ。ミケちゃん、すごい人と同じクラスになったんだね」
岬
「ま、まぁね。あはは」
知名さんは大変驚かれたようで、目から鱗が落ちた様子になっています。
万里小路
「では続きを。実家にいる間は特に禁止されていたわけではなかったのですが、結局訪れる機会がありませんでした。でも昨年の春から実家を離れて入寮して、ようやく憧れの立ち食い屋さんできしめんを食べられる機会を得られるのだと思っていました」
私はきしめんが大好物で、この「立ち食い麺や 住良」さんは名古屋でも有名な立ち食いの麺屋さんなのです。私の地元の中部地方に数多くの店舗を展開していらっしゃるのですが、偶然にも学校のある横須賀にも一店舗だけお店がありました。それがここだというわけです。
その後、私は最初の航海実習での事件の影響でお店になかなか行くことができず、結局1年近くここを訪れることができなかったことを明かしました。
知名
「それで、誕生日にここに来ようって決めていたんだね」
万里小路
「はい。ようやく来ることができて、とても嬉しいです」
お話をしているうちに、注文していたきしめんが目の前のテーブルに置かれました。3人の分も同じタイミングで運ばれてきたので、一緒に食べ始めます。
最初にお出汁を味わい、その後麺をすすってじっくりと噛みしめます。口の中でお出汁の豊かな香りが広がり、麺のモチモチした感触が伝わってきました。
万里小路
「あぁ……。とても、美味しゅうございます」
美味しさの余り、思わず口から気持ちが漏れてしまいました。すると、隣でおうどんを食べていた副長が私に話しかけてきました。
宗谷
「なんというか、万里小路さんはこういうお店で食事をしていてもすごく品があるんだな」
万里小路
「ありがとうございます。立食パーティーなどで立ってお食事をする機会は何度もあったのですが、こういった場所で皆様と食べるのはすごく新鮮ですわ。とても楽しいです」
私は自分が予想していた以上に、このお店に来れたことが嬉しいと感じているようです。それを頼もしい私のご友人たちと共有できたことがさらに喜びを大きくしてくれているように思います。
すると、そんな私の様子を察してくださったのか、艦長が満面の笑みを向けてくださっていました。
岬
「万里小路さん、夢がかなってよかったね!」
万里小路
「! はい!」
お父様、お母様、私は今とても毎日が楽しいです。
海洋学校に行きたいという私の我儘を二人が笑顔で受け入れてくださったおかげで、今まで経験したことのない新鮮な毎日が送っています。
明るくて元気な艦長、厳しいけどとても可愛らしい副長、聡明で気の利く知名さん、他にもたくさんのクラスメイトや同級生の皆様に囲まれて、元気に過ごしています。
今度、実家に戻った時にこの1年間で初経験したことを沢山お話ししたいと思います。
是非、楽しみにしていてください。