あれから銀時達と志乃は、警察所で三日間に渡る取り調べを受けた。
やっと疑いが晴れた銀時達は、大江戸警察所の門前に出されていた。
腹いせに、銀時と神楽が器の小さいテロ、言い換えれば嫌がらせをしようとするが、新八に当然止められる。
もう何だか新八が保護者のように見えてきた。おかしいなぁ、新八は銀時よりも年下なのに。
すると、新八は母ちゃんのように煩く言い出した。
「アンタらに構ってたら何回捕まってもキリないよ。僕先に帰ります。ちゃんと真っ直ぐ家帰れよバカ共!!」
なんと、ここでまさかのツッコミ役が不在というギャグ小説にあってはならない暴挙。
しかし、新八はトストス歩いて行ってしまった。
「何やってんのあの眼鏡。ツッコミ不在じゃこの小説成立しないじゃん」
「……しゃーねぇな。今回は俺がツッコミでいくか」
「いや、無理だから」
その時、銀時の隣で神楽がゲロを吐く。
「ちょ、おまっ何やってんだよ!」
「くさっ!!」
神楽のゲロに銀時達が騒いでいたその時、警察所の塀の上からおっさんが飛び降りてきた。
おっさんは銀時達の近くに華麗に着地……するが、神楽のゲロに滑って後頭部を思い切りぶつけてしまった。
「いだだだだだだ!!それにくさっ!!」
すぐに、役人が笛を吹いて現れる。
「オイそいつ止めてくれ!!脱獄犯だくさっ!!」
「はィ?」
「へ?」
突然のことに、銀時と志乃は呆気にとられる。
脱獄犯のおっさんは、舌打ちしてから、近くに居た神楽を人質にとった。
「来るんじゃねェ!!このチャイナ娘がどーなってもいいのか」
「貴様!!」
「オイ、そこの白髪免許持ってるか?」
「普通免許は持ってっけど」
一応犯罪犯した身なのに、道路交通法は気にするのね。脱獄犯のおっさんに、銀時は淡々と答えた。
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銀時は、後部座席に脱獄犯のおっさんと神楽を、助手席に志乃を乗せて、おっさんの言う通りにパトカーを走らせていた。
「……おじさーん。こんな事してホント逃げ切れると思ってんの」
「いいから右曲がれ」
「そうだよおっさん。脱獄完遂なんて、二次創作物のチートキャラを倒すことより難しいよ?」
「んなこたァ知るかよ。それに逃げ切るつもりなんてねェ……今日一日だ。今日一日自由になれればそれでいい。特別な日なんだ。今日は……」
そう言った脱獄犯のおっさんは、遠い目で窓の外を見た。
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「皆さーん!今日はお通のライブに来てくれてありがとうきびウンコ!」
「「とうきびウンコォォォ!!」」
「今日はみんな浮世の事なんて忘れて楽しんでいってネクロマンサー!!」
「「ネクロマンサー!!」」
「じゃあ一曲目、『お前の母ちゃん何人?』!!」
着いたそこは、何やら熱気がすごい場所だった。
神楽はこの雰囲気に便乗しておっさんやむさ苦しいオタク達と共に拳を振り上げ、銀時と志乃は呆然とこの光景を見る。
「……何だよコレ」
「今人気沸騰中のアイドル寺門通ちゃんの初ライブだ」
「てめェェェ人生を何だと思ってんだ!!」
おっさんの脳天に、銀時の踵落としが炸裂する。
「アイドル如きのために脱獄だ?一時の享楽のために人生棒に振るつもりか。そんなんだから豚箱にぶち込まれるんだバカヤロー」
「一瞬で人生を棒に振った俺だからこそ、人生には見落としてならない大事な一瞬があることを知ってるのさ」
おっさんは頭を摩りながら起き上がると、掛け声を周りのオタク共と一緒にかけはじめた。
もちろん、銀時は呆れている。だが、志乃には彼がここまでするのには何か理由があるのではないかとしか思えなかった。
大きな理由は、人を突き動かす。たとえ、どんな状況であっても。自分を護るために命をかけることを厭わなかった兄を知っているからこそ、志乃にはそう思えてならなかった。
まあ、たとえおっさんがどんな理由を持っていても、彼女には一切関係のない事である。
「やってらんねェ。帰るぞ神楽」
「え〜もうちょっと見たいんきんたむし」
「影響されてんじゃねェェェ!!」
銀時はまたまた呆れて、周囲を見渡す。
お通のファンは、おっさんが多いらしく、しかも、熱気がすごい。
アニメグッズを多く売る人気店の雰囲気……と言えば分かるだろうか。
「……人ってさ、こういうものにも熱中するもんなんだね」
「殆ど宗教じみてやがるな。何か空気が暑くて臭い気がする」
「ああ……同感」
志乃は銀時の言葉に同意すると、ふと見覚えのある姿を見た。
そして、銀時の服の裾を引っ張り、彼を指差す。
そこには「寺門通親衛隊」と書かれた法被を着た新八が居た。
「もっと大きい声で!!オイそこ何ボケッとしてんだ、声張れェェ!!」
「すんません隊長ォォ!!」
「オイいつから隊長になったんだオメーは」
「俺は生まれた時からお通ちゃんの親衛隊長だァァ!!って……ギャアアアア銀さん!?志乃ちゃんも!!何でこんな所に!?」
「こっちが聞きたいわ」
「いやー……まさかアンタがこんなのに心奪われる奴だったとは。もっと誠実ないい奴だと思ってたのに……アイドルオタクだったなんて……お姉さんに申し訳ない」
「僕が何しようと勝手だろ!!ガキじゃねーんだよ!!」
「ちょっとそこの貴方達」
新八に絡んでいた2人を、眼鏡をかけた女性が注意した。
「ライブ中にフラフラ歩かないで下さい。他のお客様の御迷惑になります」
「スンマセンマネージャーさん。俺が締め出しとくんで」
「いつもに増して強気だね、新八」
「あぁ、親衛隊の方?お願いするわ。今日はあの娘の初ライブなんだから。必ず成功させなくては」
マネージャーは、先程の脱獄犯のおっさんを見ると、表情を強張らせた。
「…………!!アナタ……?」
********
銀時と志乃は、マネージャーと脱獄犯のおっさんの後をつけて、話を盗み聞きしていた。
脱獄犯のおっさんはなんとお通の父親で、かつて人を殺めてしまった。その所為で、マネージャーである母は一人でお通を支えてきたという。
マネージャーが去った後、銀時と志乃はすかさずおっさんの隣に座り、志乃はグミを差し出した。
「さっき買った。食べる?」
「んなガキみてーなもん食えるか」
「え?大人になると食えないもんが増えてくるの⁉︎そんなだったら私大人になりたくなーい」
志乃は足をバタバタさせて、グミを口に入れる。おっさんはそんな彼女を、小さい頃のお通と重ねながら見ていた。
「ねー、おっさん。娘の晴れ舞台を見たいから、脱獄してきたの?」
「…………そんなんじゃねェバカヤロー。昔約束しちまったんだよ」
「約束?」
おっさんの言葉に、志乃は首を傾げた。
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未来の人気アイドル・お通は、昔から歌が上手かった訳ではない。彼女の音痴な歌を聴きながら、若かりし頃のおっさんは笑った。
「ワハハハハ!!やっぱりお前も俺の娘だな。音痴にも程があるぞ」
「フン、今に見てな。練習して上手くなって、いつか絶対歌手になってやる!」
「お前が歌手になれるならキリギリスでも歌手になれるわ」
「うるさいわボケ!なるっつったらなるって言ってんだろ」
「面白ぇじゃねーか。もしお前が歌手になれたらよォ、百万本のバラ持って俺がいの一番に見に行ってやるよ」
「絶対だな」
「あぁ、約束だ」
********
「それが、約束……」
「あぁ。覚えてる訳ねーよな。十三年も前の話だ。いや、覚えてても思い出したくねーわな。人を殺めちまったヤクザな親父のことなんかよォ。俺のおかげでアイツがどれだけ苦労したかしれねーんだから。顔も見たくねーはずだ」
「……ふーん」
「…………帰るわ。バラ買ってくんのも忘れちまったし……迷惑かけたな」
……迷惑かけたと思ってんなら、最後まで迷惑かけてよ。
志乃は頬杖をついて、立ち上がったおっさんを見た。
「でもさ、おっさん。そんなの本人に聞いてみなきゃ分からなくない?」
「?」
「だからァ、ホントにアンタの娘さんがアンタの事嫌ってたかどうかなんて、そんなの本人に聞いてみなくちゃ分からないって言ったの」
「……変な事言う嬢ちゃんだな。そんなの決まってるだろ」
「へえ、アンタは人の心が読めるの?そりゃーすごいもんだ。でも、そんなの出来る人間なんて、この世に居ない。だから、人間は相手の考えを模索すんだ。お通にとってアンタはかけがえのない父親だよ?アンタの他に、寺門通の親父なんざ務まらねーんだよ。たとえ口で嫌ってようと、本心では大好きなはずだよ」
おっさんを見つめる訳でもなく、独り言のように志乃は言った。
隣に座る銀時は、ガムをずっと噛んでいて何も言わなかったものの、志乃の言葉に表情を綻ばせていた。
「銀ちゃーん!!志乃ちゃーん!!」
2人めがけて、神楽が走ってきた。
「どーしたの?」
「会場が大変アル。お客さんの一人が暴れ出してポドン発射」
「普通に喋れ訳分かんねーよ!」
まあ、要約するとこうだ。ライブ会場に天人が居たらしいのだ。
居るくらいなら、別に問題はない。だが、そいつは厄介なことに、食恋族だった。
食恋族とは、興奮すると好きな相手を捕食するという変態天人で、その好きな相手とは、今まさにライブで歌っていたお通なのである。
ライブ会場では、多くの人が逃げ惑っていた。天人は腹に隠していた口を見せて、お通に迫る。
「お通ちゃ〜ん、僕と一つになろう。胃袋で」
肝心のお通は、衝撃の出来事に腰が抜けてしまい、立つことすらままならない。
お通が天人に手を伸ばした。もうダメだと誰もが思った次の瞬間。
お通を庇い、ビニール袋を被った男が、天人の腕を掴んだ。
「お通ぅぅぅ!!早く逃げろォォ!!」
男が叫ぶも、天人の平手打ちにより一掃されてしまう。男の勇姿に心打たれたお通親衛隊が、木刀を持って駆け出した。
「いけェェ!僕らもお通ちゃんを護れェ!!」
一方舞台では、お通が助けてくれたビニール袋の男に駆け寄り、体を揺さぶっていた。
「しっかり!しっかりして下さい!!」
お通の叫びが届いたように、男は目を開ける。
「あ……気が付いた」
「無茶するねェアンタ。こんなバカな真似して……何者だい?」
「……ただのファンさ。アンタの」
ビニール袋の男は、袋に手をやりながら起き上がる。
するとその時、大きな音がした。それにお通、マネージャー、ビニール袋の男が見ると、天人はお通親衛隊、駆け付けた銀時、神楽によって倒されていた。
「おっさん!」
志乃が呼びかけ、何かを投げる。
ビニール袋の男がキャッチしたのは、3輪のタンポポの花束だった。
「急いでたから、花屋さんには行けなかったし、数も少ないけど……ま、後は何とか誤魔化して」
志乃はそう言うと、サムズアップをして見せた。
おっさんは一度志乃を見てから、お通にタンポポの花束を渡した。昔の約束を果たすために。
お通はタンポポの花束をしばらく見つめていたが、おっさんはお通を振り返らず去ろうとした。
「あの」
おっさんを呼び止めたのは、他でもないお通だった。突然のことに、おっさんは驚いて足を止める。
「……今度はちゃんと、バラ持ってきてよね。私、それまで
おっさんはお通の言葉を聞いてから、再び彼女を振り返らず会場を出て行った。そこには、銀時と志乃がいた。
「よォ。涙のお別れは済んだか?」
「バカヤロー、お別れなんかじゃねェ。また必ず会いに来るさ……今度は胸張ってな」
「そうしなよおっさん。あ、そうそう……何で私がタンポポを選んだか知りたい?」
涙を流して、被っていたビニール袋を握り締めていたおっさんは、志乃を振り返る。志乃の手には、タンポポが握られていた。
「タンポポの花言葉は、"真心の愛"。……アンタとお通に似合うって思ったからさ」
志乃はそう言うと、にこっと優しく微笑んだ。
お通ちゃんのモデルは二人いまして、一人は寺門静軒という幕末期の儒学者。もう一人は、鶴の恩返しの主人公のお通さん。
一応寺門静軒さんについても調べてみたのですが、少しアレなので鶴の恩返しの方で見てみたいと思います。
知らない人はいないと思いますが、鶴の恩返しは助けた鶴が超美女になってやってきて、自分の羽と糸でめちゃくちゃ綺麗な布を織り、それを覗いてしまって去ってしまう、というのが大まかなストーリーです。ざっくり過ぎるのは許してください。
このストーリー、似たような話が日本全国にあるらしく、鶴を助けたのはおじいさんじゃなくて若い男だったとか、その男と人間に化けた鶴が結婚したとか。浦島太郎のモデルとなった浦嶋子の話と似てますね。
また、この「見るなのタブー」をモチーフとしたお話は、もちろん世界各国にも存在します。
調べてく中で一番驚いたのが、ウルトラマンレオの第30話「怪獣の恩返し」のモデルとなったのが、この「鶴の恩返し」のお話だということ!…………オイ今冷めた目で見た奴誰だ。
次回、ストーカーが現れます。