銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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戦いは常にデッドオアアライブの精神で

「な、何っ……⁉︎」

 

襖を開けて縁側に出てみると、屋根の上で二人の男が戦っていた。

一人は鳳仙、もう一人は神威。遠目から彼らを見た志乃は、呆然とその戦いを見ていた。

 

「何やってんの、アイツ……?」

 

止めに入った云業も、神威に蹴落とされ、屋根に体を埋められてしまう。

 

「引っ込んでてよ。今楽しいところなんだ。邪魔すると、殺しちゃうぞ」

 

「団長ォォ‼︎」

 

これは交渉ではなかったのか。成り行きを見守っていた志乃は、小首を傾げる。

それがどう転がれば、あんな惨事になるのか。しかも戦ってる本人が楽しそうだし。

その間にも戦いはさらに激しさを増し、埃が舞ってよく見えなくなった。目を凝らしてみても、煙しか見えない。

 

「……もっと近くで見れないかな」

 

ここまで激しい戦いを見ては、戦闘一族の血が騒ぐ。かなり高揚していた志乃は、部屋を飛び出し戦場へ走り出した。

 

********

 

ようやく辿り着いた部屋は、既にボロボロだった。部屋の隅には遊女達が集まり、誰かを揺さぶっている。その縁側の外の屋根の上で、神威達は戦っていた。

それを一瞥しつつ、志乃は遊女達の元へ駆け寄る。

 

「ねぇ、お姉さん達!一体これは……ケガは?」

 

「あ、貴女は……?」

 

突如現れた、遊女の格好をした銀髪の少女。警戒した遊女達が身を下げると、彼女らが囲っていた人物が見えた。

志乃はその人物を見て、言葉を失った。

遊女が、気を失って倒れていた。

金髪を簪で纏め上げ、普段見慣れた町娘のような格好よりも、色気のあるその女。

 

「ハ…………ハル……」

 

驚愕のあまり、声が震える。

目を閉じたままの小春が死んでいるように見えて、志乃は一気に怖くなった。

 

「ハル‼︎しっかりして、ハル!ハルッ‼︎」

 

肩を掴んで揺さぶっても、小春は何の反応も示さない。

それが一層、志乃の不安を煽った。

 

「やだ、お願い!目を覚まして‼︎」

 

「………………ん…………」

 

「ハル‼︎」

 

ぽっかり目を開けた小春は、焦点を志乃に合わせる。ぼんやり彼女を見ていたが、やがてその紫の目に生気が宿り始めた。

 

「志乃、ちゃん……?志乃ちゃん⁉︎」

 

「ハル‼︎よかった……」

 

「志乃ちゃん貴女、何でこんな所に……」

 

痛みの残る体を起こそうとしたその時。

 

ドウッ‼︎

 

鈍い音が、縁側の外から聞こえてきた。志乃は反射的に、襖の外を見る。

鳳仙と神威の間に、阿伏兎と云業が傘を開いて割って入っていた。

阿伏兎の傘から、左腕が屋根の上に落ちる。

 

「そこまでだ。二人とも落ち着いてもらおう」

 

阿伏兎が背後に立つ云業を振り返ると、彼の背中に掌が見えた。それが抜けると、云業は音を立てて倒れる。

そこには神威が笑顔で手についた血を舐めていた。

 

「…………腕一本と一人であんたらの喧嘩止められれば上出来だ。コイツの命に免じて、どうか鳳仙の旦那、団長の不始末許してくれ」

 

志乃は呆然と、その様を見ていた。夜兎同士の喧嘩を止めるだけで、ここまでの犠牲を払わねばならないとは。

衝撃に打ち震えていた志乃の袖を、誰かが引く。

 

「志乃ちゃん」

 

「ハル……」

 

小春が、眉をつり上げて志乃を見下ろしていた。そして、彼女の頬に平手打ちを浴びせる。

打たれた左頬が、ヒリヒリする。それに手をやり、志乃は小春を見上げた。

 

「何すんの」

 

「……何故貴女がこんな所にいるの」

 

小春の震えた声が、志乃の耳に入る。

怒っているのか。煉獄関から、小春達を解放した時みたいに。

 

「ハルが、ここにいるかもしれないと思って。ビンゴだね。やっぱりここにいたんだ」

 

「…………帰ってちょうだい。ここは貴女が来ちゃいけない所よ」

 

「帰るのはハルの方だよ。団子屋のおっちゃんから聞いたんだから。ハルがいきなり攫われたって。それでみんな、必死になって探したんだよ」

 

俯く小春を見上げ、志乃は続ける。

 

「私もタッキーもたっちーもジョウも、トッキーやその家族も、鈴さんもおっちゃんも。みんなで探してたんだよ、アンタを。やっと見つけた。……帰ろう?みんな待ってるよ」

 

「っ………………」

 

小春はぎゅっと目を瞑り、唇を噛んだ。見つめてくる志乃から、目を逸らす。

 

「ダメよ……」

 

「何で?」

 

「私は……遊女だから」

 

「そんなの昔の話でしょ?何で今になってそんな……」

 

 

「昔の話?それは違うぞ小娘」

 

バッと振り返ったそこには、鳳仙が立っていた。志乃は小春を庇うように立ち、鳳仙を睨み据える。

彼女の鋭い視線にも臆さず、鳳仙はニヤリと笑っていた。

 

「小春は遊女だ。今も昔も、そしてこれからもな」

 

「アンタが、ハルを攫ったのか……」

 

「攫った?逃亡者を連れ戻しただけの話だ。その女はかつて、『獣衆』の仲間と共に戦おうと、ここから逃げ出した。それを連れ戻しただけだ」

 

「違う」

 

凛とした、しかし確かに怒りの込もった声が、部屋に響く。

 

「ハルは変わったんだ。確かに、アンタの牢獄から必死に逃げ出したのは事実だろう。でも、それから先はハルが自分の人生を賭して、戦うことを決めたんだ。それをお前に邪魔される筋合いはない。それに、」

 

一歩前に進み出て、志乃は鳳仙を真っ直ぐ見つめた。

 

「ハルは『獣衆』の一員だ。仲間を連れ出そうってんなら、棟梁の私に話通すのが筋ってもんじゃねーか?」

 

「棟梁?ぬしがか?」

 

「そうだ」

 

さらに一歩進み、腰に挿した金属バットを握る。それを引き抜こうとしたその時。

 

ーーダァン‼︎

 

体を、何かが貫いた感覚がした。

それを感じた次には、肩から血が吹き出る。

 

「っ⁉︎ぐあぁっ……‼︎」

 

体がよろめくのを足を踏ん張って堪え、血が流れる肩を押さえながら振り向いた。

銃口から、煙が上がっていた。それを持つ手の主を見やると、志乃は目を見開いた。

 

「ハ……、ハル……」

 

ダァンダァン‼︎

 

名前を呼んだ瞬間、二発の銃弾が再び志乃を襲った。

腕を、足を撃ち抜かれ、痛みに顔を顰める。志乃は思わず、片膝をついてしまった。

小春は拳銃を、志乃のこめかみに当てた。

 

「よいのか、小春。ぬしの知り合いではないのか?」

 

「構いませんわ、鳳仙様」

 

鳳仙の問いに即答した小春は、志乃を見下ろして笑顔を向けた。

そして、トドメの言葉を言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって私、こんな小汚い娘など、知りませんもの」

 

 

 

 

 

 

鳳仙は志乃の銀髪を見下ろし、小春を見やる。

鳳仙からはちょうど、俯いている志乃の顔は見えなかった。

 

「……そうか」

 

「ええ。さ、鳳仙様。あちらで飲み直しましょ」

 

小春は鳳仙の腕に抱きつき、肩に寄り添う。顔を上げた志乃は、部屋を去っていく小春の背中を見た。

何か言おうと、手を伸ばす。しかし、何も言えなかった。

 

「ハル…………」

 

ただ、名前を呼ぶことしか出来なかった。

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