銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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オリジナル回です。


純情カップルは見てるだけでもどかしい

吉原の事件から、数日が経過した。

あの後、鳳仙の死は神威によるものということになり、その手柄で神威は吉原の支配を任された。だが神威は吉原に何一つ手をつけず、そのまま放置しているという。

 

「ダメだ」

 

「何でよ」

 

志乃の家の客間。ソファに座った銀時が、キッパリと彼女に言い切った。

 

「何でダメなの?もうケガ治ってるし、ね?吉原に行かせ……」

 

「ダメだ」

 

「だから何で‼︎」

 

吉原に行きたい。こう言い出した瞬間、銀時からこの返事を何度も突き出される。

しかもこれが銀時だけでなく、新八や小春、お瀧、さらにはそれに便乗している神楽にまで止められる始末。もう嫌になっていた。

 

「何で吉原に行かせてくれないの⁉︎」

 

「ダメだ、お前にはまだ早い」

 

「神楽は行ってるじゃん!何で私はダメなの⁉︎」

 

「神楽はお前より年上だからだ」

 

あの事件以降、銀時は志乃をなるべく吉原に連れていこうとしなかった。

以前の色街から歓楽街のラインに浮上した吉原だが、やはり色街の名残も残っている。もちろんそこにはオトナの何やらもあるわけで、それを純粋な妹に見せることなど出来なかった。

晴太の働いている店でさえいかがわしいのだ。恋愛もまだまだスタートラインから一歩も進めていない志乃に、それを直接見せるのは難儀だった。

 

「大体お前な……ケガよりも重要なことあんだろ」

 

「え?あ、お守りのこと?大丈夫だよ、アイツぶっ飛ばして取り戻すから」

 

「いや、近いけどよ。まァ……アレだよ。されただろ、神威(アイツ)に」

 

「何を?」

 

小首を傾げる志乃に、銀時は頭を抱えた。

やはり彼女は、神威にキスされたことがわかっていない。そもそもちゃんとキスと言って通じるのか。銀時は一気に不安になった。

恐る恐る、志乃に尋ねてみる。

 

「なァ志乃……お前さ、キスってわかるか?」

 

「きす?あぁ、魚のこと?」

 

サラッと返した答えに、銀時は机にダイブするようにズッコケる。

やっぱりわかってなかったか……。

案の定の答えに安心しつつも、いかに志乃の教育が徹底されていないか目の当たりになった。

あの後、怒り狂った小春を抑えるのに本当に大変だった。最終的に気絶させることで難を逃れたが、当の本人はキスすら理解していなかった。

このままでは、将来彼氏が出来た時苦労す……いや待てよ。銀時は思い直す。そして、部屋の奥で皿洗いをしている時雪を見た。

いるじゃん、彼氏が。

銀時は志乃の隣に座り、彼女の肩に手をまわした。

 

「いいか志乃。キスってのはな、唇と唇が重なり合うのを言うんだ。好きな男女同士でやるのが普通なのよ」

 

「へぇー」

 

「お前確かあそこの野郎と付き合ってんだよな?」

 

「うん」

 

「ならそいつとしちまえよ、キス」

 

「…………………………えええええええええええええええ⁉︎」

 

昼下がりの万事屋に、志乃の叫び声が響いた。

 

********

 

ーーしちまえよ、キス。

 

「だああああああああああ‼︎」

 

昨日の銀時の言葉が、頭から離れない。無理やり忘れようと、志乃は柱にガンガン頭をぶつけていた。

ダメだ、どうやっても忘れられない。

思い返せば、時雪に告白してから、一度も恋人らしいことをしたことがない。かと言って、何をすればいいのかもわからなかった。

それがいきなり、キスだなんて……。

 

「オイ志乃、さっきからガンガンうるせーぞ」

 

部屋を覗きに来た土方が、柱に頭をぶつけていた志乃に声をかける。

いつもなら憎まれ口の一つでも返ってくるのだが。

 

「ぅ、うん……ごめん……」

 

しおらしい声で、ボソリと謝るだけだった。

明らかに様子がおかしい。熱でも出たのだろうか、心なしか顔が赤かった。

 

「どーした?熱でも出たか」

 

「大丈夫……平気」

 

そう答えて笑ってみせるものの、本心は恥ずかしさと罪悪感があった。

時雪のことは好きだ。高杉や神威にいくら迫られても、その気持ちは違うことはありえない。

しかし自分は、好きでもない男と、本来好きな相手同士がするはずのキスをしてしまった。しかも、初めての。

それを時雪に知られたらーーその先を考えるだけで、怖くなる。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

盛大な溜息を吐いて、志乃は膝を抱えた。

 

********

 

ちょうどお昼時が過ぎた辺り。時雪は、真選組屯所に呼び出されていた。

 

「え?志乃の様子がおかしい?」

 

「ああ。いつもなら憎まれ口の一つや二つ俺にぶつけてくるんだが、今日はどうしたのか全くねェ。おまけに何度も壁や柱に頭打ち付けてるし、警邏の時もボーッとしてるし……」

 

「そうなんですか……」

 

「他の隊士も気にかけてるんだが、それじゃアイツらの仕事に身が入らねー」

 

ぐしっと煙草を灰皿に押し付けて、火を消す。それから土方は、時雪を見た。

 

「お前アイツの彼氏なんだろ。何か知らねーか?」

 

「えっ……あ……」

 

カァァ、と時雪の頬が赤くなる。

純情乙女か。土方は心の中でツッコんだ。

 

「い……一応、俺は志乃の彼氏ってことになってますけど……でも俺、志乃と付き合ってから恋人らしいことなんて一つもしたことないんです……」

 

「そんなのこれからやってきゃいーだろが」

 

「多分……志乃も俺と同じ気持ちだと思うんです」

 

「は?」

 

いきなり志乃の話に切り替わり、土方は眉をひそめた。

 

「昨日、銀時さんと志乃が話しているのを聞いたんです。志乃、ああ見えてかなり純粋ですから、キスも知らなかったみたいで……」

 

「マジか」

 

「ハイ。昨日銀時さんに、キスが何たるかを教わっていました」

 

「何教えてんのアイツ‼︎兄貴が妹に教えることじゃねーだろーが‼︎」

 

やはり彼女の教育には、銀時が深く関わっているらしい。それを改めて実感した土方だった。

 

「それで、志乃は悩んでるんですよ。そのキスを、実践するかどうか」

 

「オメーら純情すぎだろ‼︎今時いねーよこんな甘酸っぱいカップル‼︎」

 

土方のツッコミにも納得である。

それはもう、ちょっと手が触れ合っただけでお互いに照れるようなものだ。互いに純情で、キスどころか手を繋ぐのもままならない。

こんなカップルが存在するのか。いや、目の前に存在している。

 

「まァ、すぐ元に戻ると思うので。気長に待ってあげてください」

 

********

 

すぐに戻る。その言葉を信じた自分がバカだったのか。

 

結論から言うと、志乃は全く戻らなかった。

常にボーッとしてはハッと立ち止まり、頬を赤らめる。その後にきまって、壁や柱、外では電柱に頭をガンガンぶつける。これを一日中繰り返す。

流石に隊士全員から心配された。しかし、こんな事を他人に話して良いものかと悩み、志乃は誰にもそれを打ち明けなかった。

 

「………………」

 

縁側で膝を抱えて、庭を眺める。ボーッとしてるだけで、あの時のことが鮮明に思い出されてしまう。

 

神威に奪われた、初めてのキス。自分でもわからないまま、それはあっさりと奪われた。

でもそれは温かくて、ふわっとした優しいもので。唇に手をやれば、すぐにでもあの感覚が思い出せる。

 

時雪に嫌われたらどうしよう。

他の男とキスしたなんて聞けば、きっと時雪は怒るに違いない。最悪はーー考えるだけでも、嫌だった。

不安で不安で仕方なくて、ギュッと上着の袖を握りしめる。立てた膝に、ポスッと頭を乗せた。

 

「みぃ」

 

いつもやってくる小猫が、縁側に上がって志乃の周りを歩く。

膝を抱えた志乃の傍らに座り、足に頬ずりをした。

 

「……また来たの?」

 

「みゃぁ」

 

顔を少し上げて小猫を見下ろす。小猫は嬉しそうに答えて、志乃の足に甘えた。

健気なその姿に、フッと溜息を漏らす。

 

「お前は呑気だね」

 

「みぃ〜」

 

膝を伸ばして座り直すと、すぐに乗ってくる。その膝の上で丸くなり、気持ちよさそうに居眠りを始めた。

小猫の頭を優しく撫でて、呟く。

 

「羨ましいよ、お前が」

 

「誰が?」

 

「うわぁっ⁉︎」

 

すっかり猫に気をとられて、背後の気配に気付けなかった。

バッと振り向くと、時雪がクスクスと口に手をやって笑っていた。

 

「ト、トッキー…」

 

「ごめんごめん、脅かすつもりはなかったんだけど」

 

縁側に座り、志乃と共に庭を眺める。時雪は、目を合わせようとしない志乃の横顔を見つめた。

 

「真選組の皆さん、心配されてたよ。最近志乃の様子がおかしいって」

 

「別に……いつも通りだよ」

 

「そう?ならどうしてそんな悲しそうな顔してるの?」

 

時雪に指摘され、思わず顔を上げて彼を見てしまう。目が合えば深海のような澄んだ瞳で見つめられ、もう逸らせない。

 

「……隠さなくてもいいよ。全部聞いてるから、銀時さんに」

 

「え……⁉︎」

 

「その…………キス、したって話……」

 

志乃は気が遠くなりそうだった。まさかこんなに早く、時雪にあの事が知られていたなんて。

時雪が、眉を寄せて悲しげな顔をしている。それを見て、一気に怖くなった。

 

「ぁ…………ご、ごめんなさっ……」

 

震える声で、必死に言葉を紡ぐ。怖くて怖くて泣きそうだ。でも嫌だった。時雪に嫌われるのは。

顔も直接見れない。俯いた時に、ポロリと涙が一粒零れた。

 

「志乃」

 

優しい声音で、彼女の名前を呼ぶ。ビクッと肩を震わせた志乃が、恐る恐る顔を上げた。弱々しい志乃に、時雪は優しく微笑みかけた。

 

「泣かないで、俺はそれだけでお前を嫌ったりしないよ」

 

「ぇ……?ほ、本当に……?」

 

ガッと時雪の着物の袖を縋るように掴む。

 

「本当に?本当に私のこと嫌いにならないでくれる?」

 

何度も何度も、同じ事を聞いてくる。不安で仕方がないのだろう。

 

「お願い……嫌わないで……」

 

ギュッと袖を握りしめ、涙を溜めた目で時雪を見上げる。まるで捨てられた子犬のようだ。

本人が不安でたまらない時に不謹慎かもしれないが、なかなか胸にグッとくるものがある。これを素直に表現するならば、カワイイ、だろう。

時雪は志乃の銀髪を優しく撫でた。

 

「大丈夫。俺はいつまでも、お前のことを嫌わないよ」

 

「それって……結婚してずっと一緒にいてくれるってこと?」

 

「………………あ」

 

いつの間にか自分は爆弾発言をしていたらしい。

それを志乃の一言で射抜かれ、一気に恥ずかしくなった。

 

「ぁ、えっと……も、もちろんそれもいいなぁって思って……べ、別にそんなやましい気持ちじゃないから!ホントだからね志乃!」

 

真っ赤になって必死に弁明する時雪に、志乃は思わず吹き出してしまった。そして、目の前の彼を愛おしく感じる。

 

「ねぇ、トッキー……ううん、時雪」

 

「へっ⁉︎」

 

「……する?キス」

 

ずいっと時雪に迫り、上目遣いで見上げてみる。時雪はりんごみたいになり、あうあうと慌てふためいていた。

半分冗談、半分本気。先程の発言の真意だ。

もちろん、愛する男としてみたいという気持ちはある。しかし、お互いに純情すぎる自分達に、しかも自分より純情な時雪にそれは無理だろうと思っていた。

案の定、時雪は照れて何も言えない。男からしてほしい、というのは女心から来るのだろうか。

 

「フフッ、冗だ……」

 

笑って誤魔化そうとしたその時、手を掴まれた。そのまま体ごと押され、障子の縁に追い込められる。

パッと顔を上げた瞬間に、口が塞がれた。

 

「……‼︎」

 

ふわ、と軽く触れるだけのもの。触れるか触れないかの微かな感覚に、志乃はもうどうにでもなりそうだった。

そして、心の奥が温かくなる。幸せだ。

ふと、時雪が離れる。もっとそれを感じたくて、志乃は時雪の首に手をまわした。

 

「!志乃……んっ」

 

「んんっ……トッキー、もっと……」

 

見上げてくる目が、熱っぽい。普段子供っぽいからか、余計に色っぽく見えた。

抱きつく勢いで、そのままむにゅっと唇を押し当ててやる。今度は先程よりも、もっとちゃんと唇同士が触れ合えた。

 

「トッキー」

 

ぎゅうう、と抱きつき、慈しむように時雪の名を呼ぶ。

 

「私、幸せ……」

 

「……俺、も」

 

満面の笑顔でそう言われたら、もう何も言えない。こみ上げる気持ちを呑み込み、時雪も彼女の頭に顔を埋めて、ボソリと返した。

こんなにも、互いを愛おしく思える。それだけで彼らは幸せだった。

 

そして、願う。

こうして手を繋げるこの日々が、いつまでも続きますように、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、彼らがキスした場所は真選組の屯所内であるため、多くの隊士らがその光景を隠れて見ていた。

紅一点である志乃の少し色っぽい姿に、隊士らは嫉妬を覚えつつまた興奮した。

 

もちろんこの後、彼らは志乃に見つかり、一人一人に強烈なプロレス技をかけられて撃沈した。

 

それからしばらく、隊士らは志乃のご機嫌取りに全てを費やしたというーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー吉原炎上篇 完ー

 




ハイ終わりました吉原炎上篇!
疲れたー、取り敢えず寝たい。

なんか最後ちゃんとほのぼの&純情書けたか不安ですが。カワイイ二人を書けて私は満足です。もう後は知らん。

今のところこの後予定している長編は、まずトッシー篇と地雷亜篇、かぶき町四天王篇ですね。陰陽師篇はまだ悩んでます。

もちろん原作の話もオリジナルも交えて書いていきます。

次回は万事屋三人視点から見た志乃を紹介します。

さ、もう時間も遅いし寝よっと。(書き上げたのが夜中)
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