今宵は満月。闇夜に佇む月の姿は、やはりいつ見ても美しい。
そんな中、奉行所の役人達は夜の警備にあたっていた。
「こんばんは、おじさん達」
聞き慣れぬ少女の声に、役人二人はバッと振り返る。
その瞬間、彼らを銀色の影が通り過ぎた。
「月が、綺麗ですね」
声も出せぬまま倒れた役人に、ニコリと微笑みかける。倒れた音を聞きとめた別の役人が、少女に駆け寄ってきた。
「何者だ、貴様!曲者か‼︎」
「こんばんは。ニンジャーチェリー、ただいま見参」
「であえ、であえェェェ‼︎曲者だァァ‼︎」
決めポーズをして名乗った少女を曲者と判断し、役人が声を張り上げて他の仲間達に敵襲を告げる。
その時、手にしていた提灯を手裏剣が突き破る。
「何っ⁉︎」
「男が女子に手をあげるか。貴様らそれでも侍か?」
「俺の志乃に手を出そうなど、貴様ら覚悟は出来ているな?」
加勢に来た役人達諸共、二人の忍者が怒涛の勢いで薙ぎ払っていく。
「ニンジャーパープル」
「ニンジャーイエロー」
「「ただいま見参‼︎」」
ビシッとここぞとばかりにカッコつけるミサトと桂。たった数時間でよくここまで仲良くなったものだ。もう後ろで爆発が起きていても、おかしくなかった。
しかし志乃は、その二人を完全に無視する。
「もう俺達の出番無さそうですね?」
「いや、そうでもないぞ」
少し遠くから成り行きを見ていた時雪が呟くと、橘が視線で彼を促す。さらなる加勢がこちらへ迫っていた。
橘が棒を、時雪が木刀を構える。
「ニンジャーブルー、参る!」
「……ニンジャーグリーン」
駆け寄ってくる役人達を打ち倒し、数人まとめて叩き伏せる。たった五人で数十人いる役人達を撃破していった。
乱闘の最中、志乃は見覚えある白いペンギンオバケを目撃した。
「ヅラ兄ィ、アレ‼︎」
桂を呼びつけ、指をさす。
縄でぐるぐる巻きにされたエリザベスが、どこかへ連れ出されていた。
「エリザベス‼︎」
「待て」
急く桂の肩を、橘が掴む。
「離せ剛三‼︎このままではエリザベスが‼︎」
「アホか。奴ら撒くのが先だ」
「ミサトさん、お願い!」
「任せろ、志乃」
ミサトは懐から玉を取り出し、マッチで火をつける。
「あっ!煙玉」
「なるほど、それで敵の目を眩ませようってことだね!」
ミサトは志乃と時雪の感嘆の声を聞きつつ、玉を地面に投げつけようと振りかぶった。
と、ここで重要なことを思い出す。
「あ。コレ、爆弾だった」
志乃達の思考が、一瞬停止する。
しかし、ミサトは勢いに任せて、今まさに爆弾を地面に叩きつけようとしていた。
爆弾が、あと数ミリで地面に着地しようとしたその時。
「でぇりゃああああ‼︎」
カッキィィン!
間一髪、志乃がバットで爆弾をかっ飛ばした。
意外と丈夫に作られていた爆弾は、そのまま役人達の元に飛ぶ。着地した瞬間、爆発した。
「ぎゃあああああああ‼︎」
役人達に手を合わせつつ、志乃は額の汗を拭う。
「た、助かった……」
「流石志乃。あんな一瞬でかっ飛ばしちゃうなんて」
「誰のせいでこんな危ない橋渡らされたと思ってんだ‼︎」
元凶原因が感嘆するも、それを叩き落とす。ホント、誰のせいでこんな苦労したのか。
一発殴ってやりたかったが、桂が一人先を急いだので、彼を追って志乃達も屋敷の奥へ向かった。
********
「ここか?」
「はい、確かここに入っていったはずです」
あの騒動の中、一人冷静にエリザベスの行く先を見ていた時雪が、桂の問いに頷く。
しかし妙だった。人の気配が全くしないし、追手が来ない。
時雪が不安そうに呟く。
「もしかして、罠かも……」
「その可能性は高いな」
「何言ってんのアンタら。虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うでしょ」
「案ずることはない。俺達を誰だと思っている。貴様らとはくぐってきた修羅場の数が違うんだ。くだらぬ罠になど嵌るものか」
何故か自信たっぷりに言う志乃と桂が、先導して前に進む。
後ろから時雪とミサトと橘が仕方なくついていくと、三人が屋敷の中に入った瞬間、扉に鉄格子がかけられた。
「ちょっとォォォォ‼︎おもっくそ罠じゃねーか!閉じ込められちゃったよ⁉︎」
「バーカ違うよ。オートロックなんだよアンタ知らないの?」
「何度も言わせるな。俺達がそんなバカな策に嵌るわけがない」
決して罠だと認めない二人が、先に進む。
壁に掛けてあった掛け軸が突如巻き上がり、そこから画面が現れる。そして、遠山が映った。
『ガハハハ、よく来てくれたな桂と愉快な仲間達!我がからくり屋敷へ!エリザベス君を追ってわざわざここまでご苦労だったな。だが残念ながら、君達は私のワ……』
ガシャン
画面に、志乃の蹴りと桂の拳が同時に入る。画面は見事粉々に割れてしまった。
時雪が二人に尋ねる。
「ねぇ、あの人今明らかにワナだって言おうとしてたよね?」
「違う。『君達は私のワイフをどう思いますか』と言おうとしたんだよ」
「英語の教科書⁉︎」
その時、反対側の壁からまたしても掛け軸が巻き上がり、画面が出る。
『人の話は最後まで聞けェェ‼︎普通あそこで壊すかァ⁉︎取り敢えず話全部聞いてから壊すんじゃねーの⁉︎こっちはなァ、このために原稿用紙4枚分の……』
ガシャン
またしても画面に志乃の蹴りと桂の拳が同時に入る。そして今度は二人で画面を殴りつけた。
そんな二人を、時雪とミサトが見つめる。
「これ是が非でも認めないつもりだよ」
「負けず嫌いだな。だがそんな志乃も可愛い」
しかし、とにかくこれが罠であることが確かになった。慎重に先を進むべきとミサトが促そうとしたが、橘が奥の扉をあっさりと開けてしまった。
扉の奥から、縄で吊るされた丸太が迫ってくる。時雪と橘が咄嗟に避け、丸太は志乃と桂に襲いかかった。
二人は丸太を一瞥すると、金属バットと刀を抜き、丸太にぶつける。丸太はミシミシと音を立ててヒビ割れ、粉砕された。
「志乃……これしきのものは断じて罠とは言わんな」
「当然でしょ、私らは罠にかかるほどアホじゃないよ。これはアレだよ……」
「「いたずらだァァ‼︎」」
猪突猛進する二人に、次から次へとトラップが襲いかかる。鉄球に矢に爆発。それらをくぐり抜けていく。
「大人は子供の遊びに付き合ってやる義務がある、なァ志乃!」
「おおよ!ワザとだから!コレワザと引っかかってやってるだけだからな!」
「その通りだ!頭を使って考えたいたずらが成功することによって、味をしめた子供達は頭を使うことが好きになる!結果発想力及び応用力に長けた子供が出来上がるわけだ、なァ志乃!」
「そうさ!そうして子供は成長していくわけだ!立派な大人になるわけだ!」
飛んできた手裏剣、矢を弾き飛ばし、全てのトラップをかわした二人。それを見ていた時雪、ミサト、橘が思わず拍手を送った。
その時、余裕の二人の頭上にあった天井が、突如落ちてきた。押し潰されかけたところをなんとか踏ん張り、受け止める。
「「いだだだだだ‼︎」」
「まったく……」
「可愛いいたずらだぜ」
「………………ホント、可愛い人達ですね」
「ああ」
最後までいたずらと信じて疑わないーーというか、罠だと認めないーー二人を、三人は呆れて見ていた。
********
なんとか全ての罠をくぐり抜けて、志乃達は広い部屋に到着した。その真ん中にある大きな柱に、エリザベスが縛り付けられていた。
「エリザベス‼︎無事だったか⁉︎」
愛するペットの姿を見た桂が、エリザベスに駆け寄る。
しかし、志乃はエリザベスの中から放たれている殺気を感じた。
「ヅラ兄ィ、そいつに近付くな!」
志乃の警告を聞き留めた桂が、足を止める。次の瞬間、エリザベスの体から布を突き破って無数のクナイが飛来してきた!
志乃は時雪を庇って押し倒し、橘とミサトも伏せる。桂もなんとかかわし、無事だった。
「エ……エリザベス……」
「……クク、残念だったな」
穴だらけになったエリザベスから、声がした。
エリザベスを脱ぎ捨て、両目を髪で隠した一人の男が現れた。
「エリザベスちゃんはここにはいないよ」
「なっ!」
「誰アイツ?」
突如現れた男は、ミサトを見て笑みを浮かべる。
「…………クク。久しぶりだな、風魔ミサト」
「お前……全蔵か」
「ミサトさん、知ってるんですか?」
時雪の問いに、ミサトは頷いてから答える。
「元お庭番衆、服部全蔵。お庭番衆の中でも最も恐れられた随一の忍術使いだ」
「今はフリーでここの旦那に雇われててね。悪いが元同僚とはいえそっちにつくなら容赦はしねェ。ゴニンジャーだか何だか知らねーが、にわか忍者じゃ本物の忍者には勝てねーよ。いや、たとえ侍でもな」
志乃達を囲むように、さらに四人の忍者が現れる。全蔵以外は皆全身を布で覆っていた。
「俺達が、最強の五忍だ」