銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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文通やインターネットを介しての知人に初めて会うと相手のイメージが必ず崩れる

手紙には、こう書いてあった。

 

 

姉のこと、まるで自分の兄弟のように心配してくれて嬉しかったです。

私も是非新八さんと姉を会わせたいです。

私も一緒に江戸に行くので、是非会いましょう。

 

 

銀時の背中越しに手紙を読んだ志乃は、喜んでいる新八を振り返る。

 

「師匠……おめでとうっ‼︎」

 

「ありがとう志乃ちゃん!」

 

二人でハイタッチしてから、ぐっと拳を握ってさらに続ける。

 

「でもまだまだだよ師匠!会って戦ってうららさんのハートを射抜かなきゃ、この勝負負けるぜ!」

 

「え、いや……何その戦争みたいな論理」

 

「恋は戦争だって昔銀が言ってた。それと、人は皆愛を追い求める狩人(ハンター)だってこないだ近藤さんも言ってた」

 

「あ……そ、そう……」

 

サムズアップして熱く語る志乃に、新八は苦笑を返すしか出来なかった。

しかし次の瞬間、近藤が何を思い早まったのか、ビリビリと手紙を破く。

 

「ギャアアアアア!近藤さん何するんですかァ」

 

「いけませんよォ‼︎16歳でムラムラなんていけません‼︎認めません‼︎兄として‼︎」

 

「いや兄じゃねーし‼︎大体アンタが一番ムラムラしてるでしょうが」

 

「20歳越えてからです、ムラムラは20歳越えてから」

 

「いやアンタ20歳前からムラムラしてただろ」

 

「認めませんん‼︎」

 

「ごちゃごちゃうるさい」

 

志乃が近藤の後頭部を蹴り飛ばして、庭に突き落とす。(ひが)みか。大人げない。

その隣で、銀時は懐からうららに宛てた手紙に同封した、あの写真を取り出した。

 

「どーすんだ、コレ」

 

「お前のせいだろ。責任とってお前がなんとかしろ」

 

今度は銀時も蹴り飛ばし、庭に叩き落とす。

しかしその背中を見つめながら、新八は「いや、志乃ちゃんも便乗してたよね?同罪だよね?」という視線を送っていた。

 

********

 

そしてまた数日後。デート当日。

待ち合わせ場所として定番の家康公の銅像の前で、沖田が写真に写っていたうららと合流した。その様子を銀時、志乃、新八が植え込みに隠れて見守る。

この状況に、新八が疑問を提示した。

 

「………………いや……なんで……?なんで僕の代わりに沖田さんがデート行ってんですかァァ‼︎」

 

「まーまーまーまー、落ち着きなよ師匠。総兄ィならうまくやってくれるって」

 

植え込みで叫ぶ新八を、志乃が宥めようと肩を叩く。しかし、その作戦はうまくいかなかった。

 

「うまくやらんでいいわ!なんでようやくデートまでこぎつけたのに、他人に一番おいしい所持ってかれにゃならんのですかァァ‼︎」

 

「他人じゃねェ、新八君だ。向こうにとっちゃ沖田(やつ)が文通相手の新八君ってことになってんだよ、忘れたか」

 

「アンタがややこしい写真送るからでしょーが‼︎」

 

「でも向こうの食いつきが良かったのもこの写真のおかげでしょ?」

 

「ゔっ‼︎」

 

志乃の正論に、押し黙る他ない。しかし、このままではうららは真実に気がつかないだろう。

実は今回沖田に頼んで、ある作戦を立てたのだ。彼に協力して悪役を演じてもらい、そこで新八を登場させる。

 

詳しい流れを説明するとこうだ。まず、沖田と新八は因縁のライバルと設定する。

ある日新八がカワイイ娘と文通を始めたことを知り、これを沖田が横取りしようと画策。新八の一通目の手紙を揉み潰し、自分の写真を送りつけた。

その後二人の仲が深まった頃合いを見て会う約束を交わし、その純潔を狙う。しかーし!そこに現れるのが新八なのだ!

と、いうのが一連のシナリオである。

 

しかし、新八は不安だった。

 

「ベタじゃないですか。大丈夫なんですか」

 

『事実は小説よりもベタなりでさァ』

 

「沖田さん?」

 

銀時の手にするトランシーバーから、沖田の声が聞こえてくる。沖田の耳に入れているインカムを通じて、連絡が取り合えるようだ。

 

『まァそん位の方がわかりやすくていいでしょ。難しいのは覚えるのタリーんで』

 

「いいんですか沖田さん、こんな事してもらって」

 

『旦那にゃ借りも色々あるんでね。それに嬢ちゃんにも約束(・・)取り付けてもらいやしたし。そういや、最近近藤さんの提言で局中法度に新しいのが加わりまして。第四十六条 万事屋憎むべし。しかし新八君にだけは優しくすべし。逆らえば切腹でさァ』

 

「キモチ悪い‼︎本格的に兄の座狙い出したよ」

 

身震いする新八に、志乃はドンマイという視線を送った。

ちなみにこの新しく加わった第四十六条、志乃は遵守するつもりはない。万事屋は彼女にとって、同職であり家族のような存在。特にオーナーの銀時は兄貴分であるため、いくら近藤の提言とはいえ賛成はしなかった。

自分はどこでだって、自分のルールで生きている。誰にもそれを邪魔させるつもりはないし、否定もさせない。

と、ここで沖田の通信が入った。

 

『ああ、そういやちぃと気になることが……どうも奴さん、姉貴と一緒に江戸に出てきたらしいんですが、その姉貴が迷子になったとかで気が気じゃないんでさァ。どうしやす、これじゃあ口説くどころじゃないですぜ』

 

「姉ちゃん?そんなもんいねー方が口説きやすいだろ。好機(チャンス)だ。警察に連絡したとか適当なこと言ってデートを続行しろ」

 

『旦那、俺警察なんですが』

 

「女のおとし時は不安な時と酔っ払った時と卒業式だって相場が決まってんだよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなの。なっ新八」

 

銀時が新八に同意を求めたその時。背後から声が聞こえた。

 

「あ……あの、すいません。し……新八って。い……今、新八って言いました?」

 

********

 

所変わって大通りの路地裏。そこで新八は、背後から話しかけてきたうららの姉に土下座していた。

 

「すいまっせーんんん‼︎お姉さまァァァァ‼︎」

 

「え……じ……じゃあ、貴方が……わた……妹と文通してた、志村新八さん」

 

驚く姉に、新八は正直に全てを洗いざらい話し、謝った。

 

「悪気はなかったんです、騙す気もなかったんです!いやらしい事とかそんなん一切考えてませんでした‼︎ただァ眩しくてェ、貴女の妹さんがあまりにも煌めいててェヤケドしそうでェ、こんな娘と文通出来たらいいなって必死で……考えてたら写真とか色々やっちゃってェ。最低ですよね‼︎僕最低ですよね‼︎ごめんなさい‼︎もう二度と妹さんには近づきません」

 

怒涛の勢いで謝った新八。姉は謝罪を黙って聞いていたが、ふと口を開く。

 

「…………わ……私も、わかります……その気持ち」

 

「お……お姉さん?」

 

「最低なのは……私……なんです。謝らなきゃいけないのは……私なんです。私のせいでみんな……みんな」

 

若干俯いて自分が悪いと言い出す姉。場の重い空気を察し、銀時と志乃が入ってくる。

 

「まままま、よくわかんないけどそんな深刻にならないでよ、二人共。まだ間違いは何も起きてないんでしょ?私はよく知らないけどさ」

 

「アンタらが陣頭指揮執ってたでしょ!」

 

「まァコイツはなんか嘘吐いたりとかしてたみたいだけど、ガキが二人でシコシコ文通してただけでしょ?」

 

「アンタらでしょ、あの写真送ったのアンタらでしょ‼︎」

 

正論をズバズバ言う新八の太ももを、余計なことを言うなとばかりに志乃が軽く蹴る。それに便乗する形で、銀時も言う。

 

「うるさいんだよお前は‼︎黙ってろ卑怯者。弟分が悩んでたらそりゃアドバイスの一つや二つするだろ、兄貴分として大人として」

 

「暇だっただけでしょ」

 

それでもめげない新八は、さらに銀時の図星を突く。コイツやるな。

しかしもちろん銀時は謝るそぶりも見せず、姉に同意を求めた。

 

「ねェお姉さん、お姉さんもわかるでしょ。今日は妹さんが心配でついてきたんですよね。引きこもりがちだったのに妹を心配して殻を破って来たんだよ。いい話じゃねーか、なぁ新八君」

 

「そ……そんなんじゃないんです。私……そんな大層な人間じゃないんです。私……私……」

 

「いやいやいやいや、もうそれいいから‼︎やめてお姉さん‼︎なんかスッゴイ悪いことした気分になるから!お願いだからやめてそれ‼︎」

 

ウジウジ自己嫌悪モードに入っていく姉を、なんとか宥めようと奮闘する。姉は俯きがちだった頭を、思い切ったように下げた。

 

「て……手伝わせてください」

 

「…………え?何を」

 

「う……うららちゃんを、口説くのを」

 

ボソリと言った姉の言葉に、三人は思わず呆然とした。

 

「え"え"え"え"え"え"え"⁉︎」

 

「いやいやいやいや何言ってんですかァァ‼︎いや、おかしいでしょ‼︎僕うららちゃんを騙してたんですよ?しかもいかがわしい作戦立てて、手篭めにしようとしてたんですよ⁉︎」

 

「い……いや、だから。うららちゃんを芝居とはいえそういう目に遭わすのは嫌だから、私を使ってくださいと言ってるんです。例えば私が悪人に攫われて、それをうららちゃんの目の前で助けるとか」

 

「いいね〜それ」

 

「いやよくねーだろ‼︎」

 

姉の提案に、銀時が乗る。すぐに新八がバッサリ切ったが、志乃は姉の意見に賛成だった。

 

「いや、いいよそれ。向こうはお姉ちゃん迷子になったと思ってるから。実は悪漢に攫われてたとか、自然な流れでイケるよ」

 

「そうじゃなくて倫理的な問題で!まだ罪を重ねるつもりですか‼︎」

 

「問題ないでしょ、お姉さんがいいって言ってんだから。師匠もちょっとはお姉さんの想いも汲み取ってあげてよ。妹が楽しそうに文通する姿見て、思うところあったんでしょ」

 

「………………」

 

少し後ろめたそうに顔を背ける姉を見ずに、銀時は沖田に連絡を入れた。

 

「オイ沖田くん、作戦変更」

 

『は?』

 

「うららちゃんには何もするな。俺が人攫い役になってうららちゃんの前で姉ちゃんを攫うから、お前はそれを止めようと俺にかかってきてあっさりやられろ。俺がうららちゃんも攫おうとした絶体絶命の時に、新八が現れて俺を倒す。『キャー素敵』となるわけだ。いいか、要するにお前は普通にデートしてればいいわけだ。何もしてねーだろうな、うららちゃんに」

 

『大丈夫でさァ。元々俺が事起こす前にそちらさんが駆けつける作戦だったでしょ』

 

「そういやそうだな」

 

『紳士的にエスコート中です。ようやく慣れてきてくれたみてーで』

 

もうそろそろ、沖田とうららが現れる頃だ。志乃は路地裏からひょこっと顔を出して、沖田達を見つけた。しかし、衝撃の光景を目にすることになる。

 

「おう、モタモタしねーで歩けい」

 

沖田はうららに首輪をつけて、犬か何かのように鎖を引っ張っていたのだ。

 

ーーいや、どんなエスコートだよ⁉︎

 

志乃は思わず愕然としたが、パッと路地裏に戻り、銀時を促す。銀時も志乃同様の反応をして、それを見た。

 

「ねぇアレエスコートっていうの?違うよねェ、絶対違うよね⁉︎」

 

「違うに決まってんだろ‼︎ありゃエスコートじゃねェ、ドSコートだろ‼︎」

 

予想外の出来事に二人が騒ぐ中、沖田はうららに普通に話しかけている。

 

「この辺に美味い飯屋があってな、行くかィ?」

 

「何で普通に喋ってんの⁉︎何で恥ずかしくないの⁉︎」

 

路地裏から隠れて様子を見守る二人に新八と姉も気づき、その光景を目撃してしまう。

沖田が連れていった飯屋は、簡単に言うと野良猫の餌場だった。

 

「まいったな、満席だ。あっ一席空いてるか。うららちゃん食べてきなよ。俺のことは構わないでいいからさ」

 

「何コレ何ファースト⁉︎レディーファーストじゃないよね、絶対違うよね‼︎」

 

うららに餌を食べさせている間、沖田は餌場の前にある階段に座る。そこで隣に座っていた老人と談笑していた。しかも話題の内容は沖田のホクロが増えたとか、老人の香水が変わったとかどうでもいい話。

妹の見るに耐えない有様に、姉は涙を溜める。

 

「ひ……ひどい。う……………………うららちゃんが、うららちゃんが……………………………………」

 

「銀さん、コレは下手に芝居うつより沖田さんをぶっ潰して、うららちゃんを救い出すべきです!」

 

「新八ィ早まるな!」

 

うららにひどい仕打ちをする沖田に、怒りを露わにした新八は、うららに駆け寄っていく。銀時が止めても御構い無しに、走っていった。

 

「うららちゃーん‼︎」

 

名を呼ばれたうららが、振り返る。しかし新八を一目見ると、突如飛び上がって顎を蹴り飛ばした。沖田が、着地したうららの顎をよくやったとばかりに撫でる。

 

「これはっ、完全に調教されている‼︎完全に服従してるよ‼︎」

 

「ってかお前、あの短時間でうららさんに何したんだァァ‼︎」

 

これでは、うららを振り向かせる云々以前の話だ。志乃は銀時と姉を振り返って、アイコンタクトで意思疎通を図る。

作戦通り、姉が攫われる芝居をするのだ。

 

「た……助けてェェうららちゃ〜ん!」

 

「フハハハハハ!なかなかにイイ生娘ではないか、これは高く売れそうだ‼︎」

 

ピクッとうららがこちらに気づき、一瞥する。上々の反応だ。志乃はガッツポーズをした。

 

「よっしゃ見た‼︎こっち見たよ‼︎やっぱ実の姉の危機は放っておけな……」

 

しかし、すぐに沖田の方を向いてしまう。

 

「ホクロホクロ」

 

「またホクロかいィィ‼︎お前らどんだけホクロ気になってんだよ‼︎」

 

まさか実の姉の危機が沖田のホクロに負けるとは思ってもみなかった。ガクリと膝をつき、地面を叩く。

作戦も何もかもがめちゃくちゃになってしまい、銀時は沖田に詰め寄った。

 

「お前何してくれてんだァァ‼︎惚れさせる云々以前に人格変わっちまってるだろーが‼︎」

 

「すいやせん、思った以上に覚醒しちまったようで。まァ俺が惚れろと言えば誰にでも惚れますよ」

 

「そんな偽りの愛はいらねェェ‼︎」

 

うららを眺めていると、志乃はバイトの時のことを思い出す。

今まであまり語られなかったものの、沖田はたまに、彼女に首輪を付けようとしてくる。普段から何かと理由をつけて首輪を嵌めようとしてくるのだが、時に暴力で訴えてそれらをかわし続けてきた。

しかし彼もなかなかしつこく、最近は昼食中や警邏中、昼寝中にも襲いかかってくるようになったのだ。

だから、うららの変貌を見て恐怖する。一歩間違えれば、自分もあんな末路を辿るかもしれない、と。

 

頭を抱えて、今は考えないようにしようと努めていたその時、姉が急に「ごめんなさい」と謝って、駆け出してしまった。

新八には走る彼女が、涙を散らしているように見えた。そしてすぐにそれを追いかける。

 

「オイ新八ィ‼︎」

 

銀時が止めるのも聞かず、二人の背中が小さくなっていく。志乃は銀時を振り返った。

 

「銀、追うよ」

 

「ああ」

 

彼が頷いたのを見て、走り出す。理由はない。とにかく追わねば、と感じた。

そして同時に、姉が何か隠していると思う。姉の行動が、何が何だかまるでわからない。

 

ーークッソ、一体何がどうなってやがんだ……。

 

しかし、今は考えるより追う方が先だ。志乃は新八の背中を見失わないように、走るスピードを速めた。

 

********

 

時が過ぎ、夜。近藤と土方は、パトカーで夜間警邏をしていた。助手席に座る近藤が、思い出したように言う。

 

「そういや今日って新八君が例の文通の娘と会う日じゃないか」

 

「知らねーよ、覚えてねーよそんなこと」

 

「うまくいってるといいな。一回女が出来るとお妙さんのことにも寛容になる気がする」

 

「総悟の姿が見当たらねェ。こりゃ失敗したと見たな」

 

ハンドルを握る土方の目の前に、十字路が現れる。その脇の道から、突如女が飛び出してきた。

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