銀狼 銀魂版   作:支倉貢

124 / 205
前回言った通り、オリジナルです。


デート前日は眠れない

翌日。

 

「嬢ちゃん」

 

真選組屯所。朝からバイトで来て早々、沖田がニヤケ顔で迎えてくれた。ありがたくもなんともない。

沖田がニヤける理由は、志乃にもわかっていた。

 

「約束、ちゃーんと果たしてもらうぜィ」

 

ーーあんな約束しなけりゃよかった。

 

志乃は溜息を吐いて、いつもより何倍も楽しそうに歪んだ笑みを浮かべる沖田を見上げた。

 

********

 

それは、きららとうららが江戸に来る一日前に遡る。

 

「嫌でィ」

 

「頼むよ!お願いだから悪役引き受けて!」

 

志乃の精一杯の頼みを、沖田は一蹴した。忘れている人もいるかもしれないが、沖田はこの次の日、新八のデートのために悪役を引き受けることになる。その依頼を志乃がしている、という時間軸なのである。

志乃は両手を合わせて、沖田を見上げる。

 

「お願い総兄ィ、力を貸して!」

 

ジッと見上げてくる視線を、沖田は気持ちよく見下ろしていた。身長差のため、志乃はどう頑張っても沖田を見上げるしか出来ない。

つまりどうしても上目遣いになり、さらには涙目もプラスされて、縋るような切ない視線が出来上がっていた。

沖田がくつくつと笑うのを見て、志乃の眉がつり上がる。

 

「何笑ってんだよ‼︎こっちは真剣に頼み事してんのに‼︎」

 

「いやァ、やっぱ嬢ちゃんを見下ろすのは愉快でさァ。たまにこんな縋るみてーな可愛い顔しやがる」

 

「うるっさい‼︎」

 

クイ、と顎を持ち上げられたが、すぐにバシッと手を叩き落とす。

こんなことをしている場合ではない。沖田に頼んでなんとしてでも悪役を引き受けてもらわねば。こうなったら最後の手段。志乃は声を張り上げた。

 

「引き受けてくれたら、一日だけ何でも総兄ィの言うこと聞いてあげるよ‼︎」

 

「⁉︎」

 

沖田の目が、大きく開かれる。よし、かかったか?

すると突然志乃の肩を掴んで、沖田が顔を近づけてくる。

 

「何でもか?」

 

「え?」

 

「本当に何でも(・・・)言うことを聞くんだな?」

 

「う、うん。一日だけね」

 

沖田の勢いに押されつつも、コクリと頷く。志乃の返事を見ると、沖田は彼女から離れて、ガシガシと頭を掻く。

 

「何でもって……お前……」

 

「え?」

 

「……いや、何でもねェ」

 

「?」

 

沖田はハァと溜息を吐いてから、志乃に向け直った。

 

「……わかった」

 

「ホント⁉︎ありがとう総兄ィ!」

 

パァァ、と志乃の笑顔が眩しくなる。ガッツポーズをする志乃の肩に手を置いて、耳元で囁いた。

 

「終わったら、本当に何でも言うことを聞けよ?嬢ちゃん……」

 

ニヤリと怪しく笑って、足取り軽く去っていく沖田。舞い上がっていた心が、急に冷や水をかけられたみたいに落ち着いてしまった。

 

ーー私、もしかして地雷踏んだ?

 

もしかしなくても、紛れもなく地雷を踏んだ。志乃はしでかした事の大きさに、愕然として沖田の背中を見ていた。

 

********

 

「さーて、何してもらおーか。ククッ」

 

部屋に連れ込まれ、志乃はその真ん中で正座していた。どうしよう、逃げようかな。めちゃくちゃ逃げたい気分なんだけど。

目の前でニタニタと楽しそうに見下ろしてくる沖田と目を合わせられない。このドS帝王の言うことは全てが恐ろしい気がしてならない。帰りたい、真面目に帰りたい。

 

「じゃあまずは……」

 

カチッ

 

「へ?」

 

小さい音と共に、首が窮屈になる。首から鎖が伸び、その先は沖田が握っていた。

アレ?これってまさか……。悟った志乃は、それを外そうと暴れ出した。

 

「ギャーーーー‼︎何すんだお前ェェェ‼︎」

 

「オラ、騒ぐんじゃねーよ。大人しくしろィ」

 

「ふざけんなっ私はお前のペットになんか絶対ならねーかんな‼︎オイ首輪(これ)外せ‼︎」

 

彼女の首に付けられていたのは、首輪。しかも鎖を取り外し出来るタイプ。

沖田は鎖を引っ張り、顔を近づけさせる。

 

「今日一日はコレを付けてもらうぜィ。約束したもんな、ん?」

 

「うぐっ……‼︎」

 

約束、の単語をチラつかせ、沖田はくつくつと笑う。彼はもちろん、悔しさに歪んだ志乃の顔を見つめていた。

殴りたい、この笑顔。志乃は無性に目の前の男を殴り飛ばしたい気分になった。

ギッと反抗の意を視線に込めて送ってみると、沖田はさらに口角を上げた。

 

「ククッ……たまんねェなァ、その顔……」

 

忘れていた。この男が何だったか。今の彼に抵抗する姿を見せても、従順に従う姿を見せても、このサディステック野郎には興奮の材料に他ならない。

しかし、今回は自分の不用心が悪い。このサド相手に「何でもする」と言っておいて、ただで済むはずがないのだ。だが、新八のデート大作戦を成功させるためには沖田の協力が必要不可欠だし、それを引き込むために必死だった。

ハァ、と溜息を吐いて俯くと、グイッと顎を掴まれて引き寄せられた。

 

「オイてめー、御主人様が目の前にいるってのに無視たァいい度胸じゃねーか」

 

「私はアンタのペットじゃな……わあっ⁉︎」

 

無理に鎖を引っ張られ、立ち上がらせられる。転びかけたのを踏みとどまって、体勢を整えた。その瞬間、沖田に鎖を引かれる。

 

「オラ、行くぞ」

 

「どこ行くの?」

 

「んなもん決まってんだろィ」

 

引き寄せられ、顔がぐっと近くなる。沖田は三本指を立てた。

 

「男、女、外出」

 

それ即ち。

 

「デートに決まってらァ」

 

「…………え?」

 

ポカンとする志乃を無視して、沖田は歩き出した。

 

「さっ行くぜィ」

 

「ちょ、ちょっと待って‼︎」

 

鎖を握りしめて、沖田を引き止める。不服そうな彼に抗議した。

 

「デ、デートってなんで⁉︎今から?このまま⁉︎」

 

「たりめーだろィ。それ以外何がいるってんだ」

 

「そーいう意味じゃなくて!ヤダよ‼︎せめて首輪(これ)外して‼︎」

 

「はぁ?てめーに拒否権があると思ってんのか」

 

「うっ……と、とにかくコレ外して‼︎じゃないと行かないからな‼︎」

 

「何も恥ずかしがることねーだろ?街行く人を見てみろィ、首輪付けて歩いてる奴もいるぜ」

 

「それはペットだろ⁉︎私人間!アイム ア ヒューマン‼︎っていうか首輪付けてる奴と歩くってお前、ただの散歩だろーが‼︎デートじゃねーよ‼︎」

 

渾身の言い訳とツッコミを交えて、沖田に抗議する。うーっと唸って威嚇すると、沖田は盛大な溜息を吐いた。

溜息吐きてーのはこっちだよ‼︎と叫びたくなるのを呑み込んだ。

 

「わーったよ。嬢ちゃんと俺の初デートだからな」

 

「いいか、今日限りだぞ。てめーとのデートなんざ二度と御免だ」

 

「へいへい、ったくうるせぇガキだ」

 

「お前もガキだろーが‼︎なんで私が我儘言ったみたいな編集してんだァァ‼︎」

 

ギャーギャー喚く志乃の頭にチョップをしてから、首輪を外してやる。チッ、せっかくのチャンスだったのに、と沖田は心の中で毒づいた。

その後ろで、ようやく自由になった志乃が、ぐーっと伸びをしていた。

 

********

 

さて、始まった沖田とのデート。せっかくのデートなのにお互い制服では風情がないということで、二人は私服に着替えて屯所から出て行った。ちなみに志乃はちゃんと有休を取ったが、沖田は当然サボりである。

早速二人が向かった先は。

 

「服屋?」

 

ショーウィンドウに並ぶオシャレな着物が眩しく見える。それが立ち並ぶ店内に、手を引かれて入店した。

客の姿にいち早く反応した店員が、こちらに寄ってきた。

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

沖田は志乃に指さし、なかなかテンションの高い店員に言う。

 

「コイツに合うやつ、適当に見繕ってくれィ。全身コーデで頼む」

 

「畏まりました!では、こちらへどうぞ〜」

 

「へ?いや、あの……」

 

店員に肩を掴まれ、奥の方へ押されるようにして連れていかれる。店員はハンガーラックにかけてある着物をいくつか手に取り、志乃に見せる。

 

「お客様は普段、どのような服を着ていますか?」

 

「普段?同じ着物を着回してるよ。それ以上に無いしね」

 

「では、その藤色の着流しのみですか?」

 

「そうだね。あまりオシャレとか興味ないし。それに、新しいやつ買っても置き場所がないから」

 

そう。志乃がいつも藤色の着流しを着ているのは、これが理由なのだ。志乃は銀時と同じように同じ着物を四着、着回している。それ以外の服といえば、桂からたまに贈られてくるコスプレ衣装がある。それがクローゼットを圧迫しているため、新しい着物を買おうにも買えないのだ。

店員はうーむと悩んでから、彼女に薄桃色の着物を差し出した。足元はミニスカートのように短くなっており、動きやすそうだった。さらに、白いニーハイと草履を合わせる。帯は淡い紫色だ。

店員は早速志乃を試着室に入れた。部屋に取り残された志乃は、怒涛の勢いで渡された着物を見下ろす。

 

「……これに着替えればいいのかな」

 

志乃は取り敢えず帯を解いて服を脱ぎ、着替えてみた。試着室のカーテンを開けると、外には店員と沖田がいた。

 

「あれ?総に……」

 

「領収書頼む。真選組の土方宛てでィ」

 

沖田は志乃の姿を見ることなく、さっさと会計を済ませてしまう。自分でなく上司の金をあっさりと使った沖田は、志乃の着ていた藤色の着流しを袋に入れ、店を出て行った。

 

「ちょっと待ってよ、総兄ィ!」

 

足速に大通りを歩いていく沖田の背中を追い、小走りで駆け寄る。不意に沖田が立ち止まり、振り返って追いついた志乃の頭を軽くベシッと叩いた。

 

「ったー!何すんだよ!」

 

「その総兄ィって呼び方やめろ。デートで兄ちゃんって呼ぶ奴見たことあんのかィ?」

 

「……いや、ないけど」

 

「今日一日その呼び方は禁止でィ。また総兄ィなんて呼んだら首輪付けてやらァ」

 

「き……肝に命じます……!」

 

必死にコクコク頷いた彼女が面白くて、思わず笑いを堪える。「オイ何が可笑しいんだ」とでも言いたげな睨む視線に沖田はさらに笑いが込み上げた。

 

「なんだよお前‼︎何がそんなに可笑しいんだよ!」

 

「ククク……いや、何でもねェや。さ、行くか嬢ちゃん」

 

スッと沖田が手を差し伸べる。

 

「この俺様が特別にエスコートしてやらァ。ありがたさに泣いてひれ伏しやがれ」

 

「ハイハイ、ありがたき幸せ」

 

志乃は恭しく頭を下げてから、沖田の掌に自分の手を置いた。

 

********

 

それから二人は江戸の街を散策した。簪屋を覗いたり、昼飯でもんじゃ取り合い合戦を繰り広げたり、公園を散歩したり。あの沖田のことだから、身の危険を感じるイベントが起きるかもしれない、と身構えていた志乃は、呆気にとられていた。

そして日が傾く夕暮れ時、二人は大通りを歩いていた。何故か、手を繋いで。

チラリと沖田を見上げてみる。横顔だけでもわかる、綺麗に整った顔立ち。黙っていればただのイケメンなんだけどなぁ。なのに色々と残念だ。

当然そんなイケメンが歩いていれば、自然と目立つ。ヒソヒソと娘達が話す声が耳に入った。

 

「ねぇ、あの人カッコよくない?」

 

「ホントだ!イケメン〜!」

 

「え、でもあの女の子誰よ」

 

ーーあれ?何で私の話になる?

 

「もしかして彼女?」

 

「え〜⁉︎彼女持ちだったの?残念」

 

ーーいや違うからね、彼女じゃないからね‼︎っていうか残念って何!アンタら総兄ィ狙ってたの⁉︎やめとけ‼︎こいつS(サド)だから!

 

「オーイ、嬢ちゃん」

 

「ぅえぁっ⁉︎」

 

周りで話す声にツッコミやら注意やらを心の中で叫んでいた時、いきなり沖田に呼ばれ、声が裏返る。

 

「な、な、何⁉︎」

 

「最近ここらで新しい団子屋が出来てなァ、そこのがめちゃくちゃ美味ェって評判なんでさァ。行くかィ?」

 

「えっ、ホント⁉︎行くっ!絶対行くっ‼︎」

 

団子、という単語を聞いて、志乃が期待に目を輝かせる。彼女を見てククと笑いながら、沖田は手を引いて足を動かした。隣を歩く志乃の横顔は、とても嬉しそうな笑顔だ。相変わらずチョロいなァ。沖田はほくそ笑んだ。

大通りから脇の道を抜けて、さらに進んでいく。この辺りは人気が少なくなっていた。流石に少し不安になって、沖田に尋ねる。

 

「総に……じゃなくて、総悟」

 

「何でィ嬢ちゃん」

 

「あの……本当にここら辺にあるの?」

 

「ああ、ここ真っ直ぐ行ったらすぐだ」

 

「いや、でも……私、こないだここら辺散歩で通ったけど……あまりお店とかなかったし、団子屋もなかったよ?」

 

ピタリ、と沖田が足を止める。それに倣って志乃も足を止め、沖田を見上げた。

 

「…………総悟?」

 

「……やっぱバレちまったか。流石だなァ嬢ちゃん」

 

「え……?」

 

何だろうか。嫌な予感がする。一歩沖田から後退った瞬間、一気に壁に追い込められた。

 

「わっ……」

 

一瞬の内に背中に壁が当たり、両手首を頭の上でまとめて押さえつけられる。顎を掴まれ、視線を合わせられた。

 

「総、悟……?」

 

不安で、声が震える。彼の双眸が、獲物を捕らえたかの如く赤みを帯びていた。ゆっくりと顔を近づけ、耳元に囁きを落とす。

 

「志乃………………」

 

「へっ……⁉︎」

 

突然名前で呼ばれて、ドキッと心臓が跳ね上がる。耳に吹きかけられる吐息がくすぐったくて、思わず身じろぎした。

そして、顔がぐっと近くなる。これってもしかして……!マズイと察した志乃は手を振りほどこうと暴れるが、ガッチリ押さえつけられていて全く動けない。

その間にも、沖田はどんどん顔を近づけてくる。

 

「ちょ、ちょっと待っ……やめっ……」

 

重なるまで、あと数㎝。志乃はぎゅっと目を閉じた。しかしその時。

 

「失礼。真選組一番隊隊長、沖田総悟殿とお見受けする」

 

あと1㎜かそれくらいの距離で、沖田が止まった。声を耳にして志乃も目を開けてみると、沖田の背後に数人の攘夷志士がいた。皆沖田に向けて、殺気を放っている。その中の一人が、抜刀した。

 

「侍でありながら、天人を迎合し甘い汁を啜る売国奴が‼︎我ら攘夷志士がここに天誅を下さん‼︎」

 

「……………………」

 

沖田は黙っていたものの、全く彼らを振り返ろうとしない。ゆっくり志乃から手を放しても、黙ったままだった。

一斉に攘夷志士達が、刀を手に駆け寄る。このままでは沖田が危ない。

 

「総兄ィッ……‼︎」

 

志乃が沖田を守ろうと前に出ようとしたその時。

 

ズバァッ‼︎

 

斬撃と共に、体から血が噴き出る。志乃は目を見開いて、刀を抜いた沖田の背中を見つめていた。彼は怒っている。憤っている。凄まじいまでの怒りを抱えている。

 

「オイてめーら……死ぬ覚悟出来てんだろーなァ……」

 

ゆらり、と恐ろしい雰囲気に呑まれつつ、志士達が立ち向かっていく。しかし彼らも次から次へと斬られ、倒れていった。

 

「せっかくいいトコだったのに……」

 

最後の一人を狂気の目で見据えた沖田は、剣を振り上げた。

 

「邪魔してんじゃねェよ」

 

ズバッと肩から腹にかけて一刀両断する。敵全員を返り討ちにした沖田は、刀についた血を払ってから鞘に納めた。

 

「総に……」

 

「チッ、興が冷めちまった。嬢ちゃん、帰るぜィ」

 

カチッ

 

「は?」

 

聞き覚えのある、施錠音。繋がれた鎖を沖田が引くと、首から引っ張られるように体も動いた。

 

「ぎゃあああああ何してんだお前はァァ‼︎」

 

「嬢ちゃんさっき『総兄ィ』って呼んだだろーが。俺の言ったこと忘れたか?ん?」

 

「あっ……」

 

ハッと口に手を当て、青ざめる。夕焼け空に、絶望する志乃の悲鳴が響くのであったーー。




次回、トッシー篇行きます‼︎
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。