一気に形成逆転。土方の
このままでは負ける。そう確信した時、土方の脳内に、もう一つの声が聞こえてきた。
ーーもういい。もういいよ、十四郎。ここからは僕にやらせてくれ。最後くらい……僕にやらせてくれ。
「お……お前は……」
次の瞬間、土方が山札からカードを引き、勢いよくセットした。
すると、新八から跳ね返された攻撃が、土方の元で増幅していった。とどまることを知らず、光はどんどん大きくなり、ついにリングを包んだ。
「い……今のは、『
『
解説:ライブの最中に突然のできちゃった婚宣言。観客・敵・味方・カード全てを無へと引きずり込む最凶最悪のカード。
土方が出したカードの効果により、新八だけでなく土方の
まさかこんな大会でここまで熱くなれるとは思わなかった。
「何つー壮絶な戦いだよ、たかが
チラ、とお通を横目で見ると、彼女もどうすればいいかわからないような顔をしていた。その時、リングから声が聞こえてきた。
「判定など……必要ない。まだ、勝負はついてないんだから」
「師匠⁉︎トシ兄ィ‼︎」
リングに倒れ伏していた新八と土方が、ボロボロになりながらも立ち上がった。上着を脱ぎ捨て、二人同時に一歩踏み出す。そして、勝負は完全なボクシング対決に発展した。
両者殴り、殴られを繰り返し、それでも二人は戦うことをやめない。見ていられなくなったお通が、マイクを握りしめて叫んだ。
「やめて‼︎お願い、もうやめて‼︎これ以上やったら危険だよ‼︎
お通がリングで拳を交える二人に訴えかけるが、一向に中止される気配はない。お通は今度は隣に立つ志乃に頼んだ。
「お願い志乃ちゃん、二人を止めて‼︎このままじゃ、二人共死んじゃうよ」
「…………無駄だ」
「え……?」
志乃はお通の懇願を、リングを見つめたまま拒絶する。
「もう無駄だよ。奴等は誰にも止められない。奴等はもう、
新八のボディブローがヒットすると、土方が新八の左頬を殴りつける。お互い息の荒い中、それでも両足を踏ん張って立っていた。
「不思議だ。こんなに苦しいのに、こんなに痛いのに、今初めて、生きている気がするでござる」
「土方さん……いや……トッシー」
「……フッ、気づいていたでござるか新八氏」
「土方さんのパンチを真面に受けていたら、僕はもうここには立っていません」
呼吸を整えつつ、新八は土方改めトッシーに尋ねた。
「何故ですか。土方さんに任せていれば、労せず勝利できたのに。何故……今になって」
「それは君も同じだろう、新八氏。お通ちゃんの声を聞きながら、何故君はまだその拳を降ろさない。何故、まだ戦う」
己の生きた証。トッシーはそれを土方と共に探し求め、オタク道を極め続けてきた。しかし、その本心に、彼はようやく気づき始めたのだ。
オタクの覇王の座なんて、どうでもいい。ただ、仲間と共に一つの事に何もかも忘れ、熱中したかった。ただ、
証なんて必要ない。作る必要もない。ただ一瞬一瞬を燃え盛るように全力で生きる。そうして生きてきた道、地面に焼きついた焦げ跡こそが、自分達の生きた証なのだと。
両者のパンチが同時に顔面に入り、再びリングに倒れる。二人共ボロボロで、荒い息だけが会場に響く。
「……トッシー…………」
志乃はボソッと彼の名前を呟いていた。そして、彼と過ごした短くも楽しい日々を思い出す。
一緒に限定販売のフィギュアを手に入れようと行列に並んだり、彼に頼まれてコスプレをしたり、ライブに行ったり。好きなことをしている彼は本当に楽しそうで、キラキラ輝いて見えた。そんな姿を見るのが楽しくて、嬉しくて。いつの間にか、志乃にとって一人の友となっていた。
そんな彼を成仏させるために、自分ができることは何か。
最後まで彼らの戦いを見届け、応援することだ。
「しっかりしろォォォォォォ‼︎立てェェお前らァ‼︎まだ終わってねーぞ‼︎」
マイクを握り、声の限り二人に叫ぶ。仰向けに倒れていたトッシーがピクリと反応を示し、転がってうつ伏せになってリングに両手をついた。彼を奮い立たせるように、近藤もトッシーにエールを送る。
「立てェェェェェェ‼︎立つんだトッシー‼︎勝敗なんざ関係ねェ、最後の最後まで立って戦え‼︎燃えて燃え尽きるまで戦って、その生き様俺達の目に焼きつけてみろ‼︎立てェェェェトッシー‼︎」
向かい側で勝負を見守っていた銀時と神楽も、新八に叫んだ。
「立てェェェェぱっつぁんんん‼︎」
「何が燃え盛るようアルか、ボヤ騒ぎで終わらせるつもりアルかこの屁タレ野郎ォォ‼︎」
「死体が生焼けじゃ野郎も成仏できねーぜ!立てェェぱっつぁん‼︎何もかもキレイさっぱり焼き尽くして野郎をあの世に送ってやれェェ‼︎」
「そうだァァァ立てェェェ‼︎」
「負けるなァァ二人共ォォ頑張れェェ‼︎」
二人の熱い闘志を目の当たりにした観客達も、頑張れコールを送る。それは会場全体に響き渡り、二人を応援していた。
震える手足を叱咤し、よろけながらも立ち上がる。それだけで、会場は歓声に包まれた。
ーー…………新八氏。最後の最後に、君のような
ありがとう、新八氏。ありがとう、みんな……。
ありがとう。……十四郎。
********
今日の天気は快晴。気持ちのいいそよ風に髪を靡かせながら、志乃は小さな花束を持って、真選組屯所の庭を歩いていた。
一つの大きな石に、写真と線香と花が置かれている。その写真の中には、トッシーが写っていた。その写真の前に、カードが立てかけられている。
「ん?」
屈んで目を凝らしてみると、カードには「寺門通公式ファンクラブ会員証 No.0000001 トッシー」と書かれていた。
「……ふはっ」
志乃はそれを見た瞬間、吹き出してしまった。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
「わっ」
突如背後から声をかけられ、びっくりする。振り返ると、そこには煙草を咥えた土方が立っていた。
土方は志乃が手にしていた花束を一瞥する。
「……アイツにか」
「うん。約束してるしね」
「約束?」
「花を持って毎日会いに行くよって」
志乃はニコリと微笑んでから、墓の前に跪き、花束を添える。そして、手を合わせた。
挨拶が終わってから、会員証のことを尋ねる。
「これ、どうしたの?」
「お前の師匠が置いてったんだよ。ったくあの野郎、カッコつけやがって」
「そっか」
再び視線を会員証の中のトッシーに移し、彼に語りかけた。
「永久欠番ってヤツか。よかったね、トッシー」
「……………………」
土方は彼女の背中を黙って見つめていたが、ふと思い出したようにポケットを探った。ポケットから一通の封筒を取り出し、しゃがんだままの志乃に差し出す。
「オラ」
「?」
「こないだ部屋を掃除してたら、見つかった。お前に宛てたモンだ」
「私に……?」
土方から手紙を受け取り、封を開けて中身を取り出してみる。中には一枚の手紙と写真があった。
『志乃氏へ 僕が生まれてから短い間だったけれど、いつも僕に付き合ってくれてありがとう。
今思うと、僕は君のことを散々に振り回していたと思う。ある時は一緒にイベントやライブに行ったり、またある時は無茶を頼んでコスプレをしてくれたり。
それでも君は嫌な顔一つせず、寧ろ笑って僕のたくさんの我儘に付き合ってくれた。とても、嬉しかった。
僕はもうすぐ、消えてなくなるだろう。だけど、どうか君だけは、僕のことを忘れないでほしい。もちろん僕も、君のことを死んでも忘れない。これは僕達の約束だ。
志乃氏、今まで本当にありがとう。もしも生まれ変われるならば、その時はまた一緒にコミケに行こう。 トッシー』
手紙を読み終えた志乃は、またしても吹き出した。
「一緒にコミケに行こうって……どんな誘い文句だよ。ははは、おかしっ……」
笑いながら、思わず零れてしまった涙を拭う。その様子を眺めていた土方は、フゥッと煙を吐いた。そして、彼女に背を向けて歩き出す。
「……今から、親衛隊の隊員達を戻しに行く」
頭をボリボリと掻いてから、志乃を振り返った。
「……………………一緒に行くか?」
「‼︎……うんっ!」
元気よく返事をし、土方の背中を追いかける。制服の裏ポケットにしまった手紙の裏には、まだ続きがあった。
『P.S.僕の宝物を一緒に入れておきます。無くさないでね』
写真の中には、「美少女侍 トモエ5000」のコスプレをした志乃が、トッシーと共に笑顔で決めポーズをとっていた。
ートッシー篇 完ー
……よ、ようやく終わった…………。まさかトッシー篇にここまで苦しめられるとは思ってなかった。久々に長篇やったからかな?
あ、あとあけましておめでとうございます(遅い)。ロクに挨拶してなかったもんで。
ま、とにかくトッシー篇終了です。次回はどこかで書こうと思ってたけど書けなかった(今まで書き忘れてた)、ハードボイルド同心の話です。
おっしゃあまた気合い入れていくぞ‼︎
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。