銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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蜘蛛の糸に引っかかると何か嫌

やってきたそこは、コンテナの立ち並ぶ埠頭だった。そこでは蜘蛛の入れ墨を入れた浪士達が、次々と麻薬を運んでいく。その数は数えきれないほど多かった。

三人はコンテナの影に隠れて、様子を伺いながらヒソヒソと話す。

 

「どうやらあちこちから盗賊団やら攘夷浪士やらが集まってるみたいだな。俺達の就職先は、ここじゃ末端中の末端の下請け会社に過ぎなかったらしいぜ」

 

「たりめーだろ。かまぼこ強盗なんぞにうつつを抜かす輩が何に使えるってのさ」

 

「だが、どうにか糸は掴んだようじゃな。大蜘蛛の巣に繋がる、たった一本の糸が」

 

月詠は懐から単眼鏡を取り出して、攘夷浪士に指示を出している男を見る。空はすっかり暮れて真っ暗だったが、志乃も月明かりを頼りに目を凝らした。

男の背中を見た瞬間、志乃は彼から発せられる雰囲気に、眉をひそめた。隣に立つ浪士とは全く違う雰囲気。それはまるで、殺気ともとれるような鋭いものだった。

男がゆっくりとこちらを振り返る。その時、背筋が凍るような感覚を覚えた。

 

「ツッキー‼︎」

 

「⁉︎」

 

月詠に突進するよう抱きついて、突き飛ばす。刹那、こちらへ飛来してくる殺気を咄嗟に右手で受け止めた。

 

ドスッ!

 

「ぐっ⁉︎」

 

「志乃‼︎」

 

「勘付かれた、逃げろ‼︎」

 

突如飛んできたのは、クナイだった。志乃の手に深々と突き刺さったそれをすぐに抜き捨て、銀時に叫んで反対の手で月詠の手を引いて走り出す。

 

「オイオイウソだろ⁉︎この人だかりの中、しかもあんなとこから」

 

「とにかく逃げるよ‼︎急いで!」

 

コンテナの間を通り抜けると、少し広い場所へ出る。先程の騒ぎに気づいた攘夷浪士達が、三人に襲いかかってきた。志乃も金属バットを左手に持ち直し、敵を薙ぎ倒していく。

 

「くそっ、埒が開かないよコレ‼︎」

 

「チッ、だから蜘蛛は嫌いなんだよ」

 

「銀時、志乃、わっちが時間を稼ぐ‼︎その間にぬしらは吉原に戻って日輪と百華にこの報せを‼︎」

 

圧倒的な力で敵を倒していく三人は、一度背中合わせになる。

 

「冗談よせよ、こんなムセー野郎だらけの所に女一人置いて逃げられるか。そいつぁ俺の役目だ」

 

「この件にぬしらを巻き込んだのはわっちじゃ。わっちも必ず後から行く」

 

「ワリーな、別れ際に女が吐く戯言は真に受けねェ事にしてるんだ」

 

「わっちを女扱いするのはやめろ、そんなものはこの傷と共に捨てたと何度も言っている」

 

「ケッ、ぱふぱふくらいでギャーギャー喚いてた奴が抜かしやがるじゃねーか」

 

背中合わせになってもどちらが残るかで言い合う二人。まったく、仲が良いんだか悪いんだか……志乃は二人の会話に割って入った。

 

「じゃあ私が残るから二人は早く吉原に……」

 

「「お前はダメだ(ぬしはいかん)‼︎」」

 

「何でそこだけ揃うの⁉︎」

 

当然といえば当然の結果なのだが、志乃は理不尽だ!と怒る。基本自分で先に動く月詠と妹離れできない過保護な銀時が、彼女を一人残すはずがなかった。

しかし月詠は何やら複雑な表情だった。

 

「………………お願いだから……行ってくれ。お前とは対等な立場でいたいんじゃ。お前といると……決心が鈍る。…………これ以上、わっちの心を掻き乱すな」

 

次の瞬間、刀を振り上げた浪士が月詠に襲いかかる。月詠の反応が遅れたのを見た銀時は、咄嗟に浪士の顔を木刀で殴り飛ばす。

 

「よそ見してんじゃねェェェ‼︎」

 

何かの気配が、銀時の背後に現れた。背中合わせになっている、志乃でも月詠でもない誰か。

 

「よそ見は、お前さんの方さ」

 

金属音。クナイの音だと察した瞬間、彼の身体中に痛みが走る。クナイが両腕と左肩、右足に刺さったのが見えた。

 

「銀ッッ‼︎」

 

「おのれはァァ‼︎」

 

膝をつくと、すぐに志乃が駆け寄ってくる。月詠がクナイを投げて応戦しようとしたがーー、

 

「お前は、黙ってろ」

 

月詠も肩や腕、足にクナイを投げ込まれ、血を流す。

 

「ぐっ」

 

「月詠‼︎」

 

「ツッキー‼︎」

 

蹲った月詠はクナイを引き抜き、捨てる。彼女の元に、二人を傷つけた張本人の男が歩み寄った。

 

「…………必ず来ると思っていたぞ、月詠」

 

「…………‼︎」

 

「美しくなったな、見違えるほどに。だが……その魂は、醜くなった。無残なほどに」

 

「きっ……貴様……一体……誰じゃ」

 

志乃は痛みに顔を歪めながら、男を睨む。

その口ぶりから、男は月詠を知っているようだった。しかし、月詠は彼のことを知らないらしい。新手のストーカーか?と一瞬疑問が過ったが、彼の手が目の前に伸びてきたのを見ると、それが吹き飛んだ。

一瞬のうちに首が圧迫され、絞め付けられる。強い力で体が持ち上がり、コンテナに押し付けられた。

 

「ぐほっ……」

 

「志乃ォォォ‼︎」

 

背中をぶつけたコンテナが、破壊されている。メキメキと骨まで折られそうな握力に、息ができない。

 

「ぁ……かっ、は……」

 

「随分とか細い……こんな弱い手で俺の月を欠けさせたのか」

 

「ぁ、く……」

 

男の手首を掴んで引き剥がそうとしても、体に力が入らない。涙で歪む視界に、月の光を反射したクナイとその後ろに白を見た。

 

ドッ‼︎

 

男の脇腹に、木刀の一太刀が入る。首を絞められていた力が一瞬緩み、その隙に目一杯に足を伸ばして蹴り飛ばす。ドサっと倒れ込んだ前にすぐに波模様の着流しが見えて、志乃はホッとした。

 

「ゲホゴホッ‼︎ケホッ……」

 

咳き込んだ瞬間、蹴飛ばされた男がクナイを投げる。倒れた志乃の前に立った銀時はクナイを打ち落とし、男と斬り合った。銀時は頬に切り傷が、男は額にヒビが入った。

 

「……なるほど。その手負いでその身のこなし……流石は鳳仙を倒しただけはあるな」

 

「てめーは一体何者だァァ‼︎」

 

銀時が木刀を横に振るうと、男は跳躍してかわし、月詠の前に降り立った。

 

「背中を預けられる存在……護るだけではない護ってくれる存在を初めて得て、捨てたはずの女が己は内に蘇ったか。それとも、惚れたか。あの男に」

 

ようやく息が整い、フラつく足で立ち上がり金属バットを拾う。絞められた首はまだ痛みを残していた。

男は語りながら、月詠を見る。

 

「月詠。言ったはずだ。女も捨てることができん奴に、何も護ることはできないと」

 

それまで訝しむようだった月詠の目が、大きく見開かれる。男はヒビの入った額の皮膚をビリビリと破っていく。銀時も衝撃的な光景に、男から目が離せなかった。

 

「己かわゆさに己を護る者が、どうして何かを護ることができる。私を滅し初めて公に奉ずることができる。公とは何か。幕府でも将軍でも主君でもない。己が信じ、護るべきものだ」

 

ビリビリ、ビリビリ。破られた破片が、コンクリートの地面に落ちていく。男は、月詠の元に歩み寄った。

 

「太陽のように人の上に輝けなくとも、人知れず地を照らす(おまえ)の美しさを俺だけは知っている。俺だけは見ていてやる。俺だけは……お前を護ってやる。そう……俺は護りにきたのさ。かつての美しい(おまえ)を」

 

男の顔の右半分の皮膚が、破れ落ちる。肉が露わになったその顔を見て、月詠は震える声を絞り出した。

 

「し…………師匠⁉︎」

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