銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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野生の勘は侮れない

土方が屯所に連絡を入れたことにより、近藤が隊士達を引き連れ、指定場所の廃ビルにやってきた。

目的地の廃ビルまではかなり距離があるが、敵に気づかれないように、と土方が提案したのである。敵に気づかれずかつ、志乃の警戒網の範囲内に敵を入れておく。そうすれば、こちらは向こうで何かが動いても、対処できるということだ。

 

「しかし、こんな遠くから敵の動きがわかるのか?」

 

近藤が遠くを眺めながら、疑問を呟く。一点を見つめたままの志乃が、それに答えた。

 

「平気だよ、私の警戒網は最大で500m圏内。気配を感じるだけならいいけど、何者かを判別するには10m圏内に入らないと無理なんだ」

 

「何それ、そこらのレーダーよりも性能良くない⁉︎スゴイな銀狼‼︎」

 

「‼︎……誰か来る」

 

近藤のツッコミを流すと、志乃の警戒網がとある三人を捉えた。しかし、感じたことのある気配に、志乃はすぐに警戒を解く。

一方真選組は志乃の一言に敏感に反応し、戦闘態勢をとっていた。

 

「大丈夫だよみんな。敵じゃない」

 

「えっ?」

 

その場にいる志乃以外の全員が、キョトンとして彼女を見つめる。その時、彼女が察していた気配の正体が三人現れた。

 

「あれ?志乃ちゃん?」

 

「何でお前ここにいんの?」

 

「みっ、皆さん⁉︎」

 

「万事屋⁉︎と……神山‼︎」

 

月明かりに照らされて見えたのは、銀時と新八、そして真選組一番隊隊士、神山だった。神山は沖田と同じく六角事件の生き残りで、やはり六角事件が絡んでいたという志乃の勘を確実にする充分な証拠人物となった。

 

「なるほどね。やっぱり創界党(やつら)、六角事件に関わった全員殺すつもりか」

 

「えっ⁉︎どうして嬢ちゃんがそこまで‼︎」

 

「私の勘ナメんなよ。私の勘は結野アナの天気予報と同じくらい当たるんだから。銀、冷蔵庫にプリンあるだろ。よこせ」

 

「怖っ‼︎何それもう千里眼じゃん‼︎志乃ちゃんに隠し事できないじゃん‼︎」

 

「あるのかよプリン」

 

万事屋の冷蔵庫事情まで勘で当てる彼女に、新八は戦慄する。千里眼と称されて、志乃は少し嬉しかった。

得意げになる彼女に、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、銀時が呟く。

 

「千里眼なワケねーだろ。バイト先の素直になれないお年頃男子の気持ちに全く気づけねーくせに」

 

「え?何か言った?」

 

「んにゃ何にも」

 

どうやら聞こえてなかったらしい。果たしてこれでよかったのか否か。銀時は溜息を吐いた。

その時、何かに反応したように志乃が顔を上げる。そして、反射的に走り出した。

 

「オイ待てっ!」

 

「嬢ちゃん‼︎」

 

呼び止める真選組を無視し、廃ビルの瓦礫を軽々跳び越えて、奥へ進む。

 

ついに動いた。一か所に集まる殺気を感じ取り、足を速める。時々瓦礫の影に身を隠して、敵に用心しながら進んだ。

警戒網10m圏内に突入する。ようやくここで、志乃は殺気の正体がわかった。

 

「総兄ィ……‼︎」

 

創界党の残党相手に、沖田がたった一人で戦っている。次々敵を斬り、時に斬られる。敵はまだまだ大勢いて、いくら沖田でも捌き切れないほどだ。

瓦礫一つ越えた先に、奮闘する沖田がいる。助太刀しなくては……はやる気持ちのままに、金属バットに手をかけた。その時。

 

グイッ

 

「‼︎」

 

「バカ、一人で突っ込むな‼︎」

 

首根っこを銀時に掴まれ、引き戻される。振り返ると自分を追って全員が集まっていた。

今自分達がいる場所は、創界党の背後だ。ここで奇襲を仕掛ければ一気にたたむこともできようが、その前に沖田がやられてしまうかもしれない。

どうすればいい……?

 

「志乃」

 

銀時の声に、ハッと我に帰る。銀時は志乃の背後にしゃがんだまま、指をさした。

その先には、創界党の攘夷浪士一人がいたが、彼はどうしたことか全く動かない。まるで、沖田と戦いたくないようだ。

 

「……まさか」

 

志乃は袖からクナイを取り出し、その人物に向けて投げつける。男は連中から少し離れて佇んでいるため、ここから狙い撃ちしても仲間は気づかなかった。

男はこちらを見向きもせずに、クナイを指で挟んで止める。それから志乃と視線を交換すると、彼は目を見開いた。

 

「銀さん、あの人……志乃ちゃんのクナイを止めるなんて、ただ者じゃないですよ。何者なんですか」

 

「アレか?アイツは瀧だよ」

 

「……………………

 

 

 

 

 

 

 

…………えっ?」

 

しばらくの沈黙の後、ようやく新八が声を絞り出す。

 

「瀧って……えっ?もしかして、お登勢さんとこで働いてるお瀧さん……?」

 

「正解」

 

「えええんぐうっ」

 

「師匠静かに‼︎バレる‼︎」

 

驚きのあまり、叫ぼうとした新八の口を、志乃が咄嗟に塞ぐ。

男改め変装したお瀧は、創界党の連中からさらにもう少し離れ、クナイを全員の背中に投げ込んだ。

 

ドスドスドスドスッ

 

「よし、今だ!」

 

クナイが命中したのを確認して、志乃が飛び出す。一番近くにいた浪士の首を絞め上げ、音もなく気絶させた。

続く銀時達も、創界党のリーダーであるオカマ(蒼達)にバレないように、こっそり敵をたたんでいく。敵に一人立ち向かっていた沖田がこちらに気づき、戦闘態勢を解いた。

蒼達がここぞとばかりに、後ろにいるはずの仲間達に指令を出す。

 

「ついに諦めたようね、今よチャンスだわ‼︎総員斬りかかりなさい‼︎」

 

シーン

 

アレ?と思った蒼達が振り返る。そこには、見覚えのない仲間達、つまり銀時達が立っていた。

 

「スイマセン、メンドくさいから嫌です」

 

「隊長ォォォ無事ですかァ‼︎」

 

「誰?」

 

思わぬ光景に、呆然とする蒼達。その時、傍らに立っていた仲間がまた倒れた。それを踏みつけて、青筋を立てた土方と、腕を組んだ近藤が現れる。

 

「次はどいつに斬りかかればいいんだ。局中法度に違反したあそこのバカか」

 

「始末書じゃ済まねーぞ、総悟」

 

「しっ……真選組‼︎何でこんな所に‼︎」

 

まさかの登場に、蒼達の顔は青ざめる。そして、最後に一人残っていた新参者に怒鳴りつけた。

 

「何をしてるの‼︎早くコイツらを排除……」

 

「何や、アンタまだウチを味方思てくれはるんですか。申し訳あらへんけど……」

 

新参者ーーお瀧は、ビリビリと変装用の薄い袋を破り、本当の顔を明らかにした。

 

「ウチもこっち側なんですけど」

 

「ワリーなオカマ。もう全員排除しちゃったよ〜」

 

お瀧の隣に立った志乃が、ヒラヒラと手を振って笑う。蒼達はついに逃げ出した。

 

「ひっ、ひィィ‼︎なんでっ‼︎なんでこんな事に‼︎」

 

「ホント、なんでこんな事になっちまったんだ」

 

しかし、蒼達の逃げた先には当然のごとく沖田がいる。

 

「チクッたの誰だァァァァァ‼︎」

 

あぁ、かわいそうに。悲壮な彼の絶叫を聞いた志乃は、そっと手を合わせた。

そして、その笑顔のまま、そろ〜っと逃げようとするお瀧の肩を掴む。

 

「どこ行くのタッキー?」

 

「いや〜……ちょっとトイレ」

 

「あっはっはっ、そんな嘘が通じると思う?」

 

志乃はあくまで笑顔だ。その裏に、「何でここにいるんだ」とか「何しに来てたんだ」とか色々含めていることを除けば、ただの笑顔なのだ。

しかし、その圧迫にお瀧は何も言えなかった。

 

「……思いません」

 

「だよね?じゃあ正座」

 

終わった。お瀧は気が遠くなる心地で志乃を見下ろした。

 

********

 

「ーーなるほどね」

 

お瀧から全てを洗いざらい聞いた志乃は、腕組みをしたまま沖田を見やった。

 

「その依頼ってのが、総兄ィからだったなんて」

 

沖田は怪我を負っていたため一応手当てを受けているが、土方の憤怒の表情を見る限り、死と等価の苦しみが彼を待ち受けていることだろう。

 

「ホンマすまんな、志乃。実を言うと今回コレが初めてやないんや。ホラ、前に真選組と鬼兵隊がドンパチやらかした事あったやろ?あん時、伊東の事調べてくれ言うて、総悟くんがウチに依頼してな。ほいで、志乃が狙われとるのわかったから、休暇っちゅー形で志乃を屯所に寄せ付けんように……」

 

「姐さんんんんんんんん⁉︎」

 

ドドドドドド‼︎と沖田が突進してきて、お瀧の胸倉を掴み上げる。いつになく必死そうな彼に、お瀧は笑いを堪えた。

 

「そいつは内密にって話じゃなかったんですかィ?ええ?」

 

「いやー、ウチら基本的に棟梁に隠し事は禁止やねん。もうええやろ、そろそろ面と向かってカッコつけや総悟くん」

 

「わかりやした。あーもうわかりやした。だからもう黙ってくだせェ。それ以上喋るんならその首刎ねますぜ」

 

「ちょっと待って何?何の話してんの?」

 

混乱する志乃をよそに、話を進める。お瀧はニヤニヤしながら真っ赤になる沖田を眺めていた。ていうか、沖田が照れるなんて珍しかった。

しかし、何故彼はお瀧に依頼してまで、志乃に降りかかる魔の手を払おうとしたのか。

 

「総兄ィ……もしかして……」

 

「っ‼︎」

 

「わかった‼︎私に手柄取られたくねーからだろ‼︎」

 

「…………は?」

 

シン、と辺りが静まり返る。沖田は眉をひそめ、お瀧や銀時、土方は必死に笑いを堪え、近藤と新八はドンマイという目で沖田を見つめる。それに構わず、志乃は続けた。

 

「私が多少狙われたところで捕まるほど弱いと思ってんのか?そーなんだろ!だから私を遠征に参加させず、手柄を全部てめーのモンにするつもりだったんだろ⁉︎今回だってそうだ‼︎全部自分で背負い込んで、誰にも言わないで勝手に行きやがって!てめーにばっかいいカッコはさせねーぞコノヤロー‼︎」

 

「………………」

 

「……?」

 

この瞬間、全員が同じことを思った。バカだこの娘、と。恐らくこの中で一番ショックを受けているであろう沖田が、流石に不憫に感じてきた。そこに入ってきたのが、フォローの男土方である。

 

「ま、まぁ……とにかく無事で良かったじゃねーか。なぁ志乃?」

 

「そうだね。総兄ィが一人で戦ってるの見てたけど……」

 

おっ、「カッコいい」とくるか⁉︎全員の期待の視線が志乃に集中する。

 

「今すぐ助けなきゃって思った」

 

……あぁ、前途多難だ。その場にいる誰もが、ガクッと肩を落とした。

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