無理。意味わかんない話になりました。大変申し訳ありません。
ってことでクリスマスです。季節?知るかァそんなもん!
かぶき町。普段ここは夜になるとネオンが輝き、美しい姿を見せるのだが、この日に限っては何故かやけに賑やかだ。しかも昼から。
行き交う人々は皆男女カップルで、何やら楽しげに笑って歩いている。志乃はその幸せそうな雰囲気が疑問に思えて仕方なかった。
その時、ふと誰かとぶつかってしまう。
「あっ、ごめんなさ…………げっ」
「ん?おお、志乃‼︎」
謝ろうと顔を上げた瞬間、志乃は顔をしかめる。顔を上げたそこには、年中無休でウザい兄貴分の一人、桂とその相棒エリザベスが。
「すいません失礼しました」
「ちょっと待て、どこへ行く」
「用事思い出したんで帰ります」
『逃がさんぞ』
帰らせてくれよ……え?こっちはずっとスタンバッてました?知るか‼︎
心の中で、悲壮な叫びを上げた志乃。後ろにはエリザベス、前には桂が立ちはだかる。本気で警察に通報してやろうかと思った。
チラリと桂を見てみると、何だかとても嬉しそうだし、エリザベスは相変わらずまん丸お目目でこちらを見つめてくる。嫌な予感と脱力が相まって、志乃は深い溜息を吐いた。
「……何。二秒だけ相手してやるから早く用事済ませて」
「いや、二秒って少」
「ハイ二秒以上経った。じゃあね」
「ちょっと待ってェェェェェェ‼︎」
さっさと帰ろうとする志乃の肩を掴んで、桂とエリザベスは彼女を引き止めようとする。しかし銀狼である彼女にこの程度の制止は効果がない。二人をズルズル引きずってでも、歩みを止めない。
「待て、待つんだ志乃!少しはお父さんの話を聞いてはくれないか⁉︎」
「誰がお父さんだって?いい加減にしろよ、私はてめーらみてーのに関わってるほど暇じゃねーんだよ。そもそもお前なんかの話、誰が聞いて喜ぶってんだ。どーせ新しいコスプレ衣装ゲットしたとかそんなんだろ」
「なっ⁉︎何故わかったんだ⁉︎」
「結局合ってんのかよ‼︎今の超テキトーだったんだけど‼︎」
志乃の勘がいいとかそういう問題ではないらしい。桂の行動パターンが単純すぎて、志乃には一発でわかってしまうのだ。
今日何度目かの溜息を吐くと、桂は志乃の腕を掴んだ。
「フッフッフッ。そういうことなら話は早い。志乃、早速俺についてこい!」
「ついてこいっつーかコレ攫ってるだけだろうが‼︎ふざけんな放せ‼︎誰かァ‼︎誰か助けぬぉうっ⁉︎」
外に向かって叫ぶが、志乃の小さな体は宙に浮く。エリザベスに担がれているとわかったのは、早かった。
最悪だ。今日は人生最悪の日だ。志乃の悲鳴が、空に上がった。
********
桂の隠れ家に連れ込まれた志乃は、彼に紅白のモコモコした衣装を着せられていた。
所謂、サンタコスである。ちなみに肩や腕は完全に露出しているタイプのもの。
「志乃ォォ‼︎可愛いぞォォォ‼︎」
「……何なの、コレ」
「よくぞ聞いてくれたな……あ、ちょっと待て。今写真を撮る」
「知るかァァァ‼︎」
志乃は丈の短いスカートにも関わらず、桂の腹にローリングソバットを繰り出した。ヒールの高いブーツで蹴ったため、かなり痛いだろう。そんな足で、さらに桂を蹴りつける。
周りの桂の仲間達に咎められてもお構いなしだ。
「ふざけんなよクソ兄貴‼︎こちとら毎回毎回意味わかんねーコスプレに付き合わされて散々なんだよ!私をいくつのガキだと思ってんだ!12歳だぞ‼︎漫画のタイトルにだってなれるんだぞ‼︎もう思春期なんだよ‼︎昔と一緒にすんじゃねーよ‼︎」
「ぐふっ……そ、そう照れるな志乃……」
「照れてない。嫌なの。そんなのもわかんねーなら崖から太平洋に落っこちて死んでこい。もしくは日本海かオホーツク海でも可だぞ」
「あっ、今の蔑むみたいな感じの視線がいいな。将来はドS女王様か……いや、でもあんまりそんな汚れた世界は……」
「聞いてる?ねぇ聞いてる?あ、聞いてない?そーかそーか。私が介錯してやるからそこに直れや」
志乃の苛立ちとストレスはピークに達し、爆発寸前だった。笑顔でパチった刀を手にしているし、何より目が怖い。
というか、サンタコスに日本刀。これほど相性の悪い組み合わせはない。
しかし、次の瞬間、桂の一言によって志乃の怒りはさっぱり消える。
「これを時雪が見たら、可愛いと喜んでくれるだろうな」
「えっ⁉︎」
刀を落とし、目を見開いた志乃は、頬を少し赤らめていた。もじもじと指先で裾を弄り、そわそわし始める。先程殺気を放っていたとは思えない豹変っぷりだ。
「……よ、喜んで……くれるかな……」
「あぁ。きっと喜んでくれるぞ」
「ほ、本当⁉︎」
ほんのりと頬を染め、まだ見ぬ期待に胸を高鳴らせる。長年育ててきた(というか実際銀時の方が世話歴は長い)妹に心から惚れた男ができたことは嬉しかったが、まだ幼い彼女が巣立っていくようで寂しさも残る。
「志乃……」
「何?」
「結婚式には必ず呼んでくれよ」
「気が早い。私まだ12だっつってんだろ」
目頭を押さえて涙を堪えるバカ兄貴にツッコミを入れた瞬間、障子がパン!と勢いよく開かれる。
「かーつらァァァァ‼︎」
バズーカ片手に現れたのは、沖田と彼の部隊。しかし、彼らは志乃の姿を見るなり固まった。
「……えっ?何やってんの嬢ちゃん。何その格好」
「
「フッフッフッ、どうだ真選組‼︎我が妹の可愛さを前に何もできんだろう‼︎」
「お前ちょっと黙ってろ」
「いだだだだだだ⁉︎」
何でてめーが得意げなんだ!というツッコミを含めて、桂に関節技をかける志乃。沖田が手錠を取り出すのを横目に、桂を逃がすまいとさらに力を込める。
しかし。
コロッ
畳の上に転がる機械的な球体に、志乃はハッと固まった。
脳内駆け巡るのは、危険信号。
志乃は咄嗟に桂から手を離し、サッカーボールのごとく、球体を蹴っ飛ばした。球体は窓を割って宙を舞い、爆発した。
やはりあれは、いつぞやの時限爆弾だった。
あれとの関わりは本当にロクなことを呼び込まない。あの兄には災厄の怨霊でも取り憑いているのだろうか。いや、もう既にバカの怨霊が憑いてるからムダか……。
兎にも角にも志乃の活躍で、爆発は防がれた。
しかし、桂とエリザベス、その仲間達が皆揃って姿を消している。残ったのは、志乃と真選組一番隊のみとなってしまった。
形容しがたい、しかし嫌な部類に入るオーラを醸し出した沖田が、黙って手錠を志乃の両手首にかけた。
********
「土方さん、聖なる夜に子供の家に不法侵入する不届き者を逮捕してきやした」
「要するにサボってただけだろ‼︎てめーら揃って何してんだ‼︎」
クリスマスイブだというのに相も変わらずむさ苦しい野郎共の巣窟、所謂真選組屯所に連行された志乃。
沖田は不法侵入者を逮捕したと報告したが、彼が追っていたのはあくまでも桂である。職務を全うしない部下と、サンタコスをして何故か沖田に手錠をかけられている志乃に土方は怒鳴った。
「いや、不当逮捕なんだって。いやマジで。私の仕事は子供達にプレゼントを配ることであって……」
「お前はいつからサンタになったんだ!」
「サンタなんてホントは実在しないんだよトシ兄ィ。だってさ、私サンタなんて一度も来たことないんだもん」
志乃が記憶している限り、このクリスマスにサンタがプレゼントをくれたなんて思い出はない。
そもそも志乃は幼少期、当時攘夷戦争に参加していた銀時達に連れられ、戦場で暮らしていた。と言っても常に拠点に置かれ、実際に戦場で戦ったわけではない。
しかし、今思えば普通の幼少期を過ごしていた、とは言いがたかった。
手錠の鍵をピッキングで開けた志乃は、さっさと屯所から去ろうとする。
今日は早く帰らねば。早く帰って、時雪にこの格好を見てもらいたかった。
そして願わくば、「可愛い」と言ってほしい。知り合いの大人に言われるのと、惚れた男に言われるのとでは、嬉しさが違う。
「そいじゃまあ、そういうことで」
「おい待てどこに行きやがる。てめェも始末書な」
「私今日非番だもん」
「桂を逃がしたなら関係ねぇよ」
「あ、大丈夫。今からでも電話すればこっち来ると思うけど」
「お前らの関係一体どうなってんだよ!」
土方にツッコミを入れられても、志乃は意に介さない。そんなことは些末な事に過ぎないのだ。何しろ早く、時雪の元へ行かなくてはならないのだから。
志乃は足取り軽く、屯所を出て行った。
********
しかし、サンタコスで街を歩く少女の姿は、いやでも目立った。これが見ず知らずの少女ならば生温かい目で見られていただろうが、志乃の場合はかぶき町のほとんどの住人が彼女を知っているため、特に大問題にはならなかった。
「あっ志乃ちゃん!」
「ん?あ、鈴姉ェ」
ルンルン気分で歩く彼女に声をかけたのは、団子屋の娘で橘の彼女である鈴だった。
「やっほ、久しぶり。最近どう?たっちーとは」
「え、えへへ……実は今日、クリスマスデートしないか、って」
「マジでか!」
いつの間にやら、デートまで進んでいる。やっぱ相思相愛カップルは違うな。
……あれ?自分達はデートなんてしたっけ?
ふと、志乃は思い返してしまった。
ブツブツと独り言を呟く中、鈴が彼女の格好に話題を向ける。
「そういえば志乃ちゃん、その格好どうしたの?」
「あ、これ?知り合いに貰ったんだ。今日はクリスマスだから、って……」
「へぇ、素敵ね」
「そう?」
ふふ、と上品に笑う鈴。やっぱこういう人だから、橘は彼女に惚れたのだなぁ、としみじみ思う。
……ならば、自分は?時雪は、自分のどこに惚れて付き合ってくれたのだろう。
こんな暗い考えをしてしまうのは、寒い季節だからと信じたい。
「志乃」
「あ、たっちー」
「橘さん!」
鈴は橘の姿を見るなり、彼の元へ駆け寄る。それから二人仲睦まじく、手を繋いで大通りの方へ歩いていった。
「……………………」
その姿が見えなくなるまで見送り、それから志乃は自宅へと帰っていった。
********
「ただいま」
ガラ、と扉を開けて、玄関で靴を脱ぐ。家の中は暖房をつけているため、とても温かかった。奥のキッチンからいい匂いがして、思わず腹の虫が鳴いた。
「ただいま〜……」
「あ、おかえり志乃……って、どうしたのその格好」
やはり台所に立っていた時雪が、志乃に気づいて振り返る。そのサンタコスを見るなり、目を丸くした。
「ヅラ兄ィから貰った」
「……ああ、なるほど」
桂が志乃にコスプレ衣装を贈ったり直接着せたりするのは日常茶飯事なので、時雪も彼女の一言で全て察した。
しかし、志乃はぷくっと頬を膨らませる。
「もう、何か言うことないの?」
「え?」
「……ほら」
「いや……え?」
志乃の頬は、さらに膨らむばかり。不機嫌オーラは増し、ついにそっぽを向いて部屋に向かっていった。
「もういい!知らない!」
「へっ⁉︎ちょ、志乃⁉︎」
「トッキーのバーカ!」
ドスドスと足音を立てて部屋へ歩いていく志乃を、時雪は呆然と見ることしかできなかった。
********
自室にて。志乃は布団の上で枕に顔を埋めてゴロゴロしていた。
せっかく着てみたサンタコスなのに。時雪に「可愛い」と言ってほしかっただけなのに。時雪は可愛いどころか何も言ってくれなかった。
それが不満だったとはいえ、時雪にかなり冷たい態度をとってしまった。嫌われたらどうしよう。そればかり考えて、志乃は布団の上で転がっていた。
コンコン
襖が叩かれて、小さく開く。隙間から、時雪が覗いていた。
「志乃」
視線を感じても、顔は絶対に上げない。変なところで意地を張ってしまって、よくないとは思いつつも素直になれなかった。
「…………」
時雪が襖を開けて、部屋に入ってくる。見なくても気配でわかる。こんな女の子、やっぱり嫌か。マイナス思考は止まらず、溜息を吐いた。
その時。
ピトッ
「ぅひゃうっ⁉︎」
冷たい感触が、うなじに当たる。思わずビクリと体が震えた。
すぐに起き上がって振り返ると、時雪はクスクスと笑っていた。その手には、小さな氷のうが。
「な……何してんの?」
「いや、ちょっとイタズラしようと思って」
「だからってこの季節で氷のうなんて使う⁉︎ヒドいよ!」
「ごめんごめん」
何なのだ本当に。うう、と唸っていると。
「志乃がとても可愛いからつい」
「っ⁉︎」
一瞬。その一言で、時雪は志乃の心を撃ち抜いた。
不意打ちだ。彼女にとってあまりにも酷な一撃だ。時雪はその笑顔と「可愛い」の一言で、志乃を一発で仕留めたのだ。
志乃は一気にりんごのように赤くなり、時雪に抱きついた。
「わっ」
「トッキー大好き‼︎もう結婚して‼︎」
「はい⁉︎」
唐突なプロポーズに、時雪まで頬を染める。そんな彼に、志乃もとどめの一撃を放った。
「トッキー、今日はクリスマスなんだよね?クリスマスプレゼントは私だよ!」
「はっ⁉︎ちょ、ちょっと⁉︎」
「……嫌?」
「い…………嫌じゃ、ない……けど」
「もう大好き‼︎結婚してっ‼︎」
「まさかのプロポーズ第二弾⁉︎」
勢いよく抱きついて、時雪の唇に自身のものを重ねる。
外には、雪が降り積もっていた。
次回、みんなから年賀状が届きます。