銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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病院で走っちゃいけません

今日も仕事のない銀時は、家でジャンプを読みながらぐーたらしていた。新八は家の掃除洗濯、神楽は銀時同様ゴロゴロしている。

その時、玄関のインターホンが鳴った。

 

「新八、出てこい」

 

「ハイハイわかりましたよ」

 

あっさりと新八をパシる銀時。いつものことなのだが、やはり溜息も吐きたくなる。

よほど急いでいるのか、もう一度インターホンが鳴った。

 

「はーい、今行きます!」

 

小走りで廊下を進み、扉を開ける。

そこには、肩で息をした時雪がいた。

 

「時雪さん?」

 

「新八くんっ‼︎銀時さんいないかい?大変なんだ、志乃がっ……‼︎」

 

「志乃ちゃん?志乃ちゃんがどうかしたんですか?」

 

時雪のただならぬ表情に、新八も事の大きさを察する。新八は「とにかく上がってください」と彼を落ち着かせようと中に入れた。

時雪も一旦心を落ち着け、客間兼リビングに向かう。銀時はジャンプから目をこちらへと向けていた。

 

「時雪さん、志乃ちゃんに何かあったんですか?」

 

「さっき、真選組から連絡が入ったんです……志乃が辻斬りに襲われたって」

 

「えっ⁉︎」

 

「志乃ちゃんが⁉︎」

 

時雪の口から告げられた言葉に、新八と神楽が思わず身を乗り出す。

銀時は声こそ上げなかったものの、眉を寄せて訝しげな表情で時雪を見た。

 

「たったそれだけで何で連絡が入るんだよ。アイツ銀狼だぞ?ヘタしたらそこら辺の浪士より強いんだぞ?」

 

「そうなんですけど……話によると、襲われて退治したそうなんですが」

 

「そら見ろ」と言うように、銀時が頬杖をつく。

再びジャンプに目を落とそうとした瞬間、時雪の口からとんでもない発言が飛び出る。

 

「その直後に急に体が痙攣して、血を吐いたって……」

 

「‼︎」

 

今度こそ、銀時は目を見開いた。

すぐに彼の体は動いていて、時雪の両肩を乱暴に掴む。

 

「志乃は今どこだ‼︎」

 

「び、病院です!大江戸病院……」

 

「銀ちゃん‼︎」

 

時雪から志乃の居場所を聞き出すと、すぐに彼を放して走り出す。神楽が呼び止めるのも届かず、走って家を出て行った。

残された三人は、呆然として銀時を見送っていた。その中で我に返った新八が、声を上げる。

 

「とにかく、僕達も行こう‼︎」

 

「わかったネ!定春!行くアルヨ!」

 

「わんっ‼︎」

 

時雪を引っ張って、新八達も外に出る。定員ギリギリで定春の背中に乗り、銀時を追いかけて走り出した。

 

********

 

大江戸病院に到着した銀時は、受付で志乃の居場所を聞き出してから、廊下を走り回った。ここが病院だというのに、御構い無し。

銀時が向かったのは、集中治療室だ。窓の前に見覚えのある黒い背中が見えて、カッと血が上った。

 

「テメェッ‼︎」

 

ガッと土方の胸倉を乱暴に掴み上げ、引っ張る。銀時はギリッと奥歯を噛み締めて、土方を睨みつける。震える声で、尋ねた。

 

「アイツに何があった。何で、こんなことに……」

 

「……隊士の話によりゃ、辻斬りに襲われたところを返り討ちにした瞬間、いきなり苦しみ出したらしい。辻斬りを倒した時、敵の剣を素手で受け止めたってとこからすると……おそらくその剣に毒か何か仕込んでいたんだろう」

 

「っ……‼︎」

 

銀時は土方の胸倉から手を放し、窓の向こうで眠っている志乃を見やる。

呼吸器をつけられ、死んだように目を閉じている彼女を見て、拳を強く握りしめた。

 

「……誰がやった」

 

「犯人はすぐに俺達が捕まえた。今取り調べをしているが、口を閉ざしたままらしい。ま、一連の流れを全て隊士が目撃してる時点で、そいつの牢屋行きは確実だがな」

 

「そいつはどこにいる」

 

「言うわけねーだろ。そんな殺気を隠しもしねェ奴に」

 

土方は銀時のただならぬオーラに、少し恐れを抱いていた。

いつもはちゃらんぽらんで志乃さえも持て余している銀時だが、その実力は本物だ。その怒りをもって犯人の元へ行けば、確実に殺してしまいそうだった。

その時、か細い声が窓の中から聞こえてきた。

 

「ぎ……ん……」

 

「‼︎」

 

「志乃ッ‼︎」

 

途切れ途切れに、銀時の名前を呼んだ志乃。

薄らぼんやりした視界で、窓に張り付いてこちらを見つめる銀時と土方の姿を見た。

 

ーー二人ともひどい顔。

 

そんなに心配してくれたのか。そう思うと、嬉しい反面胸が苦しくなる。

声にはならなかったが、志乃は二人に微笑んで見せた。それに銀時は心なしか笑顔を返し、土方も口元に小さく笑みをこぼしていた。

 

********

 

志乃が目を覚ましたと聞いて、近藤と沖田、後からやってきた新八、神楽、時雪は医者に呼ばれ、彼女の容体を聞いていた。志乃はなんとか命の危機を脱し、現在は一般の病棟に移り、体を休めている。

 

「検査をしたところ、掌の切り傷から毒が侵入しているのがわかりました。おそらくこれは、攘夷戦争時代に開発された毒薬・『黒曜石』によるものですね」

 

「黒曜石?」

 

新八が復唱すると、医者は頷く。

 

「『黒曜石』は一度体内に入ると、その肌を黒く染めていき、体の中を侵食していきます。黒くなった箇所はまるで石のように動かなくなり、最終的には全身が固まり死亡……その死に様がまるで黒曜石で作られた人形のようであることから、そう呼ばれています。あまりにも危険なため、薬は攘夷戦争終結後、資料も全て破棄され、現在は誰も作ることはできないとされていたのですが……」

 

「……噂にゃ聞いたことはありやしたが……まさかまだ残っていたとはねィ」

 

沖田がボソリと呟く。

かつて攘夷戦争に参加していた銀時も、噂で聞いた程度だった。

そもそもその『黒曜石』は実在すら怪しかった伝説の毒薬だ。それがまさかこんな形で、しかも志乃が侵されるとは……。

神楽が不安を隠せない眼で、医者に問う。

 

「ねぇ、志乃ちゃん死なないヨネ?どうやったら志乃ちゃん助かるアルか?」

 

「『黒曜石』の毒は、『白夜』という解毒剤ですぐに抜けます。ですが、『白夜』の調合は難しく、完成品が現在複数個残っている状態です。タイムリミットは、24時間。その間に解毒剤を彼女に服用させなくては……正直に申しますと、彼女の命は助かりません」

 

「そんな……‼︎」

 

「その『白夜』ってのはどこにあるんだ?」

 

時雪が絶望に打ち震える隣で、すかさず銀時が尋ねる。

要はその『白夜』があれば万事解決するのだ。それさえあれば彼女は救われて、またいつも通りの日常に帰れる。

医者は答えようと口を開いたが、次の瞬間、ふと彼の目からハイライトが消えた。その変化に、銀時や真選組メンバーが鋭く反応する。

 

「オイ、どうした?」

 

近藤が一応警戒しながら、それ以降押し黙ってしまった医者の肩に手を伸ばす。

すると、医者は突如口角を上げた。

くつくつと怪しげな笑みを刻み、銀時達を見る。

 

「どこにもありませんよ……あったとしても、あんたらにそんな簡単に渡せません。何せ、"俺"が苦労して手に入れた代物なんですから」

 

「なっ……⁉︎」

 

「どういう意味ネ‼︎」

 

声を荒げて、神楽が医者の白衣の襟に掴みかかる。

しかし医者はそんな彼女の反応も愉快そうに笑って見つめるだけだ。

 

「あら、怒ってるんですか?一つ言わせてもらいますけど、君達がすべきことは俺に突っかかることじゃない。早く『白夜』を見つけて霧島志乃を助けることでしょう?今やるべきことを見誤っては、大切なものを失いますよ」

 

「お前ッ……‼︎」

 

「待って神楽ちゃん‼︎」

 

殴ろうと神楽が拳を振り上げた瞬間、制止したのは時雪だった。

神楽の手を放し、医者をキッと睨みつける。

 

「貴方、先程まで俺達と話していたお医者さんじゃありません。そうですよね?」

 

「……………………」

 

「えっ?」

 

「本当アルか、トッキー?」

 

背後で新八と神楽が彼に問うと、時雪はこちらを振り返らずに頷いた。

 

「うん。さっきと全然別人なんだ。前に八雲さんが見せてくれたことがあるんだけど……もしかして、他の誰かが憑依してるのかもしれない」

 

「ひ、憑依⁉︎そんなことできるんですか八雲さん!どっちかっていうとそっちに驚きなんですけど!」

 

医者は時雪の言葉に黙っていたが、不意に爽やかに微笑み、彼に拍手を送った。

 

「いやはや、流石は茂野時雪くん!まさかものの数分で俺が憑依したと見破るとは!銀狼の彼氏であることはあるね」

 

「その態度……見覚えがあります。貴方もしかして……」

 

「ピンポーン、大ー正ー解‼︎お見事〜!」

 

ここにいる全員から敵意を向けられているにも関わらず、飄々とした態度を取り続ける彼は、仰々しく腕を振り、挨拶をした。

 

「お久しぶりです皆さん。忘れてしまった読者の皆さんのために、改めて自己紹介しますね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー俺の名前は杉浦大輔。好きなものはレタスです。どーぞよろしくお願いしまーっす♪」

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