銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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決闘は一対一で

江戸の中心には、文明の発達が目に見えてわかる巨大なターミナルがある。

その周辺には多くの天人や地球人が行き交っているだけでなく、その人々が利用する施設が数多く存在した。

もちろん中にはもうほとんど使用されない場所も残っている。

その内最も広い面積を誇る場所ーーターミナル付近にある西倉庫824番。

かつて天人が来たばかりの頃は、貿易した物品などを置いていたが、なにぶん建物の骨組みが古いため、すぐに使われなくなった。

 

夕日が射し込む倉庫の中で、無造作に置かれた材木や瓦礫の上に、刀を抱いて寝転ぶ一人の男。彼はずっと、ある少女を待ち続けていた。

そんな彼に、近づく気配が一つ。男は体を起こして、それを見た。

流れるような美しい銀髪を紅色の紐で括り、鋭く光る赤い目はまるで血のついたナイフのよう。人形のように整った顔立ちはまだ幼さを残している。

お気に入りの藤色の着流しを纏い、古ぼけた赤い紐が結ばれた小さな右手は、黒く染まっていた。

その少女を見て、男は口角を上げる。真っ直ぐ見つめてくるその視線が、顔立ちが、彼にとって何よりも大切だった(ひと)に似ていた。

 

「来たか、霧島志乃」

 

「遅れて悪かったね、杉浦大輔」

 

少女ーー志乃は男ーー杉浦を見上げて、さらに視線を鋭く尖らせた。殺気を放つ彼女を宥めるように、杉浦は笑う。

 

「そんな顔すんなよ。確かに、お前にしたことは悪かったと思ってる。慰謝料はちゃんと払うから、な?」

 

「んなもんいらねーよ」

 

「あれ?そうなの?でも……その右腕じゃあ、もう使い物にならないんじゃない?」

 

杉浦が、志乃の黒く固まった右腕を指さす。彼女の右腕は既に肘まで黒く染まっており、漆黒の輝きを放っていた。その様はまさに、黒曜石。それを見た杉浦の笑みは、さらに深くなる。

 

「使い物にならねーかどうかはやってみなきゃわかんねーよ。確かにもう右手は開けねーが、てめぇをぶん殴るくれェはできらァ」

 

「おお怖い怖い。あ……そうそう志乃ちゃん。よくあの暗号が解けたね。すごいや」

 

「ケッ!どうせ毛ほども思ってねーだろ、んな事」

 

「あははは、よくご存じで」

 

杉浦が銀時達に渡した暗号。志乃はそれを小春からリークしてもらい、それを読んだのだ。

志乃は「鬼刃」をビシッと杉浦に突きつけた。

 

「あんな子供騙しで私が騙せると思うなよ……刹乃‼︎」

 

「!……へぇ」

 

杉浦はまさか彼女の口から、自分の本名が出るとは予想外だった。しかし、それも一興。すぐに余裕のある笑顔に戻る。

 

「なんだ、知ってたんだ。俺の正体。おっかしいなァ、幕府中央暗部にまで俺の存在は隠されていたはずなのに。……ああ、なるほど」

 

志乃の強い視線を受けて、杉浦は全てを理解した。

 

「高杉に春雨の母艦にでも連れてってもらったのかな?ったく、君も随分無茶するようになって」

 

「………………………」

 

「……まぁ、銀狼(おれたち)にくだらない言葉なんて要らないよね」

 

杉浦は瓦礫からトンと飛び降り、刀の柄に手を当てがった。志乃も杉浦が抜刀したのを見て、「鬼刃」を構える。

 

「じゃあ、やろうか」

 

ザッ

 

静かな倉庫内に、砂利を踏みしめる二人の足音だけが響く。

そして次の瞬間、弾けた弓のように、同時に動き出した。

 

********

 

その頃。志乃が抜け出した病室では、新八と神楽がベッドに倒れていた時雪を起こしていた。

 

「トッキー!しっかりするネ!」

 

「起きてください時雪さん!時雪さん!」

 

新八と神楽は、眠っているように気絶する時雪を揺さぶる。その時、彼はぽっかりと目を開けた。

 

「時雪さん!」

 

「トッキー!」

 

「ん……ここは…………アレ?志乃……」

 

ボソボソと呟き、気を失うまでのことを思い出す。そうだ、志乃が突然病室を出て行ってーー‼︎

時雪は勢いよく上体を起こし、キョロキョロと辺りを見渡す。どこにも、愛しい彼女の姿は見当たらない。

 

「志乃は⁉︎一体どこに⁉︎」

 

「落ち着いてください!僕達がここに来た時にはもう……」

 

「きっと志乃ちゃん、一人で行っちゃったネ。何でッ……‼︎」

 

焦りの色を見せる神楽。一人病室を出ようとする彼女の肩を掴んだのは、時雪だった。

 

「トッキー……?」

 

「……わかったよ、俺。志乃の居場所」

 

「えっ⁉︎」

 

「どういうことですか、時雪さん?」

 

新八が尋ねるのも無視して、杉浦の残したメモを片手に、病室に置いて合ったメモ帳を開く。そこに文字を書いていった。

新八と神楽が、時雪の背後からメモを覗き込む。五十音表に、1から順番に番号をうっていった。

 

「……⁉︎もしかしてコレって!」

 

その様を眺めていた新八も、ひらめく。神楽だけは首を傾げていて、どういうことかとメモとにらめっこをしていた。

ようやく全部書き上げた時雪が、メモを二枚並べて見せる。

あの暗号は、意味のない数字の羅列と思われるが、一度紙に現代ひらがなを全て書き起こし、番号をつければ簡単にわかるのである。

 

「この暗号は、"ゐ"や"ゑ"を除く全てのひらがなに順番に番号をつけて解読するんだ。例えば"あ"なら1、"か"なら6っていう風に。で、この数字の文章に当てはめたら……」

 

「えーと、824番目の文字はないからそのままにして……ってことは……」

 

16 ー 32 21 41 17 6 8 25 15 3 10 22 12 25 824 62 46

 

た ー み な る ち か く の そ う こ に し の 824 ば ん

 

「答えは『ターミナル近くの倉庫 西の824番』アルか!」

 

ようやく神楽もわかったらしく、時雪を見上げる。頷いたのを見て、新八は正解を書いたメモを手にした。

 

「すぐに銀さんに知らせましょう!」

 

「俺も真選組の人達に連絡をつける!急ごう!」

 

それぞれ分かれて銀時達に知らせようと、三人は病室を飛び出した。

 

********

 

ーーギィンッ‼︎

 

白刃同士がぶつかり合い、耳障りな金属音を倉庫に響かせる。先に仕掛けたのは杉浦だった。

しなやかな受け流しを駆使し、志乃の首を狙う。志乃は迫る刀に一瞥を投げ、体を反らして躱すとすぐに体勢を立て直し連撃を繰り出す。志乃の太刀が杉浦の頬を掠め、さらに彼女の尋常でない威力の突きに吹っ飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

さらにダメ押しをしてくる志乃から離れ、柄を握り直す。

こうなることは予めわかっていた。今の刹乃(おれ)は、銀狼(しの)には敵わないと。

 

そもそも、銀狼が細身に関わらず何故バカげた破壊力を併せ持っているのか。それは彼らの精神と肉体の一致にあった。

心と体が一つになることで、彼らは人間よりも遥かに強いとされてきたが、実際は違う。脳から発される命令をより素早く確実に伝達することで可能となる、あの鋭敏さ。それを実現できるのは、銀狼の脳と身体のみ。

そのうち(ひとつ)しか持たない杉浦(せつの)が、脳と身体(ふたつ)を持ち合わせる志乃に勝てるはずがないのだ。無理に身体に命令を与えれば、杉浦(にんげん)の身体は一瞬で悲鳴を上げてしまう。

 

そんな事を考える暇もなく、すぐに志乃が追撃してくる。

突き出された太刀をいなし、体を反転させ蹴りを放つ。脇腹に見事ヒットしたのを見た杉浦は、刀を振り上げた。

 

「!」

 

下ろした刀は、志乃の柔肌を切り裂くはずだった。だが、肉を断つ手応えが全くない。

杉浦はすぐにバッと振り返ると、刀を逆手に持って背後から迫る斬撃を受け止めた。

しかし。

 

バキィンッ‼︎

 

「ーーッ!」

 

銀色に輝く刀身が、粉々に粉砕される。なんて柔な……いや、相手の力が強すぎるのか。舌打ちした杉浦は、バックステップで志乃から離れる。

 

「どうした?まさかこんなことまでしといて、私にあっさり殺られるてめーじゃあるまい」

 

「……お褒めの言葉、どうも」

 

冗談の一切通じない、本気モードの志乃。ピンと張り詰めた神経は、まるで弓の弦の如し。杉浦は口角を上げつつも、内心どうすべきかと相手の様子を伺っていた。

 

ーーもう、この手しかねェか……。

 

杉浦は折れた刀の柄を咥えて、両手で印を結んだ。

何か仕掛けてくる、と本能的に察した志乃は、足元に魔法陣のようなものが輝いて出現した。

志乃がマズイと察した時には既に遅く、黒く染まった手に激痛が走った。

 

「ぅあっ……があああああッッ‼︎」

 

まるで体の内側が焼き切れるような、そんな痛み。思わず志乃は悲鳴を上げ、その場に膝をついた。

痛みは引かない。ずっと同じほどの衝撃を志乃に与え続け、彼女を苦しんでいた。おまけに、じわじわと石化が進んでいる。そんなことも気づけないほど、志乃は悶え苦しんだ。

 

「ハハッ……流石の霧島志乃も、呪術には敵わねえらしいな」

 

「ぁ、あ……ぐ、がぁ……!」

 

ニタリと怪しげな笑みを刻んで、杉浦は刀身の折れた刀を振り上げる。

マズい。マズい。逃げろ。逃げろ!脳が必死に志乃に警告するが、痛みに支配された体は全く動けない。

刀が空を切る音が聞こえた瞬間、志乃は仰向けに寝転がり、渾身の力で杉浦の腹を蹴っ飛ばした。

 

「がはっ……!」

 

「らぁぁっ‼︎」

 

雄叫びを上げながら立ち上がり、追加で石化した右拳を顎に叩きつける。しかしその拳に杉浦の折れた剣が突き刺さった。

 

「⁉︎」

 

ブシュッ、と鮮血が宙に舞い、床に赤の斑点を生み出す。

 

「いくら石化してるっつっても、テメェの肉体はそのままなんだよ」

 

「チッ……」

 

固まった拳から、止めどなく血を流している。それを眺めていた志乃は、太刀を握りしめて杉浦に向けた。

 

「なるほど。銀狼の私にゃ力で押し勝てないと悟ったか。懸命な判断だ」

 

「懸命?どの口が俺のことを上から目線で言ってんだ。その懸命な判断で、命落としかけてたってのによ」

 

「ふん。まぁでも力で私に勝てないから、呪術を学んだんだろう?」

 

「学んだ?違うね、元から使えたんだ。この身体がな」

 

「……?」

 

志乃は一瞬眉をひそめたが、すぐに杉浦の言葉を理解し、納得する。

 

「そうか……そうだったな。あんたは脳は霧島刹乃でも、身体は杉浦大輔。その身体が呪術者か何かの類いを生業とする奴だった……ってところか」

 

「ご名答。流石は志乃」

 

「アホか。こんな問題、猿でもわかる。バカにすんのも大概にしろよ………………刹乃ォォォォ‼︎」

 

再び二人は同時に駆け出す。

杉浦には、向かってくる少女の姿が、かつて愛した女と重なって見えた。




ということで、答えは『ターミナル近くの倉庫 西の824番』でした。


解読方法がよくわからなかったという方に、今一度説明します。

実はこれ、ひらがな(や行はや・ゆ・よ、わ行はわ・をのみ。濁音等も含む)全てに、一から番号をふっていく。これだけでもう解読できたようなもんなんです。これを、問題の数字に当てはめて読むと、答えの文章が出てくると思います。
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