銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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過ちは悔やむのではなく受け入れるもの

「な……⁉︎」

 

「何だ貴様、その目はァァァァ⁉︎」

 

驚きのあまり、志乃も男達も上ずった声しか上がらない。目の前の光景が、ひたすら信じられなかった。

まさか、あの杉浦が、刀で体を貫かれてもなお、立ち上がるなんて。

杉浦自身はただの人間だ。しかも、かなり弱い方の。

なのに何故か、腹から血を流し、貫通した刀を抜け取って立っている。

 

「杉浦……お前……」

 

「……よぉ。よく言ってくれたもんだな。お前が、刹乃(オレ)を殺すなんざ」

 

「ハッ……ぬかしやがる。そのザマじゃあ、アンタの命が尽きる方が早いんじゃねーの?」

 

「ああ……。確かに、さっきの俺はお前にゃ全く敵わなかった。だが、今の俺は違うぜ」

 

「アレ?なんか中二病に目覚め始めた?高杉の中二病が伝染(うつ)った?」

 

「中二病は伝染病じゃねーよ」

 

少しカッコつけたように刀を構える杉浦の背中に、志乃が冷めた視線を向ける。

しかし、敵さん達はもちろん甘やかしてくれるはずがないわけで。

 

「杉浦ァァァァ‼︎テメェ何故生きてやがるゥゥゥ‼︎」

 

「うるせーな。傷に響くから黙ってろ」

 

「おのれ、ならばもう一度殺してやる‼︎死ねェェェェ‼︎」

 

「杉浦っ‼︎」

 

刀を抜いて、男達がこちらへ駆け寄ってくる。杉浦を護ろうと懐に手を伸ばした瞬間ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーードォウッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

風音と、人が斬られた音が重なる。

返り血を浴びながら、杉浦が突進してくる男達を斬り飛ばしていた。

 

「えっ……?」

 

「なっ、何だとォォ⁉︎」

 

「んだよ、そんなに俺が強いのがおかしいか?」

 

杉浦の周りに倒れる、死体の山。志乃でさえ、この数を捌けるかどうか。

しかし、何故いきなりこんなに強くなったのか。チートコマンドを使った?スーパースターを取った?んなわけあるかいゲームじゃないんだから。

 

「お、おいお前……その赤い目……まさか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……メ◯クシ団の一員か?」

 

「違ェェェェよ‼︎」

 

まさかこんな所で会えるとは、とちょっぴり感動に浸っていると、杉浦がツッコミと共に首元に何かを投げつけてきた。

それは頸動脈に確かに突き刺さり、志乃はそのまま仰向けに倒れた。

 

「……えっ?あれっ?」

 

ぐったりとダウンした志乃は、大の字に寝転びながら、ピクリともしない。

あれっ?もしかしてコレ……ガチで殺しちゃった?

静寂が辺りを支配する中、杉浦は男達を振り返った。

 

「さぁ、かかってきやがれ!」

 

「じゃねェェェェェェェェ‼︎ちょっと待てェェお前あのガキほっとくつもりかァ‼︎」

 

自身の大失態(犯罪)見て見ぬ振り(スルー)して戦闘態勢(シリアスモード)に入ろうとする杉浦に、志乃と彼を除く全員からツッコミが入った。

 

「何だてめーら。何しに来たのかはもうわかったからいちいち言わねーが、志乃(コイツ)はどーなろうがどうでもよかったんだろ。まぁ、俺がそんなことさせねーけどな」

 

杉浦の前髪の奥に隠れる右目が、赤く輝く。

 

「……アイツは、こんな俺を励ましてくれたんだ。俺の私怨も全部受け止めて、俺を殺すと言った。それに、俺の尊い姉上の血を引く銀狼(一人娘)なんだ。だから、アイツは……………………霧島志乃は、絶対に死なせねえ。俺を殺すまではな」

 

その赤い目から、血がゆっくりと涙のように流れてくる。それでも杉浦は、勝気な笑顔を浮かべたまま。浪士達を真っ直ぐ見つめた。

 

「だから、志乃。あと……は…………頼ん、だ……ぜ……………………」

 

声が掠れ、ついに杉浦にも限界が訪れる。膝から崩れ落ちた杉浦は、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ。任されたぜ」

 

不意に体が固定される。腰にまわされた左手が、とても温かく感じた。

 

「…………刹乃」

 

「……………………志乃……!」

 

両足をしっかり地面につけて立つ志乃は、肩で息をする杉浦を抱えていた。力の入らない杉浦の腕を右手(・・)で引っ張り、自身の肩にまわす。首に刺さるそれを見て、杉浦もフッと笑った。

 

「……どうやら、ようやく『白夜』が効いたらしいな」

 

「やっぱお前が持ってたのかよ。ま、おかげで助かったけどな」

 

志乃の首元には、小さい注射器の針が仕込まれたものが刺さっていた。それを抜き取り、床に投げ捨てる。

解毒剤「白夜」は即効性らしく、固まっていた志乃の右半身はすぐに元に戻った。「鬼刃」を拾い上げ、杉浦を引き寄せて臨戦態勢に入る。

 

「行くぜ。お前ら全員、ただで帰れると思うなよ」

 

「さて、霧島志乃(人斬り)の誕生日会の始まりか。恐ろしいな」

 

「バカ、殺すたァ一言も言ってねーだろ。ただぶん殴るだけさ。全員、な」

 

笑顔を崩さない二人に、浪士達は一斉に斬りかかってきた。二人、といっても、実際に動けるのは志乃だけ。志乃は先程復活したとはいえ、杉浦との決闘で体に傷が残っている。

しかし、そんなことは些末な事に過ぎない。何故ならば。

 

「ナメてんじゃねーぞ、テメーら……私は、"銀狼"だァァァアアアアアアアアア‼︎」

 

********

 

時間少し遡り、銀時達は時雪と真選組と合流して、暗号に書かれていた場所に向かっていた。外はもう暗く、古びた倉庫群には光もない。

急げ。早くしないと、志乃が……!

焦る気持ちを抑えつつ、必死に走る。彼女を失いたくない一心で、銀時は前だけを見続けた。

志乃が生まれた時から、銀時はずっと一緒にいた。志乃が初めて寝返りをうった日、志乃が初めて立った日、志乃が初めて喋った日……全部全部覚えている。彼にとって志乃は、妹というより娘のような存在だった。

 

「銀さん、アレ‼︎見えましたよ824番‼︎」

 

後ろを走る新八が、息を切らしながら指をさす。824番と貼り付けられた看板が目に入った。

よく見ると、目的の倉庫の大きな扉は開いている。

そこから仄かに、血の匂いがした。

まさか。

 

「志乃ッ‼︎」

 

「志乃ぉ‼︎」

 

叫んだ銀時が、涙を散らした時雪が、さらに加速して倉庫に向かう。

ようやく入り口に近づけたというその時。

 

 

 

 

 

開放された扉から、三人ほど男が吹っ飛ばされて、銀時達の前に倒れ込んだ。

 

「なっ……⁉︎」

 

「何なんですか、いきなり!」

 

「ぅ、うぅ……」

 

呻き声を上げる男達は、よく見ると皆一様に殴られた痣が見受けられた。沖田がその内一人の傍にしゃがんで、顔を覗き込む。

 

「土方さん、コイツぁ最近巷で悪名高い密林党の連中ですぜ」

 

「密林党ってーと……確か、攘夷志士と宣い、様々な犯罪に手をつけてるっていう例の……」

 

沖田の出した密林党の名前に近藤が反応し、沖田と共に男の顔を見る。

しかし銀時と新八、神楽、時雪は、そんなのお構いなしに倉庫の中に足を踏み入れようとした。

 

「オイ志乃ッ……」

 

「ん"ぅ‼︎」

 

「えっ?」

 

暗く何も見えない闇の中から、何かを蹴るような音と声が聞こえてくる。どうしたのかと目を凝らした瞬間、銀時はこちらへ飛んできた背中に巻き込まれて後方へ転がった。

 

「銀さん⁉︎」

 

新八と神楽がすぐに倒れた銀時の元へ駆け寄り、土方は倉庫の扉付近にあった、倉庫全体の電灯をつける。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「よ……やく……片、付い……た……な……」

 

「志乃‼︎杉浦……‼︎」

 

息も絶え絶えの呼吸を繰り返しながら、互いを支えて立つ志乃と杉浦が、血塗れになってそこに立っていた。

頭だけでなく胸や肩、手足から血が流れ、立っているのもやっとの状態。咳き込んだ口からは、ドロドロと血を吐き出している。

痛々しいとは、まさにこの事。土方や銀時達が駆け寄る前に、二人は崩れ落ちるように床に伏した。

 

「志乃‼︎しっかりしろ、オイ‼︎」

「志乃ちゃん‼︎」

 

真っ先に駆けつけた銀時が、志乃を抱き上げる。普段はパッチリ開いている赤い目は閉じていて、まるで死んでいるようだった。

嫌だ。そんな、まさか。コイツが死ぬなんて。嫌だ。頼む。まだ死なないでくれ。だって、お前は。お前はーー!

 

「……んな泣きそうなツラすんなよ。銀時」

 

掠れた声が、背後から聞こえてくる。それに振り返ると、仰向けになった杉浦がいた。

 

「大丈夫だ……そいつは死なねえよ。そいつは……俺の姉上の……霧島天乃の……いや……霧島澪の血を、引いてるんだからな」

 

「⁉︎」

 

新八や神楽、時雪達には、銀時が目を見開いて驚いたかわからなかった。しかし、杉浦は今回の騒動を引き起こし、志乃を殺そうとした敵。その喉に、沖田が剣を向ける。

 

「やっと見つけたぜ。これで心置きなく、てめェを殺せるってモンだ。杉浦」

 

「……………………」

 

杉浦は何も言う事なく、黙って沖田を見つめる。そのまま首を掻っ斬ろうとしたその時。

 

「待てよ、沖田くん」

 

彼を止めたのは、他でもない銀時だった。志乃を抱えたまま、首だけを向けて杉浦を見やる。

 

「……何でてめーが、志乃(コイツ)の母親を知っている。姉上って……」

 

「…………覚えてねェかい。ま、身体取り替えられたら、誰だってそーなるか」

 

フッと溜息を吐いて、杉浦は再び口を開いた。

 

「俺は、先代"銀狼"霧島刹乃。……久しぶりだな、銀時」

 

「⁉︎刹乃だと……⁉︎お前、何言って……刹乃は攘夷戦争で……」

 

「死んだ、だろ?残念、俺は殺されたんじゃなくて捕まったんだ。天人共にな。そこで俺は脳と身体を交換させられ、この姿になっちまったってワケさ」

 

「なっ……ウソでしょ?そんな事が可能だって言うんですか⁉︎」

 

「天人の技術を以ってすれば、可能らしい。現に俺がそうなっちまってるんだ。認めるしかあるめェ」

 

乾いた笑い声を上げる杉浦を、銀時達は信じられないような目で見つめた。

杉浦が、既にこの世にいないはずの銀狼一族の末裔。それも、志乃の親戚だというのだ。銀時は刹乃のことを知っていたとはいえ、他の面々は驚きを隠せなかった。

彼らの動揺を全て無視し、杉浦は頭を横にして、志乃を見る。

 

「……なぁ、起きてんだろ?志乃」

 

「……………………チッ、やっぱバレてたか」

 

「志乃‼︎」

 

開いている左目だけを志乃に向け、彼女に呼びかける。狸寝入りがバレていたらしい。眉を寄せて杉浦を睨むように見ると、不意に重い体が温もりに包まれる。

視界に映るのは、白い着流しといつの間にか真っ暗になった空。そして、フワフワした天然パーマだ。

 

「…………銀……」

 

「よかった……本当に、よかった……」

 

ぎゅうっ、と銀時がさらに抱きしめてくる。耳元で小さく、鼻を啜る音が聞こえた。

レアだ。銀時が泣くなんて、この上なくレアだ。どうしよう。写真に収めてやりたい。こんな時でも銀時の気持ちを全く意に介さない志乃は、やはり自分勝手である。

 

「放して。……苦しいんだけど」

 

「うるせぇテメーは黙ってろ」

 

「横暴!私は大丈夫だから、さっさと杉浦に手当てしてやって!」

 

志乃の意見を無視する銀時も、やはり自分勝手だ。さらに強く抱きしめてくる銀時を押しやりながら、傍観している土方に、杉浦の応急処置を求める。

 

「あんな野郎に手当てなんかしてやる義理はねェだろ。こんな騒動起こしといてお咎めなしってワケにゃいかねぇ。それに、色々聞きてーこともあるしな」

 

「そうだぜ嬢ちゃん。後は俺達が全部やっとくからよ。逮捕から事情聴取、もちろん介錯まで全部やっといてやらァ。だから安心して入院してきな」

 

「何でそーなる!アイツは私の獲物だ!手ェ出したらてめーらからしばくぞ‼︎」

 

「何言ってんの志乃ちゃん‼︎」

 

「そうアル!志乃ちゃんはあの野郎のせいで殺されかけてるアルヨ!あとは全部アイツらに任せればいいネ!」

 

沖田に続いて、新八と神楽も杉浦を敵として見ている。

無理もないか、と杉浦は嘆息した。彼らからすれば、自分は志乃を殺そうとした敵。志乃本人があくまで俺を止めるために戦っていたとはいえ、他の連中はそうはいかないだろう。

それでも、あの姉上によく似た娘は、傷ついているにもかかわらず、声を張り上げる。

 

「だーから、コイツのケジメも後始末も全部私が引き受ける!だから……だから、頼む……」

 

今頃痛みが舞い戻ってきたのか、銀時の腕の中で顔をしかめる。それに誰よりも彼女に甘く過保護な銀時(あに)が、素早く反応する。

 

「志乃‼︎大丈夫か、しっかりしろ‼︎」

 

「……っ………………お願い…………杉浦(そいつ)を…………ようやく見つけた……私の、家族を…………殺さ、ないで…………」

 

「志乃……ッ」

 

時雪も志乃に近寄って、彼女の小さな手を握る。もうこれ以上、彼女に傷ついてほしくなかった。

いつも志乃はそうだった。自分が傷つくことを厭わず、真っ先に先陣を切って戦う。周りがいくら心配してもお構いなしだ。

震える手で時雪の手を握り返した志乃が、必死に彼に訴えてきた。

 

「お願い……アイツを、殺さないで…………アイツは……私、が…………」

 

薄っすらと開いていた目が、今度こそ閉じる。そこで、志乃の意識は微睡みの中に沈んでいった。

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