真っ暗な世界に、光が差し込んでくる。志乃はゆっくりと目を開けると、傍らに時雪が座っているのと、見慣れた屯所の天井が見えた。
眠って起きたらいつの間にか運ばれてるってよくあるパターンだけど、時雪も一緒なのは初めてだ。
時雪はうとうとしながら、自分の寝ている布団の隣に正座している。きっと寝ないで看病してくれたのだろう。嬉しさと愛おしさが込み上げてきて、このままキスしようかと体を起こした。
すると、時雪の体がかくんと傾き、それに伴ってハッと目を覚ます。
「あっ……志乃……」
「おはよ、トッキー。早速だがキスさせてくれ」
「はい⁉︎」
志乃の元気な様子を見た時雪は、次に投げつけられた爆弾発言に、頬どころか耳まで赤くする。
さらにグッと顔を近づけてくる志乃に、後退りした。逃がさないように時雪の膝の上に乗り、そのまま畳に押し倒す。
「ねーえ、いいでしょ?」
「や……し、志乃……ダ、ダメだって」
「言っとくけどトッキーに拒否権ないから。頑張った私にご褒美、ちょーだい?」
「ぇ……あ、ぅ……っ」
恥ずかしがって顔を逸らす仕草でさえ、愛おしく感じる。こうして自分の腕の中に可愛い彼氏を閉じ込めて見下ろすのも、なかなかくるものがある。畳についた手を前に置き、肘までつけるとさらに距離が近づいた。
「し、志乃……」
「ふふっ、かーわいっ……」
「っ‼︎」
ペロリと上唇を舐める仕草が、
思わず固まると、チャンスとばかりに志乃が顔を近づける。そしてさらに距離が縮まって……ーー。
ーードゴォン‼︎
「ぬぉああああああああ⁉︎」
「ぎゃあああああ‼︎」
ラブラブムード漂う空間に、突如バズーカ砲が撃ち込まれた。爆風に巻き込まれ、志乃は柱に後頭部をぶつける。時雪はごろりんと一回転して伏した。
「いつまで寝てんだ嬢ちゃん。そろそろお目覚めの時間だぜ」
襖を開けてやってきたのは、バズーカを肩に担いだ沖田。
ワザとだ。アイツ今絶対にワザとやった。
相変わらずのポーカーフェイスに苛立ちながら、頭を摩って起き上がる。
「…………お前マジで死ね」
ギロッと沖田を睨んでも、「ザマァ」と言わんばかりのムカつく笑顔を浮かべる。誰か刀を持ってこい、と叫びたくなった。
それを何とか呑み込み、畳の上に座り直す。
「……んで?何の用…………」
そう言いかけたが、ふと志乃の脳裏に、意識を手放す前の記憶が蘇ってきた。すぐに立ち上がり、沖田の胸倉を掴む。
「杉浦は⁉︎アイツはどうなった⁉︎」
「…………
トン、と沖田が自分の首を軽く叩く。頭の中が、真っ白になった。沖田の胸倉を掴む手に力が入り、ブルブルと震える。
「………………んで…………」
グッと歯を食い縛って、耐えようとした。
過ぎた事は、どうしようもできない。ここでいくら喚いたって、何も変わらない。
わかっている。だから、何も言わないように口を閉じようとした。
………………………でも。
「何で…………何で、アイツを殺した‼︎何でだよ‼︎なぁ‼︎何で……なん、で……‼︎」
こうなってほしくなかったから、あの時必死に頼んだのに。アイツを殺さないでって。なのに、何で。
強く握りしめていた隊服からスルリと手を離し、膝をついて畳に座り込む。頬に、涙が一筋流れていた。
まただ。また、大切な人を護りきれなかった。
私は、何も変わってない。10年前から、何にも。
悔しさが込み上げてきて、何もできない自分に心底腹が立つ。もういっそのこと、消え去りたいと思った。
悲しみに沈む志乃と、それを見下ろす沖田との間で、時雪は視線を行き来させる。志乃は一つ誤解していた。それを敢えて言い出さなかったのは、沖田の性格によるものだろう。本当、人が悪い男だ。
時雪の懇願するような視線を受けた沖田は、嘆息してから志乃の腕を掴み、引き上げた。
「来なせェ。こっちは目ェ覚めるまで待ってやったんだ。……野郎の最期くらい、見届けてやれ」
「………………………………」
俯いたまま、頷くこともしない志乃。沖田に引きずられるように立ち上がり、腕を引かれるがままにある部屋へ移動した。
そこは、いつもみんなで集まる会議室。沖田が障子を開けると、中で座っていた真選組隊士達が一斉にこちらを振り返る。
「嬢ちゃん‼︎」
「よかった、ようやく目が覚めたんだね!」
「大丈夫か?体は……」
甲斐甲斐しく声をかけてくる隊士達に、耳も傾けない。黙って立ち尽くしていると。
「んだよ。せっかくみんながお前を心配して声かけてんのに、返事もなしたァ……相変わらず可愛げねー奴だな、志乃ちゃんは」
ククッと喉を鳴らしながら楽しげに笑う声を聞いて、志乃は目を見開いた。
顔を上げると、そこにはーー
ーー右目を覆うように隠していた前髪を切り揃え、真選組の隊服を着た杉浦が、頬杖をついてこちらを見上げていたのだ。
「…………杉、浦……」
あの時血を流していた赤い目は、今はハイライトのない虚ろになっている。左目は相変わらず黒く、オッドアイになっていた。
杉浦は呆然とこちらを見つめる志乃に、フッと笑みをこぼした。
「どーした?」
「何で……生きて……?」
「……銀時のおかげでな。霧島刹乃を殺す代わりに、杉浦大輔は生かしてくれって。……まぁ、要するに今の俺は、霧島刹乃の記憶を持ち合わせた杉浦大輔。特例の時以外に"銀狼"の力を使うことは禁止されたけどな」
杉浦はトントン、と自分の赤い目元を指で示す。志乃は一目散に杉浦の元へ駆けて行って、彼の隣に膝をつき、さらに両手をついた。
「じゃあ……これからも、一緒にいられるってこと?」
「ああ。いつかお前を手にかけるその時までは、な」
頭に手を置く杉浦は、みるみるうち笑顔になっていく志乃を微笑んで見下ろす。潤んだ目から雫を落として、志乃は勢いよく杉浦に抱きついた。
「オイオイいいのか?この至近距離じゃ、お前を簡単に殺せるぜ?」
「あはは。心配しなくても大丈夫」
志乃は右手を自らの胸の前に持っていくと、杉浦のナイフを忍ばせていた手を掴んで体ごと反転し、杉浦をうつ伏せにさせてから彼の背中に乗って、掴んだ手を捻り上げた。
「いででででで‼︎放せ‼︎」
「
「んだとこのクソガキッ……ってぇ‼︎悪かった‼︎俺が悪かったから手ェ放せェェ‼︎」
暴言には暴力で対処。やられたらやり返すがモットーの志乃らしい仕返しであった。
コノヤロー、と掴みかかってくる杉浦に対し、今度は関節技をかける。やっていることは二の次として、志乃も止めようとする時雪も、幸せそうな笑顔を浮かべていたーー。
********
どこまでも続く、闇の空間。そこで、老人達が何やら話していた。
「刹乃め……我らから逃げ出しおったな」
「しかもよりによって、銀狼の元へ逃げ込むとは……これでは、奴を利用して銀狼の末裔を配下に置く計画が無駄になってしまった」
「元よりそのつもりだったのだろう。だからまずあやつは、知己である高杉の元へ行った。それから
「当然、娘への恨みはあっただろうが……我らの手中から逃れるために、茂茂の犬まで抱き込んで、ここまでのことをしでかしたのか」
「まさかこれも全て、あの娘を護るため……?あの娘を殺すことで、銀狼を我々に奪わせまいとしたのか?」
「バカな‼︎そこまで考えて……⁉︎…………おのれ、やはり侮りがたいな、銀狼は……」
「我ら天導衆が、この星を手に入れるためには、あの娘の血筋は必ず障害となるはずだ。いっそのこと、殺してしまうのも悪くはない手だと思うが……?」
「いやしかし、そんなことをすれば、
「…………次の手をうつか。銀狼を我らのモノにする、手を……」
闇は銀狼を、霧島志乃を覆い尽くさんとばかりに、密かに迫っていく。
銀狼をめぐる戦いは、まだ始まったばかりーー。
ー銀狼篇 完ー
はい。オリジナル長篇「銀狼篇」、これにて終了です。
キツい。超キツい。えーと……コレ書き始めたのいつだっけ?
確か、もう地雷亜篇からちょこちょこ書き始めたから……あ、もう長いね。怖いよボク。自分で言ってて意味わかんなくなってきた。
まあ、今回の展開は前々から仕込んではいたんです。杉浦のこと掘り下げつつ回収しなきゃな……みたいな。
バッドエンドはあまり好きじゃないので、やっぱ彼にもハッピーになってほしかったですね。勝手な願望だけれど。
でも今だから言いますけど、杉浦はこの小説を書く中でポッと生まれたキャラなんです。志乃達みたいな感じじゃなくて、元は存在してなかったんですよ。
ただ、真選組初登場の時に、真選組視点の人が一人いればいいな、って浅はかな考えで作りました。
そしたらいつの間にか高杉のとこに行っちゃってて。さらにはその正体は刹乃でした〜なんてとんでもねえ結果になりました。
ま、それはそれでいいかな、って私は思いますがね。人好き好きなオチになりましたが、これから志乃、時雪、杉浦の三人で頑張っていきます。
相変わらずきったねえわかんねえ文章ですが、今後ともどうぞよろしくお願い致します。
次回、お猿さんの名前を考えます。