この日志乃は、銀時や神楽、志村姉弟と共にお花見に来ていた。
お妙がお弁当を持ってきたらしく、座敷の中央に置く。
「ハーイ、お弁当ですよー」
「ワリーな、姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」
「いいのよ〜2人で花見なんてしても寂しいもの。ねェ新ちゃん?お父上が健在の頃はよく3人桜の下でハジけたものだわ〜。さっ、お食べになって!」
「じゃ、遠慮なく……」
銀時が弁当箱の蓋を開けるが、そこには何やら黒い物体が置いてあった。
銀時、神楽、志乃は思わぬ光景に愕然とする。
「何ですかコレは?アート?」
「私、卵焼きしか作れないの〜」
「"卵焼き"じゃねーだろコレは。"焼けた卵"だよ」
「いや、卵かどうかも怪しいじゃん」
「卵が焼けていればそれがどんな状態だろーと卵焼きよ」
「違うよ。コレは卵焼きじゃなくてかわいそうな卵だよ」
「いいから男は黙って食えや!!」
キレたお妙が、銀時の口に卵焼き?を無理やり突っ込む。
神楽は「これを食べないと死ぬ」と暗示をかけて食べていた。
一方、志乃は真顔でもぐもぐと卵焼き?を食べていた。
「え!?ちょ、何で志乃ちゃん食べれるの!?」
「これを食べるには、無心になることだよ。それこそ仏への道」
「一体どこ目指してんだよ!?お坊さんか!?」
「ガハハハ!嬢ちゃん以外、全くしょーがない奴等だな。どれ、俺が食べてやるから。このタッパーに入れておきなさい」
突然どこからともなく現れた近藤に、一同は固まる。
そして、すぐにお妙の張り手が炸裂していた。
「何レギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!!どっからわいて出た!!」
「たぱァ!!」
その後、お妙はマウントポジションで近藤を殴りまくる。
その光景を、銀時達は少し離れて見ていた。
「オイオイ、まだストーカー被害に遭ってたのか。町奉行に相談した方がいいって」
「いや、あの人が警察らしーんスよ」
「世も末だね」
「悪かったな」
志乃の言葉に、いつの間にやら現れた土方が答える。
彼の後ろには、真選組隊士達が居た。
「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと。何の用ですか?キノコ狩りですか?」
「そこを退け。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」
「はァ?何ソレめちゃくちゃな言いがかりだね。そんなん桜さえ見られればどこでもいいでしょ。チンピラ警察24時かテメーら!」
「同じじゃねぇ。そこから見える桜は格別なんだよ。なァみんな?」
土方が、真選組隊士達に問う。
しかし、杉浦と沖田は首を横に振る。
「いや、別に俺達ゃ酒さえ飲めればどこでもいいッスよ」
「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ。酒のためならアスファルトに咲く花のよーになれますぜ!」
「うるせェェ!!ホントは俺もどーでもいーんだが、コイツのために場所変更しなきゃならねーのが気に食わねー!!」
理由が心の底からしょーもねー!!
志乃はそう心の中でツッコんでから、あんな大人にはなるまいと小さな誓いを立てた。
「まァとにかくそーゆうことなんだ。こちらも毎年恒例の行事なんでおいそれと変更出来ん。お妙さんだけ残して去ってもらおーか」
「いや、お妙さんごと去ってもらおーか」
「いや、お妙さんはダメだってば」
「お妙さんはいいから志乃ちゃんだけ残して去ってもらおーか」
場所をよこせと言わんばかりの圧力に、銀時達は負けることはもちろん無かった。
「何勝手ぬかしてんだ。幕臣だか何だか知らねーがなァ、俺達を退かしてーならブルドーザーでも持ってこいよ」
「バーゲンダッシュ1ダース持ってこいよ」
「フライドチキンの皮持ってこいよ」
「三色団子5本持ってこいよ」
「案外お前ら簡単に動くな」
「何言ってんの新八?貰っても動くわけないじゃん。動かせる奴はとことん動かして、それこそ馬車馬のように働かせないと。馬鹿なの?」
「怖っ!!可愛い顔して考えてること怖っ!天使の皮被った悪魔だよ!!」
志乃のパシリ持論に、新八がツッコミを入れる。
心外だ、と志乃は頬を可愛らしく膨らませた。
一方、真選組サイドも志乃達の一歩も引かない態度に、さらに喧嘩腰になる。
「面白ェ、幕府に逆らうか?今年は桜じゃなく血の舞う花見になりそーだな……。てめーとは毎回こうなる運命のよーだ。こないだの借りは返させてもらうぜ!」
「待ちなせェ!!」
万事屋メンバーと真選組の一触即発の状況を遮ったのは、沖田だった。
「堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたァいただけねーや。ここはひとつ花見らしく決着つけましょーや。第一回陣地争奪……叩いて被ってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「「花見関係ねーじゃん!!」」
********
ということで、本当に叩いて被ってジャンケンポンで決めることとなった。
ちなみに、叩いて被ってジャンケンポンとは……。
用意するもの:ヘルメット、ピコピコハンマー
ルール:ジャンケンポンをして、勝った方がピコピコハンマーで殴りかかる。
その間にヘルメットで防げばセーフ、当たれば勝ち。
という、至極簡単なゲームである。
花見の座席の周りを、真選組隊士らが囲む。
志乃は座敷に座りながら、背後にいる杉浦にバットを押し当てて離していた。
「いけェェ局長ォ!!」
「死ねェ副長!!」
「誰だ今死ねっつったの!!切腹だコラァ!!」
万事屋陣代表お妙、銀時、神楽と真選組代表近藤、土方、沖田が向かい合って並ぶ。
完全万事屋アウェーの中、山崎が説明を始めた。
「えー、勝敗は両陣営代表三人による勝負で決まります。審判も公平を期して、両陣営から新八君と俺、山崎が務めさせてもらいます。勝った方はここで花見をする権利+お妙さんと志乃ちゃんを得るわけです」
「ちょっと!何で私が頭数に入れられてんの!?」
いつの間にか自身が勝負に賭けられていた志乃は、山崎に抗議する。
新八も何の利益もない勝負に思わずツッコんだ。
「何その勝手なルール!!あんたら山賊!?それじゃ僕ら勝ってもプラマイゼロでしょーが!!」
「じゃ、君らは+真選組ソーセージだ!屯所の冷蔵庫に入ってた」
「要するにただのソーセージじゃねーか!!いるかァァァ!!」
「ソーセージだってよ。気張ってこーぜ」
「オウ」
「頼んだぞ〜!」
「バカかー!!お前らバカかー!!」
貰える対価が少なすぎる。
それは彼らにとってこの勝負がどれだけ価値のないものになるかを意味していた。
これだけは言わせてほしい。
ソーセージってなんだ。ソーセージと花見出来る権利ってなんだ!誰得なんだ!!
「それでは一戦目、近藤局長VSお妙さん」
「姉上、無理しないでください。僕代わりますよ」
「いえ、私がいかないと意味がないの……。あの人どんなに潰しても立ち上がってくるの。もう私も疲れちゃった。全て終わらせてくるわ」
そう言って笑ったお妙の目は、明らかに人を殺る目だった。
それを見た志乃は、嫌な予感しかしなかった。
近藤は、お妙が好き過ぎてストーカー化している。つい先程もストーカーとして登場したばかりだ。
対するお妙は怒らせるとめちゃくちゃ怖い。
それを身を以て知っていた志乃は、頬に冷や汗が伝った。
勝負の行方を志乃の背後越しに見守っていた杉浦が呟く。
「初っ端から面白ェ組み合わせだな。いくら好きな人でも、手加減しないと思うぜ?近藤さん」
「いや、私は近藤さんの身が心配……」
「え?それってどーいうこと?」
新八と山崎が見守る中、ついに叩いて被ってジャンケンポンが始まった。
お妙はパー、近藤はグー。
近藤は勝敗を見た途端、すぐにヘルメットを被った。
「おーーっと!セーフゥ!!」
「いや、セーフじゃない!!」
「逃げろ近藤さん!!」
「え?」
志乃と新八の叫びに、近藤はふとお妙を見る。
お妙はピコピコハンマーやヘルメットを置いた台の上に足をかけ、禍々しい雰囲気でピコピコハンマーを振り上げ何やら呪文らしきものを唱えていた。
「天魔外道皆仏性四魔三障成道来魔界仏界同如理一相平等……」
「ちょっ……お妙さん?コレ……もうヘルメット被ってるから……ちょっと?」
近藤の制止にも耳を傾けず、お妙さんは力任せにピコピコハンマーを振り下ろした。
ピコピコハンマーはあのピコッという可愛らしい音一つ立てず、近藤の被ったヘルメットにヒビを入れさせた。
その衝撃でピコピコハンマーは折れる。近藤は倒れた。
その場にいる誰もが思いもよらない展開に愕然とした。
そして、全員がこう思った。
ーー…………ルール、関係ねーじゃん、と。
辺りがシーンとなったが、すぐに隊士らが近藤に駆け寄る。
「局長ォォォォォォォ」
「てめェ何しやがんだクソ
「あ"〜〜〜〜。やんのかコラ」
「「「「すんませんでした」」」」
お妙の威圧に、真選組全員と何故か銀時、神楽までもが土下座する。
その流れに便乗して、志乃と杉浦も土下座した。
「何あの人。めちゃくちゃ怖ェじゃん……!」
「私も第二話で姐さんにお灸据えられたの思い出したわ……」
「新八君、君も大変だね……」
「もう慣れましたよ」
新八の眼鏡の奥が死んでいる。彼の苦労が目に見えた瞬間だった。
隊士らが、動かなくなった近藤を引き摺る。
「えーと、局長が戦闘不能になったので、一戦目は無効試合とさせていただきます」
これにより、試合は振り出しに戻った。
まあ、当然と言えば当然だろう。
山崎が注意を喚起する。
「二戦目の人は、最低限のルールは守ってください……」
そう言ったが、二戦目の神楽VS沖田の試合が既に始まっていた。
しかも勝負のスピードが速い。速すぎる。
あまりの速さに、二人ともヘルメットとピコピコハンマーを持ったままのように見えた。
「ホゥ、総悟と互角にやり合うたァ何者だあの娘?奴ァ頭は空だが、真選組でも最強を謳われる男だぜ……」
「互角だァ?ウチの神楽にヒトが勝てると思ってんの?奴はなァ絶滅寸前の戦闘種族"夜兎"なんだぜ、スゴイんだぜ〜」
「なんだと、ウチの総悟なんかなァ……」
「ダサいから止めてください二人とも。
「俺の父ちゃんパイロットって言ってる子供並みにダサいよ」
志乃と杉浦は冷たい目で、ダサい言い合いを続ける銀時と土方にツッコむ。
そこに、新八も加わった。
「っていうかアンタら何!?飲んでんの!?」
「あん?勝負はもう始まってんだよ。よし、次はテキーラだ!!」
「上等だ!!」
「勝手に飲み比べ対決始めちゃってるよ……」
銀時と土方が飲み比べ対決をしている間、神楽VS沖田はさらに苛烈な試合になっていた。
それに目を移した志乃と杉浦が、異変に気付く。
「ん?」
「あれ?二人ともメットつけたまんまじゃん。ハンマー持ってないし。ていうかジャンケンもしてないね」
「ただの殴り合いじゃんか」
「だからルール守れって言ってんだろーがァァ!!」
二人は縺れ込むように座敷の外に出て、殴り合いを始めていた。
新八が怒り混じりにツッコむと、呆れて銀時たちを振り返った。
「しょーがない、最後の対決で決めるしかない。銀さっ……」
「「オ"エ"エ"」」
このバカ二人は見事揃って吐いていた。
その光景に、思わず新八はテンプレのようにズッコケる。
杉浦は当然かと言うように頷き、志乃は呆れ果てた冷たい視線を送っていた。
「オイぃぃぃ!!何やってんだ!このままじゃ勝負つかねーよ」
「心配すんじゃねーよ。俺ァまだまだやれる。シロクロはっきりつけよーじゃねーか。このまま普通にやってもつまらねー。ここはどーだ。真剣で"斬ってかわしてジャンケンポン"にしねーか!?」
「上等だコラ」
「お前さっきから『上等だ』しか言ってねーぞ。俺が言うのもなんだけど大丈夫か!?」
「上等だコラ」
既に酒に酔ってフラフラな二人は、真剣を手に覚束ない足取りで立ち上がる。
「いくぜ!」
「「斬ってかわして」」
「ジャンケン!」
「「ポン!!」」
銀時がチョキ、土方がパーを出した。
「とったァァァァ!!」
銀時が、剣の一閃を浴びせる。
斬られたそれは、大きな音を立てて倒れた。
しかし、銀時が斬ったのは大きな桜の木である。
「心配するな、峰打ちだ。まァこれに懲りたら、もう俺に絡むのは止めるこったな」
斬られた桜の木に向かって、何やらカッコよさげな台詞を言う銀時。
一方、土方はグーを突き出している定春に向かって怒っていた。
「てめェさっきからグーしか出してねーじゃねーか!ナメてんのか!!」
杉浦は大人の恥ずかしいパターンに呆れる。
盛大な溜息を吐いた志乃は、金属バットを肩に担いで銀時たちに歩み寄った。
「ま、色々言いたいことはあるけど、一言でまとめて言うね」
志乃はグッとバットを握り締め、力一杯振り回す。
「帰れ、バカ共がァァァァァァァァ!!」
志乃の怒りの一撃は、二人を同時に捉え、遠く弾き飛ばした。
打たれた二人はウルト◯マンエースの最終回よろしく、キラーンと空に輝いて見えなくなっていった。
それを確認した志乃が、再びバットを肩に担いで持ってきたジュース瓶を手にした。
「場所なんぞでガタガタうるせー奴らだな。花見は大勢でやるもんだろーがよ。みんなで賑やかにやっときゃ、自然と何でも楽しくなるモンだよ」
そして志乃は、一升瓶の酒よろしく、ジュースをグイッと呷った。
ーーお、男らしい……!!
酔っ払った大人二人をかっ飛ばした志乃に、全員が同じ感想を抱いた。
「きゃー!志乃ちゃんカッコいい!好きー!」
「アンタにもたくさん言いたいことあるけど一言でまとめて言うわ。死ねェェェェ!!」
両手を広げて飛び付こうとした杉浦を、志乃はバットで叩き落とした。
********
その頃。
「志乃、花見楽しんでるかなー」
晩ご飯の買い物から帰ってきた時雪は、目の前に置いてある自動販売機を見て立ち止まった。
「アレ?ここどこ?」
「……何やってんですか二人ともォォォォ!?」
自動販売機の上に倒れ込む土方、自動販売機の取り出し口に頭を突っ込んでいる銀時。
奇妙すぎる光景に、時雪は思わず叫んだーー。
作り直しました。花見回面白くて好きです。
次回、奴にもついにペットを飼います。