銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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悪い奴ほど綺麗に笑う

「やあやあ、こんばんは万事屋さん。私がこの屋敷の主、松木羽矢之助だ」

 

通された客間で、松木は銀時と神楽に微笑む。銀時は「どうも」と返したが、神楽はジッと松木を睨みつける。

彼女の敵視に気付いた松木は、その闇のある笑顔を神楽に向ける。

 

「こんばんはお嬢さん。威勢がいいね。この僕を睨んでくるとは」

 

「ッ…………」

 

「だがいいよ。僕はそういう娘が大好きだ。ーー何が何でも、その目を屈伏させたくなる」

 

「!!」

 

ぞわっと悪寒が背筋を走る。サディストめいた発言に悍ましさを覚えるが、神楽が怯えたのはそれだけが理由ではない。同じ台詞を言われても、沖田が相手なら即座に喧嘩を売るだろう。

だが彼の場合は違うのだ。微笑みの裏に隠された、欲望めいたそれ。全身を舐め回すように見つめられ、冷や汗が垂れる。

 

「ふふ、冗談だよ。怖がらせてごめんね?あまりに僕を敵のように見るものだから……」

 

「……………………」

 

「そう怒らないでおくれよ。さあ、早速仕事をお願いしようかな」

 

笑顔だけは絶やさずに、松木は二人の横を通り過ぎる。神楽が不安げな表情を浮かべる中、相変わらず何を考えているのかわからない目で、銀時は彼の背中を見送った。

 

銀時と神楽が部屋を出たその時、部屋の隅で待機していた青年の眉がピクリと動く。何かがこちらへ近付いている。この匂いは……あの時、剣を交えた男のもの。

身を翻して、傘を片手に窓の外を見下ろした。

 

「……………………来たか」

 

門をくぐり、ゾロゾロと歩いてくる黒制服の男達。仕える主人を探ろうとした敵が、そこにはいた。

窓から見下ろすこちらの姿に、その中の一人が気付く。栗色の髪色をした少年が、ニヤリと口角を上げていた。

 

********

 

山崎が掴んできた情報や証拠を元に、ついに逮捕状が出た。今まで以上に早い上からの指示には驚きを隠せなかったが、逮捕状に添付された松木に関する情報が彼らの驚愕を上回った。

4年前の未遂事件だけでなく、彼が裏で天人と繋がり人身売買も手掛けていることまで事細やかに調べられていたのだ。こんな情報、一体誰が。

 

疑問は募るものの、そんな事より志乃の救出が先だ。その認識は全員共通していたらしく、逮捕状片手に松木邸の門を叩く。

 

「一体何のつもりだ!ここをどこだと……」

 

「御用改めである!!真選組だ!!」

 

先頭に立った近藤が、警察手帳を突きつけて名乗る。門番達は手帳を一目見た途端、驚き慄いて退がった。

 

「しっ、真選組だと!?」

 

「バカな、何故奴らがここに!」

 

「てめーらの悪事は全て調べがついている。更に加えて真選組隊士(・・)の誘拐監禁、その他諸々の罪で逮捕状が出てんだ。もう誤魔化せねェぞ。神妙にお縄につけ!」

 

近藤が堂々と言い放つ横で、土方は溜息を吐いた。

彼は監視対象である志乃を、真選組の一員として数えている。他の隊士達も皆同じように思っているだろうし、自分も否定はしないが、彼女は真選組にとって、大切な存在になっていた。

だが、監視対象はあくまで監視対象。任務放棄と指摘される可能性もあった。

 

「な、何の事だ!我々は何も知らんぞ!」

 

威勢よく返す門番だったが、相手が悪かった。

ドン!!と大きな音を立てて、沖田が肩に担いだバズーカを地面に落とす。

 

「俺達の前でシラを切るたァ、なかなかいい度胸してんじゃねェか。褒めてやらァ。だがな……」

 

 

シャキン

 

 

刀を抜き、その刀身が徐々に露わになる。沖田の表情はまさしく悪魔そのものだった。

 

「今の俺は頗る機嫌が悪ィ。あの女大人しく手渡すか、てめーらの大将の首差し出すか……それとも、全員まとめて俺に殺されるか。選択肢は一つだ。好きなもん選びやがれ」

 

公務員が、況してや警察が一般市民に対して絶対にしてはいけない表情No. 1に輝く笑顔を浮かべた沖田。元より彼が公務員であることすら奇跡に近い、と志乃ならば言うだろう。

しかし、ここにその彼女はいない。いるとしたらーー目の前に聳え立つ、敵の根城のどこかだ。

 

刹那、杉浦は警戒網の中に馴染みのある敵を察知し、目を細めた。

 

「ーー来た」

 

屋敷の窓から、飛んでくる影。夜闇のせいであまりよく見えないが、今日に限って神々しく佇む月が、その影を照らした。

ザン!と着地したそれは、ゆらりと立ち上がる。傘をさしこちらを見つめる青年の目は、闇の中にあっても鋭く光る。彼の姿を認めた沖田が口角を上げた。

 

「よォ。また会ったなァ偽者野郎」

 

「………………」

 

好戦的な沖田が刀を構えても、青年は相変わらずだらりとした姿勢で対峙する。

無言のまま青年が傘の柄を抜くとーー銀色に輝く刀身が月下に露わになる。それを見た真選組全員が抜刀した。

 

「近藤さん」

 

隣に立つ土方が、そっと耳打ちする。近藤が横目で見た瞬間、彼を庇うように隊士達が前に出る。

 

「先に行ってくれ。俺達ゃあの小僧潰してから後を追う」

 

「トシ……」

 

「お願いします、近藤さん」

 

土方に続いて、沖田も近藤に笑いかける。

 

「心配ねェですよ。俺達を誰だと思ってんです?」

 

「総悟……」

 

土方と沖田を一瞥し、その間を抜けて走り出した。それと同時に青年も駆け出す。

白刃の狙いは、近藤ただ一人。だが、それも土方と沖田の刀に阻まれる。

 

「行けェェェェェェ!!」

 

「近藤さァァァァァん!!」

 

刃の隙間をすり抜けて、隊士数人を引き連れ駆け抜ける。屋敷から大勢の浪人らしき男達が現れ、剣を片手に襲いかかってくる。

しかし、そこは長年真選組局長として死地を切り抜けてきた近藤。たかが複数の相手だろうと、斬り倒して進む。隊士達も敵を斬り捨てたり、その場に残って足止めしたりと様々だ。

 

 

ーー志乃ちゃん!今助けに行くぞ!!

 

 

心の中で叫んだ近藤は、屋敷の扉を蹴り放った。

 

********

 

ーージャキッ

 

 

松木の背後から、後頭部に刀が向けられる。刀、といっても殺傷能力はない。できても殴打くらいのものだ。そんな木刀(・・)を、松木の後ろに立つ銀時は突き付ける。

 

「銀ちゃん!」

 

出し抜けな彼の行動に、神楽が目を見開く。少なくとも彼女の経験上、依頼人に剣を向ける所は初めて見た。

彼女の動揺をよそに、銀時はいつもの飄々とした声音で語る。

 

「どーやら当たりらしいな。ったく、ウチの犬の鼻は何でこんなに利くかね」

 

「え?」

 

「……………………」

 

「いやーまさか神楽(おまえ)とおんなじ手を使うとは思わなかったけどよ」

 

要するに銀時は、神楽と同じように定春に匂いを辿らせたのである。そしたら同じようにこの場所に辿り着いた。

ただ彼女と違った点は、銀時はあくまで正攻法で入ったこと。そして、彼は個人案件ではなく仕事(・・)でここに来たということだ。

 

「これは一体何のマネだい?」

 

「しらばっくれんじゃねーよロリコンが。ウチの妹に手ェ出してただで済むと思ってんのかクソヤロー」

 

 

ガチャッ

 

 

木刀を向けた銀時の隣で、神楽も傘を差し向ける。

 

「その通りアル。大人しく私の親友返せヨ。そーすれば命だけは取らないでやるアル」

 

「……………………やれやれ。障害は全て片付けたと思ったんだがな」

 

溜息を吐いた松木の声のトーンが落ちる。明らかに彼の纏う雰囲気が変わった。ゾクリと嫌な予感を感じ取る神楽だったが、銀時は相変わらず何を考えているかわからない目の色をしていた。

 

「まだ、世界は僕らの邪魔をするか」

 

松木はおもむろに、懐からスイッチを取り出す。掌に収まる小さなそれを、何の躊躇もなく押した。

その時。

 

 

ーーガシャァン!!

 

 

パリンパリンパリン!!

 

 

ガラスが割れるような音。それが連続して続いて、耳障りな協奏曲を奏でる。

銀時と神楽は咄嗟に耳を塞いだ。その隙に松木は姿を消し、見失ってしまう。

 

「くそッ、あの野郎どこに……!!」

 

「!!銀ちゃん!アレ!!」

 

松木を追いかけようとした銀時の着流しを掴む。

神楽が指さした先には、鰐のような虎のような、キメラともとれる怪物が廊下を破壊して現れたのだ。

 

「なッ……何だコイツぁ……!?」

 

「銀ちゃん!!」

 

怪物が銀時達を視界に捉えると、地響きの如き雄叫びを上げてこちらへ駆け寄ってくる。

突然の事にまともに思考も働かず、二人は悲鳴を上げながらこの広い松木邸を舞台に鬼ごっこを開始した。

その様を、遠くから眺めていた松木は微笑む。

 

「ならば、志乃。君に絡みつく全ての関係(くさり)を断ち切ってあげるよ。……君を縛るのは、僕だけでいい」

 

したたかな笑みを浮かべた松木は、身を翻して歩き出した。




まだもうちょいかかります。頑張ります。

取り敢えず映画銀魂超楽しみです。初日朝イチで観に行きます。

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