これを『ヤマアラシのジレンマ』という(違う)
ガギィン!!ギィンギィン!
星空の下、静かな夜に金属音が響く。壮絶な斬り合いを繰り広げているのは、傘と刀を携えた銀髪赤眼の青年と、栗色の髪をした美少年ーー沖田だ。
周囲の隊士達が他の警護役を次々と撃破し捕縛する中、この二人の対決は未だに決着がつかなかった。
一撃でも食らえば終わるーーそれを覚悟していた沖田は、気を緩めぬよう意識を集中させる。己の動体視力を駆使し、敵の隙を見極めて攻撃を仕掛ける。だが敵もなかなかこちらの一撃を受け入れてくれず、防ぎ防がれを繰り返す。
「チッ」
舌打ちをした沖田は刀を握り直し、袈裟懸けに斬りかかる。刀の柄で刃を防がれ、地面に突き立てた傘を軸に、足を振り上げた。
ドフッ
「が、ッ……!」
防ぎ切れなかった蹴りが沖田の腹に入り、吐き出した唾が宙を舞う。体ごと吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる。すぐにこちらへ飛んできた刀を咄嗟に弾くが、間も無く傘の先が再び腹を穿った。
ーークソ……こいつ、マジで強ェ……!
げほっと唾を吐き出し、口元を拭う。真選組一の実力者であることを自負している故に、目の前の敵に敵わない現実に不甲斐なさを覚える。
青年は感情のない冷たい目で沖田を射抜き、容赦なく拳を振り上げる。沖田は飛ばされた時にも手放さなかった刀で敵を斬りつけ、傘を奪い取ってそれで上から叩き潰した。続けざまに一撃、もう一撃と傘を振るい、青年は後退していく。
隙を見せた瞬間、今度こそやられると沖田は自覚していた。それほどまでに、敵の力が強すぎる。明らかに、普通の人間の力ではない。
「一体何なんでェ……てめェは!!」
叫びと共に刀を振り下ろす。地面を割る感覚はあったが、肉体を斬る感覚はなかった。
頭上に人の気配、殺気を感じる。体を反転させる勢いで刀を振り、重い打撃がぶつかり合う。
「総悟!!」
敵を片付けた土方が、加勢のため青年の背後をとる。だが土方の刀が届く前に、青年の回し蹴りが彼の顎を捉えた。
「がッ……!」
「邪魔だ」
「っ!!」
間髪入れず、今度は沖田にも蹴りが迫る。反応が遅れ、そのまま吹き飛ばされた。
その時手放された傘を拾い上げ、青年は背を向ける。彼は一つの事を成し遂げようとしていた。
「……!!あ……」
あの時逃がしてしまった
本物の殺気。今からお前を殺しに行こうか、という明確な殺意。どくん、どくんと心臓が嫌な音を立て、自分に死を予感させる。山崎のチキンハートはあっさりとそれに囚われ、腰を抜かしてしまった。
「何してんだァ山崎ィィ!!」
「!」
「さっさと立てェェェ!!」
敵味方問わず恐れさせる鬼の副長の怒号が響く。ハッと山崎が我に返った時、斬りかかった土方と沖田の刃を、青年が傘で受け止めていた。
だが、次の瞬間。
ブシャァァァ
青年の刀が二人の体を斬り裂く。赤い飛沫が宙を舞った。
「ふ……副長!!沖田隊長ォォ!!」
ドサッと重い物が落ちる音がして、重ねて足音が近寄ってくる。地面に倒れながらも、手をつき立とうとする二人の姿が目に入った。
ーー嘘だ……嘘だ……!あの、副長と沖田隊長が……二人がかりでも倒せないなんて……!
殺される。そんな予感が過った。
「う……うわああああああああ!!」
ーーパァン!
何かが破裂したような音。いつまで経っても痛みがこない。山崎は反射的に瞑っていた目を開けた。
「チッ。こんな中二臭ェ力、もう二度と頼るめェと思ってたのによ」
刀の峰に手を添え、横一文字に翳す。青年と刀の間には結界のようなものが張られ、青年が振り下ろした刃を受け止めていた。
山崎の前に立つのは、今回参謀として事件解決に努めてきた男だ。鋼の色を映す髪色を恨めしそうに睨み、口角を上げる。
「よォ俺。覚えてねーとは言わせねェよ?」
男の片目が、紅く妖しく光った。
「返せ。
「杉浦くん!!」
山崎の声が響いたのと同時に、結界を解き、戦闘は激しい打ち合いに移行する。
以前志乃と戦った際に使った力だ。杉浦は身体こそ普通の人間より虚弱だが、かつて
「うらァ!!」
「ッ!」
ーーガォォン!!
大きな音と共に地面が割られる。間一髪で躱した青年は後退りをするが、すぐに杉浦が追いついて猛攻を仕掛ける。
(時間がねェ。なるべく早く決着をつけねーと……!)
逃げる青年を追いかけながら、焦りを打ち消し剣を振るう。今“銀狼”の力を失えば、確実に殺される。自分の体が保たなくなる前に、青年を仕留めたかった。
剣戟を繰り広げる中、呼吸が浅くなって、心臓が張り裂けそうになる。もう限界が近付いてきていた。
このパワーアップは本当に短い時間しか使えない。出来ればあまり使いたくない力ではあったが、敵に
次の瞬間、ついに限界を迎えた杉浦の赤い目から、血の涙が零れた。
「ーーッ!!」
「なるほど」
姿勢を低くし、懐へ潜り込んだ青年が呟く。不意に腹部に痛みが走り、同時に体が吹っ飛ばされる。背中を壁に強打して、口から血を吐き出した。
「杉浦くん!」
山崎が反射的に杉浦に駆け寄る。苦しげに咳込み、荒い呼吸を繰り返す。
「短時間の強化……そんなもので私を倒せると」
「くっ……!」
「何してる山崎さん……早く、逃げろ……」
刀を突き立て、それを支えに体を起こす。これ以上、犠牲を増やすわけにはいかない。コイツが他の連中を殺し尽くす前に、倒さねばならない。歪む視界の中、杉浦は必死に立ち上がろうとしていた。
その時。
「「ーーぉぉぉおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!??!!! !?!?」」
男の絶叫、というか悲鳴が空から降ってきた。涙を散らしながら落ちてきた白と黒のそれは、ズゴン!と杉浦達の前の地面に突き刺さる。まるで漫画みたいな落ち方だった。
それは志乃を取り戻すべく先に屋敷に入っていた銀時と、同じく志乃を救うべく屋敷に突入した近藤だった。共に屋敷の中で鉢合わせ、ありさんとありさんがごっつんこ〜♪な具合で衝突し、挙句の果て神楽によって窓からぶん投げられた。その落下地点がここだったのである。
突然の事に双方呆然としながら、山崎が口を開く。
「え……?今何が降ってきました……?」
「……多分、毛玉とゴリラだったと思う。つーかそれだ。うん、それだ」
「何一人で納得してんだてめェコラァ!!ついこの間まで志乃ぶっ壊すとか言ってた中二野郎がさりげなく仲間のために命を散らすカッコイイ脇役に収まりやがって、これ以上俺の出番減らす気かコノヤロー!!」
地面から自力で抜け出た毛玉こと銀時が叫ぶ。杉浦が「何言ってんだコイツ」と言うような冷たい視線を向ける中、山崎は銀時を無視して
「局長ォォ!!今引っこ抜きます!!」
だが、敵の増援を理解した青年は
しかし、刃が山崎に届く前に、一閃が青年を襲った。咄嗟に傘でそれを防ぐ。青年にやられて倒れていたはずの沖田が、山崎を救ったのだ。
「ッ、ぁああ!!」
痛みが未だ残る体を叱咤し、声を張り上げる。傷を受けようと真選組一の名は伊達じゃなく、攻勢に転じ青年を退けさせた。
だが反撃はそこまでだった。山崎が近藤を救出したと同時に、沖田が膝をつく。出血がひどく、これ以上は動けない。思わず舌打ちした。
標的を沖田に変更した青年は、刀を上段に構えて駆け寄る。先に邪魔する者を排除しようという考えだろう。振り下ろした瞬間、またも邪魔が入った。
「……」
相変わらず感情の読み取れない赤い瞳が、自分と同じ“銀”を見る。刀を押し返した木刀は、すかさず攻撃を仕掛けてきた。
「てめェ……刹乃か?」
「………………」
銀時の問いに、青年は何も答えない。
攘夷戦争時代、一時期だけだが同じ戦場を駆けた男が目の前にいる。銀時の記憶では、彼は戦死したはずだった。己の目でそれを確認したわけではなく、人伝に聞いた話だがーー。
しかし、目の前の彼は当時の姿のままだ。一体どういう事か……。
回想を巡らす間も無く、青年が傘を振り抜いた。脇腹を狙った一撃は銀時の木刀に阻まれたものの、その重さに驚いた。かつて彼が戦った夜王鳳仙までとはいかないものの、それに引けを取らない力。グッと歯を食い縛り、気を引き締める。
銀時は過去、直接刹乃と刃を交えることはなかった。何故ならあの時敵は同じく幕府で、一時的な協力の下戦ったのみだった。
だから彼は知っていた。男であるとはいえ、“銀狼”の一族に生まれた彼の戦闘能力を。
地を駆ければ速く、宙を舞えば高く。しなやかな細腕からは想像出来ない破壊力とそれを成し得る筋肉。老いた“銀狼”しか見たことのなかった彼に、霧島刹乃は“銀狼”本来の力を見せつけたのだ。
「ッ、銀時!気をつけろ!そいつは
「あぁ!?」
傷を押さえて杉浦が叫んだ直後、鋼が体に突き立てられた。刀は杉浦の腹部を正確に穿ち、込み上げてきた血を吐き出した。
「……お前は、“私”について何か知っているようだな」
「カハッ……」
「杉浦ァァ!!」
刃はそのまま壁まで杉浦を吹っ飛ばし、成す術なく杉浦は意識を手放した。壁に体を預け、ぐったりとする彼を見下ろす。
「生憎だが、私はお前を生かす命令は下されていない。もしこれで生きていたら、あのお方がお前を生かすと命じられたら、“私”の真実を話してほしいものだな」
「野郎ォ……!」
山崎に救出され、事態を理解した近藤が、杉浦を倒した青年を睨む。腰の刀に手をかけた瞬間、背後から飛んでくる影があった。
それは近藤が認識する前に彼の頭上を舞っていく。自分と同じ黒い制服、それと相反する白い着流し。その二つが青年に向かって飛んでいったのだ。
「トシ!万事屋!」
「「おおおおおおおお!!」」
重なった怒号と共に、二人が同時に斬りかかる。それを刀と傘で受け止めた青年に対し、周囲の敵を倒した他の隊士達が、一斉にこちらへ駆け寄ってきた。
青年は一度銀時と土方の剣を退け、空中へと逃げる。戦場を見渡すと、いつの間にか自分以外の人間は皆死ぬか捕縛されていた。
しかし、この程度の状況は彼にとってどうでもよかった。現在も、真選組サイドの最強戦力を相手に戦い、且つ戦況を有利に進めている。
このままいけば、確実に全員仕留められるだろう。赤い目を光らせた青年は、着地直前に近くにいた隊士達数人を斬り伏せながら、そんな事を思った。
「てめェ……一体何でこんな所にいんだよ、万事屋」
「“依頼”受けてに決まってんだろーが。つーかしばらく見なかった妹がここに監禁されてたの俺初めて知ったんだけど?何でそんな重要な事保護者の俺に言わなかったワケ?」
「うるせェ。つーかこないだ志乃がお前の事、『保護者ぶるクソ迷惑野郎マジ死ね』っつってたぞ。妹から保護者認定されてねーぞ。どんな環境で育ったらあんな捻くれた可愛げのない性格になるんだ」
「それ本人の前で言ってみろよ。アイツだったら間違いなく顔面いくね。骨格変わるぐらいの勢いで殴るね。ざまァみろ」
「おめーらこの状況で何やってんの!?ってちょ、敵!敵!」
近藤の注意に促され、迫っていた刃を躱す二人。まず最初に斬りかかったのは銀時の方だった。一撃を見舞おうとしていた木刀は傘に阻まれ、今度は逆に傘と刀の二刀流で攻められる。
剣捌きは目で追えるものの、息つく間もない連撃を食らい、一歩後退った。
その時、加勢に土方が入った。青年はそれを気配で察知して傘を振り抜くが、それを土方の刀が貫いた。
「!」
鉄仮面の青年の表情が、僅かに動揺した。土方はその隙を見逃さず、そのまま傘を斬り捨て、刀を上段に構えた。
そして更に、銀時も。青年の刀を払い手放した瞬間、胴を狙って木刀を振り被る。
「「ッ、らァ!!」」
ついに、銀時と土方の剣が、青年を捉えたのだ。同時攻撃を受けた青年は蹌踉めき、膝をつきかける。土方に袈裟懸けに斬られた傷から、血がボタボタと地面に垂れた。
さぁさぁまた長いスパンを置いて次回、ついに刹乃(仮)とのガチバトルが加速するよ!
斬り合いもいいけど、やっぱ一番はステゴロだよね!拳最強!ヒャッフゥ!!(深夜テンション)