銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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霧島志乃はこの上なく血塗れと涙と笑顔とゲス顔が似合うヒロインです(確信)


目には目を 歯には歯を

二人の強烈な一撃を食らった青年は、痛みに慣れているのか、血を流しても無表情だった。

相手は武器も何も持ち合わせていない。畳み掛けるなら今しかない。考える事は二人とも同じだった。

地面を踏みしめ一気に駆け出し、敵の首を狙う。激突する瞬間、ふと青年が宙に跳んだ。銀時の背後を取り、そこから攻撃に転ずる。蹴りで振り回した足を咄嗟に木刀の柄で受け止め、体を反転させて木刀を振るう。それを両手で掴んで止めた。

 

「ッ!」

 

武器を掴まれた瞬間、ぐんと銀時の体は引っ張られる。このまま叩きつけるつもりか、と判断した銀時は、木刀から手を放し、空中で体勢を変えて着地した。

敵から目は逸らしてなかったはずだった。だが気付けば腕を掴まれていて、再び振り回される。青年が投げ飛ばした先には、土方がいた。

 

「ごぶッ!!」

 

避ける間も無く土方は銀時の体をもろに受け、仰向けに倒される。次には青年が二人まとめて体重をかけて踏み潰した。

 

「ぁ……!」

 

「ぐッ!」

 

追い討ちに、銀時の胸を蹴り飛ばす。怒涛の連撃に、二人は立ち上がることさえままならなくなった。

 

「そんな……万事屋の旦那と副長が……!」

 

「ッ……!」

 

山崎が震える声で呟く。隣に立つ近藤も、悔しさにグッと歯を食い縛った。

これが志乃が敗北したという男の力。あの銀時と土方でさえ、歯が立たないなんて。勿論青年も無傷ではないが、一撃一撃が重いため彼の場合はそこまで問題にはなっていなさそうだった。

どうする。どうすれば、奴に勝てる。構えを解かず警戒する中、新たな気配がこちらへ向かっている事に気付いた。

 

「どうやら苦戦しているようだね?」

 

「!」

 

正体は松木だった。今回捕らえるべき容疑者である彼は、余裕のある表情で微笑んだ。

 

「残念ながら、君達では敵わないよ。彼は正真正銘本物の“銀狼”だ。それに夜兎のDNAを組み込み、最強の存在となったのだ!!ハハハハハハハハッ!!」

 

「ぐっ……!」

 

闇夜に松木の高笑いが響く。青年にやられた杉浦にもそれは届いており、痛みが残る身体を引きずった。

とんでもない事を聞いた。彼ーー霧島刹乃の身体には、夜兎のDNAが組み込まれていると。銀狼の一族を何より尊ぶ彼の地雷を、松木は堂々と踏み抜いた。

 

「テメェ……ふざけんなよ……?俺の身体に、余計な遺伝子(モン)組み込みやがって!!テメェは俺達を、“銀狼”を汚した!!その罪……死んだところで購えると思ってんのか!!」

 

「俺の……?ほう、ではまさか君が杉浦大輔くんかね?いや……霧島刹乃と呼んだ方が正しいのかな」

 

目を見開き歯を食い縛ってこちらを睨む杉浦を、松木は嗤う。

 

「ありがとう、刹乃くん!僕にこんな素晴らしいプレゼントをくれて」

 

「ーーテメェ!!!」

 

張り裂けるような叫び声。杉浦はかつてない程の怒気に満ち溢れていた。

二人が睨み合う中、青年は刀を手に近藤と山崎の元へ歩み寄る。怒りも憎しみもない、ただただそこに存在する殺気に、近藤は唾を飲んだ。

次の瞬間、青年が走り出す。最後の防衛反応が働いたのか、山崎がバッと近藤の前に出た。銀時も土方も、杉浦も沖田も、傷ついた体に鞭打ち立ち上がろうとする。でも、間に合わないーー。

 

「!!」

 

刹那、青年の表情が、一瞬ピクリと動いた。その足元1㎝手前に、大きな物が落ちてきて、近藤達への行く手を阻んだのだ。

 

 

ズドォォン!

 

 

「!?」

 

「「おわああああああ!?」」

 

落ちてきた黒いそれは、月明かりに照らされて正体を現す。血塗れになり白目を剥いて気絶した、キングコングばりの超特大ゴリラが、近藤と山崎の方を向いていた。

 

「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」

 

これはもう一種のホラーだ。近藤と山崎は悲鳴を上げ互いに抱きしめ合った。

考えてもみてほしい。さながらドラ◯ンボールの大猿の如し図体のゴリラ、というだけでも恐怖なのに、更にそいつが血塗れで倒れているとなると、絶叫モノ間違いなしである。

 

「な……コイツは……!?」

 

松木と青年だけは、この怪物の正体を知っていた。

これは松木が秘密裏に行っていたバイオ開発により誕生した生物(へいき)だ。強靭な肉体と腕力を持つこの生物が、ここまでやられるなんて。軍隊を用意しても倒せないはずのコイツを、瀕死に追い込める奴は……この場に、一人しかいない。

 

「まさか!!」

 

不意に黒い影が空を舞った。風を受けて髪を靡かせ落下してきたそれは、青年の前に着地した。

月明かりがその人物を照らす。光を反射して輝く、鋼のような銀髪。赤い色のドレス。白い肢体のあちこちに傷が出来ているものの、端正な容貌とそれを色付ける赤い目は、鋭かった。

 

「……………………」

 

「そうか……やはり君か、志乃」

 

少女ーー霧島志乃の姿を認めた松木は、口の端を歪めて彼女を凝視した。

 

「まさか兵器どもを放ったあの屋敷の中で生き残るとは。やはり君は強いね。そして……」

 

淡々と話しているものの、志乃を見つめる表情は、徐々に険しくなっていく。

 

「ああ、やはり君のその目は変わらない。もう屈したはずだ、僕の前に。なのに何故、また蘇る。何故だ。何故だ!!」

 

それまでの余裕はどこへやら、突如感情を露わにして叫んだ。志乃は何も言わず黙ったままだったが、ふと身を翻して気絶したゴリラを掴み上げ持ち上げた。

 

「!?」

 

「…………」

 

青年は危機を察知したのか、いつでも動けるように身構える。その勘は当たっていた。

 

「ぅらあァァァァァァ!!」

 

雄叫びを上げて、ゴリラを松木めがけてぶん投げる。豪快なスローに目を奪われている間に、青年は松木を抱えて彼をその場から引き離した。

再び大きな音と共に、ゴリラが地面に落ちる。そこでようやく近藤と山崎は、志乃の後ろ姿を目の当たりにした。

 

「し……志乃ちゃん」

 

「ん。お待たせ」

 

肩越しに二人を振り返り、志乃は薄く微笑む。だが、彼女の剥き出しになった肩や腕、足にまで至る傷の数々に、近藤は息を呑んだ。

 

「し、志乃ちゃん……怪我……!」

 

「これくらいどーってことないって。ちょっと中の連中ぶっ倒すのに手間取っちゃって」

 

そう言って笑った彼女に、近藤は安堵した。あの時の虚ろな彼女はもういない。ここにいるのは紛れもなく、自分達の知る少女だ。どんな強者に対しても臆することなくへらりと笑う、霧島志乃なのだと。

近藤達を振り返った後、青年と松木を見つめ返す。

 

「離れてろ、二人とも。巻き添え食らっても知らねーぞ」

 

「えっ……志乃ちゃん、何を!?」

 

「何をって決まってんでしょ。あのふざけたニセモノ野郎ぶっ飛ばす」

 

彼女の声のトーンが少し下がる。それだけで、周囲の空気にも影響した。そこにあるのは、淡々とした殺気。青年のそれとぶつかり合い、静かに闘気を高めている。

 

「銀狼!!」

 

静寂が包む中、松木が青年の背に叫んだ。

 

「もう一度あの女を屈服させろ!!あれは僕のものだ!!あの頃からずっと!!」

 

「……?何言ってやがんだ、あの野郎……」

 

「銀ちゃん!」

 

立ち上がった銀時に、屋敷の中から飛び降りてきた神楽が駆け寄る。二人はその場から対峙する二匹の獣を眺めていた。松木の言葉の真意を謎に思いながら。

 

「………………」

 

一方、彼らの隣で同じく立ち上がった土方は、違った気持ちで志乃を見つめていた。

浪士組が生まれたばかりの頃、やってきた幼い少女。微かなその記憶が蘇ってきた。

 

********

 

少女ーー当時の霧島志乃が浪士組に預けられ、暫く経った日のことだった。

初めの頃は、近藤達に警戒心を抱き、心の内に入ることを拒んだ彼女だったが、時間の経過がそれを緩め、次第に彼らに懐くようになっていた。かくして彼女の一挙一動が隊士らを萌え殺しまくる日々が始まったわけだが、志乃は彼らの前で一度も笑顔を見せなかった。

 

そんなある日、彼女に養子縁組の話が持ち上がる。

それまでは幕府による監視の名目で浪士組ーー当時真選組と名を変えたばかりだったーーが志乃を保護していたが、子供が武装警察組織で暮らすのは彼女の教育上良くないとの声もあり、“銀狼”の懐柔策として幕府高官の養女にしようという事になったのだ。

だが、話は上がったものの、彼女の母や叔父が先の攘夷戦争でその名を轟かせたこともあり、“銀狼”を囲おうと思う者は少なかった。その中で、ある男が彼女の養父を名乗り出た。

 

『初めまして、僕は松木という。どうぞよろしくね』

 

それが松木羽矢之助だ。

当時の彼は、若輩ながら幕府の中枢を担う立場の人間で、その見事な政治手腕は老中達も舌を巻く程であった。そんな彼が“銀狼”の娘を養女に迎えようということで、幕府内でも、勿論警察機構内でも大きな話題となった。

だが、志乃は彼を一目見た瞬間、彼の闇を見破ったのだ。

 

『……嫌。アンタなんか嫌い。あっち行って』

 

松木は当時から、非人道的なバイオ研究を裏で行ってきた。政府の目を忍んで、密かに。勿論バレてはタダでは済まない。

しかし、それを続けられたのは、ひとえに天導衆の支援があったからとも言える。志乃はそこまで見透かしてはいなかったものの、松木が隠す深い影に気付いていた。

以来、松木は度々屯所を訪れては志乃に近付こうとした。彼の本性を見抜いていた志乃は当然近寄ることもしなかったが、その真意を周囲に話そうとしなかった。

当時の土方自身も、彼女が人を頼るのが下手な事は薄々知っていたはずだった。本来ならそれをフォローしてやるのが筋だというのに、“侍”になりたての彼には、その余裕が無かったのだ。

 

********

 

(そうだ、そしてあの後ーー)

 

回想に浸っていた土方だったが、突如弾け飛んだ殺気に意識が呼び戻された。

ハッと顔を上げた瞬間、青年が傘を手に志乃に向かって走り出していた。一方、志乃は動かない。腰を低く構えたままで、拳を握っている。

 

「志乃!!」

 

咄嗟に叫んだが、青年の傘が彼女を捉える前に、志乃自身は視界から姿を消していた。

青年も戦いを見守っていた土方達も驚いたが、彼女の出現に誰よりも早く、青年が気付く。気付いた時にはもう、遅かった。

 

 

ーードッ

 

 

「………………!!」

 

鳩尾を正確に穿つ、重い一撃。それが、線の細い少女の腕によるものだとは到底考えられない。しかし、それは紛れもない現実であった。

唾を吐いた青年は、頭上にある志乃の胸倉を掴んで、強引に地面に叩きつけた。

 

 

ゴシャアァ!!

 

 

「ッ……!」

 

地面が割れる程の衝撃。鳩尾に一発食らった後の力とは思えないものだった。だが、それでこそ面白い。鋼色の髪の少女は、不敵に笑う。

 

「クク……いいぞ、まだまだこれからだ!!」

 

己の内で、燃え盛る何か。闘争心、嗜虐心、またはそれ以外のものによる、暴力的な快感。それがまるで、理性を燃やしていくようで。

でも。

 

「来いよ。もう何も奪わせない。壊させない。私のものは、私が必ず護る!!」

 

ここに護るべきものが、大切なものがある限り、少女は負けない。

そうーー目には目を。歯には歯を。

 

ーー“銀狼”には、“銀狼”を。




次回、恐らくこの小説内で第2位くらいの闇パート。1位?そんなもんまだずっと先です。

かつてない流血表現多数掲載の可能性大だから苦手な方は飛ばし読みを推奨します。
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