銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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嫌いな奴がいる時は、電卓で遊んで笑顔になりましょう。
ホラ、例の「18782(いやなやつ)+18782(いやなやつ)=37564(みなごろし)」ってやつ!
ウフフ♪心が洗われますね♪

って感じの話です、今回。
どちゃくそ楽しい(満面の笑み)


普段大人しい人が怒るとめちゃくちゃ怖い

この戦いを遠巻きに見ていた松木は、一人青ざめていた。視線の先には、己が手中に収めようとしていた、“銀狼”の少女。最強の手駒を倒し、仲間に駆け寄られる彼女が、何よりも恐ろしく見えた。恐怖に駆られ、腰を抜かす。

 

「ヒッ……ヒィィィ……!」

 

上擦った声に気付いた志乃が、視線を松木に向ける。目が合った瞬間、松木は即座に死を予感した。

 

「ひぃっ、ぎゃああああああああ!!」

 

後退り、悲鳴を上げ泣き叫びながら四つん這いになって逃げ出す。その情けない姿を眺め、志乃は一人小首を傾げた。

何故そんなに必死になって逃げるんだろう。私は猛獣か何かか?そんな疑問を本気で考えている彼女は、松木の恐怖心が全く理解出来なかった。

 

考えてみてほしい。自分にとって利用価値のあるものが突然牙を剥き、頼みの綱であった最終手段をまんまと突破されてしまえば、もう後は捕食されるのみ。こんな状況、恐怖以外の何物でもない。

ここはジュラ◯ック◯ークか?そんなもん願い下げである。

 

松木が喚きながら逃げていると、一人の男の足元が視界に映る。ハッと顔を上げると、男の姿は月明かりで影しか見えなかった。それが、松木に話しかけてきた。

 

「こんばんは、松木さん。お久しぶりです」

 

声でわかった。彼の事は幼い頃から松木は知っている。彼の父が他界してからはしばらく会わなかったものの、その中性的な顔立ちを、松木はよく覚えていた。

 

「とっ……時雪くん……」

 

「こんな時間にどうしたんですか?只事じゃあなさそうですけど」

 

「トッキー!?」

 

あの頃より伸びた髪をまとめ、まるで美少女のような微笑みを松木に向ける。驚いたような志乃の声を聞き、すぐにこの二人は顔見知りなのではと悟った。

これなら、これなら利用出来る。時雪が目線を合わせてしゃがみ込んだ瞬間、松木は彼の胸倉を掴んだ。

 

「!」

 

「トッキー!」

 

「貴様らァ、動くなァ!!」

 

服の下に忍ばせていた短刀を時雪に向け、彼を盾にとる。志乃は時雪を助けようと拳を握るが、背後にいた銀時に止められてしまう。

 

「テメェッ!」

 

「ヒャハハァ!!形成逆転だなァ、霧島志乃!!コイツ離して欲しけりゃ大人しく……ッ!?」

 

人質をとれたことに歓喜していた松木の口が止まる。コツン、と顎に冷たい何かが当たったからだ。

そのまま顎を持ち上げられる。冷たい物の正体を見ようと、目玉を下に向けた。それを持っているのは、人質の時雪だ。人差し指を、引き金のようなものにかけているーー。

 

「…………ぁ」

 

全身に鳥肌が立った。当てがわれているのは、拳銃だ。

 

「あのー。少しうるさいので、黙っててもらえます?」

 

顔だけ振り向いた時雪の笑顔が、志乃と同じく彼には恐ろしく見えた。

手にしていた短刀を落とし、再び腰を抜かす。その間も、時雪は笑顔を浮かべたまま拳銃を今度は眉間に当てがった。

 

「……なぁ、誰アレ。アレ本当に時雪君?すっげェ爽やかな笑顔で脅しかけてんだけど。ねェアレ本当にお前のカレシ?」

 

「しっ……知らない知らない!あんな怖いトッキー、私知らない!」

 

時雪と付き合ってそれなりに長いはずの志乃も、あんなカレの表情は見たことがないという。あまりの恐ろしさに志乃は銀時の影に隠れていた。

 

時雪は怒らせるとかなり怖い。志乃も何度か彼の怒りを買い、その度に恐怖に涙した事も多々ある。

だが今日の彼は、普段の何倍も恐ろしかった。今まで志乃も見たことがないくらい、時雪は怒っていたのである。

 

「ねェ、松木さん……俺が何でこんな怒ってるかわかります?」

 

「ヒッ……」

 

「まぁ、答えられませんよね。正解は……ーーよくも、俺の女に手を出してくれたな」

 

圧倒的な怒り。それが圧迫感を生み、矛先を向けられていない銀時達でさえ息を呑んだ。

一方志乃は、

 

「ぎ、銀……今、トッキーが、俺の女だって!キャー♡」

 

「うっせェちょっと黙ってろ!!この状況で惚気てんじゃねーよ腹立つな」

 

「俺の女」宣言が余程嬉しかったのか、頬を赤らめ、もじもじしていた。幸せそうで何よりだ。だが、今このタイミングでは腹が立った。

ベシッと志乃の頭を叩き、取り敢えず退がらせる。

と、ここで土方と沖田がある事に気付いた。

 

「てかちょっと待て!何でてめーが拳銃(ンなモン)持ってんだ」

 

「いくら将軍の縁者だからって、随分物騒なモン持ってやがるな。冗談じゃ済まされねェぜ」

 

そう。時雪は全員の前で堂々と、拳銃を見せびらかしているのだ。しかも、扱いも心得ているような持ち方。

虫も殺せなさそうな程温和な性格である時雪が、黒い笑顔で拳銃を人に向けている。そのギャップに志乃は萌え殺されそうになっていたのだが、そんな彼女を気に留める者は誰もいなかった。

 

「あ、お二人共。お仕事お疲れ様です。もう大丈夫ですよ」

 

「へ?時雪君、それってどういう……」

 

近藤が尋ね終える前に、屋敷の中にどんどんと新手が入ってきた。彼らは次々と松木の手下を拘束し、屋敷の中へ突入していった。

 

「第二班と第三班は証拠品の押収。あ、中には危険生物もいるそうなので、対処班も一緒に行って下さい。あと、真選組隊士の中に怪我人もいるようなので、救護班は急いで手当てを」

 

取り押さえられる松木に拳銃を向けたまま、時雪が彼らに指示を出す。後から入ってきたのは、皆時雪の部下か何かのようだ。敵ではないことに警戒を解いたものの、未だ謎が残るばかり。

 

何故、時雪の指示で動く者がいるのか。そもそも時雪はあくまで没落した縁家の息子であったはずだ。権力はほぼ無に等しく、「将軍家の縁者」という肩書きだけでギリギリ幕府の中央に留まっているだけの存在ではなかったのか。

 

「トッキー……アンタ一体、何者なの……?」

 

ゴクリと唾を飲み、そう尋ねる。その時、別の声が聞こえてきた。

 

「おお、随分遅かったじゃねェか、時雪クン」

 

銀時達が振り返ると、患部を押さえた杉浦がこちらへ歩み寄ってきていた。

ボロボロの彼に、時雪は眉を下げて笑う。

 

「すみません。もうちょっと早く来たかったんですけど、上司(・・)が俺に後始末たんまり残して帰っちゃって」

 

「そうかい、そいつァ災難だったな。せっかくちゃんと就職出来たってのに、肝心の上司があれじゃあ世話ねェな」

 

「まったくですよ。アハハ。さっさと死ねばいいのに」

 

「おーっと本音が洩れてるぞ。キャラ的に出しちゃダメだろお前は」

 

「俺にストレスで死ねと?たまには毒ぐらい吐かないとやってられませんよ」

 

「いやいやちょっと待てちょっと待て!!何勝手に話進めてんだてめーら!!」

 

置いてきぼりで展開を進める二人に、銀時が待ったをかける。もう何が何だかわけがわからなくなってきた。

 

「はっきり言えっつーの!お前何者なんだよ」

 

「あ、じゃあはっきり言いますね」

 

時雪はコホンと一つ咳払いして、自己紹介をした。

 

「俺は警察庁長官補佐、茂野時雪です。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」

 

「「「「「「……はああああああああああああああああああああああああああああ!?」」」」」」

 

真夜中の空に、銀時、神楽、志乃、近藤、土方、山崎の驚きの声が響く。

 

「は、え、な、は、ぁ?えっ、うそ、まっ…………きゅう」

 

「志乃ォォォォォ!?」

 

この真実を打ち明けられた衝撃で、心身共にズタボロだった志乃が、このカミングアウトがトドメの一撃となり、気を失ってしまった。




ハイ次ラースート!!ラースート!!

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