銀狼 銀魂版   作:支倉貢

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昔の武勇伝は三割増で話すとめちゃくちゃ盛り上がる

お瀧はこの日、休暇中に雇い主のお登勢に呼ばれ、店に赴いた。

 

「ちわーっす。お登勢さん」

 

「ああ、瀧かい。悪いねェ。せっかくの休みに呼び出しちまって」

 

「いいえ、お登勢さんの頼みは断れまへんから」

 

お瀧は、申し訳なさそうに言うお登勢に微笑む。

お瀧は早速着替えに行こうと、店の奥に向かった。

ガラッと躊躇なく扉を開けると。

 

「ん?」

 

「ア」

 

そこで、なんとキャサリンが着替えようと服を脱いでいた光景に出くわした。

お瀧は衝撃でしばし沈黙する。

その状況を、キャサリンの怒号が裂いた。

 

「何シトルンジャコノ変態ガァァァ!!」

 

「ぅるせェェェェ!!こっちかてテメーの貧相な体なんざ拝みたくもねーわ!くっそ、最悪や!今日は人生最悪の日や!!」

 

「ンダトォォォォコノ胸ナシ!!ソノ丸イ髪チギッテコノ上ナク地味ニシテヤローカ!?」

 

「やるってか?このウチとやるってか泥棒猫!ええで、その耳切り取ってただの団地妻にしてやろーか!?」

 

「アンタら喧嘩してるヒマがあんなら、とっとと準備しな!!」

 

「「ハーイ」」

 

お登勢の一喝が響いたところで、お瀧とキャサリンは互いを睨みつけながら準備を再開した。

 

********

 

キャサリンが、お登勢の代わりに万事屋の家賃滞納の請求をしに行った。

その間、お瀧はお登勢に問う。

 

「なァ、お登勢さん。何であんな泥棒猫また雇ったん?まさか更生でもさせるん?」

 

「フン、そんなんじゃないよ。人手が足りなかっただけさーね……」

 

「盗み癖は加齢臭並みに取り難いっちゅー話やで。ボーッとしてたらあいつまたやらかしますよ」

 

「………………大丈夫さ。あの娘はもうやらないよ。約束したからね」

 

「約束なんて、破ろう思えば簡単に破ってまいますよ。……ウチかて昔、簡単に破りましたから」

 

お瀧は頬杖をついて、溜息を吐く。

かつて、破った約束。それは、亡き友との約束だった。

彼女がまだくノ一として裏社会で働き出した頃。お瀧には、親友とも呼べる間柄の一人の少女がいた。

彼女は体が弱く、外に出歩くことすらままならないほどだった。

そんな彼女に、お瀧は「いつか一人前の忍者になって、一緒に飛び回ろう」と約束を交わしたのだ。

しかし、そう約束した翌日、少女は息を引き取ってしまった。

お瀧はこの時武者修行の旅に出ていて、彼女の死を知ったのはその五年後だった。

彼女の過去を知ってか知らずか、お登勢はお瀧を諭した。

 

「……瀧。アンタがあの娘を嫌うのもわかるさ。でもねェ、アンタもこの店で働くからにはあの娘と同僚さ。信じてあげられないで仕事なんて出来ないよ」

 

お瀧はお登勢を振り向き、黙って聞いていた。

お瀧が何か言おうと口を開いた瞬間、銀時達を連れてキャサリンが帰ってきた。

 

********

 

その後、新八、神楽、キャサリン、お瀧が瓶を出しに行っていた。

銀時はというと、隙を見て逃げてしまったのだ。

 

「ズルイヨ銀ちゃん。一人だけ逃げるなんて……おかげで私たち仕事量倍ネ」

 

「もう部屋は貸さないってお登勢サン怒り狂ってたよ。僕らどーなるんだろ?」

 

「簡単や。ホームレスになればええねん」

 

「コノダンボール、アゲマショーカ?」

 

「住めってか!ソレに住めってか!」

 

「ふざけるなヨ!こんなものに住めるわけない!Lサイズにしてヨ!」

 

「アレいいのかコレ⁉︎間違ってねーかコレ!?」

 

神楽はみかんのダンボールに体を入れて、見事貫通させる。確かにこんなものに住めるわけない。

お瀧もフォローの限界だった。

今まで家賃を全く払ってこなかった銀時達。

志乃やお瀧がフォローして何とか丸く収まったことも幾度となくあったが、流石に今回はもう無理だろうと思っていた。

溜息を吐いて3人を見やると、何故か3人は殴り合いの喧嘩に。

アホらし。お瀧は呆れてさっさと帰っていった。

 

********

 

しかし、お瀧は帰る前に少し寄り道をした。

そこは、ある古ぼけた寺だ。人はいない。

ただ、男と女がいるだけだった。

女の方はキャサリン。男の方は、クリカンと言った。

 

「しばらく合わねェー内に変わったなお前?」

 

「……野暮ネ。変ワッタナンテ言葉ハ若イ女シカ喜バナイ。大人ノ女ニハ『昔と変わらないね』ッテ言ウモノヨ」

 

「ハン、そーゆーところは相変わらずだ……。だが、俺達とつるんでた頃のお前はもっとパンチきいてたぜ。銀河中のお宝を荒らしまくり、どんな厳重な金庫も容易にこじ開ける"鍵っ娘キャサリン"といえば知らねー奴はいなかった」

 

「止メテヨ。私ハモウ泥棒カラハ足洗ッタノ」

 

「そうだな、そう言ってお前は俺達から去っていった」

 

どうやら、2人は知り合いらしい。

2人の会話を盗み聞きしていたお瀧は建物の木材に足をかけ、蝙蝠(コウモリ)のように逆さまになって様子を伺っていた。

 

「だが風の噂で聞いたが、お前……地球(こっち)でブタ箱ブチ込まれてたらしいじゃないの?盗み癖ってのはカレーうどんの汁より取り難い。洗っても洗っても落ちやしないぜ。今更無理して堅気になったところでどうなるってんだ?それよりどうだ……また俺達キャッツパンチに入らないか?」

 

お瀧はそれを聞いた途端、眉をひそめた。

 

「実は俺達、江戸で一山狙っててな。ここは天人と金が銀河中から集まってきてる……働き甲斐があるぜ。そこでお前の力が借りたいのさ、キャサリン」

 

「止メテヨ!今ノ女将サンニハ、世話ニナッテルノ……モウ裏切ルコトナンテ出来ナイ」

 

「わかってるさそんなこと。だからこそこれ以上迷惑かけたくないだろ。最近ここらは火事が多いらしいじゃないの?お前んトコも気をつけないとな。わかるだろ?キャッツパンチは金のためなら何でもやるぜ」

 

それを聞いたキャサリンは、クリカンを睨みつけた。

 

「クリカンテメェェェ!!」

 

「オイオイ、そんな顔すんなよ。お前にとってもいい話だろ。故郷の家族にゃまだ仕送りしてんだろ?そんな場末のスナックじゃ稼ぎもしれたもんだろーに。それにお前にゃ堅気になるのは無理だ。その証拠に、今のお前はとても苦しそーに見える……。そんな堅気にこだわらなくてもさァ、自分の特技を生かして生きればいいじゃない?丑の刻、三丁目の工場裏で待ってるぜェ……」

 

そう言い残し、クリカンはキャサリンを置いて去っていった。

お瀧は音を立てずに着地し、キャサリンの背中を見ていた。

 

********

 

お瀧がスナックお登勢に戻ると、同じく寺に来ていた新八と神楽が先程のことをお登勢に報告していた。

しかし。

 

「へェー、そうなんだ」

 

「『そうなんだ』ってお登勢さん!このままじゃキャサリンまた泥棒になっちゃいますよ」

 

お登勢の反応は、とてもあっさりしていた。

新八がなんとか説得を試みるが、お登勢の気持ちは変わらないらしい。

そこに神楽が口を挟んだ。

 

「ほっときゃいいんじゃね。いつかやると思ったヨ、俺ァ」

 

「銀さんだ。ちっちゃい銀さんだ」

 

「そうそう、ほっとけほっとけ」

 

店の扉を開けて、仕事をサボっていた銀時が帰ってくる。

何やら袋を抱えていた。

 

「芯のない奴ァほっといても折れていく。芯のある奴ァほっといても真っ直ぐ歩くもんさ」

 

そう言いながら銀時が袋から出したのは、女性のフィギュアだった。

 

「なんだイ、コレ」

 

「お天気お姉さん結野アナのフィギュアだ。俺の宝物よ。これで何とか手を打ってくれ」

 

もちろん、それで手を打ってくれるワケもなく、銀時達は今度こそ本当に追い出された。

お瀧はお登勢に吹っ飛ばされた銀時の胸倉を掴み、立たせる。

そして、無表情のまま彼に凄んだ。

 

「銀時ィ。キャサリンに手ェ出すなよ」

 

「あ?何のことだよ」

 

「ハッ、よぉそんな顔で(とぼ)けれるなァ。隠してもウチにはお見通しやで」

 

溜息を吐いたお瀧は、銀時の胸倉から手を離す。

 

「ええか、キャサリンとアンタの店のことはウチが何とかしたる。アンタらは手ェ出すな」

 

お瀧は肩越しに銀時を振り返り、念を押して懐から手裏剣を出した。

去り行く彼女の後ろ姿を見てボリボリと頭を掻く銀時に、新八が尋ねる。

 

「銀さん……お瀧さんに任せて大丈夫なんですか?」

 

「あー?大丈夫だろ。アイツはなァ、受けた依頼は全て完遂する忍者だぜ。アイツがやるっつーなら、信じて任せるのも道ってモンだろ」

 

銀時はお瀧の背中を見送り、フッと笑った。

 

********

 

丑の刻、三丁目の工場裏。

キャサリンはクリカンの言う通り、そこへ赴いた。

そこにはクリカンの他に、仲間の服部と柏谷がいた。

キャサリンは決意を固めたような表情で、彼らに歩み寄る。

 

「来たか、キャサリン。そーだよ、その目が見たかった。キャッツパンチここに再結成だ」

 

しかし、キャサリンは彼らの前で土下座をした。

 

「何のマネだ」

 

「悪イケド、モウ盗ミハ出来ナイ。勘弁シテクダサイ」

 

「あ"あ"?何言ってんだ。てめェババアがどーなってもいい……」

 

クリカンが言い切る前に、キャサリンはクリカンを鋭く睨み据える。

それに、クリカンは押し黙ってしまった。

 

「アノ人ニダケハ、手ヲ出サナイデクダサイ。ソノ代ワリ私ヲ煮ナリ焼クナリ、好キニシテイイ」

 

土下座を続けるキャサリンに苛立ったクリカンは、彼女を蹴り上げた。

 

「上等だ、このクソアマァ!!いつまでもいいコぶりやがって!!てめーも俺らと同じ穴のムジナだろーがよ!今更堅気になんて戻れるかァ!!ケチなコソ泥が夢見てんじゃねーよ!!」

 

クリカンはキャサリンをめちゃくちゃに蹴りまくる。

そして、彼女の髪を掴みボロボロの顔を上げさせた。

 

「一度泥につかった奴はなァ、一生泥の道歩いていくしかねーのよ。オイ服部、刀貸せェ!!この(あま)耳切り取ってただの団地妻にしてやらァ!!」

 

「させっかよアホ」

 

女の声が聞こえてきたと思った次の瞬間、クリカンの目の前を刃が通り過ぎる。

クリカンは思わずキャサリンから手を離して、尻餅をついた。

 

「うぉぉぉぉぉ!?」

 

「オイオイ、こんな夜中に婦女暴行かイ?なんか楽しそーやなァ」

 

再び女の声が聞こえる。

そして、クリカンの胸倉が急に誰かに掴まれた。

手の主は布で顔を隠していて、誰かはわからない。

しかし、その奥で確かにニヤリと笑った。

 

「ウチも混ぜろや」

 

「なっ……何だてめー」

 

「何だはこっちの台詞や。アンタらこそこんな夜中に何してはるん?」

 

クリカンは胸倉を掴まれながらも、彼女に言葉を返す。

女は口角を上げたまま、手を握り締めた。

その手には、メリケンサックがはめられている。

 

「アンタら知っとぉ?女に暴力振るう男はなァ、女に殺られんねん……でッ!!」

 

ボグシャとかなり痛々しい音が、夜のかぶき町に響き渡る。

クリカンはそのまま吹っ飛ばされ、倒れた。

女はパンパンと手を払い、顔に巻いた布を取りながら気絶したクリカンに言い捨てた。

 

「今度、ウチの同僚に手ェ出したらただじゃおかん。まして店やお登勢さんに手ェ出したら殺す」

 

「!!瀧サン……」

 

キャサリンの危機を救ったのは、お瀧だった。

彼女はかつて攘夷戦争で暴れ回った忍者の服を身に纏っていた。

クリカンを睨むその目は、まさしく最恐の忍者、"赤猫"だった。

お瀧は同じくぶん殴って倒した服部と柏谷を見やる。

 

「類は友を呼ぶっちゅーが、まさかこんな友やなんてなァ。アンタ、ホンマロクな人生送ってへんやろ。まー、ウチかて同じか」

 

お瀧はキャサリンを振り返りもせず、溜息を吐く。

 

「生きるっちゅーのはホンマムズイなァ。真っ直ぐ走っとる思たら、実は曲がりくねっとったり泥塗れになっとったり。せやけど、それでも前のめりに突っ走っときゃ、泥なんてすぐ乾いて落ちるやろ」

 

「…………瀧サン、貴女ソンナコト言イニ来タンデスカ?」

 

「アホ吐かせ。アンタにちょっと頼みがあったんや」

 

お瀧は肩を竦め、少し照れ臭そうに口を開いた。

 

「あのさァ……ウチの友達が家追い出されて困っとるねん。それで、ちょっとお登勢さんにお願いしに行こ思とるんやけど……アンタからも()ーてくれへん?」

 

お瀧の話を聞いたキャサリンは、敢えて銀時の名前を出さなかった彼女の心を汲み、答えた。

 

「……仕方アリマセンネ。同僚ノ(よしみ)デス。一緒ニ頼ンデアゲマス」

 

「ん……おおきに」

 

肩を並べたキャサリンに、お瀧は嬉しそうに微笑んだ。

 

********

 

それから2人は、お登勢に懇願して、見事銀時たちを、店の二階に連れ戻すことに成功したのだった。




皆さん気付きました?

今回、志乃ちゃんが名前だけしか出てきてません。
たまにはこんな話もいいな〜と思って書きました。

次回、またまた白い粉と関わっちゃいます。
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