ーー今から十数年前。
2人の男と1人の幼い少女が、屋根の上で星空を見上げていた。
「決めた。わしゃ宙にいくぜよ。このまま地べた這いずり回って、天人と戦ったところで先は見えちょる。わしらがこうしちょる間にも、天人はじゃんじゃん地球に来ちょるきに。押し寄せる時代の波には逆らえんぜよ。こんな戦は、いたずらに仲間死ににいかせるだけじゃ。わしゃもう仲間が死ぬとこは見たくない。これからはもっと高い視点をもって生きねばダメじゃ。そう、地球人も天人も、いや星さえも見渡せる高い視点がのー。だからわしゃ宙にいく。宇宙にデカい船浮かべて、星ごと掬い上げる漁をするんじゃ」
男ーー坂本は、星空から傍らにいるもう一人の男ーー銀時と、少女ーー志乃に視線を移す。
「どうじゃ銀時、志乃?おんしゃこの狭か星に閉じ込めておくには勿体無いデカか男じゃき。それに、志乃もまだまだ小さか。今からでも勉強すれば、わしの目指しちょる高い視点身につくかもしれん。わしと一緒に……」
「ぐーぐー」
「スピスピ」
しかし、当の本人らは眠っていた。
そして、坂本は空に叫んだ。
「アッハッハッハッハッハッー、天よォ!!コイツらに隕石ば叩き落としてくださーいアッハッハッハッ」
********
「はっ!!ハハ、危ない危ない。あまりにも暑いもんじゃけー、昔のことが走馬灯のように駆け巡りかけたぜよ。何とか助かったってのに危なか〜」
「助かっただァ?コレのどこが助かったってんだよ……」
あの後、銀時たちを乗せた船は、一面砂漠の星に不時着した。
乗客は全員無事だったものの、あまりの暑さにみんなだんだん頭がやられていった。
神楽も銀時も坂本までも三途の川が見えてしまう始末だ。
もうおしまいだと誰もが思った瞬間、空から大きな船が飛んできた。
「……え?何アレ。あ、そっか。ついに天からのお迎えが……」
「ギャーーーー!!志乃ちゃんそっちに行っちゃダメーーー!!」
暑さで完全に頭がやられた志乃を、新八が必死に引き止めていた。
乗客らは飛んできた船を見て、歓喜の笑顔を浮かべた。
「船だァァ!!救援だァァ!!」
「俺達助かったんだァ!!」
着陸した船に乗客らが次々と乗り込む中、坂本は船から現れた女ーー陸奥と話していた。
「アッハッハッハッ、すまんの〜陸奥!こんな所まで迎えに来てもらって」
「こんなこたァ今回限りにしてもらおう。わしらの船は救援隊じゃない、商いするためのもんじゃきー。頭のあんたがこんなこっちゃ困るぜよ。それから、わしらに黙ってフラフラするのも今回限りじゃ」
「アッハッハッ。すまんの〜やっぱり女は地球の女しか受け付けんき」
「女遊びも程々にせんと、また病気うつされるろー」
「アッハッハッ。ぶっとばすぞクソ
会話の内容を聞く限りあまり平和的ではないが、新八と志乃が船を見上げて坂本に尋ねる。
「ねぇ辰兄ィ、何コレ」
「ああ、『快援隊』ちゅーてな。わしの私設艦隊みたいなもんじゃ。ちゅーても戦するための艦隊じゃのーて、この艦隊そのものが
「
「そうじゃ。わしらこの船使って、デカい商いやっちょる。色んな星々回って、品物ば売り買いしちょる……まァ貿易じゃ。じゃが近頃宇宙は物騒じゃきに、自衛の手段としてこーして武装もしちょるわけぜよ」
「へェー、スゴイや!坂本さん、アンタただのバカじゃなかったんですね」
「アッハッハッ、泣いていい?」
褒めているのか貶しているのか微妙なところを新八は突いてくる。
坂本は空を見上げて続けた。
「わしも昔は、銀時やヅラ達と天人相手に暴れ回っちょったが、どーもわしゃ戦ちゅーのが好かん。人を動かすのは武力でも思想でものーて、利益じゃ。商売を通じて天人地球人双方に利潤をもたらし、関係の調和ばはかる。わしゃわしのやり方で国を護ろうと思ってのー。ヅラはヅラで社会制度変えよーと気張ちょるよーだし、高杉の奴は幕府倒すため色々画策しちょると聞ーとる。みんなそれぞれのやり方でやればいいんじゃ!」
「へェー、みんなスゴイんですね。ウチの大将は何考えてんだかプラプラしてますけどね」
「アッハッハッハッ!わし以上に掴みどころのない男じゃきにの〜」
神楽に樽一つ分の水を飲ませている銀時を見ながら、坂本は大笑いする。
志乃も彼を見ながら、フッと笑った。
「でもさ新八。自然と人が集まってくる奴ってのは、何か持ってるもんだよ。あんたも神楽も、銀の何かに惹かれて慕ってんじゃないの?」
「……んー、何だかよくわかんないけど……でも」
ふと、船の下から悲鳴が轟く。
見てみると、触手に捕まった人が何人かいた。
突然のことに、新八は混乱する。
「あれ?何?ウソ?何?あれ?」
「アッハッハッ、いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろー。ほっとけほっとけ、幻覚じゃ。アッハッハッ」
そう言って船の中に向かおうとする坂本の腕に、触手が巻き付く。
「え、いや、待って辰兄ィ。何かさっきの触手が巻き付いてるから!」
「ほっとけほっとけ、幻覚じゃ。アッハッハッハッハッー」
「うわァァァ!!坂本さァァァん!!」
「何でそこまでポジティブシンキングなんだよ!?あんた今身の危険が迫ってんだぞ!!」
新八と志乃のツッコミを受けながら、坂本は触手に捕まり、引き摺り込まれようとしていた。
触手を見た乗客らが、騒ぎ出す。
志乃は隣にやってきた陸奥に尋ねた。
「ねェ、ちょっと何なのアレ⁉︎」
「あれは砂蟲。この星の生態系で頂点に立つ生物。普段は静かだが、砂漠でガチャガチャ騒いじょったきに目を覚ましたか……」
「ちょっとアンタ、自分の上司がエライことなってんのに何でそんなに落ち着いてんの!?」
「勝手な事ばかりしちょるからこんな事になるんじゃ。砂蟲よォォ、そのモジャモジャやっちゃって〜!特に股間を重点的に」
「お姉さん辰兄ィに恨みでもあんの?」
「志乃ちゃんも知り合いが襲われてんのに何でそんなに冷静なの!?」
坂本が砂蟲に捕まっても助けようとする素振りを見せない2人に、新八のツッコミが炸裂する。
一方当の坂本は自由な右手で銃を持ち、砂蟲の触手に捕まった乗客らを救出する。
乗客らを逃がした瞬間、砂漠の中から砂蟲の本体が現れた。
砂蟲は触手で船を絡め取り、船ごと地中に引き摺り込もうとする。
その時、未だ捕まっている坂本が叫んだ。
「大砲じゃあああ!!わしば構わんで大砲ばお見舞いしてやれェェェ!!」
「でも坂本さん!!」
「大砲うてェェェ!!」
陸奥の指令で、大砲が砂蟲に向けられる。
新八は一人坂本を案じ、陸奥に詰め寄った。
「ちょっ……あんた坂本さん殺すつもりですか!?」
「奴一人のために乗客全てを危険にさらせん。今やるべきことは乗客の命救うことじゃ。大義を失うなとは奴の口癖……撃てェェェ!!」
陸奥の号令と共に、大砲が砂蟲に撃ち込まれた。
「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間ほっぽいて宇宙へ向かった男じゃ。何でそんなことが出来たかわかるか?大義のためよ。目先の争いよりももっとずっと先を見据えて、将来国のために出来ることを考えて苦渋の決断ばしたんじゃ。そんな奴に惹かれて、わしら集まったんじゃ。だから、奴の生き方に反するようなマネわしらには出来ん。それに、奴はこんなとこで死ぬ男ではないきに」
「いやいやいや!死んじゃうってアレ!どう考えても死ぬよアレ!地中に引き摺り込まれてる!!」
砂蟲が砂の下に潜っていく。
それと同時に、坂本も砂に埋もれていった。
快援隊のメンバーらが坂本を救おうと大砲を再び砂蟲に向けるが、何者かが大砲の筒に穴を開けた。
「こんなモンぶち込むからビビって潜っちまったんだろーが。やっこさんが寝てたのを起こしたのは俺達だぜ。大義を通す前に、マナーを通せマナーを」
「銀さん!」
大砲に穴を開けたのは、その上にしゃがんだ銀時だった。
ヒーローがカッコよく登場して、危機を救って丸く収まる……のがヒーローものの掟だが、そんなものこの小説では通用しない。
立ち上がった銀時の背後にもう一人影が現れる。
「マナーを通せ……だァ?テメーに言われたくねーよ、この天然パーマニートォォォ!!」
「どぉお!?」
木刀を抜き取った瞬間に、志乃が背後から銀時を蹴っ飛ばして砂漠に突き落とす。
そして、2人諸共砂蟲が潜り込んだ砂漠に落ちていった。
「辰兄ィ、アンタ星掬い上げる漁するとかほざいてたクセに、こんなとこで終わんのか!?んなわけねーだろ?私は、あんたがそれを実現させたとこを見たいんだから!」
「志乃ちゃーん!?めちゃくちゃカッコいいこと言ってた俺突き落とすってどーいうことだ!!てかここ俺の見せ場ァァァ!!」
「うるせー腐れニート!!黙って辰兄ィ助けんかい!!」
「てめー、後で覚えとけよ!!」
落ちながら喧嘩する2人は、砂漠の中に潜っていった。
********
ーー数年前。
志乃は、これから宙へと旅立とうとする坂本を見送っていた。
「そーか。お前も
「うん。辰馬お兄ちゃんと一緒に行くのも楽しそーだけど、銀兄ちゃんがダメだって」
「アッハッハッ!相変わらず愛されとるのう」
「私だってもう4歳だよ?一人でも大丈夫だもん」
ぷくっと不満げに頬を膨らませる志乃に、坂本は微笑んだ。
ポンポンと頭を軽く叩き、彼女に問う。
「それで、おんしゃこれからどーするがか?」
「?そんなの決まってるじゃん。辰馬お兄ちゃんのこと、
志乃は坂本を見上げて、にっこりと笑った。
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砂の中で、銀時と志乃は沈みゆく坂本に手を伸ばす。
坂本が2人の手を掴むと、2人は砂の中から一斉に坂本を引き抜いた。
「ふ〜っ。大丈夫?辰兄ィ!」
「アッハッハッハッハッ。見事生きとった!こりゃー儲けもんじゃ」
「生きとった!じゃねーよモジャモジャ!ったく、手間かけさせやがって」
「辰兄ィ、助けてやったんだから私と銀に団子奢ってよね」
楽しそうに?談笑する3人を、甲板から見ていた陸奥は安堵するように言う。
「……無茶なことを。自分も飲まれかねんところじゃったぞ。何を考えとるんじゃあの2人……」
それを受けて、新八も嘆息するように言った。
「……ホントッスね。何考えてんでしょあの人達。なんか、あの人らしか見えないもんがあるのかな……」
次回、夏祭りでもう一人のテロリストと遭遇します。