祭り当日。
楽しそうに屋台を練り歩く客の姿を見て、志乃の心も浮足立っていた。
この祭りの雰囲気がまた、テンションを無理にでも上げさせる。
「はあああ……綿菓子……!リンゴ飴……!クレープゥゥゥ!!イヤッホォォォイ!!」
「待てクソガキコラァ!!」
我慢出来ず屋台へ走り出した志乃の首根っこを、土方が掴んで制止する。
志乃の体はそのまま宙に浮き、悪戯をして怒られている猫のようになっていた。
「わーっ!放せこのチンピラ!」
「誰がチンピラだァァ!!いい加減にしねェと叩っ斬るぞてめー!!」
「痛いっ!?」
志乃の失言に怒り、土方は志乃を地面に叩き落とす。
尻餅をついた志乃を放って、土方は将軍がいる櫓へと向かっていた。
「ったく、だからガキのお守りは嫌いなんだ。たかが祭りでガチャガチャ騒ぎやがる……」
「はァ!?私はそんなガキじゃねーっつーの!てかお兄さん、アンタが全然わかってないよ!祭りで心踊らない奴がいるか?否!祭りははしゃいだもん勝ちなんだよ!!ってことだから今日の仕事はサボる!」
志乃は土方を指差して抗議すると、振り返った土方を無視して屋台へと走り去った。
「なっ!?オイ待てガキ!!」
「警備はあんたらが居るから問題ないでしょ?じゃ、私は祭りを楽しんでくるー!」
土方が咎めるのも聞かず、人混みの中に吸い込まれていく。
そんな彼女を見た一人の男が、志乃の後を追うように同じく人混みの中に入っていった。
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「いや〜、やっぱ祭りはサイコーだなァ!」
志乃は頭に狐のお面、右手には綿菓子と水風船、左手にはチョコバナナとリンゴ飴を持ち、祭りを満喫していた。
次はどのお店に行こうか。
甘味ばかり食べたから、今度は焼きそばやたこ焼きにしようか。
金魚すくいも良いし、射的も外せない。
どれもこれも楽しいイベントばかりだ。
「そーいや、ステージの方は何やってんだろ」
志乃は祭りのチラシを開いて、ステージ発表者の一覧を見る。
踊りや演劇など、どれも楽しそうだ。
「よし、ステージ行ってみるか」
志乃はチラシを折りたたみ、はむっとリンゴ飴を口に含みながらステージへと向かった。
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持っていた食べ物を食べ、綿菓子片手にちょうどステージに辿り着いた頃には、花火が打ち上げられていた。
「わぁ……!」
ステージに立つ演者には目もくれず、志乃は花火を見上げた。
夜空に咲く美しい花々は、見ている者を楽しませる。
花が開いた後に聞こえる腹の底に響く重低音が、より一層心を
可憐に咲く花を、志乃はうっとりと眺めていた。
「綺麗だなぁ……」
「ああ、とても綺麗だな」
「!!」
背後から突如聞こえてきた声に、先程まで昂ぶっていた心は一気に静まった。
声だけでわかる。
背後に、志乃が一番会いたくない男が立っていることが。
「やっぱり祭りは派手じゃねーと面白くねェな。お前もそう思うだろ?志乃」
「…………あんたは……」
「どうした?まさか俺のことを忘れたわけじゃないだろう」
「ああ。あんたのことだけは、忘れたくても忘れられないね……高杉晋助」
志乃は後ろを振り返らず、背後に立つ男の名を呼んだ。
……あれ?
今回は短い……。